異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第561話 【人工島ストウェア・その3】悩める若者と輝く男爵 ~なお、やっぱり奪われた定期~
第561話 【人工島ストウェア・その3】悩める若者と輝く男爵 ~なお、やっぱり奪われた定期~
水戸信介監察官は34歳。
監察官としてはかなり若い。
それだけ彼が期待されている証拠であった。
対して、現在はピースの上位
かつてはフランス探索員協会の監察官だったナディア・ルクレール。
彼女も同じく34歳。
この2人は同い年である。
水戸監察官が監察官に昇進したのは約2年前。
ナディアが昇進したのは5年前。
彼女は29歳の時に監察官の職に就いており、これは世界各国を見ても異例のスピード。
彼女は多くの資質に恵まれていた。
イドクロア装備も達人の域に到達している得物が多くあり、武器なしでも普通に強いと言うかなりの万能乙女。
唯一欠けていた資質があったせいでこのように反社会的勢力に属する事になってしまったのだが、一応その足りなかったピースについて言及しておこう。
やる気である。
とっくにご存じだっただろうか。これは失礼。
「ルクレール監察官!! 何かの間違いですよね!?」
「やー。それがさー。色々間違った結果ねー。なんかピースに入ってたのよー」
「そんな! よく国際研修であなたと一緒の組になりましたが! モチベーションは低くとも、ルクレール監察官! 悪事に手を染める人ではなかったはずだ!!」
「あー。水戸くんってさー。女子に理想押し付けるタイプー? ごめーん。わたしね、別に悪事をするのが好きな訳じゃないけどね? 楽して生活できるのは好きなのよー。そんなわたしにズバピタのオファーが来てねー」
必死の説得を試みるも、暖簾に腕押し。
本質的に優しく実直な男の水戸信介。
彼は非情になり切れない部分が欠点とも言える。
人間的には尊重すべき傾向なのだが、時には冷徹になる事も求められるのが指揮官職。
まだ経験不足が否めない今の水戸くんは、精神が安定感に欠ける。
「落ち着け。水戸くん」
「か、川端さん!!」
「同期の監察官がいるとか羨ましすぎるぞ。私は嫉妬で狂いそうだ。女性と言うだけでも貴重なのに。なんだその胸の兵器は。撃ち抜かれたい!! いくら払えば良い!?」
「ダメだ! 普段なら、あなたのクソみたいな言動で冷静になれるのに!! くそっ!! ルクレールさんは自分に優しくしてくれたんですよ!! 初めての国際会合の時だって!! 合同監察官研修の時だって!!」
迷える若者に助言をするのが年長者の務め。
川端一真はかつて、月刊探索員でお悩み相談コーナーを担当していた男でもある。
打ち切られたが。
「水戸くん!!」
「は、はい!」
「自慢話なら後にしてくれないか!! 私の研修はいつもおっさんとじじいばっかりだ!! たまに女子がいたかと思えば、誰かの副官だ!! くそっ!!」
「なんで自分にキレるんですか!?」
と、ここで独り蚊帳の外に放置されていたライラ・メイフィールドが口を開いた。
「あたしを無視すんじゃねぇ!! 見ろや、このおっぱい!! バインバインだろうが!!」
「くっ! なんて攻撃だ!! 水戸くん! 援護してくれ!!」
「何のですか!?」
「おっぱい攻撃を受けている!! しかも若い!! 私のストライクゾーンは25からなのに!! 何故だ!! そちらのあなた! お年を伺いたい!!」
ライラは照れながら、モジモジしながら、ぶりっ子の極みで答えた。
「あたしぃー。23ですぅー!!」
「くっ!! 私のストライクゾーンが、下げられただと!?」
「はー。ごめんね、水戸くん。わたしも任務こなさないとさ。家を追い出されるのよー。あとね、そっちのダンディなおじさん? ライラさん、偽23歳だから。若返ってんの。ピースの技術で。中身は52」
「なっ……!? なんだと……!?」
「てっめぇ!! なんで真実バラすんだよ!! いいじゃん! 見た目が若けりゃ!! なぁ! 川端!!」
「……そ、それでも!! 私は好きだぁ!!」
いい加減戦ってください。
ナディアがため息をつきながら鞭のようなものを取り出した。
先端には鉄球が備わっており、これはいわゆるモーニングスター。
「よいしょっと!! 『
「うわっ!! ルクレールさん……!! 本気なのか……!!」
ナディアの一撃でストウェアの甲板が陥没した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
