第518話 【祝祝祝・その3】南雲修一・京華の結婚式【ウソみたいだろ……。3話かけて、やっと式が始まったんだぜ……】

 この日のためだけに造られた教会がある。

 久坂剣友監察官。雷門善吉監察官。逆神四郎特別顧問。


 構築スキルの達人たちが中心となり、協会本部の第三グラウンドに爆誕させたナグモ結婚式の会場。

 驚くほど広く、収容可能人数は700人を超える。


 装飾にもこだわっており、ステンドグラスを構築するだけのためにBランク探索員が20人ほど集められたと言う話まである。

 だが、その作業に参加した構築スキル使いたちの誰一人として不平不満を口にしなかった。


 その分野のスペシャリストから直々に指導を受けるチャンスと言う側面ももちろんあったが、中ランクの探索員からも絶大な信頼と尊敬を集める新郎新婦の人徳によるところが大なのはもはや言うまでもない。


 教会が出来た後は、オペレーター職の出番。

 各機材を搬入し、日本探索員協会が誇る最新の設備で式を盛り上げるのだ。


 こちらは福田弘道Aランク探索員がリーダーを務め、日頃から木原久光監察官を見事にコントロールする熟練のタクト捌きで実に手回し良く作業をこなした。


 そうして出来上がった式場。

 名前は『桜の教会』と言う。


 桜にちなんだスキルを操る、本日の主役をイメージしたとのこと。

 ちなみに、式の翌日にはぶっ壊される事が決まっており、散るまでの速さも桜の花のごとし。


 結婚式の開始予定時刻は11時。

 残り1時間30分となり、実行委員たちの慌ただしさは増していく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「健斗さん! オペレーター室で全国の支部にサーベイランスによる中継の用意が整いましたよ!」

「うっす! ありがとっす! 春香さん!!」


 ちなみに、結婚式の様子は全探索員の所持する端末に向けて、実況中継される。

 一昔前の大物芸能人夫婦の結婚式もかくや。


 ちなみに、敏腕オペレーターの福田が常時ジャミングと通信網の隠匿を担当し、日本以外の地域にはミリ単位で情報を漏らさない構え。

 「私も今日ばかりは全力で挑みますので、ご安心ください」と、力強いコメントで彼が決意表明したからには、情報漏洩対策は万全だろう。


 なお、当日だけ事実を秘匿すれば翌日以降は「見たい人は見なはれ!!」が基本的なプランなので、海外のナグモガチ勢には少しばかりお待ち頂けると幸いである。


 門が生えてきて、六駆くん登場。

 彼は主に転送、通信の主軸を担う。


 他にも色々担うが、そこは内緒なのが結婚式のワクワクジャスティス。


「山根さん! 阿久津さんから伝言ですよ! そろそろ参列者入れねぇとよぉ。アホみてぇに行列出来てんぞぉ? だそうです!!」

「んー。ちょっと早いっすけど、今日も暑いっすからねー。仕方ないっすね。順次、中にご案内をお願いして欲しいっす!!」


 六駆は「了解です!」と言って、門の中に消えて行った。

 そのまま教会の入り口に転移する。


「阿久津さん! もうご案内していいらしいですよ!」

「あぁ。そうかよ」


「はい! ご案内していいらしいです!!」

「あぁ。……あぁ? おい、逆神ぃ。ちょっと待て、お前ぇ。もしかして、そりゃあ俺に案内しろって言ってんのかぁ?」


「えっ!? 阿久津さん、やらないんですか!? だって、さっき一番に意見出したじゃないですか!!」

「いや、そりゃあ……お前らがトロくせぇから……。っち。あーあー。だから嫌なんだよなぁ。こういう大規模なチームプレーってヤツはよぉ」


「阿久津さん。小生も微力ながらお手伝いをいたしまげふっ」

「……和泉さんよぉ。あんた、シャツがもう真っ赤なんだが? いいから座っててくれぃ。いや、仕事してぇんなら、客に記帳させてくれ。俺ぁあっちにいる加賀美隊に来場案内してもらうようによぉ。頼んでくるから」


「えっ!? 阿久津さんが案内するんじゃないんですか!?」

「逆神よぉ。お前なぁ。ちっと考えてみろぃ。俺ぁ3か月前まで犯罪者だったんだぜぇ? んな野郎が、本日はようこそお越しくださいましたー、なんてよぉ、笑顔でお出迎えなんかしたら。せっかくの式日に初手で泥塗っちまうだろうがよぉ。適材適所ってもんがあんだよ、世の中にゃあよぉ」


