第520話 【祝祝祝祝祝・その5】誓いのキスとケーキ両断 ~暗躍をヤメて、躍動し始める実行委員会~【そろそろゴールしても……えっ? ダメ? ……えっ?】

 監察官たちによる、真心いっぱいのスピーチが終わった。

 なんだか南雲夫妻が揃って頭を抱えているが、既に同じ動きでおそろいを演出するとは、やはり似たもの夫婦である。


『えー。それでは、乾杯の音頭を取って頂きましょう。木原久光監察官。楠木秀秋監察官。よろしくお願いいたします』


「うぉぉぉぉん!! 南雲ぉ! 五楼ちゃん!! めでたいなぁぁぁぁぁ!!!」

「木原くん。君はマイクを使わない方が良いね。建物が壊れそうだよ」


「オレ様よぉ! 南雲の作ってくれた武器でモンスターボコってぇ! 五楼ちゃんの指示でモンスターボコってぇ!! 結構充実してんだよなぁぁぁぁ!!」

「木原くん。落ち着こう。もうね、雷門くんがやらかした後だから」


「じゃあ、みんなぁぁぁ!! 2人の門出を祝してぇぇぇ!! ダァァァイナマイトォォォォォ!!!!」


 巨大な煌気オーラが放たれた。

 が、これも想定の範囲内。


 実行委員会の有能さを舐めてはいけない。


「あぁ? 逆神ぃ。マジで山根さんの言った通りになりやがったぜぇ?」

「はいはい!! ふぅぅぅぅんっ!! 『完全監獄ボイドプリズン』!! 遠隔発現!!」


 木原監察官の周囲に隔絶空間を構築する六駆くん。


「お前よぉ。相変わらずむちゃくちゃだなぁ? まぁ、いいだろ。なんか煌気オーラ砲もキラキラ光っててよぉ。幻想的な演出みてぇだし? くははっ」

「そうですね! いやー! 僕の出番、次はいつだっけ?」


 さすがの木原監察官も相当手加減したダイナマイトだったため、六駆くんの片手間スキルで余裕の対処。


 楠木監察官が全てを理解した表情になり、頷いた。

 続けて彼は、持っていたグラスを掲げる。


「それでは。2人の輝かしい未来に向かって。僭越ですが、乾杯!!」


 会場から「乾杯!!」と声が上がり、拍手が起こった。


『えー。それでは、続いてケーキ一刀両断に移ります。が、面倒なのでこのタイミングで新郎新婦に誓いのキッスさせときましょう』


 山根くんの司会進行が少しずつ雑になって来た。

 なお、プログラムは事前に南雲夫妻にも手渡されているが、そもそも「新郎新婦宣誓」は神父がいないためやらない旨が伝えられていた。



 まあ、山根リーダーがプログラム通り進めると思ったら大間違いである。



「はい、みなさんこんにちは!! 逆神六駆Dランクじゃないや! 特務探索員です!! 山根さんに2人を無理やりキスさせて来いと言われたので、馳せ参じました!!」


 南雲監察官が先に「あ。これ、逃げられないヤツだ」と全てを悟る。

 続いて京華夫人が「あ。修一が全てを諦めている」とやはり悟った。


 色々と諦めた新郎新婦が六駆くんの前にやって来る。


「いやー! 南雲さん! 五楼さん! 五楼さんじゃなかった! 南雲さん!!」

「……逆神。五楼で構わん。どうせ、職場ではこれからも五楼性を名乗るんだ」


「あ、そうですか? じゃあ、五楼さん! お二人に一応希望を聞いておきたいんですけど! 僕にスキルで体を操られてキスさせられるのと、自発的にキスするの、どっちが良いですか!?」



 急に圧をかけていく六駆神父。もはや一択しかない質問ではないか。



「京華さん。諦めましょう」

「おい。修一。私の唇を奪うのに、諦めるとは何だ」


「え゛っ? ああ、すみません!! 違うんです! 光栄ですよ!!」

「ふふっ。すまん。からかっただけだ。では、済ませるか」


 六駆くんに合図を送る山根くん。

 「了解しました!!」と親指を立てて、彼は両手を叩き始めた。


「それでは、皆さん! 僕に続いてください!! そーれ! キッス! キッス!! キッス!! ナグモさんのぉー! ちょっといいとこ見て見たいー!! あ、それぇ!!」


 会場の一体感がここに来て最高潮を迎える。

 逆神六駆は既に日本探索員協会において、伝説の老兵・久坂剣友の後継者と目されている、若き伝説。中身はおっさんのなのに。


 そして六駆くんは繰り返すが、おっさん。

 キスとか見せられると、もう煽りたくて仕方がなくなるのがおっさん。

 それを半笑いでやれてこそのおっさんである。


 そんな彼が「キッス! キッス!!」とはやし立てると、探索員たちも、もう何だか「我々も乗らなくちゃ! このビッグウェーブに!!」と妄信的な感情に支配されるらしい。



「……こんな空気になります? クラスメイトが男女で帰ってるの見つけた時の男子中学生のノリじゃないですか」

「仕方なかろう。それこそ、諦めろ。修一。逆神がいなければ、私たちの結婚だってなかったんだ。この程度、目をつぶるしかあるまい」



 そう言うと、2人は静かに唇を重ねた。


「はい! 皆さん!! シャッターチャンスです!! スマホを構えてー!! はい、フラッシュもオッケーですよ!! 南雲さんと五楼さんはその姿勢を1分キープで!!」


 その後、2人のキスをしている画像はオペレーター班によって加工され、引出物の1つとして全探索員の端末に転送されたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『では、クソみたいな……失礼しました。なんか熟年夫婦の濃厚なキスも終わりましたので。次はケーキを叩き切って頂きます! 南雲さん! こちらを! 京華さんのもご用意しております!!』


