第522話 【祝祝祝祝祝祝祝・その7】南雲夫婦、これから末永くお幸せに!【えっ? もう1週間結婚式編やってる!?】

 山根くんが心底残念そうな顔でマイクを持った。


『皆様。悲しいお知らせです。こんなに楽しく、素晴らしい式なのに、自分はこれから最後のプラグラムの進行をしなければなりません。出来る事なら、ずっとこの幸せな式を続けていたかった。それなのに、こんなのってないですよ。……では。新郎による謝辞でございます。南雲さん、張り切ってどうぞ!!』

「いや、張り切れるかい!! なにその振り方!! 私が楽しい時間に引導渡すみたいじゃないか!! いや、確かに幸せな時だったし、ずっと続いて欲しいけども!!」



『ありがとうございました。新郎による謝辞です』

「おおおい!! そんな訳あるか!! 今のはツッコミだろ!! こんな締まらない謝辞を私が言うと思うの!? 3日ほどかけて考えたヤツがちゃんとあるよ!!」



『ありがとうございました。新郎によるツッコミでした』

「いや! そうだけども!! どうしてツッコミで結婚式を締めくくるの!? おかしいでしょ!? 3日かけて考えた原稿出したところだよ!!」



 山根くんはにっこりと笑顔で「南雲さん。緊張は取れましたか?」と上官にほほ笑んだ。

 「山根くん……」と南雲監察官もため息をつく。


「いや、誤魔化されないからな? むしろ、ハードル上がったよ。ご覧なさいよ、皆さんの笑顔を。これ、下手なヤツ出すと5年はネタにされるヤツじゃないか」

『では、新郎による下手なヤツです。どうぞ』


 修一さん「うん。もう良い。私の負けだよ」と言って、しょんぼりと原稿を広げた。


『まずは、本日頂いた皆様のお祝い。お忙しい中、私ども夫婦が貴重なお時間を頂戴した事。そして、式を運営してくれたみんなに御礼申し上げます。本当にありがとうございます。……あの、これはまだ冒頭なので。これから盛り上がりますよ』


 隣の京華夫人は「がんばれっ!」と小さく拳を突き立てる。

 その仕草がかなり可愛らしかったため、会場が「わっ!」と沸き、修一氏が「あっ。なんだかまた追い詰められた」と胸を痛めたと言う。


『えー。私は正直、一生独身だと思っておりました。隣にいる京華さんも同じことを考えておられたそうです。ですが、縁と言うのは不思議なもので、気付けばそこにありました。そして、その良縁を結んでくれたのは、敢えて名前は出しませんが、私のために働いてくれた若い才能たちだと考えております』


 チラリと南雲監察官は、その若き恩人たちを見る。


 六駆くんと莉子ちゃんがイチャイチャしており、クララパイセンは小鳩さんに怒られており、キラキラとした瞳でスピーチを聞いていたのは芽衣ちゃまだけだったが、「それもいつも通りで、なんだか嬉しいね」と頷いてから、彼は続ける。


『私は彼らと一緒になって、多くの作戦に参加しました。まるで、若者に戻ったような気持でした。そのおかげでしょうか。大切な人の存在に気付き、その人と仲良くなり、好きだと告白する勇気を持てました。これから私は、命ある限り京華さんを守っていきます。祝いの席でこのような事を申すのは不謹慎ですが、いずれ私も妻も、生涯を終える時が来ます。……その時に、生まれ変わっても同じ時を過ごしたいと思い、相手を優しい気持ちで看取れる。そんな人生を過ごしていきたいと考えております。私と妻の両親に感謝を。この場におられる皆様の全てに感謝を。私も妻も、今日と言う日を忘れません。ありがとうございました』


 山根くんの茶化す合いの手が聞こえない。

 「おや?」と思った南雲監察官が彼を見ると、マイクを放り出してハンカチで目を拭っていた。


 「きっと、目がかゆいんだね。山根くん。ありがとう」と南雲修一は感謝する。


 これにて、結婚式の全てのプログラムが終了した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 残すはボーナスステージ。

