第501話 【逆神家その2】逆神流VS数千年にわたる呪い ~世界を救うより1人の女の子を救うのを優先するのが逆神家~

 ひとまずアリナとバニングを連れて地上に降りて来た六駆。

 駆け寄って来た莉子とハイタッチ。


「莉子! お疲れ様!!」

「うんっ!! 六駆くんも!! やっぱり頼りになるなぁ!!」


 もはやタッチくらいではナニがどう揺れないなどと無粋な事を言うのはヤメよう。


「ばあちゃん、急に呼んでごめんね! さっきも南雲さんたち助けてくれたし!」

「なははっ! ええんよ、ええんよ! 孫の役に立てるのがばあちゃん嬉しいけぇねぇ!!」


 そこにアリナがやって来て、頭を下げた。


「ご夫人。妾の煌気オーラを吸収し続けておられるのはそなただと聞いた。……意味は分からぬが、まことの事とお見受けする。まずは感謝を。かたじけない」

「まあー! この美人さん、礼儀作法がちゃんとしちょってええねぇ!! やっぱりねぇ! 見た目がなんぼ良くてもねぇ! 中身が伴わんといけんからねぇ!!」


「……あ、ああ。ご夫人。そなた、これほどの煌気オーラを吸収し続けて体は辛くないのか?」

「平気よぉ! あたしゃ、毎日老人会でみんなが撃ったスキルの残留煌気オーラを回収しよるからねぇ! もうねぇ、みんな好き放題撃つけぇ。このくらいの煌気オーラじゃったら、まあしばらくはお父さんと話でもしながらどうにでもできるよ!!」



 呉の老人会の煌気オーラ総量がここに来て計測不能の領域へ。



「まあ、ここはワシらに任せて頂きたいのですじゃ。六駆はやると言ったらやりますし、できん事をやれるとは言わん男ですからの。信用してやってくだされ」

「ご老人。そのお言葉だけで私は救われる思いだ。あなた方のご慈悲、このバニング・ミンガイル、生涯忘れぬと誓います」


 深々と頭を下げて、アリナとバニングは六駆の待つ場所へ。

 そこには、煌気オーラ力場を構築している大吾の姿があった。



「逆神。本当に何度もすまない。ただ、確認させてくれ。あの男が術式に加わって、本当に大丈夫なのか!?」

「ああ。問題ないですよ! 適当に煌気オーラ力場作らせたら、その辺を散歩でもさせときますから! 莉子に煌気オーラ力場の構築を教えてないんですよねぇ。失敗、失敗!」



 莉子はスキル使いになってからまだ1年と少しのキャリアしか積んでいない。

 その戦闘センスと攻撃力は既に師匠の六駆に並んでいるが、このように応用力を求められるとまだまだできない事の方が多いと言う、実にアンバランスな乙女。


 ちなみに莉子さんは「六駆くんを頼れるってご褒美だもん! 難しい事はずっとできなくてもいいかなぁ!!」とニコニコであった。

 そうこうしているうちに、煌気オーラ力場の構築が終わる。


「おっしゃぁぁぁ!! できたぜぇ! 六駆ぅ!! お父さんもまだまだやれんだろう!?」

「はいはい。ご苦労様。……ふぅぅぅぅぅんっ」



「おおおい! なんでせっかく作った力場を半分以上ぶっ飛ばすん!? ちょ、ひどくね!? お父さん、パチンコ切り上げて来たのにさ!!」

「いや、あまりにもデキが悪いから、つい。久坂さんの5万分の1のクオリティもないからさ。親父、もういいよ!」



 爽やかに親父を更迭する六駆。

 大吾はなんかしょんぼりして、近場の岩に腰を下ろした。


 そこにやって来た8番がマンゴーラッシーを差し入れると、一瞬で機嫌が直る。

 お腹壊せばいいのにと六駆は思った。


「さて! 始めますか!! アリナさん、煌気オーラ力場の真ん中へどうぞ!!」


「う、うむ。……バニング。これまで世話になった。これが今生の別れになろうとも、妾は悔いなどない」

「アリナ様……! 私は見守る事しかできませんが、万が一の時は先ほども申した通り、すぐにお供へ向かいます。ここまでお傍に仕えさせて頂いたのです。どこまでもお付き合いいたしますれば……!!」


