第443話 【久坂隊その2】山嵐助三郎Bランク探索員、花開く時は今! ピーライダンジョン第5層

 ピーライダンジョンの久坂隊も順調に先の階層へと進んでいた。


「しっかし、01番ちゃんが言いよった通りじゃのぉ。なんちゅうトラップの数じゃ、こりゃあ。よっぽど侵入者を先に進ませたくないんかのぉ?」

「ふぅむ。ワシが思うに、この手のトラップは数を置けば良いと言う訳でもありませんからの。数が増えれば侵入者の警戒も上がりますぞい」


「つまり、トラップには別の意図があると言う訳ですか?」

「ワシの与太話ですじゃ。加賀美さんはどう思われますかの? 現役復帰したてのワシよりも勘が優れとるでしょうから」


 加賀美政宗Sランク探索員は「そうですね……」と少しだけ考え込む。


「自分が愚考するならば、トラップの試運転が目的……。というのは、飛躍し過ぎでしょうか?」

「ほぉ。面白い着眼点じゃのぉ。根拠を聞かせてくれぇ」


「はい。3層を過ぎたあたりからモンスターも現れるようになってきましたが、トラップは対人特化と言う訳ではなく、野生のモンスターにも効果があるように見受けられます。つまり、アトミルカの実用試験。言い方は悪いですが、動物実験をしているのではないかと」


 久坂と四郎は「なるほど」と若きSランク探索員の考察を興味深く聞いて、頷いた。


「ワシは加賀美さんのご意見に一票ですじゃ。実に腑に落ちますぞ」

「そうじゃのぉ。トラップの配置パターンも明らかに人を狙うちょる……ちゅうよりは、無差別な感じがしよるけぇのぉ。よし。加賀美のが言う意見を念頭に攻略方針を組みなおすぞい!」


 久坂は現在地の第5層まで「トラップに警戒する」事を第一に考えて進軍して来た。

 が、トラップの目的が「侵入者の排除」ではなく「起動実験」であるのならば、必要以上の警戒はむしろ部隊の進行速度を遅くする原因となり得る。


 今回の作戦は「4つの部隊が足並みを揃えてダンジョンを同時攻略する」事が最重要任務とされており、少し速度が遅いと感じていた久坂は決断を下した。


「ほいじゃあの。これからは『赤い転ばぬ先の杖レッドロードサイン』の使用範囲を狭める事にする。ついでに、マークするのも転移装置とか厄介なものだけに限定じゃ。後は各人、近くにおる者の安全に留意して進むけぇの! ええか?」


「確かにそうかもしれん! 私は久坂剣友! あなたの指示ならば無条件で従う構えだ!」

「ほっほっほ! 良いお弟子さんを持たれておりますの、久坂さん」


「ひょっひょ! ワシには過ぎた家族ですわい! ちぃと師匠を妄信し過ぎなきらいはありますがのぉ! 加賀美の! お主らもそれでええか?」

「はい! 異論ありません! 土門さん! 山嵐くん! いいね?」


「分かりました! 私も加賀美さんの指示を信頼していますから!」

「はははっ。ありがとう! 山嵐くんは……。山嵐くん?」


 山嵐助三郎Bランク探索員。

 彼はこれまでの作戦で度重なる出世のチャンスを全て棒に降って来た男。


 だが、今回は変に気負っていない分、かつてない機転を利かせていた。


 隊長格が作戦会議をしている間、『赤い転ばぬ先の杖レッドロードサイン』を持ち出し第6層への入口までの道のりを索敵していた彼だったが、異質なトラップを発見するに至る。

