第742話 【ミンスティラリア顛末記・その3】呉のお嬢様たちは玉ねぎ料理がお上手です

 スキル使いたちの武器で最も頻出するのは剣。

 煌気オーラを纏わせたり、具現化したり、刀身を伸ばしたり、属性を付与したりと使い勝手が良く、さらにカスタマイズも容易なため技術者からも好まれる。


 次いで、槍や拳に装着するナックル系。

 遠距離をカバーできる鞭なども割と使われている。


 一方で数が少ないのが遠距離特化の武器。

 銃もその1つ。


 まず、スキル使いが武器を使用して煌気オーラを纏わせられるレベルに到達していれば、煌気オーラ弾も当然使える事が要因のひとつで、遠距離攻撃スキルと遠距離攻撃用の武器というかぶり方はあまりスマートではない。


 スキル使いの武器は煌気オーラを増幅させ、属性などを付与して斬撃ないし拳撃などの威力を高める使い方が一般的だが、こちらも同じく、銃に頼らずとも自前の煌気オーラ弾で対応できる。


 一撃に特化した大砲のようなものになると、今度は機動性が著しく失われるため単独での任務に制限が付いて、探索員協会に所属している場合は部隊編成に組み込む必要が出るため、特に出世を望む実力者からは敬遠されがち。


 これまでに銃を使う探索員は雨宮上級監察官室所属の雲谷陽介Aランク探索員のみであり、彼の部隊は全員が遠距離攻撃特化だが、やはり使いどころは難しい。



 よって出番がなくなった。



 忘れがちだが、我らがチーム莉子にも遠距離特化のクララパイセンがいる。

 彼女も弓スキルオンリーなので、単独任務には向かない。

 これまでのチーム莉子の任務の記録を振り返っても、タイマン勝負で敵の幹部と戦闘をした記録はほとんど残っていない。


 じゃあ、どうして彼女はソロ探索員をしていたのか。



 ぼっちだったからである。



 そんな訳で、銃はスキル使いの中では不人気な武器と言わざるを得ない。

 だが、雨宮さんがエヴァンジェリンちゃんに与えたのは、銃。


 このお姫様の装備は雨宮順平が設計して、南雲修一が製作したワンオフ仕様。

 400万近い資金を投入して、これでもかと様々なギミックを組み込んでいる。


 参考までに、六駆くんの装備『漆黒の堕天使ルシファー』のお値段は45万。

 莉子マントに至っては8万円である。(莉子の刺繍とラメ加工で4万円)


「撃ちます!!」

「撃つのか!? スキルをだな!? ……私が穏やかな生活を望むことは分不相応なのだな。よく分かった。なにをどうしても、何故かこの立ち位置に戻ってきてしまう。背負った罪は消えんのだ。……ふっ」


 エヴァちゃんの銃は実弾ではなく、鋭く短い矢が射出される。

 拳銃サイズのボウガンのような特別仕様。

 つまり、その弾にスキルを付与して狙撃する事が可能。


 元の弾丸の威力も高く、並の防御壁ならば普通に発砲するだけで穴があく。

 極限まで弾丸を圧縮したことにより、一点突破型の武器に仕上がっている。


 「スキルを撃ち出す銃」で思い出すことがある方は、次の昇進査定を是非受けて欲しい。

 担当が南雲さんです。


 そう。南雲印の二丁拳銃『双銃リョウマ』が既に存在しており、そのノウハウを生かしてブラッシュアップとバージョンアップを重ねたのがエヴァちゃんの銃。

 なお、名前はない。


 エヴァンジェリン姫いわく、「え? 現世では、愛にお名前を付けるんですか?」との事。



 ピュアで胸部装甲が極大とか、下手するとラスボスの素養まであるエヴァちゃん。



「やぁっ! 『檸檬味の胸の高まりの檸檬キュンキュンレモン』!!」

「あだっ! あららー! エヴァちゃん、ちゃんと教えた事覚えてて偉いねー!!」


 普通に雨宮さんが撃たれたが、褒められるエヴァンジェリン姫。

 そういうプレイをもう始めているのですか?


「……私の想定よりもずっと優れた戦士だな、君は。友軍を敢えて狙撃して、本命のスキル発現を知らせるか。これも雨宮殿のお教えかね?」

「はい! 色々と教えて頂いております! 例えば、私の装備は胸元が開いているので、立ったまま撃つと反動で揺れて大変だよと! 味方の士気が上がったり下がったりするそうです! 私、子供なのでよく分かりませんけど!!」



「……分かってしまった。さすがは上級監察官。万が一に備えておられる!!」


 最近だと、世界が滅びたり、虹色に光ったりするのです。



 エヴァンジェリン姫は第二射の構えへ。

 そしてすぐに撃つ。


「……うぐっ!!」

「……心臓を狙う必要はあったのか?」


「はい! ときめきは心臓に刺せというのが、私の国! ピュグリバーの教えです!!」

「恐ろしい国だ……」


 よし恵さんの瞳が目薬をさしたようにスッと澄んだ色へと変わる。

 彼女は穏やかな表情で言った。


「……ふっ。……エヴァちゃんに借りができたねぇ。……今度、あたしの家に来ぃさん。……順ちゃんの好物の作り方、教えるけぇね。……あと、ヤクルトあげようね」

「わぁー! よし恵様! ありがとうございます!!」


 よし恵さん、「相棒の録画ミス」という邪念から解き放たれる。

 みつ子ばあちゃんが稼働再開するまであと2分。


「あらららー! みんな、防御した方がいいねー!! あら!? 四郎さん!? どうしちゃつたんですか!?」

「私が対応しよう!! 『大魔斧巨盾ベルテルシルド』!!!」


 門が破裂した。

 そこからのそのそと這い出て来たのは、こちらの戦場には初登場。


「いやー!! 無茶するもんじゃないなぁ! 僕が異空間に放り出されるとか、これまた想定外! ノアのスキル勉強しといて良かったー!! おっ! ばあちゃん! スキル相殺してくれた?」


