第618話 【チーム莉子に新人が!・その3】六駆くん、新弟子ゲット! センスだけで生きてる系乙女、ノアちゃん!! ~静かに闇落ちした小坂莉子氏~

 とりあえずチーム莉子のメンバーから信任を受けた平山ノアDランク探索員。

 そうなると、次は上官たちに連絡をする。


 訳もなく、六駆くんはノアちゃんが独学で身に付けた転移スキルに興味津々である。

 なんだかんだ言ってもこの最強の男は千のスキルを持つヤベーヤツ。

 自分でスキルを創り出すなど日常茶飯事。


 戦闘中に「あ! 閃いた!!」と新スキルを使うシーンもよく見かける。


 そんな彼が「逆神流のスキル構築術式を自分なりに理解したんです!」と言って、控えめな胸を張る乙女に興味を示さないはずがなかった。


「ノア! 転移スキルってすぐに使える?」

「あ、はい! もちろんです!!」


「おおー! すごい! 煌気オーラ力場なしで!?」

「はい! ……ほへー? あの、煌気オーラ力場って何ですか?」


 探索員になるルートはいくつかある。


 協会本部で試験を受けて入隊するパターン。

 クララパイセンや小鳩さんはこのスタイル。


 監察官やSランク探索員の推挙により入隊するパターン。

 芽衣ちゃんはおじ様によって、この形でぶっこまれた。

 久坂監察官によって今は実質探索員扱いの55番くんなども該当。


 ダンジョンのある都市で直に役所探索課で査定を受けて入隊するパターン。

 ご存じ、六駆くんと莉子ちゃんはこれで探索員デビューを果たした。


 先の2つはすぐに座学や実技の研修を受けるのが通例であり、探索課の臨時採用組もだいたい1か月くらい経つと本部に呼ばれて講習を受ける。

 その際にスキル使いの基礎を学び、煌気オーラに関する知識もガッツリ20時間ほど教育される。


 汚れていた頃の六駆くんは『分体身アバタミオル』でドッペルゲンガーを出してこの講習を乗り切った。

 そのため、彼は未だに探索員協会の知識が浅い。


 ノアちゃんは最もポピュラーな試験合格組なので、実技も座学も研修で一定水準を超えなければFランク探索員としても登用されない。

 座学には当然、煌気オーラ力場についての講義も含まれている。


「えっ!? 煌気オーラ力場を知らないで転移スキル使ったの!?」

「えっ!? 煌気オーラ力場ってそんな大事なんですか!?」


 急速にノアちゃんから漂い始める、マジメなアホの子の匂い。



 ちなみにノアちゃんは実技も座学も仮免試験を3度落ちている。

 最終的に、当時教官を務めていたAランク探索員が「まあ、ギリギリで合格って事にしましょうか」と手を打ったのである。


 なお、座学を担当していたのは雨宮上級監察官室所属。

 すげぇ適当な遺伝子を上官から引き継いだ男、雲谷陽介Aランク探索員。

 「ふ、ははっ! これダメだ! もう合格でいいよ! ふふふっ」とざる判定を出す。


 実技の担当は楠木監察官室所属。

 休暇中だった潜伏機動部隊隊長の屋払文哉Aランク探索員。

 「やる気だけはすげぇんでぇ! まぁ、うん……よろしくぅ!!」と謎判定で通す。


 基礎も身に付けないまま、雷門監察官室に配属されたノアちゃん。

 あそこは気合とパッションでスキルを学ぶのが通例なので、基礎を疎かにしたまま少しずつ得意とする属性のスキルが使えるようになっていく。


 そうして1年半でDランクまで昇進した。

 このポンコツ乙女、センスだけにはむちゃくちゃ恵まれているのである。


「うわぁ! 俄然興味が出て来たなぁ! ちょっと使ってみてくれる!?」

「は、はい! 逆神先輩に見てもらえるなんて!! 興奮して来ました!!」


 ノアちゃんは煌気オーラを何故か右足に集約させ始めた。

 そしてその足で空間を思い切り蹴り飛ばす。


「ええ……。なんか穴が空きましたわよ? どういう理屈ですの?」

「にゃはー。これは間違いなく、天才タイプだぞなー。莉子ちゃんとはベクトル違いなのがまた怖いにゃー」


 探索員歴の長いお姉さん組は軽く引いている。


「どうですか!? 逆神先輩!!」

「ん? これで完成? 今って、空間歪めただけだよね?」


「ふっふっふー! ここからがボクのオリジナルです!! とぉぉぉりゃ!!」


 ノアちゃん、異空間に頭を突っ込む。

 それから視認による煌気オーラ感知を開始。


「見つけました! とりあえず、この異世界にある大きな煌気オーラを座標にして、繋げましたよ!!」

「ほほう! ちょっと見せてくれる? ……うわぁ! ちゃんと繋がってる!! 本当に構成術式が『ゲート』とほぼ同じだ! すごいなぁ、ノア! 目で着地地点の煌気オーラを見つけて、無理やり『基点マーキング』を作ってるんだ!! ははっ、頭おかしいや!!」


