第431話 必要なのは4つの部隊 ~第1回日本探索員協会チキチキ強制ドラフト指名レース~

 入室を許可され会議室に現れた01番は、まず頭を下げた。


「監察官の皆様。ワタシのデータの信憑性を確立できずにすみません。ステータス、力不足を検知。グランドマスターを責めないでください。作戦に不備が生じた際には、ワタシの命を破棄しても構いません。機械の身ひとつで事を収めることは不可能でしょうか」


 01番の堂々とした態度に、楠木監察官が思わず立ち上がった。

 彼は深々と頭を下げて謝罪する。


「ボクの瞳はどうやら曇っていたみたいです。あなたは機械などではありませんよ。01番さん。立派な、責任感のある人間です。先ほどまでの発言は全て撤回します。本当に、申し訳ない。許して頂けますか?」


 それは大人として、監察官として、立派な態度であった。

 01番もその気持ちに応える。


「楠木監察官からステータス、誠意を感知。誠実な上官として、命令権の上昇措置を取ります。ピコマスタークララの指揮権を低下。ミスター楠木。ワタシはあなたの命令なら喜んで従いたいと思います」



 01番の中で楠木の好感度が上がり、クララの指揮権が何故か下がった。



 少しだけしんみりとした会議室。

 南雲が「01番くんはこちらに」と言って、軍議を再開する。


 会議は長くやれば良いというものではない。

 短く、けれども内容は濃くが会議のあるべき姿。


「これから、4つの部隊を編成します。まず、指揮官についてですが、これは五楼さんと話し合って決めさせていただきました。まず、僭越ながら私、南雲修一。そして、五楼京華上級監察官。久坂剣友監察官。雨宮順平上級監察官。以上の4名がダンジョン攻略パーティーの指揮官として現場に赴きます」


 モニターの向こうで『ぶふぅぅぅぅっ!!』とオレンジジュースを噴いた男がいた。

 彼の名前は水戸信介監察官。


 雨宮順平上級監察官の弟子であり、雨宮順平上級監察官がいかにダメな人間かを最もよく知る人物でもある。

 彼は当然のように抗議した。


『南雲さん!! 雨宮さんに指揮官をさせるんですか!? 無茶苦茶ですよ!! あの人、現場指揮から最も遠い存在ですよ!? ヤメてください! 絶対に問題が起きます!! 幸いなことに、あの人は今ここにいませんから!!』


 どうして噂をすれば影が差すのだろうか。

 この謎は我々が生きている間に解明される日は来るのか。


『あららー! なにしてんの、水戸くん! あー! 分かったー! エッチな動画見てるんだー!! おじさんにも見せて、見せてー!! あら、監察官のみんながお揃いで! どうもー! ブラッド・ピットでーす!!』



『すみません! 通信を切ります!!』

「水戸くん! 待って! 気をしっかり持つんだ!!」



 会議が始まって既に30分。

 ようやく幹部全員が揃ったのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 指揮官に任命された久坂は快諾した。

