第578話 【川端一真の捕虜日誌・その1】人工島ストウェアは現在航行中 ~「前略。ジェニファーちゃん。おっぱいはお元気ですか。私を導いてください。負けそうです」~

 イギリスに浮かんでいた人工島ストウェア。

 ピース上位調律人バランサーたちにより奪われた結果、日本探索員協会が中心となり建造した拠点は敵の移動要塞としてそっくりそのまま転用されていた。


 現在、大西洋のキューバとメキシコの間を行ったり来たりしており、いくらステルス機能を展開しているとはいえ、そろそろ捕捉されるのも時間の問題かと思われた。


「だーかーらー!! バカかよ! ポートマン!! なんでアメリカ狙うんだよ!? アメリカ探索員協会はあんま機能してないから、襲撃してもたいして旨味がないって言ってんだろ!! バーカ! デーブ! ハーゲ!!」

「うるせぇ!! アメリカは吾輩の生まれ育った国なんだぞ! だったらよぉ! 故郷に錦を飾りてぇってのが人情だろうが!! ババア!!」


「誰がババアだ! あたし23ですぅー!! 見ろ! このパンパンに張りのあるおっぱいを!! 太ももだってプリプリだわ!! 何のために水着を装備にしたと思ってんだ! ハゲ!!」

「ハゲじゃねぇ! スキンヘッドだって言ってんだろうが!! てめぇ! いい加減にしろよ! 誰のおかげでストウェア奪えたか分かってんのか!!」


 ライラ・メイフィールドとダンク・ポートマンが言い争っていた。

 ピースは同階級であれば優劣はなく、命令権も存在しないためライバル関係にある調律人が同じ空間に集まるとだいたいこうなる。


「じゃあさ! 分かった! 第三者の意見聞こうぜ! ハゲ!」

「臨むところだ! ババア!!」


「川端! どう思う!? あんたはあたし派だよな!? アメリカ落とすとかバカ言ってないでさ! 南米まで行くべきだよね!?」

「いーや! この侍は吾輩に同調するぜ!! なにせ、同じジャパニーズを愛する魂を持ってるからな! よぉ、川端! アメリカ落として故郷に錦だよなぁ!?」


 川端一真監察官。

 ストウェア失陥の際、水戸信介監察官を逃がすため、また暴走した草属性スキルを止めるために自爆スキルで身を挺し捕虜になった男。


 彼は今、ストウェアで。


「……どちらの意見も聞くべき点はあると思うが」


「マジかよ! なんだよー! 川端ぁー!! あたしのおっぱいガン見してんのにさぁー!! ノリ悪いじゃんかぁー!!」

「本当に川端は女に優しいな! 武士道ってヤツか!! かぁー! 痺れるぜぇ!!」


 何故か、ピースの幹部たちと結構仲良くなっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「とおー。お昼ご飯できましたよー。今日はパスタ! はいはーい。乳見せババアとメタボハゲは手を洗って来てくださーい。川端さんって魚介類好きでしたよねー?」


 ナディア・ルクレールは「仕事したくない」と言う一心で自活能力を成長させていった結果、家庭的スキルにも長けておりストウェアの食料大臣として君臨していた。

 彼女以外は自炊どころか、パスタも茹でられないクソザコばかり。


「……話は後だかんな! ハゲ!!」

「うっせぇ! こっちのセリフだ! ババア!!」


「はーい。2分以内に手を洗って来ないと、川端さんに全部あげまーす」

「ちょ! ナディア! あんた、あたしの副官だったのにぃ!!」


「いや、あれはストウェア奪取作戦の時の話でしょー? なんでわたしがライラさんの副官ずっとやんないといけないんですかー。バカですかー?」

「ぐぬぬっ。半端に若い子って1番面倒!!」


 川端監察官は腕に煌気オーラを封印するペヒペヒエス特製の手錠こそハメられているものの、足かせは付けられておらず、ストウェア内を自由に行動できる状態にある。

 煌気オーラが使えない状態で海に飛び込んでもただの自殺になるので、逃走の可能性が低いからこその措置ではあるが、仮にも監察官に対して相当に無警戒と言わざるを得ない。


「ナディアさん。私は」

「あー。そうだー。イカがダメなんでしたっけー? 抜いときまーす」


「もう捕虜になって10日になるが。私はどうしてここまで厚遇されているのだろうか?」

「えー? それはまあ。わたしは別にって感じですけどー。川端さん、自分の身を省みず極大スキルでライラさんの草を凍らせたじゃないですかー? 元々わたしたちも探索員だった訳ですしー? あんまり酷いことするのは趣味じゃないなーって。はい、イカ抜きー! 代わりにエビとアサリ足しときましたー」