 ドレス姿の莉子ちゃんとクララパイセンがやって来て、南雲夫妻の前に『双刀ムサシ』と『ソメイヨシノ』を置いた。

 続いて、阿久津が巨大なケーキを『結晶シルヴィス』で運搬して来る。


『なんと、奇遇な事に新郎新婦、共に剣技を得意としております! ならば、ケーキを斬るのはそのスキルで!! さあ、夫婦の共同作業です!!』


「ええ……。どうしろって言うのさ、山根くん……。ケーキ吹き飛ぶよ……」

「いや。修一。よく見ろ。阿久津の『結晶外殻シルヴィスミガリア』がウェディングケーキの周囲に展開されている。しかも、逆神の煌気オーラ強化が施された状態だ」


 南雲は「何してんの、あの子たち。ガチで斬れってことなの?」と少し呆れた。

 だが、京華夫人は意外とノリノリである。


「ふふっ。よし、修一。『双刀ムサシ』を片方寄越せ。お前のスキルで行こう」

「京華さん……。なんだか楽しそうですね。分かりました。でも、私の剣技なんて使えるんですか?」


「バカにするなよ。旦那の剣技など、とっくに全て習得済みだ」

「う、嬉しいですが……。いつの間に!?」



「逆神に頼んでな。南雲流剣技を全て模倣してもらった。あいつ、全部使いこなしていたぞ。二刀流は僕、ストック少ないんで助かるなぁ!! とか言っていた」

「あの子、もう本当に超えちゃいけないラインをとっくに突破してるなぁ。1人で何でもできちゃうもん。ええ……。私のスキル、全部使えるんだ……」



 南雲監察官は一周回ってスッキリした表情になると、『双刀ムサシ』を妻と分け合った。

 続けて、呼吸を合わせて刀を振るう。


「いきましょう! 『雲外蒼天うんがいそうてん』!!」

「任せておけ!! 『紫陽花あじさい』!!!」


 美しい紫陽花の花がケーキに撃ち込まれる。

 それを完璧に防ぎきる、あっくんの『結晶シルヴィス』たち。


「ふぅぅぅぅんっ!! 一刀流!! 『南雲・末永くお幸せに・大切断ブライダルハッピーケーキカット』!!!」



「あっ。逆神くんが斬るんだ。うん。別にいいけどね」

「私たちの苗字を技の名前に加えてくれている辺りに思いやりを感じるな」



 六駆くんがケーキを両断して、会場はまたひと際大きな歓声に包まれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 山根進行役が合図を出すと、実行委員会のメンバーが指揮を執りながら、急遽増員されたスタッフ総出で料理を配膳する。

 それが終わると、山根がマイクを持った。


『それでは、しばしお食事とご歓談をお楽しみください。なお、よろしければモニターをご覧ください』


 日引春香Aランク探索員が端末を操作する。

 すると、タイトルが表示された。


 「古龍の戦士・ナグモ! 寄り抜き名場面集!!」と派手なフォントが踊り始めたかと思えば、「チャオ!」と指を立てるナグモの姿が映し出された。



「おまぁぁぁぁぁぁ!!! バカぁぁぁぁぁ!!! はぁ、はぁ、ひっ、ひっ! ああ、ダメだ、過呼吸になりそう!! やってくれたなぁ、やーまぁーねぇー!! 君ぃ!! これはやり過ぎだろ!! 今日は私、母も来てるんだぞ!! やーめーろーよぉー!!! チャオはヤメて!! ほんとにさ!! 最新の痴態じゃん!! まだ傷口塞がってないんだよ!!」

「大丈夫っす! ナグモさん! お母さんも楽しそうに手を叩いてますよ!!」



「あれまあー! 修一! なんかカッコよかねぇ! お母さんよく分からんけど! 立派になって嬉しかよぉ!!」

 微笑む南雲ママ。


「本当だ!! 母ちゃん!! それ、私じゃないから!! 隠された人格だから!! あと、山根くん!! どさくさに紛れてスカレグラーナ訛りで呼ぶんじゃないよぉ!!」

「修一。……あの映像。あとでDVDに焼いてもらっても良いか?」



「……えっ?」

「いや、その、なんだ。記念だ。記念にな。……家でも見たいから。お前の帰りが遅い時とか。そうだ! 子供が大きくなったら一緒に見るのもいいな! と言う事は、やはり1人目は娘が良いか!! ふふふっ!!」



 それでは、しばしご歓談をお楽しみください。

 新郎新婦にはお色直しへ行ってもらいます。

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