第465話 【久坂隊その6】温泉リゾート施設攻略戦!! 異世界・クモリメンス

 久坂隊は順調な行軍を続け、ついに異世界・クモリメンスの探索員収容施設Aに到達した。

 非常に均等の取れた直方体をしている施設の入り口に見張りはいない。


「着いたのぉ。急いだからワシ、なんか横っ腹が痛いわ」

「久坂剣友! 私が持参した麦茶を飲んでほしい! 半分凍らせているので、キンキンに冷えている!!」


「ほぉ! 相変わらず気が利くのぉ! 一杯もらうで!! ……かぁー! やっぱり汗かいた時にゃ麦茶に限るけぇ!! 四郎さんもどうじゃろか?」

「これは申し訳ないですじゃ。それでは、頂きますぞい」


 老兵たちが休憩を取っている間に、加賀美隊が偵察任務を引き受ける。

 ここでも山嵐助三郎Bランク探索員が成長を見せた。


「土門さん! オレの勘違いじゃなければ、入り口に透明な煌気オーラ力場がありますか!? あれ、侵入者用のトラップですよね?」

「へぇー! やるわね、山嵐くん! 煌気オーラ 感知が上手くなってる!!」


「合ってたんですか? よっしゃ!!」

「敵陣に攻め込む場合は充分過ぎるほど下準備を整える。雷門監察官室の教えがしっかりと身についているね! その調子で施設の全体を回ってみよう! 自分の煌気オーラを抑える事にも気を付けるんだよ!」


「はい! 了解です、加賀美さん!!」

「それじゃ、行きましょう。私、反対側から回りますね」


 加賀美隊による15分にわたる念入りな調査が行われ、その結果は速やかに指揮官の元へと届けられる。


「久坂さん、ご報告します!」

「おお、すまんのぉ! 加賀美のにゃ助けられてばっかりじゃけぇ!」


 加賀美は「光栄です」と応じたのち、福田弘道オペレーターに頼んで用意してもらった上空写真をサーベイランスに表示させ、発見したトラップの詳細な情報を説明した。


「なるほどのぉ。ダンジョン攻略の頃から思うちょったが、相変わらずえげつない量のトラップじゃのぉ。ここの管理責任者、相当性格が悪いで」


 駐在司令官は7番ギッド・ガードナーだが、管理を担当しているのは3番クリムト・ウェルスラー。

 もちろんそこまで知り得る事はできないが、彼と一度、軍事拠点・デスター急襲作戦で交戦している久坂にとっては奇妙な縁であった。


「どうしますかの。幸いな事に、我々の体力、煌気オーラともに極めて充実しとりますから。ここはひとつ、思い切った作戦でも良いようにワシは思えますじゃ」

「自分も四郎さんのご意見に賛成です。どこから侵入するにしても、結局トラップによって妨害を受けることになりますし。何より、既に我々の存在が気付かれているのは、先ほどの襲撃部隊の行動からも明らかですので」


 久坂は2人の意見を興味深く聞いた。

 それは、彼もまったく同じ策を練っていたからに他ならない。


 部隊の指揮官と参謀が意見を同調させている事は、ある意味では作戦行動に対する考えに偏りがあるとも言えるが、それ以上に指揮官からすれば頼もしいものである。

 久坂は膝を叩いた。


「よっしゃ! ワシらは早いとこ任務を済ませて、他の部隊の助太刀に行く事にしようかいのぉ! ちゅうことで、作戦はシンプルじゃ! ……正面突破でかかるけぇ、全員気ぃ張ってくれぇよ!!」


 小細工を排除したシンプルな作戦に打って出る久坂隊。

 老兵の判断は、吉と出るか、凶と出るか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、7番は誘拐して来た国際探索員協会のフェルナンド・ハーパー理事をヴァルガラの10番に投げつけたのち、異世界・クモリメンスへと帰還していた。

 【転移白石ホワイトストーン】でダイレクトに収容施設Aの司令官室へと戻った彼に、部下たちが緊急事態を告げた。


「はあ? 侵入者だ? 冗談じゃないぞ。オレは今、面倒な指令をこなしてきたって言うのに。まだ仕事しろって言うのかよ。やってらんねぇ。おい、22番。ヴァルガラに通信を繋げ」


