第586話 【苦労人のあっくん・その2】胃が痛くなるメンバー集結! いざ出勤!!

 日本探索員協会本部に到着した阿久津特務探索員。

 ちゃんと指定の駐輪場に原付バイクを停めてから、暗い表情で1号館へと向かう。


 ブリーフィングルームは1号館に7室あり、指令室やオペレーター室と同じフロアに存在している。

 3番の部屋に入ると見慣れた顔があっくんを出迎えた。


「おはようございます。阿久津さん。そろそろ朝晩は秋の気配が漂い始めげふぁっ」


 特徴のない正しく美しい敬語で「これは誰やねん」と思わせてから、言葉を吐く代わりに血を吐いて自己主張するフリーのSランク探索員。

 和泉正春氏、きっちりと時間外労働に応じる。


「あぁ。あんたは具合悪そうだなぁ。……いや。血の色が鮮やかで、しかも量が少ねぇ? さては和泉さん、今回もコンディションは良好かぁ?」

「ふふっ。お気づきになられましたか? 実は小生、スムージーを毎日作るようになりごはぁっ! これがなかなか体にげふぅ!!」


 スムージーは体に良いそうです。


「あっくんさん! お久しぶりです!!」

「あぁ? 青山さんじゃねぇかよ。なんであんたがいるんだぁ? ……あぁ。なるほどなぁ。鎮圧任務だから、潜伏機動部隊が出張って来たって事か」


「はい! さすが、ご慧眼ですね!!」


 青山仁香Aランク探索員。25歳。

 楠木監察官室所属、潜伏機動部隊の副隊長を務める有能なお姉さん。

 特に暴走しがちな屋払文哉隊長の補佐を常にこなしているため、補助戦闘員として特に定評がある。


 アトミルカ殲滅作戦では五楼隊の一員として最後まで戦い抜き、目立った功績こそ残してはいないもののサポート面が大いに評価され、五楼上級監察官に2級戦功を与えられた。


「……屋払さんはどうしたぁ? あの人も来るだろ? この任務ならよぉ?」

「屋払さんは、その……。カレーを一晩寝かしたらうめぇって事は、二晩寝かしたら最強なんでよろしくぅ!? とかバカなこと言って、常温のままお鍋に放置したカレーを昨日の夜食べまして、えっと……」


 屋払文哉Aランク探索員、食あたりとよろしくぅしたため、今回は欠席。

 この世界の食あたりは当たるだけでほぼ致命傷になる極めてヤベーヤツ。


「気の毒になぁ。まあよぉ、青山さんがいてくれんのは正直心強いぜぇ? あんたの状況把握力は抜きん出てっからなぁ」

「あっくんさん、相変わらず優しいですね! 小鳩ちゃんとお付き合いしていなかったらって悔しがってる女子探索員、結構多いんですよ? 隅に置けないんですから!」


「ちっ。女ってのはよぉ。この手の話が好きだねぇ。で、オペレーターは日引さんか。ちっと人員が足りてねぇんだよなぁ」

「それでしたら、監察官が1名随行してくださるそうです」


 あっくんは首をかしげる。


「待て待て、和泉さんよぉ。なんで秘匿性の高い任務に監察官が出てくんだぁ? んなもん、一発でバレんだろうが。そもそも、国協絡みで表立って部隊出せねぇから俺やあんたが呼び付けられてんだぜぇ?」

「私もそのお話は伺っています! なんでも、どんなリスクを背負っても戦場に立ちたいのだとか! 素晴らしい向上心ですよね!」


 その監察官がブリーフィングルームへと入って来る。


「遅くなって申し訳ない。初対面の者もいるので、名乗っておこう。自分は水戸信介監察官! 今回は無理を通して頂いた身! 阿久津くん、いや、阿久津隊長の指揮下に加わらせて頂く!! 自分の事も部下として、1つの駒として使ってくれ!!」


 責任感の男。

 ストウェア司令官代理だった水戸信介。

 自分を守り未だ敵の手に落ちたままの川端一真監察官を救い出すため、彼は力を欲している。


 少しでも早く強くなるには、命のやり取りをする厳しい戦場に身を置く事も1つの正解。

 本部に復帰した雨宮上級監察官が「まあ良いんじゃないの? ほら、水戸くんってストウェア勤務中に監察官へ昇進したじゃない? だから、データってないに等しいんだよねー! バレない、バレない! 平気だよー!!」と許可を出していた。


