第931話 【時系列の乱れる日常回・その2】小坂莉子の「今日もご飯は美味しいし! 彼氏はカッコいいし!! 幸せでご飯がもっと美味しい!!」 ~ショートパンツ爆死事件・エピソードゼロ~

 諸君らの愛してくれた小坂莉子のショートパンツちゃんが死んだ。

 何故だ。


 今回はその原因を探るために莉子ちゃんの歴史を紐解いていく所存。

 麦茶を砂糖マックスのミルクティーに代えて、立てよ国民。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子ちゃんは小柄かつスレンダーな体型であり、六駆くんにも「近接戦が向いている」と評されたように、身軽な体躯を活かした戦法は体術だと考えられていた。


 遠い昔のお話である。


 莉子ちゃんは学校生活でも通知表はオール5をキメるほどに優秀な乙女。

 だが、1つだけ苦手科目があった。


 保健体育ではない。

 むしろ恋を知る前から大得意。


 保健体育を極めていない者がどうして想像妊娠できようか。


 保健がどっかに行った後のなれの果て。

 体育である。


 彼女は運動が嫌いだった。

 理由は分からないが、特に中学生になった頃から運動嫌いを発症し、プールの授業などはあの清らかで優しかった時代の莉子ちゃんが殺気に満ちた瞳で同級生を睨んでいたとかいなかったとか。


 高校生になると通常の体育も大嫌いになり、事情は分からないが体操服に着替える時点からこの世の全ての憎しみを凝縮させたような顔をする事があったとかなかったとか。


 普通の女子高生ならばそれで良いのだが、探索員は体が資本。

 鍛えなければ生き残れない。


 六駆くんの指導により、頑張ってフィジカル面でも優等生になった莉子ちゃん。

 この辺りでご飯食べるの大好き娘になる。

 動けば腹が減る。腹が減っては戦もできぬ。


 ここから時間が一気に飛ぶ。



 おっぱいデカくするためにガツガツ飯食ってる莉子ちゃんに変化が現れたのは、ピースとの戦いが激化していた時分。



 初代ショートパンツちゃんの裾が裂けたのである。

 この時はまだ大破までいかず、メンテナンスで修繕された。

 だが、莉子ちゃんが明確にムチっている事実にほぼ全ての生きとし生ける者が気付いた瞬間であった。


 そこで六駆くんが立ち上がる。

 レタスだけ食わせて痩せさせようとした。


「……レタス。美味しくない」


 当時の莉子ちゃんはカロリーが足りておらず、IQも低下していた。

 ホマッハ族と同じくらいの語彙しか持ち得なくなり、戦闘時にも頭脳戦からはハブられ、煌気オーラコントロール不全も患っていた時期が重なってただのムチムチ乙女に。


 だが、転機が訪れた。

 ピースとの最終決戦に際して、莉子ちゃんの食事制限が限定解除。

 この決定に最も涙を流したのはみんなの世話焼きお姉さん、青山仁香トレーナーだった。


 仁香さんブートキャンプでやっと数キロ痩せたのに、ピースとの最終決戦いちにちだけで数千キロカロリーを摂取(正確な数値は不明)し、戦力としては極めて回転の速いリコリコ脳と戻って来た煌気オーラを駆使して主にライアン・ゲイブラム氏を絶望の底に突き落としてまた拾い上げ、もう1度念入りに突き落とした。


 この戦いが終わった後にクリスマスが待っていた。

 莉子ちゃんは頑張った。

 クリスマスに向けて壮絶なダイエットを敢行。



 結果。奇跡が起きる。莉子ちゃんが初期ロットまで痩せた。



 では、前置きが長くなったけれども、ショートパンツ爆死事件までの過程を追って行こう。

 六駆くんのプロポーズがクリスマス。

 ショートパンツちゃんが無念の爆死を遂げたのは1月8日。


 あれ。すっげぇ速さで太ってんな、この子。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 プロポーズされてから「ありのままの姿見せるんだぁ! えへへへへへへへへへへへ!!」と優等生だった頃の莉子ちゃんが完全に霊圧を消した。

 ご飯が美味いのである。


 しかも、魔王城にて勤務中なのでご飯のクオリティも高い。

 ダズモンガーくんとみつ子ばあちゃんが給仕の主力を務め、ちょっと通い妻率が上がって留守しがちになった小鳩さんも時々シェフとして腕を振るう。


「はむっ! はむっ! あれ!? 芽衣ちゃんもう食べないの!? モグモグ……。こっちのアナゴ丼手付かずだよ!? 具合悪いのかな!?」

「み゛っ。……め、芽衣、子供だからいっぱい食べられないです」


 そのアナゴ丼は芽衣ちゃんの近くに置いてあるだけで、ダズモンガーくんの分である。

 ダズモンガーくんはデカいトラのフレンズなので、食事の量は常人の5倍程度。


「ほえー。芽衣ちゃん、成長期がまだなんだねー。成長期に入るとね! ご飯たくさん食べられるようになるよ!! 安心してねっ!!」

「み゛。……クララ先輩は1年中が成長期です! みみみっ!」


 この場にいないどら猫に攻撃を受け流す。

 クララパイセンは自室で惰眠をモグモグしており、この食卓はあろうことか朝食。


 朝からアナゴ丼を3杯キメて、クッキングタイガー用5倍サイズのアナゴ丼もガッツリ召し上がっていた。

 芽衣ちゃんはシリアルに牛乳かけて、ドライフルーツ乗っけて「みみみみっ」と食事を終えている。


 たくさん食べる女子の方がね! 男の子って好きなんだよ!!