 それは生き物の煌気オーラに反応して転移「してくる」ものであり、雨宮隊が攻略しているエドレイルダンジョンに山ほどいる『機械魔獣マシーンキメラ』が出現し始めていた。


 『機械魔獣マシーンキメラ』からは煌気オーラがほとんど検知されない事と、トラップに注意を向けていたためイレギュラーな存在を想定していなかった事。

 この2つの要因が重なり、危うく第5層が『機械魔獣マシーンキメラ』で埋め尽くされるところであった。


「うぉぉぉぉっ! 攻勢肆式! 『横殴よこなぐりの石烏いしがらす』!!」


 山嵐助三郎Bランク探索員。

 『機械魔獣マシーンキメラ』の出現トラップを破壊すると言う大金星を挙げる。


「よ、よし! やった! オレにもできた!! ……ああっ!?」

「ガギギギギギ」


 だが、詰めが甘いのは山嵐クオリティ。

 彼は悪玉時代から目的を果たすと油断する悪癖がある。


 そのため、2度にわたって逆神六駆の被害に遭い、ルベルバック戦争に連行された挙句自分のパーティーが解散する事になったのは彼にとって良い教訓である。

 その教訓は彼の中で息づいていた。


「くっ……!! 加賀美さんたちが来てくれるまでは、オレが食い止めるんだ!!」

「ガギギギギギ! ギギギギギ!!」


 まだ失敗はする。

 だが、転んだらすぐに起き上がり、次に何をすべきか考えて一歩踏み出す。


 山嵐助三郎Bランク探索員、開化の時を迎えようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 敵は『機械魔獣マシーンキメラ小型ベータ』が3体。

 それほど多くはないが、Bランク探索員にとっては脅威と言っても良いシチュエーション。


「まずは動きを封じる! 『ガイアスコルピウス』!!」

「ガギギガ!!」


 彼の十八番、土属性のバリスタを構築。

 そのまま槍を2発ほど発射。1発は敵に命中する。


 山嵐の成長はここからであった。


 土の槍を発射したのと同時に、イドクロア竹刀・キツツキを構え煌気オーラを高める。

 そこで繰り出すのは、何度も何度も繰り返し練習した加賀美流剣道スキルの基礎となる攻勢壱式。


「うぉぉぉぉりゃ! 全力!! 攻勢壱式!! 『つちきじ』!!」

「ガガガガガ! ギリュゥゥウゥゥゥ!!」


 『ガイアスコルピウス』と『つちきじ』はどちらも土属性かつ、遠距離攻撃。

 同時に放つ場合、相手をよく見極めなければ効果が薄いスキルの無駄撃ちになりかねない。


 が、その攻撃が有効な場合は一気呵成。

 2種類のスキルで効果的に戦闘を展開する事ができる。


 これは独り対多数のシチュエーションにおいて、最も大切な判断の1つである。

 そして山嵐は今回、それを見事に読み切った。


「やった! オレだって少しくらいは役に立てるんだ!!」


 努力の手ごたえを感じる山嵐。

 けれども、やはりまだまだ詰めは甘いようであった。


「山嵐くん! まだ1体残っているぞ!! 攻勢陸式! 『くさりふくろう』!!」

「う、うわっ!?」


 自分のパーティーのメンバーは誰だってないがしろにしない男。

 加賀美政宗、見参。


 彼はイドクロア竹刀・ホトトギスで残った『機械魔獣マシーンキメラ』を実に鮮やかな手際で拘束して見せた。


「す、すみません……! 加賀美さん……。オレ、また足を引っ張ってしまって……」

「何を言うんだ、山嵐くん! 君の索敵のおかげで敵の出現を最小限に抑えることができたんじゃないか! それに、3体のうち2体は君が倒したんだ! 胸を張ろう! 自分の努力が実る時に、自分が一番に喜んであげないでどうする!!」


 実は加賀美、そして久坂と四郎も出現トラップの存在にはすぐに気付いていた。

 だが、敢えて手を出さず近くにいた山嵐に任せたのである。


 いくら重要な作戦行動中とは言え、若者の才能が開花する瞬間まで潰さなくてはならない道理はないと言うのが3人の共通認識。


「山嵐くん! ちょっと、膝とふくらはぎに怪我してるじゃない! 診せて!!」

「土門佳純! 私の持っている包帯を使うと言い! 消毒液もある!!」


「す、すみません。お手数をおかけして」


「まだそんな事を言って! 同じパーティーの仲間なんだから、遠慮しないの!」

「確かにそうかもしれん!!」


 実力者たちからすれば、取るに足らない小さな武功。

 だが、若者が一歩前に進む姿は見ていてとても気持ちの良いものである。


「ほっほっほ! 加賀美さんも良いお弟子さんをお持ちですの!」

「ほうじゃのぉ! お主の指導の成果がよう出ちょるわい!」


 加賀美は治療を受けている山嵐を見て、嬉しさを隠そうとせずに歯を見せた。


「ええ! 彼はまだまだ強くなりますよ! いつか自分を超えるかもしれません!!」


 久坂隊は1つ、小さいけれど貴重な収穫を得て、第6層へと向かうのであった。

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