第430話 アトミルカ殲滅作戦、始動! まずはやっぱり監察官会議!!

 5月の中頃。

 日本探索員協会では毎月第2木曜日に定例監察官会議が行われる事となっている。


 通常であれば4月の末に行われたランクアップ査定についてが主な内容になるのだが、今日の議題は1つのみ。

 実にシンプルで、とても重要な話である。


 『アトミルカ殲滅作戦』の軍儀が始まろうとしていた。


「では、これより監察官会議を始めます。進行は私、南雲修一が務めさせていただきます。まず、今日のオヤツですが、苺とピスタチオのパフェです。コーヒーも当然ですが用意させて頂きました」


 難しい話に挑むには、脳に充分な栄養を届ける必要がある。

 本部のカフェテリアでは先日、スイーツバイキングが行われたばかりであり、このオヤツはその余り物で作られている。


 が、その味は無類である。


「のぉ、修一よ」

「はい。なんですか、久坂さん」


「山根の小僧がお主の人外変異スキルの動画持って来てくれたんじゃがのぉ。いよいよ六駆の小僧に染まって来たのぉ! ひょっひょっひょ!!」

「人聞きが悪いですよ! 新しいスキルは私が望んだものですから! 決して逆神くんに影響されたわけでは!!」


「おお、すまんかったのぉ! 五楼の嬢ちゃんのためにつようなろうっちゃあ、ワシも師匠として鼻が高いで! やっぱり惚れた女は守らんとのぉ!!」

「ぶふぅぅぅぅぅ!! ……失礼した」



 五楼京華上級監察官。初めてのコーヒー噴きを披露する。

 これはもう秒読み段階に入ったか。



「ま、まあ、私のスキルの話はいいんですよ! 本題に入らせてください!」

「結婚式の日取りについてかのぉ?」


「ぶふぅぅぅっ!! ……失礼した。日引、コーヒーがなくなった。おかわりを頼む」

「ヤメてください、久坂さん! コーヒーなら私が噴きますから!! 五楼さんはまだ慣れていないんです!!」


 久坂剣友は満足気に「ひょっひょ」と笑い、目の前のパフェに手を伸ばした。

 楠木秀秋監察官は「コーヒーを噴くのに慣れるというものがあるのかぁ」と感嘆の息を漏らす。


「ストウェアのサーベイランスは問題ありませんか?」

『こちらは人工島・ストウェア駐留中の水戸信介監察官です。感度良好です』


「カルケルの方はいかがでしょうか」

『こちらは川端一真監察官。問題ありません』


 本部勤務の監察官は全員揃っているので、これで出席確認は終了となる。

 当然のようにいないのが雨宮順平上級監察官。


「うわぁ! ピスタチオって美味しいんですね! 木原さん、ピスタチオって何ですか?」

「知らねぇのかよぉぉ! 逆神ぃぃ!! タピオカの仲間で、モンスターの卵から採れるなんかアレなヤツだぜぇぇぇ!!」


 そして、当然のように出席している逆神六駆。

 もう誰も彼に対して「出て行きなさいよ」とは思わないし、何なら「逆神六駆がいると直接意見が聞く事ができて効率的」まである。



「……逆神。ピスタチオはナッツだ。つまり、豆だ」

「えっ!?」



 新年度になって一番驚いた表情を六駆が見せたところで、ようやく本題に移る事と相成った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まず、南雲から今回の作戦概要について説明された。

 既に全監察官に通達されているため、あくまでも確認のためである。


「要するに、同時刻にダンジョン攻略をする訳ですね。しかも、同じスピードで。そうでなければ、アトミルカの拠点のいずれかより他の拠点に連絡されてしまう。これでは我々の優位性がなくなってしまいます。……私、号泣した方がいいですか?」


