第509話 凱旋!! ~フィナーレを迎えるのか! 逆神六駆の物語!!~

 現世。日本探索員協会本部。


 その中庭に門を生やして転移して来たヴァルガラ組。

 まず雨宮隊が現れてから、久坂剣友監察官と55番が続く。


 さらに南雲隊。最後に逆神六駆と小坂莉子が現れると、周囲で待ちわびていたこの作戦に関わったオペレーター、探索員、一般職員の手の空いている者たちが一斉に拍手と歓声で出迎える。


「おわっ!? 何事ですか!? あ! 南雲さん! 結婚するんでしたっけ!?」

「うん。逆神くん? どう考えてもこの賞賛は君と小坂くんに送られてるよね? なんで私を巻き込むの? 素直に褒め称えられなさいよ。……君は、それだけの事をやってのけたんだから」


 南雲はセリフを一旦止めて息を吐いたのち、笑顔で言った。


「君は紛れもなく、日本探索員協会の英雄だよ。逆神くん。……逆神くん?」


 サーベイランスが飛んで来た。



『いやー! 南雲さん! 今の無駄な溜めがいらなかったっすねー!! 逆神くん、あっちで胴上げされてるっすよ! キメ顔で言ったのに!! ぷぷー!! お恥ずかしい事で!!』

「やーめーろーよぉー!! 最悪じゃないか!! 私ね、上官として完璧にさ! 今! この瞬間!! 作戦の締めくくりのセリフ言ったのに!! 誰も聞いてないの!? 嘘でしょ!?」



 哀しみの南雲監察官。

 だが、山根健斗オペレーターからAランク探索員に戻った副官は彼の相手をちゃんとしてあげる。

 なんて優しい若者だろうか。


『南雲さんも頑張ったっすよ!』

「山根くん……」


『せっかく修業したのに、『古龍化ドラグニティ』のフルパワー使う機会なかったし!! なんだったんすか!? もう、まさに披露するタイミングや!! ってとこで、呉のおばあさんたちに全部持ってかれましたよね!!』

「やーまぁーねー!! それ、私も気にしてたんだから!! と言うか、使うよ! きっとこれから使う機会があるから!! 君、本当に嫌な性格してるなぁ!!」


『あ、そうそう! 南雲さん! 至急オペレーター室に戻ってもらえるっすか?』

「なに? 私の仕事ってまだあったっけ?」



『さっき国協に送り付けた暴言に対する返事が来たんすよ! 国協の上級監察官が南雲さんをご指名っす!!』

「……モルスァ。……それやったの、君じゃんよ。……上級監察官って、ガチの役職出て来てるじゃん。実務のトップじゃん。ええ……。行きたくないなぁ……」



 このあと、南雲監察官は2度の土下座と1時間にわたる釈明に追われる事となる。

 今回も苦労ばかりを重ねた我らが愛すべき監察官殿に、諸君におかれましては是非敬礼を。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 胴上げをされている六駆くん。

