第516話 【祝・その1】南雲修一監察官のプロポーズ大作戦【しばらくぶち抜きで、南雲と京華の夫婦への道をお送りします】

 南雲修一。38歳。

 まだ40代にもなっていないのに彼は日本探索員協会の筆頭監察官を務めている。

 かつては逆神六駆の存在に最も早く気付くなど、これまで多くのきらりと光る実績を記憶にも記録にも残してきた。


 なお、近頃は「私さ。出たての頃とキャラがかなり変わったよね? あの頃、なんだと! とか、したまえ! とかさ、ちょっと感じ悪かったもんね、私」と、よく分からない事が気になり始めている。


 その度に山根健斗Aランク探索員が「大丈夫っす! みんなそんなもんっすよ! 自分もですけど! あと、椎名さんとかもかなりのもんっすよ! 木原さんと合わせて、2人は鳴き声違いましたし!!」と、なんだかギリギリの慰めを繰り出していた。


 さて、そんな南雲監察官だが、諸君はもちろん覚えているだろう。

 この男。アトミルカ殲滅作戦に際して重大な発言をしていた。



 「この戦いが終わったら、結婚する」と。



 現在、その戦いが終わってから2か月と少しが経過しており、その間に南雲は。


 何もしていなかった。

 否。

 より正確な表現をすると。



 何もできていなかった。



 既に、五楼京華上級監察官は南雲監察官の実家にまで行っており、準備は万端。

 実は彼女、副官の日引春香Aランク探索員には「すまんがな。私は今年の末くらいには産休を取るかもしれん。ふふっ」とマタニティな予告もしていた。


 だが、南雲は動かない。


 五楼は「阿久津。貴様には産休の間、日引と共に指揮官代理をしてもらうぞ。ふふふっ」と惚気を憚らず、復隊したばかりのあっくんに「あぁ? 正気かよ。俺ぁ観察期間中だぜぇ? 五楼さんよぉ。あんたちょっと頭弱くなってねぇかぁ?」と直截な煽りを喰らっても、「ふふふふっ。そうか? ふふふっ。そんな事はないが? ふふふふふっ」と笑顔を絶やさなかった。


 若干だが、莉子さん臭が漂っている辺りに彼女の期待の本気度が垣間見える。


 その笑顔が、日毎に減っていき、最近はなんだかやつれてきた五楼さん。

 事態を重く見た日引は、恋人であり仕事もデキるオペレーター仲間と言う完璧な地位を確立している山根に相談を持ち掛けていた。


 それが一昨日の事。


 仮想戦闘空間に門が生えてくる。

 山根くんによって、今日は有識者もお迎えしていた。


「どうもー! こんにちはー!! 毎日暑いですね!!」

「うーっす! 逆神くん! お疲れっす! クソみたいなアイスコーヒー淹れるっすね!!」


「ありがとうございます!! 南雲さん、お疲れ様でーす!!」

「うん。元気だなぁ。ところで逆神くんさ。最近、君。ちょっとの距離の移動でも『ゲート』を乱用してるでしょ?」


「ああ、はい!」

「笑顔で認めたな……。あのね、君の立場は特務探査員に変わってるんだよ? 私の監察官室付きの」


「はい! 感謝してます!!」

「そう? じゃあね、感謝の恩返しじゃないけどさ。所かまわずに門生やすのヤメてくれないかな!? 私にさ、2日に1度のペースで苦情が来るんだよ!! 主に、オペレーターから!! お宅の特務探索員がまた煌気オーラ反応出してますって!!」



「でも! うちの莉子もちょいちょい煌気オーラお漏らししてますし!! それに比べたら可愛いもんかなって!!」

「どっちも可愛くないんだよ!! 凶悪なんだよ!! 私、オペレーターたちに週2で菓子折り差し入れしてるんだよ!?」



 六駆くんは「いやー! すみません!!」と頭をかいて、「ところで!」と続けた。

 山根の持って来たクソみたいなアイスコーヒーを一口飲んで、彼は言う。



「五楼さんにまだプロポーズしないんですか!?」

「ぶふぅぅぅぅぅっ!! ……あああっ! 逆神くんが急に来たのは、やーまぁーねぇー!! 君の仕業か!! おかしいと思ったんだよ!!」



 山根は「うっす!」と答えて、「恋愛面でも、人生のキャリアでも南雲さんの先輩である逆神先生にお越しいただいたっす!!」と半笑いで敬礼した。

 何という敬意のこもっていない敬礼だろうか。


「た、確かに……。逆神くんの中身って47になったんだっけ? しかも、婚約者いるもんね。うん。私、何も言えない」

「南雲さん! 五楼さんは結構な焦りを覚える年齢なので! もう猶予はないですよ!! 今からプロポーズしに行きましょう!!」


「ええ……。今から? 今日はちょっと。なんて言うかさ。ほら、心構えって言うの? そういうのって大事じゃない? そのコンディションが整ってないと、相手にも失礼って言うか。うん。きっとそう。うん」


