第537話 【逆神家追放編・その4】(荒ぶる)呉の老人会VS調律人・可哀そうな人たち精鋭8名(どうせ1話でいなくなるため名前はありません)

 広島県呉市にてのんびりと暮らしている逆神みつ子。

 彼女のところへ息子の嫁がやって来たのは、今より約17年前のことである。


 逆神アナスタシア。

 無自覚発現する煌気オーラ力場に接していると、ほぼ全ての人間が例外なく煌気オーラを強化されると言う、極めてチートだが厄介な異能を彼女は持っていた。


 息子の大吾が異世界から連れてきた嫁は、六駆を出産して間もなく義理の母を頼る。

 御滝市の逆神家で生活するには制約が多く、「これさぁ、アナスタシアがかわいそうじゃね!?」と、極まれに見せるSSRダメ親父の優しさにより、呉の実家を紹介されたのだ。


 みつ子は「ええよ?」と秒で了承した。

 当時はまだ50代だった彼女だが、大吾が結婚すると聞いて「そりゃあいけんねぇ!! お父さん、あたしらは呉に戻ろういね!!」と気を利かせていた。


 そこで事情を聞いた逆神老夫婦はみつ子がアナスタシアと生活する事になり、四郎は六駆の面倒を見るため逆神家へと戻ったのだ。


 その先は諸君もご存じの通り。

 みつ子が普通に煌気オーラを覚醒させ、オマケにスキル使いとして天性の素質を持っていた彼女はめきめきと実力を付け始める。


 「なんかあれやねぇ? 気合入れたら、なんか出そうやねぇ?」と、何の気なしに放出した煌気オーラ弾が、今では彼女の必殺スキルでもある『餓狼砲ウルファング』の原型。

 その時点で「あ。これいけんねぇ。もしかして、ご近所にもアナちゃんの力、影響でちょるんやない?」と気付き、慌てずゆっくりとリサーチしたところ隣接している公民館が普通に煌気オーラ力場の効果範囲に含まれている事を理解する。


 「まあ! ええかいね!! 仕方ないけぇ、みんなでスキル覚えよういね!!」とみつ子が決断したのは、彼女が還暦を迎える少し前の事だった。


 今では「世界に隠匿された最強の野良スキル使い集団」として、呉の老人会は存在している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな呉の公民館をピースの構成員が8人がかりで急襲していた。

 いずれもSランク相当かそれ以上の使い手である。


 みつ子とアナスタシアの存在を彼らが知っているのは、ハーパー理事がヴァルガラで記録した情報データからピースの解析班が特定したため。

 なお、司令官の1人であるラッキー・サービス理事は「これはとんでもないぞ。幹部クラスでも恐らく相手にすらならん。とは言え、上位メンバーを出したくはない」と放置の判断をするも、ハーパー理事が「ならば! 基本はコンビで活動するピースの精鋭を4倍の8人つぎ込みましょう!!」と必要のない前向きさを発揮。


 サービス理事としては「この先制攻撃はハーパーの私怨が原因という事にしておきたい」と言う考えがあったため、このシャカリキじじいの前向きさを止めるのも不自然であると熟考。最終的に「お前の好きにしろ」と裁可する。



 ハーパー理事の好きにした結果、これからピースの精鋭が8人ボコボコにされる。



 既に結果の見えている勝負。

 面倒なので、ピースの精鋭たちはAからHで表記することとする。


 だって、この戦いが終わったら退場する者たちに一人一人名前を付けるのって、アレがナニするのである。


 上空から煌気弾なんかすごいスキルを撃ち込みけん制するA、B、C。

 彼らの戦法は正しい。


 強敵を相手にする際は、まず自分の間合いをキープし、相手の間合いに入らない事が必定であり、その点において彼らは戦いのいろはを理解していた。

 が、お待ちいただきたい。


「ほぉぉぉ!! みつ子さん!! ええね!? あたしが一番槍貰うけぇね!?」


 『呉の紅い弾丸レッドバレット』で有名な、節子さん。

 彼女の遠距離攻撃の射程はだいたい1キロ。


 余裕で間合いの中なのである。


「節子さん! あたしも一緒に撃つけぇね!! アナちゃん狙うた罪は重いんよ!!」

「あらぁ! みつ子さんとセッションかいね!! いっつもカラオケで一緒にキンキキッズ歌いよるもんねぇ!! あたし、剛くんでええかいね?」


 『呉の地獄の狂双銃ヘルズツインバレット』が爆誕する。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 『餓狼砲ウルファング』!!!」

