第588話 【苦労人のあっくん・その4】「こいつら、どうしようもねぇんだがよぉ!!」と言う隊長の叫び

 その頃、ミンスティラリアでは。


「六駆さん。クララさんからラインが来たのですが、莉子さんが緊急任務に加わって作戦行動しているらしいですわよ」

「そうなんですか? へぇー。緊急任務ってなんだろう。いやー。今朝の雷のせいでみんなすごく早起きになりましたけど、これも巡り合わせですかね!」


 ミンスティラリアでは午前4時前に落雷が発生。

 非常に規模の大きいものだったため、魔王城では緊急対策室を設置。

 事態を憂慮した居候中の現世組も手伝いに参加していた。


 シミリート技師によると「リコニウムが大気に混ざってからまだ1年なのだからね。時折このような、ある種の拒絶反応として悪天候が起きる事があるのだよ」との事。

 雷は森と中規模の集落に落ちており、集落では家屋が損壊する被害も出ていた。

 森林火災も発生中。


 既に現場には元アトミルカチームが派遣されており、六駆くんと小鳩さんは対策室で被害報告がさらに出た場合に対応する係。

 じいちゃん、ばあちゃん、母ちゃんも待機中。


 だが、そこで人員が足りてしまったため、莉子、クララ、芽衣の乙女たちは早起きしたのにやる事がないと言う事態に陥る。

 暇をつぶすならどら猫にお任せ。


 小鳩さんから「課題をやりますわよ」と言われる未来を予知したクララパイセンは、「じゃあ協会本部でトレーニングしてくるにゃー!」と、修行を大義名分にして現世へと逃亡した。

 暇だった莉子ちゃんと芽衣ちゃんも同行し、その後は諸君も知っての通り。


 莉子ちゃんがあっくん遊撃隊に志願してヴァーグルへと出動して行った。


「莉子にとっては縛りのある実戦なんて最高の修行になりますからね! いい事ですよ! 誰が指揮官なんだろ?」

「お気の毒ですわよ、その方。莉子さんを自在にコントロールできる方なんて、六駆さんしかいないじゃありませんの」


 お気の毒ですが、被害者はあなたの彼氏です。


「そこなんですよ! 莉子は僕と一緒だと安心して実力以上のパワーを発揮するんですけどね! 最近は煌気オーラ総量にものを言わせる力押しが目立ってて。小鳩さんも気付いてるでしょ? 莉子、明らかに煌気オーラコントロールのレベルが落ちて来てるんですよ!」

「あ。それは確かに感じてましたわ。『苺光閃いちごこうせん』の出力調整ですら危なっかしい場面を時々見ますものね」


「ってことなので! どこかの誰かの部隊で揉まれてくるのは良い修行ですよ! 新しいスキル教えるにも、煌気オーラコントロールが雑だと危ないですからねー! 莉子、煌気オーラ総量は僕より多いんですから! 暴発したら、ミンスティラリアとか滅びますよ! あっはっは!!」

「笑い事じゃありませんわよ……。何かきっかけを掴めると良いのですけれど。お気の毒な指揮官の方、心中お察しいたしますわ」


 繰り返しますが、あなたの彼氏です。


 最近は「僕が出るとピースさんを刺激しちゃいますから!」と言って、敢えて出番を縮小している六駆くん。

 これも「資産の保証」と「ピース殲滅による巨額の報酬」が約束された事による効果が大きい。


 今回も、遠い異世界から弟子でありパートナーの成長を見守る構え。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ヴァーグルでは。


「おらぁぁ!! 『拡散熱線アルテミス』!! ちっ! 固ぇ!! こりゃ、動物園の入り口で足止め喰らっちまうぜぇ! ちんたらしてちゃ、敵さんにやりたい放題された挙句逃げられちまう!!」


 気の毒な指揮官が孤軍奮闘していた。

 ギランリザードたちはペヒやんのイドクロア兵器『ハッスル』により、良い感じに煌気オーラが増強されている。4倍程度だろうか。


 あっくんの結晶スキルを喰らっても3匹に1匹は生存すると言うタフさは、最初に出て来るモンスターとしては驚異そのもの。


「……事情はご理解いただけただろうか!?」

「あ。はい。理解しましたけど」


「では、申し訳ないが、青山さん! おっぱいを凝視させて頂いても構わないね!?」

「え。ちょっとそれは……。あの、潜伏機動隊の装備って、ピッチリしたボディスーツなので。その、凝視されるとかなり恥ずかしいんですけど……」



 水戸くん。依然として哀しきセクハラ中。



「しかし! 自分はおっぱいを見なければ戦意高揚しないのです! 先ほどから、ギランリザードを見ても、餌をあげてから頬ずりしてあげたいと思ってしまう!!」


 これにて、ストウェアチームは無事に全員がおっぱいに囚われました。


 おっぱい男爵は言うに及ばず。

 雨宮上級監察官は最近ちょっとだけおっぱいから脱却気味。

 代わりに弟子の水戸くんが別におっぱいに性的欲情をしていないにも関わらず、戦うためにおっぱいを求めると言うクレイジーな状況になっていた。


「ふぇぇ。じゃ、じゃあ……! わたし! わたしが代わりに!! 青山さん! わたし、六駆くんと言う心に決めた人がいるので! 青山さんは今って恋人いませんもんね!? そーゆうの、良くないと思うんです!!」

