第577話 【ちょっと一息・その4】逆神六駆の引率責任者デビュー ~最近頑張る2人の乙女にも休日を~

 ミンスティラリアに長期滞在中のチーム莉子。

 別に決まっている訳でもないのだが、小鳩さんと莉子ちゃんが現世に戻ってリフレッシュをした都合、クララパイセンと芽衣ちゃんにも休暇を与えるべきではないかと言う議題が2日前に持ち上がっていた。


「僕がついて行きますから! って言えば、多分南雲さんも許可くれますよ!!」


 なんと、発案者は逆神六駆。


 見た目は高校生、中身は社会不適合者を地で行くスタイルを長らく続けて来た彼だが、現世に復帰して1年が経過したことによりかつての社会性を回収。

 その能力自体は別に高くなかったのだが、異世界転生周回者リピーターを29年ほど続けた結果、おっさんみが発現。


 最近になってそのおっさんみが不思議な化学変化を起こし、「ちょっと頼りになって、ちょっと気の利く年長者」と言う、「君がそれを獲得する事で色々とバランスがおかしくなるやん?」なスキルを身に付けるに至っていた。


 かつての彼ならば「上官に休暇の許可を取る」という行動は発想すらなく、「パーティーメンバーの若い女の子に気を遣う」という優しさはご飯のおかずにして食べて知らないうちになくなるのがアイデンティティだったはず。


「やだぁ! わたしも行きたいっ!! 行きたいー!! 六駆くんが現世に行くって知ってたら、わたし待ってたのにぃ!! ねぇー! わたしも行くぅー!! 六駆くん! ねぇー!! アイスの食べさせあいっこして、クリームをボタン外したシャツの間に垂らして拭いてもらったりしたいぃー!!!」



 ご安心ください。代わりに嫁が立派に仕上がっております。



 旦那は昨日、「南雲さん! 莉子も一緒に連れてっていいですか!?」と申請は出していた。

 が、「お願い。ヤメて。小坂くんが現世に戻る度にね、警戒アラートが鳴るの。今さ、監察官室が順番に休暇取ってるのよ。明日ね、うちの番なの。……私、休みたい」と悲痛な叫びが上官から聞こえて来たので「元気な赤ちゃん作ってくださいね!!」と下世話なおっさんみを出しながら了解していた。


「莉子!」

「わぁぁぁ! 六駆くぅん!!」



「ごめんね! お土産買って来るから!!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



 その後、小鳩さんが駆けつけ、バニング&アリナカップル(仮)が駆けつけ、みつ子ばあちゃんと四郎じいちゃんが協力して封印防壁を構築している間に、六駆くんはクララパイセンと芽衣ちゃんを連れて門をくぐった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とりあえず座標は御滝ダンジョンに指定していたため、久しぶりのチーム莉子生誕の地へと降り立った3人。

 なお、芽衣ちゃんは特に思い出もないのですぐに移動を始める。


「どこか行きたいところあります?」

「あたしは特にないぞなー。と言うか、魔王城でスマホいじってたかったにゃー」


 今回のどら猫さんは小鳩さんによって「たまにはちゃんとした服でお出かけさせますわ!!」とショートパンツにハイソックスを穿かせたところまでは良かったが、そこで莉子ちゃんが暴走を始めたので上はいつものヨレヨレなタンクトップ。

 むしろ普段よりバランスが悪い。


 芽衣ちゃんはフリフリした膝丈のワンピース。

 問答無用に可愛らしい。


「みみみっ。師匠。クララ先輩。芽衣、ちょっと学校に行きたいです!」

「にゃん……だと……。学校に行かなくて良いのに、わざわざ学校に行く……のかにゃ……? 芽衣ちゃん、どこかおかしいぞな……」


 驚愕の表情で固まったどら猫さん。

 大学の後期日程がまだ始まっていないのだけが救いである。


「みみっ。実は、月曜日に制服とか体操服とかの採寸があったらしいのです。お友達からラインが来たのです。芽衣だけ後で別に時間取ってもらうのは申し訳ないのです。みみみっ」


 近頃は莉子ちゃんに続いて小鳩さんも恋のビッグウェーブとの対戦が忙しいので、一緒に行動する機会の多いこの2人。



 芽衣ちゃんが何か言う度に、勝手に評価が下がっていくどら猫さん。



「なるほど! じゃあ、芽衣の学校に行こう! 近くに『基点マーキング』作ってあるんだよね! いつだったか、木原さんと一緒に芽衣をストーキングした時にさ!」

「……み゛っ。まぢうぜぇです」


 なお、先日のカルケル局地戦からまだ6日しか経っていないため、木原監察官の話題が出るだけで芽衣ちゃんがやさぐれます。

 六駆くんは『ゲート』を発現し、3人で再転移した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 私立ルルシス学院は何度も登場しているが、名門のお嬢様学校。