水戸監察官もイドクロア装備ムチムチ鞭を取り出す。
「そうそう! わたしたち、武器も似てたんだよねー!!」
「せめて無力化して! 事情を聞かせてもらいますよ!!」
ナディアの目が冷たく光った。
瞬きを1つする間に、彼女は氷属性のスキルを放つ。
「とおー。『
「ぐぁっ!! 速い……!!」
ナディアのスキルは極めて練度が高く、またシンプルを突き詰めているため発現までのレスポンスが迅速。
氷結属性からの打撃スキル。単純なだけに対処が追いつかない。
「水戸くんさー。昔っからそういうとこあったよねー。相手によって手を抜くのー。優しい子は嫌いじゃないけどさー? 死ぬよ?」
「くっ……!! 『
水戸監察官の自在に伸びる鞭だが、ナディアは事も無げに躱す。
冷めた目で標的を見つめると、手のひらを向けた。
「つぁぁぁぁ!! 『
「わー。おじさん、戦えるんじゃんかー。なにー? 隙狙ってたのー? やるぅー」
「私はおっぱいに等しく敬服する!! だが!! うちの頑張る若者を悪く言わないでもらおうか!! 水戸くんは優しい! それは美徳だ!! 戦場で戦うだけが監察官の役目ではない!! ところで、おっぱいが好きだ!! そんな私は川端一真!! どうぞよろしくお願い致します!!」
「おー。意外と熱いタイプだー。わたし苦手ー。ライラさん、よろー」
ライラはナディアに指示された体になっている事実を不服に思いながらも、川端の後背を突く。
「いくら若い坊やが役に立たなくてもさ! 2対1はさすがに無謀だろ、川端ぁ!! 歯ぁ食いしばりなぁ!! 『
「植物属性!! 珍しいものを!! しかし! 私とは相性が良い!! つぁぁぁぁ!! 『
ライラに放たれた水属性の川端キックは呆気なく吸収される。
相手は植物。こちらは水。養分である。
「ふふっ! 言っただろう!! 相性が良いと!! おっぱいの養分になれる喜び!!」
「いや! あたしにとって相性が良いって話!? あんたは何がしたいんだよ!?」
すると、川端男爵は両足から水を噴射させ上空に舞い、そのままライラの背後を取る。
迷うことなく羽交い絞めを選んだ男爵。
なんだか幸せそうである。
「うおっ! こんにゃろ!! 離せ!!」
「ふふっ。相性が良いと言っただろう? 大事な事だから2回言った!! 私が水属性しか使えないと思ったのか? 水の派生スキルならば心得はある!! つぁぁぁぁぁ!! 『
先に大量の水を浴びせておいた男爵。
それはライラの植物属性の盾で吸収されたが、体内に戻してはいないため水分を多量に含んだ状態のまま。
そこに全身から放出する凍結属性のスキルが放たれる。
川端男爵もろとも、ライラの半身が凍り付いていく。
「こいつぅ!! 最初からこれ狙いかよ!! やらしい事考えやがる!!」
「ライラさんと言ったな!! 大変結構なものをお持ちだ!! ここは一時引かせてもらうが!! すぐに体を温めて、ホットミルクなどを飲んで、ケアしてくれ!! 世界の財産を傷つけたくない!! いやもう、本当に最高の戦場だった!!」
男爵。彼も体の前半分が凍り付いているのになんだか幸せそうである。
「水戸くん! 立てるか!!」
「は、はい! すみません!!」
「謝るのは全てが終わってからだ! ストウェアのコントロールを私の生体認証でロックしておいた!! 向こう2日は動かせん!! 再起を図るためにも、今は退却だ!! 人員の避難も済んでいる!!」
かつてない輝きを放つおっぱい男爵。
2人は海に飛び込んだ。
かつてアトミルカ殲滅作戦では北極海に潜水させられた彼ら。
それに比べれば、イギリスの海はリゾート地のように快適だったらしい。
「あーあ。逃がしちゃったー。ライラさん、どうするんですかー。この責任は重いですよー?」
「あたしのせい!? 嘘だろ!? あんたがさっさと坊やを始末しないからでしょ!?」
「はー? 言っときますけどねー。水戸くん、キレると超強いですよー? 川端おじさんも普通に強かったしー。わたしらだって長いこと飛んできて消耗してたんですからねー。文句言うのは良いですけど。代替案もなしに不平のたまうだけとか。そーゆうとこ、ばばあですねー」
「あ。はい。ごめんなさい。すみません」
例によって奪われた人工島・ストウェア。
だが、まだ時間的猶予はある。
それほど長くはないが。
そして、ついに現れなかった雨宮順平上級監察官はどこに行ったのか。
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