第489話 【雨宮隊その10】囚われのおっぱい同盟たちの懸念 ~なお、ズバピタで当たる模様~ 異世界・ヴァルガラの牢獄

 異世界・ヴァルガラにある地下牢では。


「おい! 貴様ら!! この巨大な煌気オーラはなんだ!? 味方か!? 救援部隊が来たのか!? そうだろう! なにせ、国協の理事だからな、私は!! そうだ、サービス理事辺りが動いてくれたのかもしれん!!」


 フェルナンド・ハーパー理事が、面倒な事に久坂隊の煌気オーラを感知していた。


 この男もかつては探索員として現場に出ていた期間がある。

 とは言え、彼の実家は国際探索員協会に多額の出資をしていたスポンサーであったため、かなりのお客様待遇の活動であり、危険なダンジョン攻略の経験などは皆無。


 だが、煌気オーラの使い方やその感知方法などの基礎を身に着けており、一度身に付いた基礎と言うものは人間性が腐っても剥がれ落ちないものである。


 水戸信介監察官が小声で上官に尋ねた。


「まずくないですか。雨宮さん。これ、明らかに逆神くんが来てますよね? 彼の存在が国協にバレるのは避けるべきでは」

「そうねー。そこも水戸くんの言う通りなんだけどねー。今、私たちが最も避けるべきは他にあるんだよねー」


 そう言うと、雨宮順平上級監察官は興奮するハーパー理事を見た。

 「困ったねぇ」とため息をついて、彼は続ける。


「逆神くんと、久坂さん。それからこれは逆神くんの彼女かな? あと、久坂さんとこのお弟子さんもいるね。うん。盤石の編成だ。そこに加えて、何故かダンディが現場にいない。となれば、どうなると思う?」

「最高の戦局じゃないですか。こんなの、圧勝ですよ」


「そうだねぇ。何事もなければね。ただ、ダンディは確実にすぐ戻って来るだろうから、この好機を生かしたいよね。では、問題です。そんな圧倒的な戦局で1番避けたい事態はなんでしょうか。……はい! おっぱい男爵!!」


 『OPPAI』貸し切り計画の8ページにわたる立案書を完璧にまとめ上げ、ついでにハーパー理事をぶん殴り散らかした責任を取るための辞表を適当に書き終えた川端一真監察官。

 彼は2人に遅れて、先ほどから壁にもたれかかり休息を取り始めたところであった。


 だが、この男は「おっぱい」と言う単語を耳にすれば目を開く。

 どんなに疲労していても。どんなに辛い精神状態であってとしても。


「はい! 私が愚考するに、足手まといの参戦です!!」

「おっぱい男爵に60おっぱいポイントが贈呈されます! 大正解!!」


「やったぞ!! 水戸くん! 退職金におっぱいポイントをもらってしまった!!」

「この状況で小学生みたいな事を……。あなたたちの精神力には尊敬しかありません。それで、つまり煌気オーラもたいして回復していない自分たちがノコノコ出ていったら迷惑になると言う事ですか? そのくらいは理解してますよ」


