第497話 【最終決戦その6】愛の形は変幻自在! 最終覚醒の『苺光閃』!!

 小坂莉子は3連発の『苺光閃いちごこうせん』を繰り出したのち、上空に留まるアリナに質問した。


「アリナさん! あなたは無尽蔵に煌気オーラが湧きだしてくる異能を確かに持ってますけど! 3発目の『苺光閃いちごこうせん』の防御を見ていて気付きましたもんね!! いくら無限の煌気オーラがあっても、反応速度を超える攻撃を継続して受け続けるとスキルの発現にラグが発生しますねっ!?」


 我々の愛した、聡明で機転の利く莉子さんが帰って来た。

 莉子はたった3度の攻防により、アリナ・クロイツェルの対処について1つの答えを導き出していた。


 無限の煌気オーラに真っ向勝負を仕掛ける。

 それも速攻。ノータイムでの集中攻撃。


 通常であれば「常に煌気オーラが湧いている事から、スキルも無尽蔵に撃ち続けられる」と考えるところである。

 実際のところ、それは事実でありアリナは無限にスキルを撃てる。


 だが、莉子さんは気付く。


 どれほど多くの弾が装填されているマシンガンでも、永遠に同じ速度で弾丸を放ち続けることはできない。

 何かが原因で弾が詰まるかもしれなければ、撃ち手のヒューマンエラーによるアクシデントが発生するかもしれない。


 それを誘発させるためには、極大スキルの連射。

 これが現状における最適解であると、この若く才能に溢れた少女は悟る。


「ふ、ふふ、あはははっ!! 参った! これは参ったぞ、莉子!! そのようなアプローチで無限の煌気オーラを打破しようという者は、恐らく今の世にそなたしかおらぬであろう! 何より、そんな芸当ができる者など極めて少数に限られる!! だが、莉子! そなたはそれができると申すのだな? 根拠を聞いても構わぬか?」


 莉子は控えめな胸を張って宣言する。

 既に諸君もお気づきかもしれないが、この覚醒した戦乙女が小さい胸を張るとだいたいろくな事がない。


「それは……愛です!! わたしのスキルは全て六駆くんに教えてもらいました!! それも全ては愛なんです!! だから、愛なき無限の煌気オーラになんか、負けるはずがないのです!! むふーっ!!!」

「……ああ。そうか。うん」



 莉子さん?



 いや、ここはこれで良いのだ。

 思い込みだろうと暴論だろうと、「それが無敵」だと確信する事で煌気オーラの練度は増し、スキルの精度は向上する。


 六駆の口癖を思い出して頂きたい。

 「スキルはメンタル勝負」である。


 ちなみに、今「世の中しょせんはお金なんですよ!!」みたいな方を口癖として思い出した者は注意されたし。

 この戦いののち、苺色の光閃が飛来するかもしれない。


 ともあれ、メンタルさえ揺らがなければ煌気オーラ総量お化けの莉子である。

 短期決戦に活路を見出した彼女にも、勝機はあるかと思われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはバニング・ミンガイル治療チーム。

 久坂剣友監察官がドン引きしていた。


「のぉ。55の」

「どうしたのだ? 久坂剣友!」


「ワシの戦い方ってもう古いんかもしれんのぉ。莉子の嬢ちゃんの理屈、いや、ありゃあもう屁理屈じゃけど。それでも1つの結論にはたどり着いちょる。これからの世は、装備なんかで煌気オーラの嵩上げをして力のごり押しがスタンダードになるのかのぉ」

「久坂剣友……!!」


 現在、絶賛時間巻き戻し中の六駆が「久坂さん。それは違いますよ」と首を横に振る。


「確かに、煌気オーラ総量が多ければそれだけ選択肢が増えます。時には物量作戦で押し切り勝ちもあると思います。けど、結局その力を行使するためのスキルは、鍛錬がないと身に付かないんですよ。で、そのスキルを研ぎ澄ませて来たのは久坂さんたち、先輩探索員なんですから。だから、久坂さんみたいな人がいなくなると、探索員全体の水準は絶対に低下すると思うんですよね」


