第584話 【雨宮順平は放浪中・その6】呉の老人会と仲良くなった雨宮順平上級監察官 ~電車で本部に帰ります~

 よし恵ばあちゃんと一歩も引かぬ戦いを繰り広げた雨宮上級監察官。

 彼は呉の老人会の本拠地、公民館に初めて足を踏み入れた探索員、および監察官となった。


『こちらメインコントロールルームの久恵よ! よう来たねぇ、雨宮くん!! ごめんねぇ、ばあちゃんら勘違いしてしもうてさぁ。ホント、あんたが強うて良かったわー。お詫びの印にねぇ! 公民館の主砲で花火上げるけぇ!! 節子さん! ええかいね!?』


 砲座でピッツァを再び食べ始めた節子さん。

 本日最後の射撃スキルを披露する。


『換装するけぇね! これはお盆と大晦日にしか使わんとっておきよ! ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 『狂弾クレイジー大花火狂乱連射スターマインクレイジージャブ』!!』


 公民館の主砲が上空に向かって吠える。

 真昼にも関わらず真っ赤な花火が呉の港町の空を鮮やかに彩った。


 なお、呉の老人会のスキルは基本的に「血の赤」が基調となっており、現在上空で雨宮氏を歓迎している花火も例外なく血の色をしている。

 見ている分には赤い花火なので、この場合は何も知ろうとしないのが正解。


「あららー! これは大変! 南雲くん辺りが見たらコーヒー噴きながらバク転するねー。ありがとうございますー! いやー! みつ子さんの本拠地ですかー! もう、その情報聞いただけで全てに納得ができちゃうんだよねー! そりゃ皆さん規格外でいらっしゃるはずだ!!」


 元アトミルカの2人が雨宮案内人を務める。


「なんかすみません。ボクたちまで見逃してもらって」

「いやいやー。パウロくんもサンタナさんも、心を入れ替えて頑張ってるみたいだしねー? そもそも、バニングさんたちを異世界に移住させた責任者も、私と久坂さんの連名だから。今さら2人増えたって同じだよー! 今度バニングさんたちに会う?」


「いやー。ボク、2番様とそんなに接点なかったんですよね。ウォーロストから出してもらった恩は感じてますけど。サンタナさんは忠誠心あるんじゃ?」

「小官はアトミルカに所属して17年ほど過ごしましたが、今は2番様も安寧を手に入れられたとの事。小官ごときはお心の隅にもおりますまい。無用に宸襟を騒がせ奉るのはヤメておきます」


 2人は雨宮氏からアトミルカの解体と一部のシングルナンバーはミンスティラリアへと移住した事を教えられていた。

 この2人は戦場から拉致られてきて、そのまま呉の住人になったためアトミルカがどうなったかなど知る由もなく、つい先ほど「あ! 滅びたよ!!」と告げられて「そうなんですか!?」と見事なハモりをキメていた。


「雨宮くん! おいで!! 今日はねぇ、トマトで纏めたランチなんよ! 一緒に食べよういね!!」

「あらぁ! 節子さん、若い子が来たからって動きが早いんじゃけぇ!! なんでメインコントロールルームのもっと上にある砲座から、あたしより早うに降りちょるんかいね!!」


 節子さんと久恵さんも地上へ帰還。

 現在、公民館は自動防衛システムに移管しているため無人で問題ない。


 余談だが、この呉公民館を魔改造して軍事要塞へと変貌させたのは、去年まで呉に住んでいた老人会のメンバー。名前は幸代さん。

 構築スキルに秀でた使い手であり、『呉の機械仕掛けの処刑人オートマタエクスキューショナー』の異名を誇ったばあちゃん。


 その両手から生み出される数々の機械は恐怖と脅威をもって敵と相対し、それを見て無事に帰った者はいないため彼女の力を知るのは老人会のメンバーのみ。

 福山市に住んでいる息子夫婦が二世帯住宅を建てたので、旦那と一緒に移住していった。


 老人会に籍は残っているため、時々顔を出してはお茶会をしている。

 呉人力バーチャムを考案し、明確な数値化を果たしたのも幸代ばあちゃん。


「……まあ、座りぃさんや。雨宮くん。あたしらの不手際じゃったけぇ。とりあえずお腹いっぱいにさせんにゃあね。あたしの気ぃがおさまらんのよ」

「あららー! ご相伴に預かりますねー!! 立派なトマトですねー! まずは丸かじりさせてもらっても良いですかー? んん! これはみずみずしい!! 何もつけなくてもすごく美味しいですねー!!」