 今のセリフを雷門善吉監察官が喋っていると諸君は何文字目で気付いただろうか。

 もしも20文字以内であれば、雷門監察官室はいつでもウェルカムだそうである。


「泣かんで良い。概ね、雷門の言う通りだ。今回の作戦で確実にアトミルカを殲滅せしめる。そのためには、一瞬たりとも向こうに優位な時間を与える訳にはいかん」

『よろしいでしょうか』


 モニターの向こう、ストウェアにいる水戸が手を挙げた。

 南雲は「もちろん。どうぞ」とハンドサインで発言を促す。


『そのデータ。01番さんから得たとの事ですが、信頼に足る確証はあるのでしょうか? 弱卒の身で差し出がましいようですが、万が一にもデータに誤りがあった場合は我々が一転して窮地に陥る恐れがあります』


 水戸の意見に「そうですね」と楠木も同調した。


「考えたくはないですが、01番さんのデータがあらかじめ悪意ある第三者に改ざんされている可能性も考慮すべきかと思いますね」


 当然の憂慮であった。

 出所が怪しいデータを頼りに作戦立案をするというのは、非常に大きな危うさを孕んだ行為とも言える。


 だが、南雲はきっぱりと答えた。


「01番のデータに関しては、99パーセント以上の確率で我々にとって有用であると私は考えます。その根拠をお聞きください。……逆神くん」


 パフェのおかわりを貰ってニコニコな六駆が「はいはい」と立ち上がってから言った。


「01番さんのデータはミンスティラリアの技術力でサルベージしたので、他者の介在の余地はないと思います! 万が一あるとすれば、01番さんを最初から放棄するつもりで僕たちに誤情報を与えるパターンが考えられますけど。整備と改修を担当してくれた魔技師のシミリートさんが、彼女の素材や構造は現世の技術だけではないと断言していました! 普通、捨て駒にする子にそんなウルトラ技術使います?」


 お金が懸かった時の逆神六駆は知性に溢れる。

 さらに、ピスタチオのアイスがお気に召した六駆の脳には栄養が絶え間なく供給され続けている。


『川端です。私は逆神くんの意見に賛同します。彼の言っている事は理にかなっている』

「ワシも六駆の小僧の考えと同じじゃのぉ。棚からぼたもち的なラッキーじゃと思うで。01番のデータを手に入れられたっちゅうのは」


 それでも水戸と楠木両監察官は「慎重に考える時間を持つべき」と主張する。

 対して「敵の準備が整っちまったら面倒じゃねぇのよ!!」と木原久光監察官までピスタチオで脳の回転を上げ、建設的な意見を述べる。


 どちらも聞くべき点のある意見だが、その議論は彼のたった一言。

 それで決着がつくのであった。


 六駆が「じゃあ、こうしましょう!」と言って、手を挙げた。


「もしも01番さんのデータが敵の罠だったら、僕の全財産を協会にあげますよ!! あ、すみません! パフェのおかわりもらえます?」



 慎重派が一瞬で黙り、「攻勢に打って出ましょう!!」と監察官たちの意見が1つになった瞬間であった。



 「あの逆神六駆が全財産を賭けても良い」とまで言うのならば、もはや是非もなし。

 既に逆神六駆の実力と人となりは全監察官の知るところになっており、彼がこれまで貯めて来た財産を放棄する事は、明日の朝、地球に隕石が衝突するよりもあり得ない事だと彼らは心得ていた。


『逆神くんの覚悟を拝見しました。水戸信介、意見を撤回します』

「ボクもですよ、逆神くん。君にそんな覚悟をもって説得されると、言葉がありませんね」


 六駆は3杯目のパフェを食べながら「話進めてください!」と南雲に言った。


「逆神くんの発言力が肥大化している件も、それはそれで問題なんだけどね。いや、まずは全会一致を歓迎しましょう。では、詳細な作戦内容について詰めていきます。……入ってくれ!」


 会議室に現れたのは、作戦のキーパーソン。


「失礼します。緊張感を感知。周囲とテンションを同期させます。グランドマスター、ご指示を」


 サイボーグ探索員・01番である。

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