 「まーたワシみたいな年寄りを頼りおってからに。仕方がないヤツらじゃのぉ! ひょっひょっひょ!」と、割とノリノリである。


「雨宮さんには、少数精鋭部隊を率いてもらいたいのです。他の部隊は4から6人程度の編制にしますが、雨宮さんは3人でお願いしたい。いかがでしょうか?」


 モニターの向こうの雨宮は親指を立てて即答した。


『オッケー! おじさんに任せときなよ! たまには協会のために本腰入れて頑張っちゃうよー! おじさんね、腰振るの得意なの! たはー!!』

『……もう自分は何も言いません。哀れな生贄になる人の冥福を祈ります』


 次に吐くセリフをどのように味付けしたら、彼はどうにか呑み込めこんでくれるだろうかと思案する南雲。

 だが、正解のない問題に挑んでも、答えがないのだから何も生まれない。


 そこで五楼が南雲に代わり、悲運の生贄の名を呼んだ。



「……水戸。すまんが、貴様は雨宮隊だ。雨宮と師弟関係なのは貴様くらいのものだ。雲谷もいるが、Aランクでは少々不安が残るからな。……おい、返事をしろ」

『……モルスァ』



 水戸信介監察官。

 ドラフト1位で雨宮隊に配属が決定する。


 そんな残酷なシーンを見ていた川端一真監察官は、哀悼の意を表明する。


『水戸くん。我々は監察官としての責務を果たさねばならない。これも良い経験だと思うことだ。君は若い。いつかこの艱難辛苦も糧となる日が来るだろう』


 南雲はさらに頭を抱えた。

 彼は優し過ぎるため、非情な通達をするには時間がかかる。


 そんな時は姐さん女房の出番である。

 「できる事はできる者に任せる」のは、夫婦生活円満の秘訣の1つだとか。



「非常に言いにくいのだが、川端。貴様も雨宮隊に加わってくれ。貴様ら3人はストウェアで長期任務に就いているため、連携が取りやすいだろう」

『……モルスァ』



 川端一真監察官。

 「私はカルケルの副指令だから大丈夫!」と高を括っていたところ、不意打ちでドラフト2位指名を受ける。


 なお、このドラフトは指名拒否ができない仕様となっております。


「まず、雨宮隊はこの3人で決定しています。いずれも一騎当千の監察官ですので、未踏のダンジョン攻略にも耐えられるという判断です」


『待ってください! 川端さんはともかく、自分には荷が重すぎます!!』

『水戸くん! 君は若いから平気だろう!? 私は中年だぞ!? 重責が過ぎる!!』


『あららー! 2人とも、既にやる気満々じゃないですかー! もぅ、じゃあねー! おじさん、本気出しちゃうゾ!! あ、間違えた! 今日も1日頑張るぞい!! あ、今日じゃなかった! 南雲さん、日取り決まったら教えてー!!』

『……モルスァ』

『……モルスァ』



 水戸監察官と川端監察官がモニターから消えました。



「さて、それでは残った3部隊の編制を決めようと思うのですが、皆さんのご意見を拝聴したく存じます。意見は挙手ののち発言してください」

「はい」


 雷門監察官が手を挙げた。


「どうぞ」

「やはり南雲隊にはチーム莉子を加えるべきではないでしょうか? と言うか、あの規格外のチームを纏められるのはあなただけのような気がします。……号泣した方がいいですか?」


 木原監察官が手を挙げずに立ち上がった。


「いいんじゃねぇの? 逆神がいるから、芽衣ちゃまも安心だしな! 南雲もちょっとだけオレ様の位に近づいたし。なぁ、みんな!」


 パフェがキマっている木原監察官。

 いつになく発言が建設的である。


 異議はなく、南雲隊の陣容が決定された。


「では、五楼隊と久坂隊ですが。どちらから決めましょうか?」

「久坂殿にお譲りしよう。私は最後で構わん」


 「そりゃあ悪いのぉ!」と言って、久坂も希望を述べた。


「ほいじゃったら、加賀美隊をうちにくれぇ。あやつらとはカルケルの任務で行動を共にしちょるからのぉ。じゃけど、ちぃと不安が残るけぇ。55のと逆神四郎さんも連れてってええか?」


「結構な大所帯になりますが……。でも、久坂さんになら纏められそうですね。どのメンバーも久坂さんと面識があると言うのも大きい。五楼さん、どうでしょうか?」

「ああ。それで構わん。四郎殿はかなりの使い手だからな。力になってくださるだろう」


 と、ここでパフェを4杯ほど食べて満足した六駆が提案した。


「だったら、五楼さんの部隊にはうちのクソ親父をあげますよ! こき使ってください!!」



「……モルスァ」

「ご、五楼さん!! 逆神くん、君ぃ! なんて事を言うんだ!!」



 その後、五楼隊は屋払文哉および青山仁香の両Aランク探索員と和泉元春Sランク探索員、そして逆神大吾と言う布陣で決定された。

 「攻防に隙のない良い編制ですね!」とは、逆神六駆の言葉である。


「では、ここからは01番くんに各地のダンジョンの特徴などについて説明してもらいます。……なんか、会議に参加している人が減ってませんか?」


 水戸、川端、そして五楼が立ち直るまで、約20分の時を必要とするのだった。

 むしろその短時間でよくぞ立ち直ったと褒めてあげて欲しい。

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