第478話 【南雲隊その10】万策尽きた、その瞬間。 異世界・ゴラスペ第一砦

 異世界・ゴラスペの向こうの空から戦闘機が現れた。

 南雲修一監察官は色々と覚悟を決めていた。


 「逆神くんがいる時に来なさいよ……」と運命の女神を恨んだりもしたが、「これまで逆神くんがいなければ、私はとっくに死んでいたな……」と、なんだか達観した表情になった部隊長は叫んだ。


「椎名くん! 木原くん! 塚地くん! 3人とも、下がっていなさい!! 私が残った煌気オーラを放出して敵の注意を引くから、その隙に退避するんだ! 岩場のある場所を選んで、可能ならば異界の門まで撤退を!!」


「南雲さん……!! 死んじゃうんですにゃー……!!」

「みみっ。芽衣は南雲さんのこと、忘れないです」

「散々お排泄物と罵って来た事、お詫びいたしますわ」



「君たちぃ! 全員で殺しにかかって来るなよ!! まだ死んでないよ! なんでもう悼んでるの!? それ、もう少しあとのヤツじゃないか!!」

『いやー! 死を覚悟してなおそのツッコミ! それでこそ自分の選んだ監察官っす!! よっ! ご立派!!』



 いつの間にかサーベイランスもやって来て、全員で南雲の生前葬を執り行う。

 が、不意に山根健斗オペレーターが呟いた。


『これ、言っちゃおうかなぁ。でもなぁ。まだ早いんすよねー』

「なんだね。どうせ最期なんだ。思っている事は全部口にすれば良い。私は全て聞く構えだよ」


 山根は「んー。じゃあ、言っちゃうっすよ!」と言って、端的に南雲へと伝えるべき事を説明した。


『【黄箱きばこ】の捌番ってあるっすか?』

「なんで今になって【黄箱きばこ】なんだ? うん。あるけど」


『やー。もうちょっと引っ張りたかったんすけどね。ちょっと解放してみてくれます?』

「なんだね、一体。ビックリ箱でも作ったの? 解放するけども」


 【黄箱きばこ】の解放はほんのわずかな煌気オーラがあれば可能であり、南雲にもその程度は残されていた。

 カタンと開いた箱の中に入っていたのは。


「おおおい! 山根くん!! 君ぃ!! これ、片方しかないけど『双銃リョウマ』じゃないか!! 君に借りパクされたり、返してもらったと思ったらまた勝手に持ち出されたりしてたヤツぅ!!」

『ほら、今回の作戦って大規模じゃないっすか。万が一の時のために、まあ自分もできる事はしとこうかなって思ったんすよね。ちなみに、中には既にスキルを仕込んであるんで、あとはトリガー引くだけっすよ!』


 『双銃リョウマ』は南雲修一の作った武器の中でも特に使用者を選ばないものであり、極端な言い方をすれば、トリガーさえ引けば煌気オーラのない者でも装填されている弾丸に込められたスキルを放つことができる優れもの。

 煌気オーラがほぼなくなっている今、これほど頼もしい武器はなかった。


 相手が戦闘機と言う点も悪くない。

 かつては逆神六駆が『大竜砲ドラグーン』を込めた事もあり、極大スキルですら弾丸に内包させる事が可能。


「山根くん! 中には何を入れてあるんだ? 遠距離スキルなのは間違いないだろうけど、戦闘機相手でも効果があるヤツ?」

『それは撃ってみてからのお楽しみっすよ! でも、威力は保証するっす!』


「こいつぅ! さては、逆神くん辺りに内緒で仕込んでもらってたなぁ? 山根くん! 戻ったらボーナス出しちゃう!! ならば、すぐに狙撃だ!!」


 上空の戦闘機は南雲隊に攻撃を仕掛ける準備をしているのか、タイミングよく動きを止めていた。

 加えて、南雲修一は『双銃リョウマ』を使い始めて既に10年が経とうとしている。


 つまり、ほとんど動かない的にならば、数百メートル離れていようが命中させる自信があった。


「よし! みんな、衝撃に備えてくれ!! いくぞ!! 喰らえっ!!」


 バォォンと、聞いたことのない轟音が響いたかと思えば戦闘機に放たれたスキルが着弾。

 一瞬で戦闘機が粉々に爆散した。


 ちなみに、南雲も発射の衝撃で20メートルほど後方に吹き飛んでいた。

 障害物のない砂漠地帯で良かった。


 仮に壁でもあろうものなら、頭をぶつけて運悪く死亡していたまである。


「おおおい! 山根くん! やーまぁーねぇー!! 何入れたんだ!? こんな訳の分からないスキル、見たことないぞ!? 逆神流の新スキルか!?」


 山根は「うふふっ」と笑って、種明かしをする。



『木原監察官に『ダイナマイト』入れてもらったんすよ!』

「バカじゃないの!? あれって、煌気オーラを纏わせた物理攻撃じゃん!! つまり、その纏わせるための煌気オーラを弾丸にねじ込んだの!? バカじゃないの、本当に!!」