 六駆くんに「頭おかしい」と褒められるのは大変な事件である。


「あとは、術者以外も使えるのかが知りたいなー! ……誰かに実験をー」


 全員が一斉に視線を逸らした。

 キラキラとした瞳で見つめるのは莉子ちゃんだけである。



「じゃあ! クララ先輩!!」

「うに゛ゃ゛ー!! なんでー!? あたし嫌だにゃー!!」



 六駆くんは論理的な説明をする。


「莉子みたいに煌気オーラ総量があり過ぎると、その影響で効果が変わるかもですし。芽衣はまだ煌気オーラの干渉について未熟なので危ないですし」

「あ、危ないのかにゃー!? こ、小鳩さんの方が、強いし、安全だぞな!?」



「小鳩さんに何かあったら、あっくんさんに怒られるじゃないですか!!」

「……にゃー。あたし、生まれて初めて恋人が欲しくなったぞなー」



 クララパイセン、人体実験へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「一応確認するけど、この中に入ったら『基点マーキング』のある座標まで瞬間移動できるよね?」

「はい! ボクは4回ほど試してみましたけど、全部成功しましたよ!」

「いや! 待ってにゃ!! 試行回数が少なくないかにゃー!?」


 六駆くんはにっこりと笑う。

 それを見て、ノアちゃんも「にへへー」とはにかんだ。


「クララ先輩! スキルを作ったらね、最初は絶対に試行回数って0なんですよ?」

「安心してください! クララ先輩!! ボク、逆神先輩に関してだけはガチなので!! 『ライトカッター』も上手く使えないですけど!! にへへっ!」



「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 基礎の基礎ができてないのに、なんで転移スキル使えるんだにゃー!? やだぁ!! この2人、混ぜちゃダメなヤツだぞなー!! 誰か! 助けてにゃー!!」


 今の説明を聞いて代わりになろうと言う者が、果たしているのだろうか。



 結局20分ほどクララパイセンはごねたが、「このままではわたくしたちに被害が!!」「みみみっ!!」と乙女たちが結託して、無理やりどら猫の頭を穴に叩き込んだ。


「ひどいにゃー……。あっ。でも、なんかちゃんと顔が別の場所に出たぞなー。とりあえず、向こうに脱出するにゃー。あ゛っ!?」

「みみみっ? どうしたです? クララ先輩?」


「……おっぱいが通らないにゃー。これ、サイズが小さすぎるにゃー」

「大丈夫です! ボクは普通に通れますから!! 押しますね!!」


「押す!? な、なんでだにゃー!? ちょ、ヤメ、うにゃー!!! あ゛あ゛あ゛っ!! 今度はお尻が引っ掛かったぞなー!! そもそも、あたしはどこにおっぱいから先を転移させてるんだにゃー!?」


 どら猫の悲痛な叫びを聞いて、転移穴の向こうで家主が様子を見に来た。


「おお! クララではないか! 遊びに参ったのか? バニング! 来てみろ! 何やら、またクララが面白い事をしておる!!」

「あ゛、あ、アリナ様!! 今はちょっ!! こ、行為の途中で!? クララ! 帰れっ!!」



 バニングさんの家でした。

 しかも、おたのしみの最中と言う最悪のタイミングで突撃していったパイセン。



「ふにゃぁぁぁ……。あたし、こんなひどい目に遭ったの久しぶりだぞなぁー」

「すっごく歪だけど、ちゃんと『ゲート』になってる! クララ先輩が通れたからね! 転移スキルって術者しか通れないで、他の人が通ろうとすると排除されるものもあるのに! すごいよ、ノア!! でもサイズ的には門っていうより『ホール』かな!!」


「わあああ! 逆神先輩にスキルの命名を!! ボク、抱かれても良いです!!」


 六駆くんによって救出されたどら猫は、「……そんな危険もあったのかにゃ?」と珍しくプルプル震えながら小鳩さんのお尻にしがみついております。


 こうして、センスの塊のポンコツ乙女が六駆くんの前に現れたのだ。

 もはや、彼が弟子にしない理由はない。


 その旨を打診すると、ノアは大はしゃぎするのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 なお、一言も喋らず、霊圧が消えていた莉子ちゃんはと言えば。


「……芽衣ちゃん」

「み゛み゛っ!!」


「……これってさ。もしかして、わたしの六駆くん取られたりしてないかなぁ?」

「み゛っ!? め、芽衣、子供だから分からないです!!」


「あんなに楽しそうな六駆くん見るの、久しぶりなんだよね。わたしを御滝ダンジョンでいじめてた頃、あんな風に嬉しそうだったなぁ。ねぇ、芽衣ちゃん?」

「み゛っ! め、芽衣! 南雲さんに連絡するです!! サーベイランス起動させるです! みみみっ! 忙しいです!」


 テンションが下がって上がって、最終的に闇落ちしそうな莉子ちゃん。

 その圧に耐えきれず、芽衣ちゃんが日本本部と通信を開く。


 つまり、コーヒー噴く人と号泣する人が出て来るかと思われます。

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