第444話 【ナグモ隊その2】監察官・南雲修一の『古龍化』とお好み焼き コラヌダンジョン第7層

 コラヌダンジョン攻略中の南雲隊。

 第7層に入ると、開けた場所に出た。


 このようにドーム状の空間が待ち構えていると、基本的にそこにいるのはモンスターの集団か、それとも強力なモンスターかのどちらかである。


「おっ! なんか強そうなのがいますね! ロボだ! ロボ!! なんですか、あれ!? 莉子さんや、知っとるかね?」

「ふぇぇ。わたしもあんなの見たことがないよぉー。六駆くんの質問に答えられないなんて……!! もぉぉぉ! わたしが『苺光閃いちごこうせん』で焼き払うもんっ!!」


 眼前に立ちはだかるのは他のダンジョンでも猛威を振るっている機械モンスター。

 こちらは『機械魔獣マシーンキメラ人型ゼータ』である。


 アトミルカの「人造人間プロジェクト」を進める過程で生まれた、単純な破壊プログラムを搭載しているサイボーグの一種。

 搭載している人工知能性能は低く、ただ近くにある標的を狙い破壊を繰り返す。


 だが、単純思考なモンスターほど強いのはこの手合いのお約束でもある。


「明らかにアトミルカの手が加わっているモンスターだな。これは、我々のダンジョンが当たりを引いたか? どう思う、逆神くん」

「どうですかねー? 僕だったら、量産のききそうなモンスターはどこのダンジョンにも配置しておきたいです。4つのダンジョンがどれもアトミルカ絡みなのは確定しているので、珍しいのが出て来たからと言って即断はできかねますねー」


「ああ。私も同意見だ。ひとまず、あれを倒して先に進もう」

「そうですね! 南雲さん! 出番じゃないですか!!」


「ああ。……うん?」

「だって、南雲さんまだ古龍のスキルを実戦で使ってないですよね?」


「ああ。……うん??」

「いきなり敵の幹部とか、強敵が出て来た時に使う気ですか? 危ないなぁ! 新しく習得したスキルは、適当な相手で慣らし運転しておかないと!!」


 六駆は南雲の肩を叩いて、親指を立てた。

 そこからの動きは速い。


「みんな! 僕のお袋とばあちゃんが作ってくれたお好み焼きがあるんですよ! 食べましょう! 莉子さんや、準備してくれる?」

「分かったよぉー! えへへ、六駆くんのお母さんもおばあちゃんも、とってもステキな人だったんだよぉ!」


「みみみっ! 莉子さんがいつの間にか六駆師匠の実家に行ってるです!! みみみぃっ!!」

「あ、わたくし聞きましたわ。呉で局地的な煌気オーラ被害情報が出たとか言うお話。確認して見たら莉子さんのものだったらしいですわね……」


 莉子は「えへへへ。ちょっぴり気合が入り過ぎちゃってー」と照れながら、【黄箱きばこ】を取り出し封印を解除する。

 六駆が『鬼火おにび』でいい塩梅の炎を生み出した。


「うにゃー! いい匂いだぞなー! あと、何気に六駆くんと莉子ちゃんの共同作業なのにゃー! このお似合い夫婦ー!! にゃっふっふー!!」

「も、もぉぉ! クララ先輩ってばぁ! この1番大きいお好み焼き、あげますねっ!」


「やったにゃー!! これは食べ応えがありそうだぞなー!!」

「クララさん……。どうしてその機転を大学生活で活かせないのですの……?」

「み、みみっ。小鳩さん、お腹が空いていると考え方がネガティヴになるです!!」


 チーム莉子、お好み焼きを食べる。


 一方、南雲修一はと言えば。


『南雲さん! ついに古龍スキルの本領発揮っすね! 逆神くんに呼ばれて色々準備して来たっすよ! さあ、頑張りましょう! セコンドはお任せっす!!』

「うん。あのさ、なんであの子たちは私を肴にお好み焼き食べようとしてるのかな? 私も一緒に食べてからじゃダメなの? 敵の機械モンスターも律儀にこっちのが動くの待ってるしさ」


