第722話 【地上大決戦・その7】ほとんどの戦士が倒れた後で ~長き沈黙を破り、ついに再び出番を得る軍勢~

 空から墜落した南雲修一監察官。

 地上の敵は掃討されているので、主だったメンバーが駆けつける。


 真っ先に駆け寄ったのは雷原義光融合監察官賑やかしマン

 彼の中の雷門さんは南雲さんと監察官の同期で、仲良し。

 心配するのも当然であった。


「南雲くぅぅん! 大丈夫かい!? はぁはぁ! この体、慣れないな!! うぉぉぉんっ! ああ、失礼! 南雲くぅん!!」

「うわぁぁぁ! キモい!! ……失礼。元気そうで良かった。ええと。ゴリ門さん」


 加賀美さんが同情の色に瞳を染めて、そっと呟く。


「南雲さん。雷原さんです。それだと木原監察官の主張が強すぎます。もう木原監察官が作った門みたいですよ」

「それもそうか。って、そんな場合じゃなかった!! 椎名くんたちは近づいてはダメだ!! くっ! 体が動かない……!! みんな、上空から伸びる管に触れないように!! 私の一撃では全てを落とせなかった!!」


 ラッキー・サービスの売りの1つはスキルの効果範囲。

 『サービス・タイム』は本気を出せば半径数キロメートルの時間を凍り付かせる事が可能であり、『サービス・セット』は煌気オーラ弾のように運用すれば集中力が続く限りどこまでも敵を追っていく。


 ならば『サービス・ジャック』も当然のように効果範囲は広い。

 触手のようにウネウネと動いてくれたら、ワンチャン『サービス・シーン』という新スキルも生まれる余地があったのに、管はまるで鮫を仕留めるモリの如く直線軌道で獲物を仕留めようと牙を剥く。


「おぎゃぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「まずい! 本当に範囲が広い!! ここから見えないのに、大吾さんが多分やられた!!」


「南雲さん! 自分が迎撃します!! 守勢百八式……!!」

「待つんだ、加賀美くん! その管は煌気オーラを呑み込む!! 接触する類のスキルで対応するのは危険だ!! も、もう一度、私が『古龍化ドラグニティ』を……!!」


 管は残り4本。

 そのうち2本は女性陣に襲い掛かった。


「に゛ゃ゛-!! 芽衣ちゃん抱えてるからスキル使えんぞなー!!」

「すみません。私も近接戦特化で。一応、盾の拳を撃ってみましょうか?」

「みみっ。芽衣はもう疲れたです。とても眠いんです……」


 割と詰んでいた女子チーム。


 だが、良識と常識と道徳と20代の若さと自己犠牲の精神を兼ね備えた男。 

 ポスト雷門監察官どころか、ポスト南雲さんまで見えて来た、加賀美政宗。


 それが当たり前のように片方の管をイドクロア竹刀・ホトトギスで両断する。

 南雲さんが先述した通り、管が煌気オーラを吸収している間にもう1本が加賀美さんの背中に突き刺さる。


「うにゃー!! どど、どうしたらいいんだにゃー!?」

「自分から離れるんだ、みんな! どうやら操作属性のスキルという話。自分が操られて君たちに危害を加えるような事があれば、椎名さん。君の遠距離スキルで自分を撃ってくれ。ぐぅあああっ!!」


 地上に残った唯一の希望がたった今、サービスの手に堕ちた。

 なお、ちょっと目を離した隙にこっちでも被害が発生している。


「何してるの! ゴリ原さん!!」

「もう雷門の欠片もあらへんからぁぁぁ! なんか心がしょんぼりしてぇぇ! 心が弱ると、体も弱るやんかァァァ!! いっひひいっひうぅん!! 私にだけ、3本も管刺さるしぃぃ!! 全部で4本やあらへんしぃぃぃ!! な゛な゛なな゛っ!!」


 雷原さん、普通にやられる。

 融合監察官とかいう明らかに合体戦士の風格を漂わせていたのに、戦績は『セクシー・ダイナマイト』を使っただけという事実。


 セクシー・ダイナマイトを使わせたいがために生まれた戦士になってしまった。


「ふん。上々の釣果か。しょうもないものも2つ釣れたが。逆神と加賀美とか言う男は高みに立つ者。……高みから味方を襲うことになるとは、哀れなことだ」

「うわぁぁぁ! これ僕の責任かなぁ!? ええー。困るんだけどなぁ! しかも加賀美さん、意識なくしてるんだよね。まさか精神まで乗っ取るんですか? サービスさんさぁ! それはいくらなんでも酷くないですか!? ホントに薄い本じゃないですか!!」


「ふん。洗脳ものと同格に語るな。俺のは催眠アプリものだ」

「知りませんけど!! 詳しいなぁ! どうしよう!!」


 自由を奪われただけで、しょうもない事を口にできる余裕はある六駆くん。

 対して、地上では加賀美政宗監察官代理が完全に操り人形状態へ。


 これは痛恨。


 他にも逆神大吾と雷原義光が同じ状態ではあるものの、そっちは別に語るほどのことでもない。

 地上で唯一の指揮官になってしまった南雲さんは空を眺めて、唇を嚙みしめる。


「流れ星でも見えたら、すぐに願うんだけどね……」


 ロマンティックな事を呟くと、星の代わりに球体が飛んで来た。

 しばらく見かけなかった、サーベイランスである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現在、作戦に参加しているサーベイランスは山根機と福田機の2つ。