 犬猿の若返りコンビも戻って来る。


「おー! 美味そうじゃん! ナディアさー。なんでそんな家事できんのに独身なのー? ねー? 性格キツイから?」

「ライラさん。魚介、全部抜いておきますねー。わたしは興味ないだけでーす。ずーっと養ってくれる人なら結婚してもいいかなーって」


「……ただのパスタになった。あたしのご飯」

「ぷっ! だっせぇ! あー! うめぇ!! ナディアはいい嫁さんになるぜ! 吾輩、貰ってやろうか? おおん?」


「ごめんなさーい。わたし、ハゲとデブはちょっとー」

「おい! 吾輩を構成する要素の大半じゃねぇか!! ガッデム!! あと姫島どこ行った!? あいつ、お前らの下着盗んでんじゃねぇのかぁ?」


 姫島幽星は甲板で鍛錬中。

 変態侍が言うには「共同生活しておる女の下着を盗んで、何が楽しいのか。愚かな」との事である。



 愚かなお前がお前の色違い別の変態を愚か呼ばわりするな。



 食事を終えるとナディアが食器の片づけを指示する。

 今日のターゲットはライラ。


「えー!? なんであたしぃ!?」

「わたし、根に持つタイプなんですよねー。誰が結婚できないんでしたっけ?」


「うぐぅ……。川端ぁ! 手伝ってよ! あんたどうせ暇じゃん!」

「見損なってもらっては困る! 食事は捕虜として頂戴するが! 君たちとなれ合うつもりはない! 私は日本の監察官だ! 誇りがある!!」



「おっぱいチラ見していいよ? あたしの水着装備、4種類あるから。今日は緑。どーよ?」

「くそぉ!! なんて! なんて非道な!! これが捕虜に対する扱いか!! 私が洗い物を全て請け負うから! ライラさん! あなたにはただ! 隣に立っていて欲しい!!」


 川端さん。なんだか快適そうですね。



 それから川端監察官は皿を完璧に洗い、美しく磨き上げた。

 彼の異名は寡黙な仕事人。

 皿洗いにも手加減はしない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2時間の休憩ののち、ストウェアの進路について再び議論が始まる。


「そろそろ移動しないとダメだって言ってんだろ! もう3日もこの辺漂ってんだぞ、あたしら!!」

「アメリカ上陸すりゃ良いじゃねぇか! 故郷に錦ぃ!!」


「川端! なんか言ってやってよ! このハゲに!!」

「くっ……!! ライラさんが怒鳴る度に……!! 揺れる……!! ああ! ジェニファーちゃん!! 私に理性と自制心を与えてくれ!! ジェニファーちゃん!! それからダンクさん。さっきから故郷に錦の使い方が違う!!」


「やーい! だっさ! ハゲ、だっさー!!」

「うるせぇ! 使う事に意義があるんだよ! 間違えねぇと覚えらんねぇだろうが!!」


 ナディアがビーチチェアーを設置して、横になった状態で提案する。


「もうとりあえず移動でいいんじゃないですかー? ライラさんに賛成はしないですけど。南米の方に向かいましょうよ。わたしそろそろお肉食べたいなー。ねー。川端さん?」


 ナディアさんは日光浴のため、上着を脱いで水着のビキニを身に付けております。

 おっぱい男爵は気付いていた。


 「一見するとライラさんの方が大きく見える。だが! ナディアさんはスライムタイプ!! 質量はこちらの方が勝る!!」と。

 川端一真は今日1番のイケボで答えた。


「これ以上この海域に留まると、アメリカ探索員協会から砲撃される可能性がある。確か沿岸部には全方位防衛システムがあったはずだ。以前、同僚のメケメケマルくんに聞いたことがある。……勘違いしないでもらおう。ストウェアは我々、日本探索員協会が作り上げた芸術品だ! それを壊されるわけにはいかんのだ!! 決して君たちに与するわけではナディアさん私あなたに近づいてもよろしいですか!!」


「おー。いいですよー。おいでおいでー。日光浴って大事ですからねー。海上での長期作戦では推奨されてますもん。はい、わたしの椅子を1つ貸してあげますよー」

「くっ! 私は!! 絶対に屈さない!! 失礼します!! くそっ!! 太陽が眩しい!! これはナディアさんの方を向かなければ! 視力が低下する!! くそぉ!! 屈するものか! 屈してなるものかぁ!! ……絶景!!!」


 ライラが司令官室にスキップで向かう。


「よっしゃー! 南米行き、決定ー!! 自動航行システムいじってくるぜぇー!!」

「……侍。クールだぜ。そうやって、女にかまけるふりをしてまた吾輩たちを助けやがった……!!」


 ストウェアの進路は南へ。

 川端監察官は元気そうなので、心配しなくても大丈夫そうです。

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