第765話 【順番に監察官室を覗いてみよう・その7】加賀美監察官室から溢れる活力 ~ひっそり月刊探索員の取材中~

 新設された加賀美監察官室。

 日本本部で20代の監察官が誕生するのは初めてのことであり、当人は「人手が不足しているからこその緊急措置と心得ています」と控えめなコメントを残しているが、全監察官が満場一致で推挙したのも雨宮順平、五桜京華以来のこと。

 実績も経験も十二分に重責を担えると判断された結果。


 日本本部の監察官就任はかなりガバガバなルールで行われており、基本的に在任中の監察官が「この子良いよね」と推薦すると、会議の際に全員で話し合う。

 過半数以上が推挙したら就任、というような縛りもなく、実績と実力が水準を超えていれば基本的には承認される。


 思い出していただきたい。



 下柳則夫元監察官。

 あれも真っ当な方法で監察官になっているのです。



 ただし、「反対意見が過半数出た」場合にのみ推薦が取り消される事になっている。


 たとえば南雲修一監察官。

 木原監察官から「ひょろっちぃヤツ増やしてどうすんだよぉぉ! もう豚がいんだろうがぁぁ!!」と反対意見を喰らう。


 雷門善吉監察官は「下柳のと担当が被りゃあせんか?」と久坂監察官が、「新人育成ならば楠木殿で間に合っている」と五楼上級監察官が反対意見を出している。


 なお、最も反対意見を獲得したのはこの男。


 「ちぃとスキルの練度が低いのぉ」と久坂監察官。

 「文官にも武官にも適正が見出せませんね」と楠木監察官。

 「うぉぉぉぉん!!」と木原監察官。

 「ぶひひ。ちょっと役に立つか不透明ですね」と下柳元監察官。


 「ごめんねー! 早かったみたい! 私も反対しとこー!!」と雨宮上級監察官。



 水戸信介監察官である。脅威の反対票が5。過半数ゲットしていた。

 皆さん、先見の明があったんですね。



 だが、五楼上級監察官と南雲監察官、川端監察官が「いや、雨宮さんが推薦したんだから、気の毒すぎるでしょうよ」と場をとりなし、「じゃあ、私と一緒にこのままストウェアに駐在してくれるなら推薦するよー」と翻意した雨宮おじさんによって、ギリギリ監察官に就任した経緯がある。


 雷門さんも何か言ったはずなのですが、記録に残っていません。


 よって、水戸くんは専用の監察官室もなく、イギリス長期出張からも戻ってこられず、「監察官なのに川端男爵のお荷物」「ストウェアトリオのリアクション要員」などと揶揄されていたのだ。

 今回は加賀美監察官のお話なので、おっぱい監察官室の話はまた時が来れば。


 そんな訳で、実績、人望、将来性と全てを手に入れた謙虚な男。

 加賀美政宗監察官。


「ダンジョン攻略の部隊編成を! 土門さん!! 難易度Cだが、Aランク探索員を2名以上加えてくれ!」

「了解しました! 装備はどうしますか?」


「自分の申請しておいた『ヤマセミ』を隊員に持たせてくれ!」

「経費がかかりますよ?」


「問題ない! 監察官室が潰されたところで、誰か優秀な人が自分の代わりを担ってくれるが、隊員たちの命にスペアはないんだ!! 最適な装備で向かわせてくれ!!」


 『ヤマセミ』は機動力に秀でたジャケットと、低ランク探索員にも使用可能な煌気オーラ剣で構成されている加賀美監察官室の専用装備。

 立案を逆神四郎特別顧問。設計を久坂監察官。

 製作を南雲監察官が担当した、信頼と実績の安心ルート。


 人手不足に際して半ば無理やり監察官に任じてしまった責任感は当然のように全監察官が共有しており、新設の部署には優先的に装備を支給し、予算も多めに分配している。

 莉子マント15枚分くらいのコストが1セット作るたびに発生するが、これはご祝儀と迷惑料が加味されているため、全て本部の予備費から算出された。



 あと、雷門監察官室の予算の8割が流用されている。



「山嵐くん! 今日の御滝市警らの隊長は君だ! 15人ほど率いて現場へ向かってくれ!!」

「自分がですか!? しかし、Bランクの自分の指示なんて誰も聞いてくれないのでは」


「加賀美政宗の名において、君を指名した! 命令違反は全て自分に対してのものだと隊員には徹底させおく! ……それから、山嵐くん。次の査定で君はほぼ確実にAランクに昇進だよ。頑張ったね」

「か、加賀美さん……!!」


 努力する者は見捨てず、努力が実るまで寄り添い、実をつけたら品評会へ推薦状と一緒に送り届ける。

 加賀美さんを慕う者が多い理由がよく分かる。


 その大変忙しそうな監察官室にあって、カメラを構える広報部。

 月刊探索員、年末特大号の差し込み記事として「今注目の新任監察官に迫る!!」という特集が組まれることになったのである。


 だが「申し訳ないが、取材に応じる暇がない! とはいえ、追い返しもしないので、すまないが自由に撮りたいものを撮って、書きたいことを書いてくれ! うちの部下たちは全員、どこに出しても恥ずかしくない探索員だからね!!」と、「勝手に見て、てめぇで判断しやがれ」な対応を取った加賀美さん。