 久坂が口を半開きにして、驚きから表情を戻せずにいた。

 彼は絞り出すように言った。



「のぉ。六駆の。お主、なんか急に綺麗になっちょらんか? 世の中、お金貰えたらパワーアップですよ! ひゃっひゃっひゃ!! とか言うのがお主じゃろ?」

「久坂さん、失礼だなぁ! 僕がいつそんな事を言ったんですか!!」



 割と頻繁に言っていたが。

 逆神六駆の魂は、一時的に極めて澄んだ色になっていた。


 バニング・ミンガイルとの死力を尽くした戦いが、彼に高潔な精神を取り戻させたらしい。

 なお、六駆くんが高潔な精神を持っていたのは周回者リピーター時代の2周目までなので、ほとんど20年ぶりの帰還であった。


 高潔な精神には「よく帰って来る場所を覚えていたね」と褒めてあげたい。

 帰巣本能でもあるのだろうか。


「……うっ。……ぐぁっ」

「ば、バニング様!! 逆神殿! バニング様が今! 呼吸を!!」


 慌てるザールに対して、六駆は穏やかに説明を始める。


「今、僕はスキルでバニングさんの体の時間を巻き戻しています。ただ、肉体全体にこのスキルを使うと記憶まで消えちゃうので、久坂さんに煌気オーラ力場を作ってもらって、効果範囲を限定してるんです。まずは体内の煌気オーラ供給器官を回復させました。今の反応は、煌気オーラが循環し始めた証拠ですね」


 理路整然と状況を説明する逆神六駆に違和感しかない。

 もしかして、この男は死ぬのだろうか。


「ボンバァァァァァァ!! マンゴォォォォ!! ラッシィィィィィ!! お待たせしました! マンゴーラッシーを持ってきました!! どうぞ!!」

「ありがとうございます! うわぁ! 美味しいけど、全然喉が潤わないや!! あはは!!」


 8番が「すみません! 自分が飲みたかったもので!!」と謝る。

 六駆も「いえいえ! これはこれで頂きます!」と応じた。


「さて。それでは肉体の巻き戻しに移りましょう。内臓とか結構損傷してますからね。外傷は後でどうにでもなりますけど。目に見えないとこの怪我の方が怖いんですよねー。久坂さん、煌気オーラ力場の構成を変えてください! 僕が一瞬構築するんで、そんな感じに! はい、これで!!」

「おお、任せぇ! ……しっかし、こがいに頼りになる六駆のは初めてじゃのぉ。……お主、頼むから死んだりせんでくれぇよ?」


 久坂剣友監察官。

 我々も同じことを心配している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは戦う乙女たち。


 莉子さんのガチ無双が始まっていた。


 アリナの使えるスキルは極めて少ない。

 それは、長らくスキルを使う必要性に迫られない生活をしており、なおかつ彼女の煌気オーラを考えれば、攻撃と防御の1つずつで全て事足りてしまうからである。


「やぁぁぁぁぁ!! 『いちご太刀風たちかぜ』!!!」

「形状変化……!! 器用なことをして見せる!! はぁ! 『絶消アイギス』!!」


「まだまだですよぉ!! 『いちご旋風破せんぷうは』!!!」

「今度は攻撃範囲を変えるか!! ええい、小賢しい!! 『楕円エリプセ絶消アイギス』!!」


「はぁぁぁぁぁっ!! 『苺剣いちごソード』!! 無刀流!! 『柄流つかながれ』!!!」


 『苺光閃いちごこうせん』の形質変化。『苺剣いちごソード』を発現した莉子さん、それで近接戦に移るのかと思いきや、逆神流剣術の無刀流という極めてニッチなスキルに転用する。

 かたや、せっかく出した剣をいきなり投げられるとは思わなかったアリナ。


「なんと言う無秩序なスキル……!! 『絶』……!! ちぃっ!! 『絶消アイギス』!!」


 なお、このスキルは莉子が逆神家に遊びに行った際、パチンコで負けて来てやる事がなかったという大吾から伝授されていた。

 たまには役に立つのがクソ義父おやじ


 だが、アリナもただ攻められるだけの状態に甘んじている必要はない。

 彼女は攻撃が止んだ一瞬を突いて、反撃に転じる。


「これで仕舞いだ!! 『絶花エンデ連舞サルトー』!!」

「反撃だって想定済みなんだからぁ!! やぁぁぁぁぁっ!! 『苺光閃いちごこうせんかべ』!!」


 壁と名の付くスキルを莉子さんが使うとさぞかし微動だにせず堅そうだと思うのは、いけない事ですか。


「……な、なんなのだ!! 莉子!! そなたは、一体!? その気色悪いスキルはなんだぁ!?」

「愛です!! これは六駆くんがわたしのために作ってくれた、最初のプレゼント!! つまり、愛なんです!! ってぇ! ちょっとぉ!! わたしと六駆くんの愛を気色悪いって言いましたぁ!?」


 アリナは無尽蔵に湧き出て来る煌気オーラを持ちながら、何故か追い詰められていた。


 敵が何を言っているのか分からない。


 これは得体の知れない恐怖であり、精神状態を乱せばスキルの練度も落ちる。

 なお、莉子さんの愛情はまだまだ余裕がある模様。


 必ず最後に愛は勝つのか。

 決着の時が迫っている。

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