 逆神六駆、見参。


 上空のペヒペヒエスがそっと呟いた。


「あ。詰んだわ。あかん。あの子、逆神六駆やんけ。これはもうあかん」

「ババア! 戦争を始めた時点でもう詰んでた! 暴力、解決の手段に用いる、ダメ! 犬でも分かる!! 主張があるなら、まず話す! 人が言葉使える意味、忘れるな!!」


 ポッサムが極めて賢くなりました。

 そして上位調律犬バランワンはペヒペヒエスを乗せたまま、煌気オーラをゼロにして地上へ降下した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ペヒペヒエスを囲むのは、雨宮順平上級監察官。

 逆神六駆。逆神みつ子。

 少し離れたところに、エヴァンジェリン狙撃姫。バニング・ミンガイル。


 存在が消えるまで玉ねぎの皮を剝くメンツとしてはオーバーキルもいいところ。


「おばちゃんが言うのもアレやけど、こっちのワンコは許したってもらえへんやろか。あと、デトモルト滅ぼすのも堪忍してもらえると嬉しいなぁ。もちろん、おばちゃんの持って来た技術と情報は全部差し出すで。あとは煮るなり焼くなり、天ぷらにするなり好きにしてんか。あんだけ破壊しまくって、ごめんなさいで済むとは思わへんもん。せやけど、ほんまに申し訳ない」


 みつ子ばあちゃんが両手に煌気オーラを溜めると、ペヒペヒエスに向けて左手でスキルを放つ。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 『餓狼隠滅ウルスポイル』!!」

「あぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 とりあえずペヒペヒエスの核を全部吸い取ったみつ子ばあちゃん。

 容赦なし。


「お父さん! これお願いできるかいね!」

「ほっほっほ! 任せるのじゃ。ほぉぉぉぉぉぉ!! 『生命大転換ライフコンバート』!!」


 こちら、六駆くんがかつてスカレグラーナの古龍達を竜人にキャラメイクし直した、生命変換極大スキル。

 元は構築スキルの派生なので、四郎じいちゃんの得意分野。


「四郎殿!! その腕で極大スキルを……!!」

「ほっほっほ。バニングさん。痛みで煌気オーラが乱れるようではまだまだですじゃ。痛みが襲う時は死が近い。そんな時こそ、メンタル集中ですぞ」


「お顔の色が真っ青ですが!?」

「痛いですからの。みつ子や!」


 煌気オーラ核を投げ返す四郎じいちゃん。

 役目を終えて倒れる。


「はい! 玉ねぎおばあちゃん!! 『洗浄済新品肝っ玉注入ヒトハ・ナニカニ・ナレル』!!」

「あぎゃあぁぁ! ……ええ。体治っとる?」


「あたしゃね、悪さした分はちゃんとお勘定せんと気が済まんのよ! おばあちゃんは、破壊したミンスティラリアをちゃんと直しぃさん! 生きるも死ぬもその後じゃろうがね!!」

「美人のマダム!! ババア、許す!?」


「このワンチャンは賢い子やねぇ! 照り焼きあげようね!! 年寄りが癇癪起こすのにいちいち目くじら立てちょったら、老人会なんてやっちょれんけぇね。玉ねぎおばあちゃんは今日から、呉の老人会の一員ね! 性根、叩き直さんと!!」

「……ふっ。……玉ねぎさん。……あたしゃ厳しいよ? ……あんたぁ、カキフライくらい作れるんじゃろうね?」


「できへんけど。あ゛っ。できません」

「……やれやれじゃね。……年だけ食うて、なんぞ身についてない手合いかいね。……あたしが鍛えちゃろう。……安心しぃさん。……鎌で腕斬ることもあるけど、うちの子らは治癒スキルも使えるけぇ。……呉にゃ、玉ねぎ料理もようけあるからねぇ。……食材になるか、料理人になるかはあんた次第じゃね」



「……これ、最悪の組織に捕縛されたんやない? データ見たけど、どのばあちゃんにも勝てへんよ? 息するのも気ぃ遣う地獄やない?」

「ババア! 罪は消えない! 死んで逃げる、卑怯!! 泥を啜って償えるだけ償う! ババアは寿命が長いデトモルト人! やるしかない!!」


 呉のお嬢様たち、熟成玉ねぎをゲットする。



 なお、ペヒペヒエスが呉に連れ去られて武装公民館を見た瞬間に「なんやこれ。ここの人間、頭おかしいやん。勝てるビジョンが全然見えへん」と、完全に心が折れるのは少しだけ未来のお話。


 ピース・ミンスティラリア駐留部隊。

 壊滅。

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