『多分、有効射程に入った瞬間に襲ってくるタイプのプログラムなんすよ。南雲さんも分かってるくせにー!!』

「うん。知ってるよ? ただね、私がチーム莉子のみんなにこれからちょっとしたエンターテインメントをお届けするのに納得がいかないなって」


 全員分のお好み焼きが温まったので、六駆は手の平を機械モンスターに向けた。

 続けて、煌気オーラを込める。


「ふぅぅぅんっ! 『石牙ドルファング』!!」

「ガガガ。敵の攻撃を確認。驚異判定、不明。戦闘開始」



「逆神くぅぅぅん! なんで私のタイミングで始めさせてくれないの!? まだ心の準備がさ!! 酷いじゃないか!!」

「南雲さん! 敵がいつもこっちの都合を考えてくれるなんて思ってちゃダメですよ! イレギュラーな状況を基本の想定にしておかないと!!」



 正論で殴られた南雲修一。

 彼は観念して、全身に煌気オーラを蓄え始めた。


 そして、一気に発現する。


「うぉぉぉっ! 『古龍化ドラグニティ四分の一クォーター』!!」


 南雲の瞳が金色に染まり、黒い角が生えて来た。

 古龍の戦士・ナグモ、進化の時を迎える。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 機械モンスターが南雲の煌気オーラに反応して、レーザー光線を放つ。

 それは南雲の想定よりも速い。何なら六駆の想定よりも速かった。


「うわぁ! こいつ……! 普通に強いぞ!!」

『ナグモさん、ナグモさん! 言動がいつものままですけど?』


「うるさいな! そりゃそうだよ! 必死にトレーニングしてるんだから! いつも自我を失って堪るか!!」

『ええー? せっかくオペレーター室の全員で見守ってるのにっすか?』


「やーめーろーよぉー!! もうすっごい戦いにくくなったよ!! なに!? 中継されてるの!? 恥ずかしいんだけど!!」

『あっ。ナグモさん。敵さんがすっごい煌気オーラ溜めてますよ。デカいのが来るっす』


 山根健斗Aランク探索員、無事に南雲の注意を引くことに成功する。

 彼は上司の成長のために、敢えて不利な状況を作り出しているのだ。


 決して、愉快犯ではない。決して。


「くっ!! こうなったら、アレを使うか!! 逆神くん!! 私の新しい武器を!」


 南雲修一には秘密兵器がある。

 スカレグラーナの竜人・ジェロードから贈られた、元古龍の作った特注の装備である。


 古龍スキルを使用する際には並のイドクロア装備だとその出力に耐えられないため、『古龍化ドラグニティ』した今こそ新装備の使い時であった。



「すみません! 今、お好み焼き食べてるんで! その後でもいいですか!?」

「良いわけあるか!! 敵さん、今にも主砲を撃って来ようとしてるでしょうが!! 逆神くん! 君が言ったんだぞ!! 僕が【黄箱きばこ】に封印しておきますよって!! ああああっ! もうダメだ! 信じられるのは自分の身体だけだ!! くそぅ!!」



 南雲は両手に煌気を集中させると、それを機械モンスターに向けた。

 同じタイミングで、あちらからは煌気砲が放たれる。


「そんなもの、古龍には効かん!! うぉおぉぉぉっ!! 『竜爪の一撃ドラグトルネドクロー』!!」

「ガガガガガ。被害甚大。データ収集不可。自爆シークエンスへ移行」


「ああ、もう! アトミルカの機械兵器はすぐに自爆する!! 煌気オーラ、局地展開!! 『竜翼の護りドラグウォールド』!!」


 南雲は『古龍化ドラグニティ』を使いこなし、機械モンスターを撃破した。

 「最後の自爆を瞬時に防いだところはポイント高いですね!」とは、後日『実録! 古龍の戦士・ナグモ!!』に収録される逆神六駆の評であった。


「はぁ、はぁ……。よし、4分の1の出力なら、既に私の実力でコントロールできる! どうだ、逆神くん!」

「良い感じでしたよー」


「軽いんだよ、感想が!! もういいよ! 山根くん、敵の索敵をしてくれる?」

『修一! お母さんたい!』



「うぉぉぉぉい!! なんだよ、私には味方がいないのか!?」

「南雲さーん! お好み焼きが用意できましたよー! こっちに来て食べましょうよぉー」



 この時の莉子さんが見せる絶妙の気配りは傷ついた戦士の心に染みたらしく、南雲はスキルを解除してすぐに言った。


「小坂くんはきっといい奥さんになれるよ。私が保証する」

「も、もぉぉぉ!! 青のり、いっぱいかけておきますね! えへへへへへ!!」


 南雲のお好み焼きは青のりの味しかしなかったらしいが、些末な事である。

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