 もうそれが記事のメインになっているので、何の問題もない。


「うんうん! とてもいい雰囲気!」

「ですねー! 活気にあふれていて、これぞ職場って感じがします!!」


 こちら、広報部に出頭して「差し込み記事? 大変でしょ! 手伝いますよ!!」と、別に呼ばれていないのに出向している、青山仁香Aランク探索員と山根春香同ランク。


 仕事してないお姉さんたちである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「佳純ちゃん撮ってあげてください! 副官になって装備が新しくなったので!!」

「あ、そうでしたね! 仁香ちゃんがデザインしたんですもんね!」


「はい! 佳純ちゃん、結構鍛えてますし。あと、肩の筋肉がすごいので! デザインのしがいがあったなぁー!」



 必殺技を使うたびに頭に蛇生やしてグルングルンさせているせいで、土門さんの肩は筋肉パンパンです。



「背中のツバメがカッコいいですね! 加賀美さんのシンボルマークでしたっけ?」

「いいですよねー! 監察官になったら、任意でマーク付けられますけど、あんまり皆さんしてないですから。うちはですね、スラッシュを4つ重ねて音波をイメージしてるんですよ!」


 仁香さん?


「えーと。仁香ちゃんの所属は変わったような気がするんですがー」

「音波ってやっぱり速い! ってイメージを視覚的に表現できるので! けど! ツバメも良いですね! 速いし、スマートだし、ステキ!!」


「仁香ちゃんの所属は水戸監察官室になりましたよ?」

「南雲さんのとことか、あとは雨宮さんとかもそうですけど。日本本部のメインになる人なんだから、もっと考えればいいのに! やっぱりシンボルマークって大事ですよ!!」


「……仁香ちゃん?」


 仁香さん、スンっと黙ってから「あ。カメラマンさん! 山嵐隊が出ますよ! シャッターチャンス!!」とちょっとだけ仕事をして、呟いた。



「……シンボルマークにしたいので、おっぱい見せてもらっていいですか? って言われた、私はどうしたら良いんですか?」

「…………。今晩、うちに来る? 健斗さん追い出すから、朝まで飲もう?」


 言葉が見つからねぇ案件であった。



 仁香さんは「あ、はい。ぜひ。けど、私がいないとあの人本当にダメなので。だって、私くらいですよ? おっぱいシンボルマークにしたいとか言われて許せるの。仕方ないですよね。まったく……」と呟いて、加賀美さんの装備の撮影にカメラマンと一緒に向かった。


 その背中を見つめる春香さん。


「仁香ちゃんに……これ、言った方がいいですかね……。なんだかちょっと、水戸さんの話する時に嬉しそうなんですけど……」


 言わないであげてください。

 本人は無意識なんです。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 あっという間に日が暮れて、加賀美さんは部屋を出る。

 可愛い妻子が待つ家に戻る前に、久坂監察官室へ。


「失礼いたします! 加賀美政宗監察官、参りました!!」

「お待ちしていた! 加賀美監察官!! すぐにお茶を淹れるので座って欲しい!!」


 五十五くんに迎えられて、改めて敬礼をする。

 ソファに座っている久坂さんが笑顔で迎えた。


「おお、やっちょるのぉ! 気合の入った若いもんが頑張るのを見るっちゅうのは、年寄りのエナドリじゃわい! 装備のデータ、確認しちょるで。まあ座ってくれぇ。五十五に言うて、改善点を出力させちょる」

「こちら、高いお茶だ! 飲んで欲しい!! そしてこちらが資料! 査収して欲しい!!」


 加賀美さんは頭を下げてまずお茶を啜り「実に美味しいですね!」と笑顔を見せたのち、真剣な表情でデータを見つめた。


「久坂監察官。若輩者が差し出口を叩き恐縮なのですが」

「そがいな言い方はヤメぇ言いよるじゃろが。ワシとお主は同階級じゃぞ。序列なんぞないわい。ジャケットの防御についてじゃな? お主ならまずそこを改善すると思うての。こっちに新素材使うたバージョン2の耐久値出しちょいたで!」


「……感謝します!!」

「己よりも周りを大事にするのは美徳じゃけどのぉ。あんまり気ぃ張り過ぎんことじゃぞ。ほれ、お主の子らが好きじゃろ? ケーキ買うて来たけぇ、これ持って早う帰るとええ」


 加賀美さんは敬礼して「お心遣いありがとうございます!」と述べた。

 そののち、確認した。


「帰ってもよろしいのでしょうか!!」

「かっかっか! 律儀だねぇ! 若ぇの!! こういう時ぁ、じじいの気が変わる前に逃げとくのが戦場の基本だぞ!」



 普通にいる辻堂甲陽。

 顔を伏せる久坂剣友。



「……嫁さんと子供らから、父親奪うわけにゃいかんけぇの」

「かっかっか! ところでおめぇ、剣士だな! どうでぇ? 俺の弟子にならねぇか!!」


「……早う帰れ、加賀美の。ワシがお主の足に縋りつく前に。早う、帰るんじゃ」


 次は哀しき監察官室のお話です。

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