 雨宮は「んー。惜しいなぁ、水戸くん。それじゃおっぱい平民だ」と苦言を呈す。

 「身の丈に合った称号で嬉しいです」と応じる水戸。


 代わりに爵位を持つおっぱいの権威が若き監察官に伝える。

 この作戦が終わるとクビになる可能性があるため、後進に教えられることは全て余すことなく出しておこうと言うのが川端の考え。


「最悪なのは。あの男。ハーパー理事が戦場に飛び込んでいく事だ。2番と互角の戦いをしていた雨宮さんが負けを認めた経緯を思い出してみると良い」

「ああっ! そうか! 久坂さんも五楼さんや雨宮さんの立場に配慮するタイプだから!!」


「そうだな。ほぼ間違いなく、理事の命を天秤にかけられたら降伏するだろう」

「なんてことだ……。どこまでもお荷物にしかなりませんね」


 雨宮がさらに付け加える。

 なお「川端さんのおっぱいポイントは100を超えたので、ボーナスおっぱいモードに突入します」と告げると、川端は無言でガッツポーズを決めた。


「もっと、ずっと最悪なパターンを教えてあげよう。水戸くん」

「まだ下があるんですか!? 嘘でしょう!?」


「逆神くんの性格を知っているよね。私も知ってる。男爵も知ってる。何なら、日本探索員協会の幹部はみーんな知ってる」

「はい。むちゃくちゃな男ですが、筋は通します。特に、お金と言うものに対しては裏切らない」

「加えて、権力にも屈さない気持ちのいい若者だ。つまり……」


 雨宮と川端の言わんとしている事を水戸も理解する。

 だが、敢えて上級監察官は口に出した。



「ハーパー理事がさ。逆神くんの邪魔したら。確実にあの子、理事をぶっ飛ばすよね」

「……はい。つまり、逆神くんの一撃で日本探索員協会がヤバいと」

「この作戦が片付いたのち、確実に面倒な報復措置を取って来るだろうな」



 3人の監察官は揃って天井を眺めた。

 続けて、水戸が言いづらそうに口を開く。


「……その理事が。ついさっきスキップしながら牢から出て行きましたけど」

「うん。知ってるよ。見てたもん」


「……最悪の中の最悪のケースが近づいてませんか?」

「そうだな。もうほとんどそうなるだろうと断定しても良いだろう」


 ならば、何故この3人は動かないのか。

 否。


 動けないのである。


 3番が出撃に際し「あなた方の身柄の扱いに変更があります。残念ですが、手錠と足かせで煌気オーラを封じさせてもらいますよ」と言って、3人をガッチリ拘束して行ったのだ。

 さすがアトミルカの頭脳を自称するだけあって、抜かりはなかった。


 ハーパー理事だけを自由にして行ったのも、こうなる事を予見しての作戦だろう。

 なお、8番は「かわいそうですよ。もう逃がしてあげましょうよ」と意見具申したが、「あなたはつくづく犯罪組織に向きませんね」と一蹴されていた。


 代わりに「すみません。照り焼き、ここに置いて行きますから。これで許してください」と言って8番も出撃して行った。


「いやー。困ったねぇー。実に困ったよー」

「雨宮さん! まだ煌気オーラは回復しないんですか!? さっきの極大スキル使ってくださいよ!!」


「また無茶言うんだから、この子はー。無理だよー。あれのせいで煌気オーラの回復が全然できてないまであるからね? もう、現状さ。私たちには祈る事しかできないんだよ。……あ。川端さん。そこの照り焼き取ってもらえます? 私、手が届かなくて」

「はい。ちゃんと人数分ありますよ。ほら、水戸くんも」


 囚われの監察官たちは、並んで仲良く照り焼きをモグモグする。

 8番が夢中になるだけあって、その味は冷えていても無類だったとか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぐっ、はぁ、はぁ!! よし! 出られた!! あの馬鹿どもは牢獄に繋がれたままでいい!! 私に暴力を振るった愚か者もいるしな! さあ、救援隊はどこだ!?」


 どこまでも期待通りにしか動かない男。

 フェルナンド・ハーパー理事。


 70代半ばで週に一度はステーキを食べる。

 好みの女性はマリリン・モンロー。

 「胸の小さい日本人の女など、価値はない!!」と言い切る、女の敵である。



 より詳しく言及するのならば、莉子さんの敵である。

 そしてちょっとだけ川端男爵の仲間でもある。



 そんな彼の上空に影が差した。


「おお! 遅いぞ、愚か者が!! ……おそ」

「ええ。あなたが私の想定通りの愚か者で助かりましたよ。何度でも役に立ってくれる。実に有益な人間です。あなたは。先ほども同じ警告をしましたので、省略しますよ」


 一瞬の隙を突いて六駆と莉子の破壊神カップルの猛攻から抜け出してきた3番。

 クリムト・ウェルスラーは、ラッキーアイテムをゲットする。


「くっ! 貴様ぁ! 罠だったのか!!」

「罠? これは心外です。これを罠と呼ばれるように低俗な知性を持っていると思われるのはね。さあ、参りましょうか」


 ハーパー理事を乱暴に掴むと、3番はほんの数百メートル先の激戦地へと飛び去る。

 この老害は逆神大吾を超えるお排泄物の名を襲名できるのだろうか。

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