 7番の補佐役は22番。

 なんでも、ギッド・ガードナーのラッキーナンバーらしい。


「了解です。……回線、開きました」

「ご苦労さん。おー。こちらはクモリメンスの7番だ。2番さんか3番さんはいるか?」


 モニターにて対応するのは、10番ザール・スプリング。


『こちらは司令官代行、10番です』

「ちょっと待て。なんでお前が代行してんだ? そう言えば、さっきじじいを引き渡した時もお前以外いなかったな? 2番さんとマッドサイエンティストはどうした?」


 10番は2番に命じられた通りの応対をした。

 彼は「7番には謀反気があるからな。むやみに敵襲の情報を与えるな」と師から言い含められていたのである。


『現在、2番様は席を外されております。3番様は敵の掃討のため、前線に向かわれました。一時的に私がこの場を預かっている次第です』

「2番さんはまたお得意の修行か? 好きだねぇ。んなことよりもな、こっちに戻ったら侵入者がいるとか部下どもが言うんだが。そっちから、誰か寄越してくれ。ほら、8番の筋肉バカなら暇だろう?」


『いえ、8番様も実は3番様に随行しておられます』

「マジかよ。じゃあ、アレか? オレに過剰労働させようって、そういう話か?」


『申し訳ありません。ですが、2番様よりの言伝がございます。成果を上げれば相応の見返りは用意する、とのことです』

「……ふーん? 見返りね。2番さんが言うなら、まあ信用できるか。……了解した。面倒だが、侵入者はこっちでぶっ殺す。邪魔したな、10番」


 通信を終えた7番は、煙草を咥えてマッチを擦った。

 ちなみに、施設内は禁煙である。


「22番よー。これ、ヴァルガラが攻められてるぜ。多分だが」

「なんですと? それは一大事ではありませんか。至急、こちらの問題を片付けて援護に向かいましょう」


「そうだな。混乱に乗じて、精々恩を高く売りつけるとするか。別にオレは出世に興味がある訳でもないし、アトミルカの序列なんてどうでもいいんだがな」

「……だがの続きをお聞きしても?」



「いやな。オレの上に、変態侍野郎とくそネガティブ野郎がいるってのは、なんか居心地が悪いんだよ。ダンスパーティーでさ。明らかにこいつオレより不細工で貧乏そうなのに、やたらとチヤホヤされるヤツ見たら腹立つじゃねぇか」

「……むちゃくちゃ序列を気にされておられたのですね」



 7番は『圧縮玉クライム』を取り出して、解放する。

 探索員時代には槍を使った戦闘を得意としていた7番。

 当然だが、専用装備も槍である。3番の特注品を与えられていた。


「22番。お前は雑魚の部下どもを探索員に変装させて、どれが敵か分からないように偽装させたのち、狭い通路に誘い込ませろ」

「実は7番様。その策、既に先ほど一度実行しております」


 7番は「ハハッ」と笑ってから続ける。


「お前のそういうところ、結構好きだぜ。じゃあ、同じ作戦をガンガン被せろ。疑心暗鬼ってのはこうやって作るんだ。オレが教えてやるよ」


 暗躍に長けた7番。

 忠誠心やこだわりがない彼は、何も背負わずに戦う。


 そんな男は割と手ごわい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 久坂隊は正面のトラップを加賀美が破壊し、そのまま収容施設へ突入した。

 彼らを待ち受けていたのは、巨大な温浴施設だった。


「どがいして温泉があるんじゃ。捕虜に対する待遇が良すぎじゃろ」

「聞いたことがある! アトミルカは中途で参加した新人には徹底的に甘くしてから、少しずつ負荷をかけていくと!!」



「なんかそれ、携帯電話会社の契約みたいですね」

「山嵐くん!! なんてことを言うんだ!! 失言は命を奪うと教えているだろう!!」



 加賀美政宗Sランク探索員にこの世界の理の1つを再認識させられた山嵐。

 彼は褌を締め直して、前を向く。


 収容施設改め、温泉リゾート施設の攻略戦が始まった。

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