 とは言え、そのおかげで戦闘機は撃墜できた。

 ならば、南雲はどうしてこれほど憤るのか。

 後方に吹っ飛んで恥ずかしい目に遭ったからか。


 違う。


 これから始まる戦闘に関わる、重大な問題が起きていたからだ。


「君ぃ! 『双銃リョウマ』の装填数は6発なんだよ! つまり、あと5発分、スキルが撃てた訳だよね!? 準備しておいてくれたんでしょ!?」

『もちろんっすよ! 抜かりないっす!!』



「抜かってるんだよ!! 何故ならね! 戦闘機も粉々だけど、『双銃リョウマ』も粉々になったからね!! 『ダイナマイト』の威力に銃そのものが耐えられなかったんだよ!!」

『あー。それは南雲さんの製作に問題があるっすねー。もっと耐久性高く設定しとかないからー』



 南雲は「木原監察官を基準に武器作るバカがいるわけないでしょうが!!」と叫んだ。

 だが、楽しいトークセッションも終わる。


 5番。パウロ・オリベイラと19番。

 彼らは当然ながら、戦闘機から脱出していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 気付けば南雲隊の数十メートル前方に立っている5番。彼はスキルを放った。


「ほらぁ。こうなるんですよ……。『シャーク・フォッシル』!!」


 暗い表情で5番が撃ったのは、鮫の形をした煌気オーラ放出。

 と言うか、具現化された鮫そのものが迫りくる。


 5番。パウロ・オリベイラが操るのは創造スキル。

 イメージを具現化して使役する、極めて特殊なものであった。


「わたくしが!! 『銀華ぎんか』!! 六十……くぅっ! でしたら、三十二枚咲き!! 『銀色立体縦列盾シルバーティカルブロック』!! くぅぅぅぅっ!!」

「うわぁ……。ボクの不意打ちが防がれちゃったよ……。あーあー。もうダメだ。次から対策されるから、当たりっこないよ……」


 辛うじて5番のスキルを防いだ小鳩。

 だが、これで南雲隊の全員が揃って煌気オーラ枯渇状態になると言う最悪の状況。


 それを気取られないようにしようと試みる南雲であったが、敵には優秀な副官が随行していた。


「5番様! よくご覧ください! 敵の煌気オーラ反応を! ヤツら、全員がほとんどの煌気オーラを使い切っておりますぞ!! まさに好機!! 5番様!!」


 19番の進言に「まあ、そこまで言うなら……。もう1回だけですよ?」と応じる5番。

 絶望的な状況で、絶望的な一撃が放たれた。


「はぁ……。『タイガー・フォッシル』!!」


 巨大な虎が具現化され、牙を剥きだして南雲隊に襲い掛かる。

 万事休す。


 クララが、芽衣が、小鳩が。

 そして南雲修一も、この時ばかりは命を諦めた。


 が、その時である。


 巨大な門が地面から生えて来るではないか。

 それは紛れもなく、逆神流の転移スキル『ゲート』であった。


「これは……!! 逆神くんが間に合ったのか!! ……ん? いや、煌気オーラの質が違うぞ? 大吾さんとも、四郎さんとも……!?」


 『ゲート』を発現した主は、ゆっくりと歩いてくると牙を剥く虎に向かって両手を向けた。


「無作法な子やねぇ! 知らん人が出て来たら、まずは挨拶じゃろうがね!! さぁぁぁぁぁっ!! 『餓狼砲ウルファング』!!」


 放たれるのは狼の咆哮。

 5番の創造スキルを完璧に打ち砕いた。


「いやぁ、間に合って良かったよ! あんたら、よぉ頑張ったねぇ! あとはあたしに任せちょきぃさんや!! 孫が困っちょるって聞いたらねぇ! ばあちゃん、黙っちょれんけぇ!!」


 突然の来援に戸惑う南雲隊。

 監察官は混乱しながらもサーベイランスに呼びかける。


「や、山根くん。凄まじい煌気オーラを垂れ流していらっしゃる、この方はどなた?」

『いや、自分にも分からないっす。データも該当しません。直接聞いてみたらどうっすか?』


 「確かに。それが早いな」と頷いた南雲は、恐る恐るお伺いを立てた。


「あの……。あなたはどこのどなたでしょうか? 命を救って頂いて、大変失礼なのですが……」


 老婆はニィッと歯を見せて、堂々と名乗る。


「あたしゃ、逆神みつ子って言うんよ! 逆神六駆のばあちゃんって言うた方が早かろうね? ここは任せぇさんや!! あたしが来たからには、もう安心じゃけぇね!!」


 最強の老婆。

 広島県は呉から、異世界へ直転移。そのまま戦いに参陣する。

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