 ついに逆神流の事を全面的に信頼できなかったアリナさん。

 これまで何十年もハナミズキの屋敷に引きこもっており、やっと出て来て外の人間と交流を持ったと思ったら、それが全部逆神流使い。



 これはもう自然で真っ当な反応である。アリナさん、社会性を身につけ始める。



「じゃあ、お袋! お願い!!」

「はいー。あらあらー。私、スキルを使うのって15年ぶりくらいだわー。ちゃんとできるかしらー」


「大丈夫だって! お袋の煌気オーラはうちの中でもぶっちぎりのトップだから!! リラックス、リラックス!!」

「まあまあー。六駆は優しいですねー。じゃあ、肩の力を抜いて脱臼するくらいまでリラックスしますねー。なーんて。うふふふー」


 バニングは逆神親子のやり取りを見ていてそこはかとない不安に襲われたが、「ええい。私は逆神を信じると決めたではないか」と、激しい葛藤の末どうにか不安に打ち勝った。

 さあ、極大スキルの重ね掛けのお時間である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アナスタシアが六駆の背中に手を置いた。

 続けて、煌気オーラを放出してスキルを発現する。


「うふふー。『ギガノス・オーバーフロー』! 私も逆神流っぽくしようかしらー。『二重ダブル』ー!! うふふふー」

「うわぁ! これは相当キツいなぁ!! 体が弾け飛びそう!! 早速行きます! 僕もこの状態続けてると死んじゃうんで!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」


 六駆の体内で高まっていく煌気オーラ総量はアナスタシアのスキルによって10倍の出力になる。

 さらに、ノリで使った『二重ダブル』の影響も現れた。


 通常、逆神流の『二重ダブル』は文字通り「出力の2倍」と言う意味だが、アナスタシアさんの規格外に落とし込むと「二乗」してしまう事実。

 つまり、六駆くんの煌気オーラは現在いつもの100倍になっている。



 これは、割と普通に煌気オーラ供給器官がイカれて命に関わるレベルの事態であった。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!! いざっ!! 『生命大転換ライフコンバート四重クワドラ』!!!」


 かつて古龍たちを竜人へと変えた極大スキル。

 だが、あの時とは比較にならない光の柱が何本も立ち昇る。


 「まるで神が天地を創造するようだった」とは、サーベイランス越しに状況を見守りながら、途中からはコーヒー噴くどころか「モルスァ」しか言わなくなった、南雲修一監察官がのちに語った感想である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アリナ・クロイツェルは光の中にいた。

 これは偶然なのだが、感覚は彼女がいつも転生する時のものに酷似しており、激しい不安に襲われたと言う。


 だが、いつもは記憶の反芻で哀しみに溺れそうになるはずなのに、今回は違う。


 蘇って来る記憶は、なんだか楽しかったものばかり。

 若い頃のバニングと共にヴァルガラへたどり着き、静かな暮らしを求めて生活を始める。


 やがて多くの敵対組織に身柄を狙われるようになり、アトミルカを結成した。

 気付けば巨大な組織になっていたそれは、全ての敵を蹴散らした後も巨大化を続け、いつしかアリナのあずかり知らぬ存在になっていた。


 だが、アリナにとってバニングと共に過ごす時間はどれもがかけがえのないものだったと知る。

 夕食を共にし、アトミルカの報告を受ける。

 ただそれだけが、何にも代えがたい時間だったと彼女は思い知る。


「……ああ。生きたいな。バニングと共に。それほど長い時間ではないかもしれぬが。妾はもっと多くの思い出を作りたい。そして、あやつを送ってやるのだ。その時には、そうだな。……愛している、とでも言ってやるか。どうやら莉子に感化されたようだ。ふふふっ」


 少しずつまどろんでいく意識の中で、アリナ・クロイツェルは幸せだった。

 恵まれぬ、不幸続きの窮屈な今生だと思っていた毎日は、幸せだったのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆は20分ほど煌気オーラの放出を続け、「ふぅ!」と汗を拭ってそれをヤメた。

 莉子が駆けつけてくる。


「六駆くん! お疲れ様ぁ!! はい、タオル!!」

「ありがとう! やっぱり莉子は気が利くなぁ!!」


「えへへへへへへっ! もぉぉー! すぐそうやって頭撫でるんだからぁ!!」

「あ、ごめんごめん! つい癖になっちゃってて!」


「んーん! とっても幸せだから、続けて欲しいなぁ! えへへへへへへへっ!!」


 既に極大スキルの行使は完了している。

 のだが、その事実を伝えずにイチャイチャし始める六駆と莉子さん。


 バニング・ミンガイルは、心配のあまり胃の痛みで2度目の死を迎えそうになっていた。

 お願いだから、朗報は早く伝えてあげて欲しい。

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