 まずは記念撮影。


「久坂さん! どうぞ、中央へ!!」

「待て待て! 雨宮の! 役職考えたらお主がど真ん中じゃろが!!」


「私は端で構いません」

「私も端で構いません」


「あの、川端さん。雷門さんも。自我と個性を抑えられると、あなた方はさっぱり区別がつきませんよ?」

「言うじゃないか、水戸くん。君、この式でやっと喋ったのに」


「そりゃそうですよ。弱卒の身ですから」


 南雲夫妻の周辺はチーム莉子が無事にゲット。

 莉子ちゃんが「ふぇっ!!」と鳴いた。


「ふぇぇっ! ドレス引っ掛かっちゃったよぉ! む、胸がっ!! あぅぅ、危なかったよぉ」

「なにぃ!? おっぱいだと!? ……そう」


 川端監察官、凄まじい速さで振り返る。

 続けて声の主が莉子ちゃんである事を確認すると、無表情で再び前を向いた。



「まあ、私は元々無口だし。個性も弱いからな。だが、別に気にしていない」

「いえ、川端さん。今の一瞬で完璧に個性を取り戻したので、安心してください。と言うか、よく何もなかった体で会話続けますね」



 結局、監察官たちは最後列に横並びで整列する事で決着が着いた。

 記念撮影の主役は新郎新婦とそのご家族。


 そこに並び立つのは、式の準備と運営に尽力して来た若者たちの特権である。


「あぁ。じゃあ撮るぜぇ? 精々笑うんだなぁ」

「ちょっと、阿久津さん! あなたも入らないとダメですよ!!」


「あぁ? 土門さんか。いや、俺ぁ遠慮しとくぜぇ。柄じゃねぇんでなぁ」

「ダメですわよ! 阿久津さん!! あなたがいなければ色々と破綻してましたのよ!! さあ、いらしてくださいませ!! シャッターを押す係なら適役がいますわ!!」


 カメラの横には「みみっ! お任せです!!」と胸を張る芽衣ちゃまが。

 当然だが、『分体身アバタミオル』によるドッペルゲンガーである。


「あぁ。便利だなぁ、チーム莉子の連中はよぉ。……おい。分かったから。土門さん。塚地も。腕にすがりつくのは勘弁してくれねぇか?」


「こうしないと逃げるじゃないですか! 離しません!」

「そうですわよ!! あなたの性格はもう皆さんが把握しておりますのよ!! 観念なさいませ!!」


 その様子を見ていた久坂監察官と55番くんが悪い顔をして囁き合う。


「のぉ。55の。小鳩のヤツ。ありゃあ、もしや? ついに来たんかのぉ? 春が!」

「確かにそうかもしれん!! 塚地小鳩が男と腕を組むなど、事件だ!!」


 2人は「ひょっひょっひょ!!」とちょっとゲスい笑い方をした。

 何かが始まったのだろうか。

 判断するにはまだ材料が足りないため、保留としておこう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さあ、いよいよ乙女のガチンコバトル。ブーケトスのお時間である。


「……修一。ものすごい煌気オーラ出力を感じるのだが」

「……はい。見てください。阿久津くんの『外殻ミガリア』を身に纏って、ドレスが着崩れないようにしていますよ。あの子」


 バリバリバリと音を立てて煌気オーラを弾けさせているのは、小坂莉子Aランク探索員。

 ブーケだけは誰にも譲らない構えで、あっくんを恫喝して「わたしの体に『外殻ミガリア』展開させてください!! 早く!! あなたを撃ちたくないんですっ!!」と、ジャック・バウアーばりに有無を言わせぬ命令を出していた。


 ちなみに、もう1人ほどブーケを狙う乙女がいた。


「健斗さん……! 私、頑張ります!! そろそろ私だって、健斗さんとそういう事したいです!!」


 日引春香Aランク探索員である。


 諸君、驚くなかれ。

 山根くんは「結婚するまで清い関係を続けるっすよ!! 責任取れなきゃ欲望に身を任せるのはノーっす!!」と言う、マジメなお付き合いを旨としていた。

 つまり、2人は20代半ばと後半の大人カップルなのに、アレをナニしていない。


「大義名分を得ます!! 私!! 莉子ちゃんだってお泊り繰り返しているらしいのに!! 健斗さんを動かすには! ブーケを獲るしかありません!!」


 京華夫人がちょっと怯えた表情でブーケを投げた。


「やぁぁぁぁっ!! 『瞬動しゅんどう三重トリプル』!! ふぇっ!? 『外殻ミガリア』が邪魔だよぉ!! 阿久津さぁん!! わたし、怒りますよぉ!!」

「理不尽過ぎんだよなぁ。俺ぁ言ったんだけどな? 邪魔にしかならねぇってよぉ」


 その隙を日引さんは見逃さない。


「てぇやぁぁぁ!! 伸びて! ムチムチウィップ!!」


「あららー。水戸くん。いつの間に装備貸してあげたの?」

「2週間ほど前に。日引さんが貸してもらえなければもう死ぬしかない!! とか言うものですから。断れませんよ」


 だが、使い慣れていないイドクロア武器。

 それも監察官の専用装備である。


 特訓を重ねた日引さんだったが、緊張と興奮から少しばかり照準が外れる。

 ブーケは弾かれて、そのまま後方へ。そこにはどら猫さん。


「うにゃー! なんか飛んで来たぞなー! キャッチ!! あ。すっごい圧を感じるにゃー!! 危ない!! 小鳩さん! これあげるにゃー!!」

「へっ!? わたくしですの!? あ、ちょっと! クララさん!!」


 最終的に、ブーケは塚地小鳩がゲットした。

 周囲が拍手を始めたら、乙女のガチバトルは終了の合図。


 泣き崩れる莉子ちゃんと日引さんを六駆くんと山根くんが回収して、笑顔の多い結婚式は無事に幕を閉じた。


 皆様、ご出席ありがとうございました。

 それでは、頑張った実行委員会の打ち上げ会場に参りましょう。

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