 それを見守るチーム莉子。


 思えば、ずっと実力を偽って来た彼である。

 その逆神六駆が正当な評価をされて、受けるべき尊敬のまなざしを向けられる。

 それは、ずっと彼に支えられてきたチーム莉子にとってもこの上ない喜びだった。


「にゃははー。六駆くん、また泣いてるぞなー! おじさんは涙もろいにゃー」

「みみみぃ! 六駆師匠の実力をみんな知ってくれて嬉しいです!! でも、芽衣たちの事情知ってる体による優越感が消えてしまったです!! みみみっ!」


「いいじゃありませんこと! やっぱり、強き者は正当な評価をされるのが筋ですわ! 六駆さんはお強いですもの! 誰よりも!!」

「ふぇぇぇ……。わたしだけの六駆くんがみんなの六駆くんになっちゃったよぉ……。わたしとの共犯者同盟がぁ……。あうぅぅぅ……」


 そこに鼻水まで流しながら六駆が戻って来た。


「もうね……。なんて言うかさ……。若いみんなにこんな風にチヤホヤされるとか……。僕、探索員になって良かったなぁ……」

「にゃははー。これからも続けるモチベーションは上がったぞなー?」


「そうですね……! 僕、知らないうちにここの人たち好きになってたみたいです……。ずびっ。お金以外にも世の中、大事なものってあるんですね……!!」



 再び登場、綺麗な六駆くん。



「あの、次は莉子さんを胴上げしたいって皆さんが言っておられますけど? さすがにお断りしておきますわよ?」

「うにゃー? なんでですかにゃー? 胴上げしてもらえばいいのにー!!」


「クララさん……。莉子さんは女子ですのよ? 殿方も多くいらっしゃるのに、その体を触られるのは問題ありですわ」

「平気ですにゃー! 莉子ちゃんの体はどこ触ったって同じ感触ですぞなー! ……うにゃー。あたし、また何か言っちゃいましたかにゃー?」



「……クララ先輩? ……あの、わたしの事、今なんて? ……まったく性的魅力を感じない幼児体形って言いました? ……クララ先輩?」

「……うにゃー。……パイセン、そこまでは言ってないにゃー。……小鳩さん! 助けてにゃー!!」



 莉子さんの煌気オーラ出力が上昇していく。

 あれだけ極大スキル撃ちまくったのに、回復もせずにどうしてまだこれほどの出力を発揮できるのか。


「莉子! 落ち着いて!! 僕は莉子の顔も体も中身も、全部好きだよ!!」

「ふぇっ!? ろ、ろろろ、六駆くん!? えっ、やっ!! ええええっ!!」



 この瞬間、莉子さんの煌気オーラ出力は臨界点を超え、協会本部建物内にある9割以上の計測器が爆発したと言う。

 なお、本部建物は「おおい……。なんだぁ? こりゃあよぉ」「分かりませんが、小生たちの出番でげふっ」と、誰とは言わないがこちらも功労者の二人組が防御スキルを全力で構築して未然に被害を阻止したと付言しておく。


 莉子ちゃんの煌気オーラ爆発おもらしを防ぐとは、なかなかやる。


 ちなみに中庭にいたオーディエンスは六駆くんがきっちりと守っている。

 さすが、嫁をどう刺激すれば何が起こるのかまで熟知している辺り、最強の男に相応しい。


「じゃあ! 莉子! みんな! これからもよろしくお願いします!! バリバリ稼ぎましょう!!」

「うんっ! 結婚資金だねっ!! 目標は20代前半でラブラブ隠居生活!! がんばろー!! おー!!」


 どうやら、逆神六駆の物語はもう少しだけ続くようである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 北極海ではついに世界で一番のお排泄物を襲名した男が救出されていた。


 彼は子飼いの探索員たちの手によって、国協の本部へと転移された。

 理事執務室へと戻るなり、彼は飾ってある調度品を手当たり次第に叩き壊す。


 そんな老害の名前は、フェルナンド・ハーパー理事。


「くそがぁぁぁぁ!! この私に歯向かった事を必ず後悔させてやるぞ!! 全ての探索員を従わせるのはこの私だと言う事を!! あの愚か者どもに分からせる!! 温めていた計画を実行に移す時だ……!!」


 ハーパー理事は、デスクの端末を操作してとある理事と連絡を取る。


『無事に戻って何よりだった。ハーパーくん。大事ないかね?』

「……多大な傷と、屈辱を味わいましたよ!! もう時は来ました!! 逆神家とか言う、訳の分からん勢力が出てきた以上、作戦を始動させましょう!! サービス理事!!」


 通信の相手はラッキー・サービス理事。

 国協の理事の中で最も強い権力を保持し、最も危険な思想を持っている男である。


『そうか。まあ、頃合いかもしれんな。アトミルカも勝手に滅んだ。ならば、我らの覇道を邪魔する者は各国の反乱分子になり得る探索員どものみ……か』

「ええ! 私たちが長年機会を伺っていた、世界の真なる調和!! それを実行するのは、我ら調律者です!! すぐに件の異世界へ向かう準備を整えます! まずは我らと協力者の肉体を若返らせましょう!! そして、全ての愚か者に鉄槌を!!」


 サービス理事は1度だけ頷くと、通信を切った。


 こんなところにまだいた、不穏な輩。

 彼らの目的は、とどのつまり「自分たちの快適な世界を作り上げちゃうゾ★」的な事であり、アリナ・クロイツェルのためだけに存在していたアトミルカよりもずっと程度は低く、質も悪い。


「ふはははっ!! 用意は完璧だ!! 逆神ぃ!! 貴様らは出て来るタイミングが悪すぎた!! ……消えてもらうぞ!! 我々の野望のために!!」


 世界の危機はアップグレード。

 ガチの俗物たちが、己の欲望のためだけに胎動を始める。


 逆神六駆の隠居はまだ叶わないらしい。




 ——第7章、完。

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