「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 『狂弾クレイジー血の池地獄レッドショット』!!!」



 悲鳴をあげる事も許されず。ピースの精鋭3人、爆砲の餌食となって墜落する。



 遠距離支援部隊が落ちるとなると、けん制がなくなるため近接戦闘員は速やかに勝負を決する必要がある。

 地上部隊のD、E、Fはすぐに状況を理解。

 「何を置いても獲るべきは逆神」と、みつ子に襲い掛かった。


 彼らの判断もまた正しい。

 みつ子が逆神の括りでなくとも、彼らはみつ子と節子を狙っただろう。


 極大スキルを撃ち終われば、どんな猛者でも少しの隙はできる。

 隙はできずとも、次弾の装填までには僅かながらもラグが生まれる。

 その間隙を突くのは、戦いの所作として最適解の1つ。


「散開!! 三方向から狙うぞ!!」

「了解! ばあさん、悪く思うなよ!!」

「しっかりと弔うからな!! 許せ、ご老人!!」


 だが、ここは呉。

 現世で最も強い老人の集う場所。


「まだまだやねぇ! あんたら!! みつ子さんがわざと極大スキル使うて見せた事に気付けんのかいね!」

「……久恵さん。……無理言うちゃいけん。……この子ら、まだ40くらいやけぇ。……青い子に青い言うても、分からんのよ」


 今日も家でぬか床をかき混ぜて来たのが先に喋った久恵さん。

 『呉の断頭台ギロチンキラー』でお馴染み。


 あとに喋ったちょっとシャイなおばあちゃんはよし恵さん。

 老人会の副会長を務める『呉の鮮血の雨合羽ブラッドレインコート』と言えば、この人。


 両人とも、近接戦闘を得意とするおばあちゃん。

 久恵さんは手刀を使い、よし恵さんは具現化した鎌で命を刈り取る。


「ひぃやぁぁぁぁ!! 『獄門断頭台ヘルズギロチン旋風サイクロン』!!」


 DとEが一瞬で手刀によるギロチン刑に処され、首がモキョッとなる。

 だが、Fは回避スキルを駆使してその地獄から脱出。


「……まだ甘いねぇ。……久恵さん。……1人取りこぼしちょろうがね。……かぁぁぁ!! 『血雨の輪舞曲ブラッドロンド死狂いデスサイズ』!!」


 地獄から脱出した先がより深い地獄なのは、呉ならよくある事。

 こうなると、もはや作戦続行は不可能。


 しかし彼らにもプライドはある。

 プライドを「1人でも良いから逆神家の抹殺」に使ってしまったのが運の尽き。

 「命の大切さを理解し、無条件降伏」にそのプライドを運用していればと思わずにはいられない。


「あらあらー。お母さん、すみませんー。捕まってしまいましたー」

「あんたらぁ……? うちのアナちゃんは戦えんて知っちょっての狼藉かいねぇ?」


 残ったGとHは、アナスタシアの命を狙った。

 だが、これが彼らの犯した最も大きなミス。


 ばあちゃんが、アナスタシア母ちゃんの身を無防備にしているはずがないのだ。


「2人とも!! 出番やけぇね!! ええとこ見せぇさんや!!」


 みつ子の号令によって、2人の男が公民館の屋上に立つ。


「プレッシャーだなぁ。でもボク、ネガティブな発言すると叩かれるんだよねぇ」

「パウロ様。小官もフォローいたします。自信をお持ちになるとよろしい!!」


 お久しぶりである。


 アトミルカ殲滅作戦の折、呉の老人会に「戦利品」としてお持ち帰りされた、かつてのアトミルカナンバー5パウロ・オリベイラ。

 そして、その作戦の際には名前を名乗る機会すら与えられなかった副官。元19番。サンタナ・ベルライズ。


 今では立派な公民館職員として、呉で生活している。

 ちなみに、手の空いたばあちゃんからほとんど1日中スキルの指導を受けているため、戦闘力も向上中。


「まずは小官が!! はぁぁ!! 『斥力遠破レパルション一噛みファング』!」

「ぐぇあっ!!」


 サンタナさんはみつ子の指導により、斥力を操れるようになっていた。

 重力属性の時点でかなりレアなのに、斥力使いともなれば極めてレア。


「怒られたくない!! 怒られたくない!! もう、『万物流転ばんぶつるてんのお仕置き』は嫌だ!! つぁああぁぁ!! 『インビジブルスピア・フォッシル・呉最高アメージング』!!!」

「ひゅんっ」


 パウロの得意とする創造スキルは元からチート級だったが、みつ子のスパルタ指導によりさらに進化。

 今は視認できない透明な武器を想像して、敵を討つ特訓中。


 こうして、無事に全8人をお料理した呉の老人会。


「パウロちゃん! サンタナちゃん!! なかなかええよ!! あとでトマトカレー作ってあげようねぇ!! お腹空いたじゃろがね!!」


 パウロとサンタナは跪く。


「ありがたき幸せ」

「本当に。ボクを生かしてくれてありがとうございます。呉最高です」


「まあまあー。立派になりましたねー。2人ともー。私は南蛮漬け作りますねー。お夕飯も楽しみにしていてくださいねー」


 再度2人は跪いた。



 仕上げにみつ子ばあちゃん、天に向かって吠える。


「どこの誰か知らんけどねぇ!! どうせ覗き見しよるんじゃろういね!! ええかいね!? あたしらと対等に戦いたかったらねぇ!! 今日の20倍の数集めて来ぃさんや!! ……次は容赦せんけぇね!!」


 今回は容赦していたという事実は、ピースの情報室に激しい絶望の雨を降らせた。

 呉の老人会。盤石の横綱相撲を見せる。

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