第531話 【あっくん&小鳩さんの日常・その2】塚地小鳩Aランク探索員の人生初デート!! ~完全にラブコメの主人公へと上り詰める阿久津特務探索員~

 とりあえずイオンモール内にあるカフェにやって来た2人。

 スタバも途中にあったのだが、あっくんこれをスルー。


 なんだかスタバには嫌な思い出があるご様子。


「あぁ? おい、小鳩よぉ。おめぇ、大丈夫かぁ?」

「な、なにがですの!? あっ!? 将来の事ですの!? わた、わたくし、両親には今日の事、きちんと報告してきておりますわ!!」


「よーし。よく分かったぜぇ。大丈夫じゃねぇな? あぁ。店員さんよぉ。注文頼むぜぇ」


 カウンターに向かい、コーヒーとミルクティーを注文してそれを受けると、流れるようにテーブルへと舞い戻るあっくん。

 彼は社交性もある。チートかな?


「おらよ。小鳩はミルクティーで良かったかぁ? 確かおめぇ、コーヒーそんな好きじゃねぇだろ?」

「な、なんでご存じですの!?」


「ナグモのよぉ。おっと、今は上官か。南雲さんのよぉ。コーヒー飲む時、結構な量のミルクと砂糖入れてるって聞いたんでなぁ? 意外といるんだよなぁ。無理してコーヒーに付き合う女ってよぉ。その気遣いは賞賛されるべきだがよぉ? プライベートでは好きなもん飲んで食うもんだろうがぁ。おら。スコーンも買って来た。小鳩よぉ。朝飯食ってねぇだろ?」

「へっ、あ、えっ!? な、なんで!? なんでそんな色々分かるんですの!?」


「あぁ? くははっ。元犯罪者舐めんなよ? 俺ぁ相手を観察して弱み握んのが主戦法なんだよなぁ。くはははっ」

「あ、そ、そうなのですね。わたくし、弱みを握られてしまいましたわ……」


 それから2人は、静かにカフェでお茶をした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 南雲監察官室では。


「もぉぉぉ!! 南雲さぁん!! 早くサーベイランスのスペア出してくださいよぉ!!」

「ええ……。のび太くんでもそんな無茶苦茶言わないよ? ドラえもん、ストレスで爆発するよ? 小坂くん。ちょっと勘弁してくれないかな? 阿久津くんにまた落とされるじゃない。さっきのはこっちに非があるから私の実費修理なんだよ?」


「それって! 小鳩さんのデートを覗き見すると何か関係ありますかぁ!?」

「うん。小坂くん。君、すっかり逆神くんだね。何なら、ピークだった頃の逆神くんを超えてるまであるかな。……逆神くぅん!! 君ぃ!! 奥さんの制御してよ!! 何してんの!?」


 莉子ちゃんが荒ぶっておられた。


 恋愛脳の化身となった莉子ちゃん。

 もう、人の恋模様を見て自分を投影したのち、「えへへへへっ。そーゆうのもあるんだぁ! 今度六駆くんとしよーっと!!」と悦に浸るのは平常運転。


「あ。山根さん! それロンです!!」

「たはー! 逆神くん、ホントにこないだまで麻雀忘れてたんすか!? 強いっすねー!!」


「にゃはー! 六駆くん! 甘いぞなー!! にゃっはっはー! 頭ハネだにゃー!!」

「うわぁ! クララ先輩、さすがだなぁ!!」


「ぬっふっふー! まだまだひよっこだぞなー!! ピンフ、タンヤオ! ドラ12!!」

「あー。飛んだっすね、自分」


 ちなみにチーム非恋愛脳は麻雀で忙しい。

 六駆くんがついにルールを覚えたと言うか、思い出したため、南雲監察官室に全自動麻雀卓が導入された。


 と言うか、どら猫。ドラ12ってなんだ。さては積んだな。

 ドラ猫ってか。やかましい。

 そもそも、全自動麻雀卓のはずなのに。


 製作は南雲監察官なのに、卓に呼んでもらえない南雲監察官。

 では、4人目はと言うと。


「あっ。次って私が親ですか?」

「いや。自分飛んだんすよ、春香さん」


「じゃあ、足りないところは血液賭けてください! 健斗さーん!!」

「ええ……。春香さん、ギャンブルやっちゃダメな人だったんすね……」


 日引春香Aランク探索員。

 彼女はついさっきルールを覚えたが、1時間程で福本伸行作品のキャラみたいになっていた。


「おっと。ごめんね、小坂くん。ちょっと電話が」

『ああ。修一か? 何故か部屋に私だけになったのだが。……良ければ、来ないか? いや、なに。少し話でもと思ってな』


 南雲さん、無言で立ち上がると、莉子ちゃんの前にサーベイランスの操作端末をスッと差し出す。

 続けて言った。


「ちょっと私ね、野暮用ができたから。後は君の好きなようにしていいよ」

「わぁ! ありがとーございますっ!!」


 最近、みんなして恋愛にうつつを抜かし過ぎではないのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 カフェを後にしたあっくんと小鳩さん。