 山根がため息をつく。


「なーに童貞みたいな事言ってんすか! 38のおっさんが! 中学生じゃあるまいし!!」

「ど、どどど、童貞ちゃうわ!!」


「いや、南雲さん。もう10年くらい恋人いないっすよね? 一周回ってもう童貞なんじゃないっすか?」

「一周回ってってなに!? 人ってサイクルで童貞に戻るの!?」


 山根は「らちが明かないんで、逆神くん。お願いするっす」と言った。

 既に2人の間で完璧な計画が出来上がっているのだ。


 まず六駆は監察官室に門を生やす。

 大吾が使うパチ屋の自動ドアサイズのヤツである。


 続けて、彼は煌気オーラをバリバリと音を立てながら両手に溜め始めた。


「えっ? なに? 何するの? ……違う! これ、私に何かしようとしてるだろう!? ヤメなさいって!! 私、君の上官だよ!? ちょ、お願いだから!! 待っておくんなまし!!」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」


「ほらぁ! 溜めが長いんだよ! それ、極大スキル使う時のヤツじゃん!!」

「いきます!! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ極活性グロウ』!! 南雲さん! あなたの『古龍化ドラグニティ』をこっちでフルパワー解放させます!!」


「ええええっ!? ……あっ。うわぁぁぁぁぁ!!」


 角が生え、瞳が紅くなり目の周りには隈取が現れる。


「……ふっ。悲しいな。抑圧された私よ。愛する者を抱きしめるために力を欲したのではなかったのか」


 古龍の戦士・ナグモ。フルバーストモード。

 まさかのプロポーズさせるための景気づけで初めての発現がされる。


 なんだか、元帝竜・バルナルド様の嘆きが聞こえるようであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そのまま門にぶち込まれたナグモ。

 転移先は、もちろん五楼上級監察官室。


 日引春香が協力しているため、とっくに『基点マーキング』の構築は完了していた。


「ほわぁっ!? ん、んんっ! 変な声が出ただろうが。いきなり『ゲート』で転移して来るな、南雲。……何か用か。……私のような年増になど、もう用はないのではないか。……ふんっ」


 五楼さん、すっかり拗ねていらっしゃる。


「ふっ。愛する者をこれほど待たせるとは、私は何と愚かなのだろう」

「……どうした? ストレスか? なんだ? おっぱい揉むか?」


「五楼さん。私は貴女を守るためにこの力を得た。貴女は強い。だが、女性だ。こんな事を言うと前時代的だと貴女に笑われるかもしれないが。……ふっ。敢えて言おう」

「お、おう……。いや、相変わらず生で見ると大迫力だな、ナグモと言うのは」



「五楼さん。いや、五楼京華。愛する女を守りたいと思うのは、男のエゴか? ……貴女が欲しい。貴女の全てが。私は強欲なのです。貴女に全ての愛を注ぎます。ゆえに、貴女の愛は全て私が貰い受けたい。……夫婦になって頂けますね?」


 急にオラつき出したナグモ。五楼さんにぶっ飛ばされなければ良いが。



「……は、はい! 私は、貴方に尽くします!! この時を待ち焦がれておりました!!」



 五楼さんは急に乙女の顔になる。

 2人の偉大な指揮官が同時にぶっ壊れて、日本探索員協会が大ピンチ。



「ふっ。ありがとう。では、式の日取りを決めよう。住まいは私の家で構わないかな? 貴女に相応しい城をご用意するつもりだ。無論、ナイトは私が務めよう」

「は、はい! ご随意に従います!!」


「では。私は1度監察官室に戻る。そうだ。言い忘れていた。五楼さん。いや、京華。……ふっ。愛しているよ」

「……ぐぅぅっ!! その言葉が、ずっと聞きたかったです……!!」


 そう言うと「チャオ!」と言って人差し指を謎の位置でビシッと止めると、門の中にナグモは消えて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2時間後。


「死にたい……。なに? チャオって。私、深層心理がバカなのかな……」

「いやー! 良かったっすよ! ナグモのプロポーズ!! ばっちり撮っときました!!」


 同時刻。

 五楼上級監察官室では。


「死にたい……。阿久津。私を殺してくれ……」

「あぁ……? どうしてだよ? 結婚決まった上司をぶっ殺さねぇといけねぇ理由が分からねぇ。良かったなぁ? おめでとさんだぜぇ。くははっ」


 心に大きなダメージを負った2人だが、これでお膳立ては整った。

 さあ。待ったなし。


 ナグモと五楼。2人の結婚式の準備のために、多くの戦士たちが動き始める。

 2人のラブストーリーの完結編。大長編でお送りします。

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