 いずれも総司令官に復帰した京華さんの指示を優先し、一時的に現場から離脱していた。


 福田機は「あっくんズッ友遊撃隊」を誘導し、莉子ちゃんの回復という大仕事を済ませている。

 山根機もちゃんと仕事をして戻って来たのだが、まずは惨劇に苦言を呈するところから始めるのが彼の流儀。


『何やってんすか! ナグモさん! あれ! 南雲さんに戻ってる!! 重ねて何やってんすか!! チャオってない南雲さんとか、今やAランクの人の方が強いパターンも多いんすよ!? 面白さも失くしてただ地面に転がってるとか! 白衣着た中年じゃないですか!!』

「仕方ないでしょうが! 頑張ったんだよ、私だって!! 君こそ、どこ行ってたの!? 奥さん戦場に放置して! 良くないな、そういうの! 夜にしなよ! 放置プレイ!!」


『援軍をお連れしたんすけど。京華さんのご指示で。帰ってもらいますよ?』

「援軍って、もう予備戦力ないでしょ!? Aランク以下を投入したら、死人が出るからダメだってば!!」


 生えっぱなしの門が輝くと、戦車が8台ギュラララと音を立ててやって来た。


「ええ……。なに? 日本の自衛隊ってガンタンク開発してたの? もう絶対にオーバーテクノロジーを感じるんだけど。どちら様!?」


 戦車が停まると、両サイドが翼のように解放される。


「あー。いいよね、ガルウィングドアってさ。私も憧れて、スポーツカーに乗ってたもん。京華さんに売られたけど。あれ!? あなたは……!!」


 中から現れたのは、大変懐かしい顔。

 美しい所作の敬礼を義手で行うと、彼は所属と階級を述べる。


「お久しぶりです! 南雲監察官殿!! 俺、いや、私を覚えておいででしょうか! ルベルバックより馳せ参じました!! 今は帝都ムスタイン方面司令官も兼務しております!! キャンポム少佐であります!! 全隊、敬礼!!」


 規律の取れた動きで兵士たちが降車、あるいは窓や天井から顔を出し敬礼する。



 兵器の国。異世界・ルベルバックより援軍、来る。



 諸君。

 ルベルバックはもう出てこないんやなと、そう思われていただろうか。

 あっくんの絡みもあるし、確かに出したら色々と面倒やもんな、と。


 いや、そんな事はないはずだ。

 最深部まで到達している使い手であれば、お察しの通り。

 慧眼とも言うまい。


 諸君に対して失礼である。


 現実を正しく看破できる曇りなき眼を持つ強者に対して、あれやこれやと解説するのは無粋。


 使えるものは絶対に使う。

 それがこの世界の真理であり、やり方なのだ。


 出さないはずなんてないのである。



 下柳元監察官なんか、何度出したとお思いか。



「南雲殿! 逆神さんの様子はリコタンクのモニターで察しております! どうやら間に合ったようで、私も安心しました!!」


 莉子ちゃんが太ったからリコタンクか! 上手い!!

 などと言えば、座布団は貰えるが、代わりに命を刈り取られるので注意されたし。


 お忘れの方のために補足しておくと、初期ロットの六駆くんは「莉子を囮にしてお金貯めてやるんだ! うふふふふ!」と暗躍していたので、救った世界には「莉子!!」と本人に無許可で救世主の伝説を遺しており、煌気オーラを産み出したミンスティラリアの『リコニウム』などはもう定着済み。


 ミンスティラリアでは、逆神六駆と小坂莉子が魔王ファニコラと肩を並べる知名度を誇っており、どこに行っても有名人なのである。

 ならばルベルバックだって。


「ミンスティラリアのシミリート殿より提供いただいたデータを元に、小坂殿の煌気オーラを分析。分析し切れませんでしたが、似たようなものを作り上げ兵器に流用しました! これが駆逐殲滅苺戦車・リコタンクです!!」

「……小坂くんに怒られるヤツだ。……いや、むしろ喜ばれるヤツかな? でも逆神くんが製作に関わってないからなぁ。怒られそうだなぁ」


 キャンポム少佐が合図をすると、リコタンクから主砲がニュッと伸びる。

 既に煌気オーラがチャージされているようで、その色は見慣れた苺色。


「これは民主化を急ぐルベルバックの希望! いずれは武器など失くしたいですが、力なき理想は無力ですゆえ。であれば、強大を超えた凶悪な兵器を持てと我らは学びました!!」

「……まずい感じに革命が進んでる。そんな危ないこと言ったの誰だろう」



「逆神さんですが!!」

「じゃあ仕方ないな! 革命頑張ってください!!」



 会話をしながら、ハンドサインで砲撃の用意を進めるキャンポム少佐。

 今さら、戦車の砲撃が戦局をどうこうできるのだろうかとお思いの方は名前だけでも聞いてやって頂きたい。


「こちらがルベルバックで先月完成した、物理超越巨砲! 名を『リコリコバズーカ・ランチャー』と申します!!」


 説得力しかない名前の兵器、日本に持ち込まれる。

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