 上級監察官が2名体制に戻った事により五楼上級監察官が定期的な休暇を取るようになってしまった結果、結構な頻度で日本本部の最高意思決定機関が緩くなる。



 ちなみに、川端さんが結構お楽しみな事は雨宮、水戸の両名も当然知らない。



「……ちっ。やりにくいったらねぇぜ。階級も年も上とかよぉ。言っとくがなぁ、水戸さんよぉ? うっかり死んでも恨まねぇでくれよなぁ?」

「もちろんだ。君のデータは自分も把握している。復隊してからの戦績、功績が突出しているのは一目瞭然。君の指揮下でなら、自分はもっと高みを目指せる! 何より、実戦の機会が少ない監察官になって鈍った自分よりも阿久津くんや和泉くんの方がずっと強いだろう!! 勉強させてもらうさ!!」


 どこまでも実直な水戸監察官を見て、あっくんは髪をぐしゃぐしゃとこねくり回す。

 彼は基本的に優しいので、「頑張ります!!」と言っている者に対して「邪魔だから引っ込め」と言えないのだ。


 そりゃモテるはずである。


「んじゃ、俺ぁ出撃の報告に指令室行ってくるからよぉ。各人、装備の確認頼むぜぇ? 別にあんたらが死んでも困らねぇが、俺の評価下げられると困るんでなぁ。くははっ」


 そう言って部屋を出たあっくん。

 2秒後に不幸が待っているとも知らずに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「もぉ! ズルいですよぉ、クララ先輩! 内緒で本部に遊びに来てたなんて!!」

「にゃははー! 六駆くんにお願いしたらすぐだぞなー。莉子ちゃんは六駆くんと一緒が良いかと思って声かけなかったんだにゃー」

「みみっ。芽衣はたまにお尻にくっ付いて来てるです! みみっ!」


 早朝に何故か本部を徘徊するチーム莉子の乙女たち。


「わたし、六駆くんに言われたんですよぉ。『苺光閃いちごこうせん』に頼らない戦い方をしばらく続けて、煌気オーラコントロールを身に着けようねって! だから、クララ先輩! 模擬戦闘訓練の相手、お願いします!!」

「にゃん……だと……。それはちょっとだにゃー。せっかく装備の修繕終わって戻って来たのに、莉子ちゃんの相手したらもう全裸確定だにゃー。……あ゛っ!!」



 どら猫があっくんを捕捉しました。



 阿久津特務探索員は既に装備に着替えており、緊急時のどら猫脳がフル回転。

 椎名クララは勉強をやらないだけで、頭は良いのである。

 日商簿記2級は一発合格。実は英検2級も持っている。


「あっくんさんだぞなー!! 莉子ちゃん! 見てにゃー! あっくんさん、明らかにこれから任務だにゃー!! 絶対面倒な仕事だぞなー!! 強い敵と戦えるにゃー!!」

「……勘弁してくれぃ。クララよぉ。てめぇ、いい加減にしとけよなぁ? 小鳩に言って家庭教師の日数増やさせるぜぇ? 今回は縁がなかっ……なんつー目ぇしてやがんだぁ。小坂のヤローはよぉ……!!」


 莉子ちゃんの恋愛脳も高速回転していた。


「あっくんさーん! わたし、暇なんです!!」

「逆神が待ってんじゃねぇのかぁ? あぁ?」


 なりふり構わず六駆くんの名前を出すあっくん。

 秘匿任務にこれほど向かない爆弾娘もいないからである。


「わたし、あっくんさんと結構仲いいですよね?」

「あ、あぁ……?」


 ここであっくん。答えに窮す。

 イエスでもノーでも割と大怪我しそうな予感が、彼の判断を鈍らせた。


「あららー! 阿久津くん! ごめんねー! 水戸くん押し付けちゃってさー!! そろそろ出る頃かと思って、おじさんが激励に来ちゃったよー!」


 雨宮上級監察官までやって来た瞬間、あっくんは全てを諦めた。


「あー! 雨宮さん!」

「あららー! 莉子ちゃんじゃないのー! 遊びに来てたの? 言ってよー! 逆神くん元気?」


 この2人、ヴァルガラ最終決戦で同じ戦場にいた事がきっかけで、かなり良好な関係を築いていた。

 雨宮おじさんはおっぱいもお姉さんも好きだが、若い子に相手してもらえると嬉しくなると言うおっさん属性をしっかりと習得している。


 楽し気にキャッキャッとはしゃぐ莉子ちゃんと雨宮氏を見て、あっくんはもう何も言わない。

 代わりに1つ、戦いの後の予定を立てた。


 「こいつが終わったらよぉ。小鳩のヤツ誘って、水族館に行くのも悪くねぇなぁ……」と。


 遊撃隊のメンバーも決まり、準備を整えたらいざ出発。

 あっくん隊長は医務室で胃薬を飲んでから、転移発着場へと重い足取りで向かうのだった。

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