 当時の莉子ちゃんが供述していた犯行動機である。

 世の中には限度と言うものがあrゔぇあ゛



 いっぱい食べ続けた結果、年末には既にムチムチ莉子ちゃんへ復権。

 六駆くんとアニメ鑑賞が夜の過ごし方であり、ポテトチップスを両脇に抱えてノアちゃんが作った魔ミルクティーにサービスさんの練乳をぶち込んで、「あー! 見て見て! この子! 太ももムチムチ! こーゆうのが流行りなんだよねー! わたしね、クララ先輩に習ったんだぁ!!」と、笑顔でモグモグムチムチしている莉子ちゃん。


 せめて部屋着がクララパイセンみたいにサービスにならねぇ露出の多いものであれば本人も気付いたかもしれないが、莉子ちゃんは可愛いパジャマを好んでしまう。

 もちろん、腕や脚は出す。


 だが、「えへへへへへへへへ。六駆くんがチラチラ見てるよぉー」とその視線が腹回りに向けられている事には気付けない。

 この時点で六駆くんも「莉子は莉子で良いんだ!! デ……ふっくらしてても良いんだ!! 僕には莉子しかいないんだ!!」と内面重視に惚れ直している。


 莉子ちゃんが笑顔で「ねねっ! これ! わたしに似合うかなぁ? 着ぐるみパジャマ!!」と言って、くまのプー氏やそのダチのピンク色の生物、ありていに言えば豚の着ぐるみを指さして「かわいいー!!」と頬を寄せて来ても、変わってしまった六駆くん。



「………………そうなんだ! すごいね!!」


 とだけ答える。

 惚れたら負け。逆神六駆、生涯で1度きりの敗北はもう喫していたのだ。



 あと、太ももムチムチ系は確かに良いものだが、そのタイプの乙女はちゃんと胸部装甲もぽよよんろっくしているので、太ももだけムチムチしているのを好むのは大変ニッチな層だと言わざるを得nゔぇあ゛


 大晦日までこれまでの仇を取るようにご飯とお菓子とドーナツを食べ続けた。

 莉子ちゃんの中ではお菓子とドーナツは別勘定なので、「甘い物は別腹」とはさらに別腹に「ドーナツ!! ドーナツはすごいんだよ!! いくら食べてもゼロカロリー!!」という魔空間が広がっている。


 魔空間の物見遊山は大いに結構。

 ただし帰って来られる保証はないとお心得頂きたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして爆死事件の当日。


 後方司令官を拝命したので一旦戦場から下がり、魔王城でシャワーを浴びてから装備に着替えて出撃の準備をしている莉子ちゃん。

 あられもない姿の莉子ちゃんが「ほえ?」と気付いた。


「…………っ!!! ぶ、ぶぶ、ぶるぅらぁぁぁぁ!! ブラジャーが! なんかキツいよ!?」


 セルみたいな咆哮を上げて歓喜した。

 おわかりいただけただろうか。


 バストサイズは変化していないのに、胸囲がアップしている。

 そうである。


 侵食されていたのは太ももだけにあらず。

 莉子ちゃんが「おっぱい大きくなったと思うなってねぇ!!」と胸を張って言っていたのは、彼女なりに根拠のある発言であり、虚勢ではなく、虚乳でもなかったのである。


 その後にやってくる、些細な違和感。


「ふぇ? ショートパンツが……? もぉー! また縮んだんだぁ! イドクロア製ってお洗濯難しいよね!! じゃあ、スペアの方を履こうっと!! ……やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ほらぁ! ちゃんと穿ける!! 困った子は洗濯籠にポイだよ!!」


 今回爆死したのはスペアのショートパンツちゃん。

 洗濯籠で難を逃れたのは、秋ごろに裾が中破したショートパンツちゃん。


 穿く際に『苺光閃いちごこうせん』を発現する時並みの気合を入れた事などすっかり忘れていた莉子ちゃんは謁見の間に。

 それから孫六ランドが呉上空に出現したため、「誰か手の空いてる人はいるかな゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」とだいしゅきホールドで拘束された六駆くんが、莉子ちゃんと共に出撃。


 最初にこの悲劇を予見したのはノアちゃん。

 と思われているかもしれないが、実は六駆くん。


 シャワーを浴びてパンツを穿いて、ここまでは良かった。

 その後に伸縮性が下着ほど備わっていないショートパンツちゃんを無理やり穿いた時点で、もう事件は始まっていたのである。



 裾が裂けていた。



 その状態でだいしゅきホールドをキメた際に、莉子ちゃんを受け止めた六駆くん。

 たまたま手がショートパンツちゃん最初の致命傷むずかしいにほんごに触れる。


「あ゛」


 数々の死線を潜り抜けて来たこの男。

 死の匂いにはすこぶる敏感。


「どうしたの? ふぇ? あ! な、なにか、気付いちゃったかな!?」


 ここで正直に「ショートパンツが裂けてるよ!!」と言えば、あるいは惨劇も回避できただろうか。

 いや、恐らく代わりのショートパンツちゃんが爆死していただけだろう。



「………………………。莉子のお尻に手が当たっちゃったよ!!」

「もぉぉぉぉぉぉぉ! エッチぃー!!」


 意気地なしってこう言う事なんだな。

 そう学んだ六駆くんであった。



 後は諸君も知っての通り。

 孫六戦でショートパンツちゃんが絶命、孫六ランド散策の際にヒップアタックで死体遺棄。


 名誉の殉死を遂げられたショートパンツちゃんに敬礼をお願いいたします。

 今度生まれてくる時は二階級特進してロングパンツになれよ……。

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