 ばあちゃんは基本的に自分で育てた野菜を食べてくれる若者に対して優しい。

 あまり知られていないが、それを生で食べるとさらに好感度が爆上がりすると言う研究結果がとあるシンクタンクから発表間近だと言うのは、確かな筋の情報。


 雨宮順平。

 呉で居場所をゲットするに至る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ばあちゃんたちのハートを鷲掴みした伊達男。

 ピッツァを2切れ食べる間にキンキンに冷えたビールが出て来たのはその証明。


「いやー! 美人に囲まれて美味しいご飯と冷たいビール!! 最高ですねー!!」

「なんかね、この子! まぁ口が上手いんじゃからぁ!! パウロちゃん! おかわり持って来てあげて!!」


 特に惚れ込んだのが節子さん。

 彼女は福山雅治や井浦新などの渋めのおじさん俳優が大好きであり、雨宮順平(43)はどストライクだったらしい。


 なお、旦那さんは普通に存命。

 温水洋一さんに似ているとのこと。


「……しかし、そねぇな事になっちよったんかいね」

「ねー。ビックリしたねぇ。みつ子さんはともかくよ。アナちゃんが狙われるのはかわいそうじゃねぇ。どうにかならんのかいね、雨宮くん?」


 雨宮氏は現在のピースと日本探索員協会、そして逆神家の関係を老人会に包み隠さず伝えていた。

 機密事項の漏洩だが、氏曰く「だってさー。おばあちゃんたち、本気出したら私を拷問して聞き出せるじゃない? それに口固いって言うし? 大丈夫だって!」との事。


「私もね、色々と頑張ってるんですけどねー。なかなかどうして、これが面倒なんですよ。ここにはみつ子さんとアナスタシアさんの家がありますからね。もしかしたら、ピースがちょっかい出してくるかもなんですが」


「そりゃあいけんね! 撃ち落とそう!!」

「節子さんばっかりズルいよ! あたしが断罪しちゃろう!!」

「……ふんっ。あたしが1人おれば事足りるいね」


 なお、ピース蜂起の第一弾キャンペーンとして、ハーパー部隊の隊員が公民館を急襲しているのだが、どうやらばあちゃんズには敵としてカウントされていない様子。

 実は南雲監察官が襲撃直後に調書を取ろうと試みたが、「氷川きよしくんが見る度に変わりよるけどね、あたしら全員で応援て行こうって決めたんよ!!」と一致団結した答えを提示したため、「あ、はい。そうですね!! 私もそう思います!!」と爽やかに笑って全部諦めた経緯がある。


「皆さんの好きにやっちゃってください! 責任はね、私が取っちゃいますから!」

「あらぁ! 雨宮くん、本当に偉いんじゃねぇ?」


「そうなんですよー! 私、意外と偉いんです! 仮にここが狙われたとしたら、抵抗しないよりも秒殺した方が面倒も少なそうですし! ね! 皆さん若いし! 美人だし!!」



 新しいビールと焼きたてピッツァとチーズ多めのカプレーゼとニンニクマシマシパスタをゲットした雨宮上級監察官。



 その後、昼食会はお茶会へと変化し、さらに夕食会へとなだれ込み、雨宮氏は公民館で一晩過ごすこととなった。

 パウロ&サンタナコンビが暮らしているため、1人増えたくらいは余裕で収容可能。


 次の日の朝ごはんを頂いてから、雨宮氏は呉を発つことにした。


「ごめんなさいねー! 電車賃までお借りしちゃってー!!」

「ええの、ええの! ちゃんと返しに来るんよ! そうしたらまた雨宮くんに会えるもんねぇ!」


「あーあー。節子さんが熱出しちょるよ。旦那さんかわいそうじゃねぇ」

「……ふんっ。節子さんとこは夫婦仲ええからね。問題ないじゃろ。年に3回は旅行に行くんじゃけぇ。羨ましいねぇ。……雨宮くん。……また来ぃさん」


 よし恵さんはドラゴンボールの人造人間編で未来に帰るトランクスを木にもたれかかってそっと見送るベジータさんと同じ、イカしたピースサインをぶっきらぼうにキメておられます。


 こうして最寄りの駅までパウロくんに送ってもらった雨宮順平上級監察官は、長い放浪を終え日本探索員協会本部に帰還する。

 放浪している間に異世界を1つ救い、久方ぶりの命を削る戦いを経た彼が少し強くなっている事実には、まだ本人も気付いていないのであった。

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