「阿久津さん。あなたはもう罪を償ったのですから、そのように卑屈な考えはヤメてください。小生は親しい友人として、そんなあなたは見たくないですげふぁっ」

「……お気持ち表明、ありがとよぉ。ただよぉ。俺の用意したシャツのスペア、あと2着しかねぇんだぜ? 頼むから、もう血ぃ吐かねぇでくれや。和泉さんよぉ」


 加賀美隊が来場者の案内を始めたため、人の流れが発生する。

 ここは乙女たちの出番。


「本日はようこそっ! こちらで記帳お願いしますっ!!」

「記帳が済んだ方は、こちらでネームプレートをお受け取り下さいませ! その先は、わたくしたちがご案内いたしますわよ!!」


 ドレス姿の莉子さんと小鳩さんが笑顔でお出迎え。

 今や小坂莉子のネームバリューは監察官に匹敵するレベルに到達しており、案内役の顔として山根に抜擢されていた。


 本人は「ふぇぇぇ。こんなドレスなんて着たことないよぉ。それに小鳩さんと一緒だと……そのぉ……。おっぱい格差がぁ!!」と直前まで駄々をこねていたが、六駆くんが頭を撫でたら全てが解決した。


 今はかつての清らかな笑顔を取り戻し、常識と良識を兼ね備えた優等生の莉子さんが戻ってきている。

 ちなみに何故かドレスはオフショルダーなため、見る者を言い知れぬ不安に誘う。



 全然セクシーさを感じさせないのはもはや匠の領域の莉子ちゃん。



「阿久津さん! ちょっと今って、よろしくぅ!?」

「あぁ? どうしたよぉ? 屋払さん。……あんたの言葉が理解できるようになっちまったよぉ、自分が怖ぇんだがなぁ」


「既に酒飲んで喧嘩してるお客様がいるんでぇ! よろしくぅ!?」

「いや、よろしくじゃねぇだろうがよぉ。なんで俺に報告してくんだぁ? 山根さんに言えよ。つーか、人の結婚式の前に喧嘩するとか、どこのバカだぁ? ……ちっ。分かった、分かった。俺ぁ恨まれるのにゃ慣れてっからよぉ。そのバカ、摘まみだしてくりゃあ良いんだなぁ?」


 なにせ、出席者は500人を超える

 それだけの人間が集まれば、当然だがトラブルだって山ほど起きる。


 あっくん。既に獅子奮迅の活躍を見せていた。


 その後、チーム莉子の乙女たちと土門佳純、青山仁香の両Aランク探索員たちがつつがなく来賓を案内し終えると、いよいよ結婚式の幕が上がる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 司会はもちろんこの男。

 ナグモ結婚式プロジェクトリーダーであり、南雲監察官室の屋台骨。


「本日は、この最高におめでたい席にお越しいただき、南雲夫妻に代わり御礼申し上げます。自分は山根健斗と申します。僭越ながら、進行役を仰せつかりました。どうぞ、自分の尊敬する上官の2人。彼らの幸せを共に祝って頂けると幸いです」



 山根くん。君は人を煽ることなく、茶化すこともなく、まともに喋れたのか。



「それでは、新郎新婦に早速入場して頂きましょう。皆様、天井をご覧ください。ゴンドラに乗って、本日の主役が降りて参ります」


 ゴンドラが動き始める。

 ちなみに、教会自体が煌気オーラによって構築されているため動力も煌気オーラで賄われており、現在出力しているのは仕事のデキるおじさん、六駆くん。


 ゆっくりと降りて来るゴンドラに合わせて、音楽が鳴り始める。

 山根が「新郎たっての希望で、こちらの曲でスタートいたします」と言うと、夢ならばどれほどよかったでしょうと言う歌詞と共に、少し悲し気な曲が流れ始めた。


 ゴンドラの中で「おおおい! やーまーねぇー!!」と控えめな叫び声がした。

 「結婚式の第一声が、夢ならばどれほどよかったでしょう……はないでしょうがぁ!! 夢だったらショックだよ、私ぃ!!」と、続けてツッコミが今度はハッキリと聞こえた。


 「落ち着け、修一。これほどの数の者が集まってくれているのに、お前。よく躊躇なくツッコミができるな。その度胸に惚れ直しそうだ」と、新婦の声も聞こえる。


「お聞きになられたでしょうか。既に新郎新婦がイチャイチャしております。それでは、曲を変えまして。平井堅のナンバーで『瞳を閉じて』をどうぞ。新郎たっての希望です。自分は止めたんですが。彼は結婚式をお葬式か何かと勘違いされているのでしょうか」

「やーまぁーねぇー!!!」


 会場からは温かい笑い声が漏れる。

 どうやら、スタートは上々の様子。


 さあ、盛大に祝おうじゃないか。苦労人たちの門出を。

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