「まあ、特に行きてぇとこもねぇんなら、ウィンドウショッピング辺りが無難だろ。映画なんか、急に無理して見たところで盛り上がらねぇしなぁ」

「むー。あっくんさん。なんだか女性の扱いに慣れておられますわね?」


「あぁ? んな事ねぇだろぃ。まぁな。普段はどっしり構えてやがる小鳩がアタフタしてんのを見てるとよぉ。ちっとくれぇはエスコートするのも悪くねぇとは思うがなぁ? くははっ」

「わたくし……。なんだか胸が熱いのですけれど。あ゛っ! いえ! 莉子さんみたいにはしたない意味ではなく!! も、申し訳ありませんわ!!」


 莉子さん。はしたないの代名詞になられる。


「ったくよぉ。大事な初デートカードを俺なんかに使ってんじゃねぇよなぁ? 小鳩なら、引く手数多だろうがよぉ」

「あっくんさん? お言葉ですけれど!! わたくしだって、大事な初めてを差し上げたい殿方は自分で決めますわよ!!」


「あぁ、そうかい。なんだぁ、いつもの調子が出てきたじゃねぇか。そっちの方が俺ぁ好きだぜぇ? おっ。この店入ってみるかぁ? おめぇの好みだろ?」

「うっ……! もぉぉぉ!! なんなんですの!! あっくんさん!! いじわるですわ!」


「くははっ。前にも言ったろうがよぉ。俺ぁ性格が悪ぃんだ」

「もぉ!! 入りますわよ!! あっくんさんのお好きな服をお選びなさいませ!! どんなエッチなヤツでも、わたくし!! 着こなしてみせますわよ!!」


 もう付き合ってるよ、この2人。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再び南雲監察官室。


「ふわぁぁぁ!! 小鳩さん、いいなぁ! いいなぁ!! そーゆうヤツもあるんだぁ!! 六駆くん、六駆くん!! 六駆くん、六駆くん、六駆くん、六駆くん!!!」

「どうしたの? 莉子。何か面白いものでも見つけた?」


「わたし! 今度のデートね! 久しぶりにお買い物がいいな!! 六駆くんの好きな服着せられてね!! 六駆くん色に染められたい!! 束縛されたいっ!!」



 おかしい。

 あっくん&小鳩コンビと同じことをする想定のはずなのに、この穢れた雰囲気は何か。



「いいよ! じゃあ、明後日はどう?」

「ふぇぇ!? 明日は!? 明日って六駆くん、用事あるの!?」


「明日は莉子の家で過ごす予定じゃない! お義母さんにも言ってあるんだから、ドタキャンしたらダメだよ!」

「あっ、そっかぁ! えへへへへへっ。うっかりだったよぉー!!」


 この2人はどんなに掘り下げても何も出てこないので、もう良いかな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再度、サイドあっくん。


「うぅ……。想像よりもずっと恥ずかしいですわ……。あの、似合ってますの? こんな莉子さんみたいな恰好……」

「あぁ? おい、小鳩よぉ。俺ぁ、似合ってもねぇ服を女に買ってやるほど酔狂じゃねぇぞ?」


 小鳩さん、割とピチピチのトップスにショートパンツと言う、莉子ちゃん風スタイルに変身完了。


「に、似合ってますの……? って、お会計は自分で持ちますわよ!!」

「うるせぇ。こういう時は男に奢らせとけぇ。おめぇの初デート奪っちまったからなぁ。その代金だと思っときゃ、まあ気にならねぇだろ? 店員さんよぉ。これ、全部くれ。このまま着て帰るからよぉ、袋くれ。さっきまでの服入れるからなぁ」


 それからペットショップで犬をひとしきり眺めたところで、解散と相成った。


「きょ、今日はその……。楽しかったですわ!! あっくんさんはわたくしみたいな面倒な女、退屈だったでしょうけど」

「おおい、てめぇ。自分の価値を自分で下げてんじゃねぇぞ? 俺ぁ気に入らねぇヤツと1日過ごすほどお人よしじゃねぇんでなぁ」


 パァッと表情が明るくなった小鳩お姉さん。

 ここで頑張って一歩踏み出す。


「で、では! あの! ま、また……一緒にお出かけしてくださいますの?」

「あぁ? ったくよぉ。物好きな女だなぁ、おめぇも。……あーあー。んな顔すんじゃねぇ。ちっ。……そういや、俺ぁ水族館ってヤツが好きでなぁ? 自由を奪われた海洋生物を眺めんのは楽しいぜぇ? 小鳩が良けりゃ、まあ、一緒に魚どもを見下ろすかぁ?」


 小鳩さんは「せ、是非ですわ!! 見下ろしますわ!! 悦に浸りますわ!! 約束ですわよ!!」と言うと、小走りで駅まで駆けて行った。

 その背中が見えなくなるまで見送ったあと、阿久津特務探索員も帰路に就く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 久坂邸を訪ねて来た小鳩さん。


 久坂監察官と55番くんに笑顔いっぱいの報告をする小鳩さんを見て、「ひょっひょっひょ!」と笑う暗躍コンビであった。

 なお、この日の晩酌は特別に普段の倍の日本酒を飲む事を許された久坂さん。


 これは、実に平和なとある日常の1ページである。

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