 セキュリティも万全。


「待ちなさい! 君たち! 入校証は!? 身分証明書も出して!! 早く! こちら正門! 警備員の応援を頼む! 平日なのにブラブラしてる男子高校生と汚れたタンクトップの女の子がうちの生徒を連れ回している!!」


 まあ、こうなるのも当然である。


 芽衣ちゃんは現在学校を公欠中。

 だが、守衛さんにまでその情報は共有されておらず、マジメに女子生徒の生活を守る彼らからすると「うちの生徒が! なんか恐ろしいほどに落ち着いた怪しい輩と一緒に、授業も受けずブラブラしている!!」と認識するのも当然。


 ちなみに六駆くんは特務探索員に役職が変わった関係で、身分証明書である探索員免許も携帯できなくなった。

 ならばとクララパイセンを見れば、今穿いているショートパンツは、先日小鳩さんがあっくん宅に遊びに行った帰りに「クララさんの服も買っておきますわ。まったくもう」と手配したもので、本日初めて着たお召し物。


 ポケットにはスマホしか入っていない。

 ハンカチどころか、財布すらない。


 六駆くんがスマホを取り出してしばらく通話したのち、集まって来た守衛軍団にビデオ通話にして差し出した。


『お世話になっております! 私、日本探索員協会の南雲修一監察官です! そちらの2人の身分を保証いたします! はい! はい!! 申し訳ございません!! 手前みそになりますが、私ども、貴校に昨年から寄付をしておりまして! 五楼京華の名前で! はい! はい!! 恐縮です!!』


 結局休みの日に仕事をした南雲監察官だが「これで済んだならむしろ勝ちだよ!」と、彼も色々と精神的に成長を見せていた。


 無事に女子の園に足を踏み入れた六駆くんとどら猫。


「いやー! 僕、すっごい目立ってますね!!」

「ぐへへにゃー。可愛い女の子がいっぱいいるぞなー。あたしのやってるソシャゲの制服に似てるんだにゃー。写真撮っとくにゃー。お嬢様とか超レアだにゃー」


 その後、不穏な発言を3度繰り返したところで再び身柄を拘束されたこの2人。

 来賓として、守衛室に招かれる事となった。

 お茶と高級お煎餅を差し出され「おとなしくしていてください」と言われたため、2人は煎餅を2回おかわりした。


「みみみっ! ごきげんようです!!」


 芽衣ちゃんは学友たちと簡単に挨拶をしたのち、制服と体操服の採寸を行う。

 夏シリーズでご存じの通り、芽衣ちゃんは胸部装甲が1つランクアップ済み。

 制服と体操服もそれに準じたものが新調されることとなった。


 「今の体操服は莉子ちゃんにあげたらいいにゃー!」とどら猫が不用意な発言をしたが、まだ現世だったため芽衣ちゃんによって「みみみみっ。芽衣を巻き込むのはヤメて欲しいです! それ、芽衣が被害受けるヤツです!!」と厳重注意された。


 芽衣ちゃんは15歳。

 クララパイセンは20歳。


 哀しき現実がここにある。


 その後、3人でアイスを食べて、誰もクリームをこぼすことなく完食するとコンビニに寄り牛乳と豆乳を4パックずつ六駆くんが購入して、3人は門の中に消えて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ガルルルル」


 魔王城に戻ると、莉子ちゃんが唸っていた。

 これまで六駆くんに上手いこと操縦されて置いて行かれる事はあったものの、「ダメだよ」と言われてガチの置いてきぼりを喰らったのは初めての莉子ちゃん。


「莉子! ごめんね!」

「ガルルルル」


「莉子の好きなメーカーの牛乳買って来たよ! あとほら! 最近莉子がよく飲んでる豆乳! あんまり売ってないって言ってたヤツ!!」

「ガル……ほわぁぁ!! 京華さんが教えてくれたヤツだぁ! わざわざ買って来てくれたのぉ!? しかも4つもあるよぉ!! これね、おっぱい大きくなるんだって! 京華さんも若い頃に飲んでたんだって!! 六駆くん、ありがとー!!」


 クララ先輩と芽衣ちゃんがひそひそと呟き合う。


「六駆くんってもしかして、莉子ちゃんのおっぱい豆乳売ってる店、把握してるのかにゃー?」

「みみみみっ。師匠の進化がヤバいです。みみみみみみっ」


 戦闘力を極めた男がコミュ力も極めようとしている様子を見て、乙女たちは改めて世界最強の男の可能性を思い知るのであった。

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