「莉子ちゃん……!! ごめんね、まだ高校生の莉子ちゃんにそんな事させて……」


「平気です! さあ、水戸さん!! ど、どうぞ……!! ふ、ふぇ……。しゅ、好きなだけ見てくださいっ!!」

「すまない、小坂さん!! この恩はいつか必ず返す! では、失礼!!」


 30秒ほどお待ちください。


「ふぇぇ……」

「よし! ありがとう! 充分だ!! 阿久津くん! すまなかった! すぐに自分が加勢する!! うぉぉぉ!! 『螺旋刺糸スパイラレッド』!!」


 水戸信介監察官は雨宮上級監察官から指導を受けた鞭を操り、スキルを放つ。

 だが、ちゃんと自分でもスキルをいくつか習得し、それをアレンジしている。


 主に紐状のものをイメージするのが合っているらしく、それを用いて対象を切断したり捕縛したり、時には操ったりと多岐にわたる煌気オーラ運用が可能。


 たった今放った『螺旋刺糸スパイラレッド』は渦巻く煌気オーラ糸で敵を貫くスキル。

 のはずだが、煌気オーラ糸はポトリと地面に落ちて、釣り上げられたワカサギのようにピチピチと踊ったのちスッと消えて行った。


「あのなぁ……。水戸さんよぉ? もう邪魔だから、帰ってくんねぇか?」

「こ、こんなはずは!! ちゃんとおっぱいを見たのに!! ……はっ!!」


 水戸くん、何かに気付く。

 諸君は恐らく、莉子ちゃんがおっぱいを差し出した時からこのオチを予見していただろう。

 もはや口に出すのもおこがましい、この世界の摂理。



 AAランクはおっぱいとして認識されなかったのである。



「青山さん! 申し訳ないが、おっぱいを凝視させて頂けないか!!」

「……作戦が終わったら、労働組合に訴えますからね。ああ、もう!! どうぞ!!」

「ガルルルル」


 状況が悪化したものの、どうにか青山さんのCランク探索員を凝視させて頂いた水戸監察官。

 吹っ切れたようにギランリザードの群れを一網打尽にして見せた。


「待たせてすまない! 阿久津くん!!」

「いや、マジでよぉ。こんなにやり辛ぇ仕事、そうそうねぇぜ? 具体的にゃ、逆神の親父と組んだ時と同じぐれぇのストレスを感じるんだが。……ちっ。まあいい。この隙にヴァーグル内部に突入すんぜぇ! 日引さんよぉ! 索敵は!?」


 サーベイランスが降下してきた。


『完了しています! モンスターは檻から放たれて時間が経過しているようで、何か所かに集まっているものが多いです! 危険度の高いモンスターから鎮圧をお願いします! 殺処分もやむなしと上級監察官の許可も出ております!! モニターに表示されたポイントKまでナビします!!』

「了解だぁ。てめぇら、行くぜぇ! 小坂ぁ! ダメだなぁ……。青山さんよぉ。小坂を抱えてくれぇ」


「了!」

「あんたと和泉さんだけが俺の精神安定剤なんだよなぁ……」


 跳梁跋扈するモンスターたちを避けながら、あっくん遊撃隊は無事にポイントKへ到着。

 そこに待っている、脅威判定最大のモンスターは当然だが、あの子たち。


「キュリィィィィィィィ!!!」


 故郷の異世界で呼ばれている正式名称はバオルスパイダー。

 なお、現世での登録名はリコスパイダー。


 当然『ハッスル』で煌気オーラ爆発バーストさせられて、元気にハッスル中。

 5匹ほどが体をメタリックに硬化させてお待ちかねである。


「……やっぱこいつじゃねぇかよ。元の時点で既にくっそ面倒だったんだがなぁ。水戸さん! 小坂ぁ! おめぇらを頼るしかねぇぞ、こりゃ!」


「くっ! なんだかクモが可愛く見えて来ただと……!? まさか、もう効果が!? 時間が足りなかったのか!? 確かに雨宮さんは舐め回すように見ろと……くっ!!」

「ガルルルル」



「……小鳩の作った飯が食いてぇなぁ。たまにゃ酒も飲んでよぉ。……くははっ」



 阿久津浄汰特務探索員。

 胃潰瘍になっても労災は絶対に出るので、もう頑張ってくださいとしか言えない。

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