第428話 日常の最後は乙女の祭!! ~女子探索員限定、スイーツバイキング~

 本日。

 日本探索員協会の本部建物内にあるカフェテリアは男子禁制。


 協会では「女子探索員の慰労会」として、毎年母の日を目安にカフェテリアでスイーツバイキングが行われる。


 有名なパティシエを招くため、並ぶスイーツも定番のものから珍しいものまで選り取り見取り。

 さらにそのクオリティも折り紙付きとなれば、この日を楽しみにしている女子探索員も多い。


「じゃあ、六駆くん! 行ってくるね!」

「うん! 僕の事は気にしないで、楽しんでおいでよ!」


 チーム莉子の乙女たちも多分に漏れず。

 特に、莉子と芽衣は今年が初参加であるため気合の入り方が違う。


「わたし、朝からお水しか飲んでないんです! いっぱい食べて、栄養取って成長するぞー! おー!!」

「みみみっ! 甘いお菓子は芽衣も好きなのです! 楽しみです!!」


「小鳩さん、小鳩さん! タッパー持って来たけど、持って帰ってもいいかにゃー?」

「ダメですわよ? クララさんから時々、強烈な六駆さんの香りが漂うことがありますわね。わたくし、今日はあなたから目を離しません」


 小鳩さん。それは違う。今日「も」である。


 笑顔で南雲監察官室を出て行った乙女たちを、六駆も笑顔で見送った。

 コーヒーを注いだカップを山根が運んでくる。


「それにしても意外っすねー。逆神くんは絶対に行きたがると思ったんすけど」

「いや、本当にね。癇癪起こしてスキル使ったらアレだと思って、私なんか探索員装備の白衣に着替えてたのに。どうしたの、逆神くん。いつもの悪意がないね?」


「甘いなぁ。山根さんも南雲さんも! スイーツって、意外とすぐお腹いっぱいになるじゃないですか! スイーツバイキングで元を取るのって大変だって聞きますし! だったら僕は、量より質で行きます!!」


 そう宣言した六駆に応じるように、監察官室の扉が開いた。


「おお、揃っちょるのぉ。六駆の小僧、腹ぁ空かせちょるか?」

「久坂さん? どういったご用向きですか?」


「おっ、すまんかった! よう考えたらお主らに言うちょらんかったわ! 今日はのぉ、六駆の小僧にうなぎ食わせちゃる約束があったけぇのぉ。まあ、年寄りの財力を見せつけちゃろうっちゅうアレじゃ。お主らも食うじゃろ?」



「自分、久坂監察官室に転属願い出してもいいっすか!?」

「うわぁ! 僕も出そうかな! 南雲さんは頑張っても天丼だもんなぁ!」



 優秀な部下2人に同時浮気をされる南雲監察官。

 だが、彼は腹を立てない。


「なるほど。逆神くんが大人しかったのはこのおかげでしたか。正直助かります」

「ひょっひょっひょ! 修一も大人になったもんじゃ! さて、電話するかいのぉ! ……。…………。なかなか出んのぉ」


「お昼時だから混んでるんですよ! うひょー! 名店のウナギだ!! 楽しみだなぁ!!」

「久坂さん、番号見せてくれるっすか? あざっす。カタカタターンと」


 山根が端末にデータを打ち込むと、悲しい現実が待っていた。


「あのー。久坂さん。そのお店、今日は店休日っすね」

「そうじゃったか! いやー! おかしいと思うたわい! 普段は5秒で繋がるのに、ぜーんぜん電話に出りゃあせんからのぉ! ひょっひょっひょ!!」



「ふぅぅぅんっ!!! 南雲さん、離してください! 僕はスイーツを食べに行くんだ!!」

「は、離してたまるか!! 五楼さんに怒られる!! 『古龍化ドラグニティ四分の一クォーター』!!」



 古龍スキルの修行の成果をこんなとこで発揮する南雲。いや、ナグモ。

 彼の『古龍化ドラグニティ』は出力2分の1までならば自我を保つ事ができる。


「ほぉ! それが修一の新しいスキルか! ハイカラじゃのぉ! 角なんか生やしおって!!」

「とりあえず、撮影するっすねー」


 南雲監察官室は大惨事だが、乙女たちはいかがお過ごしだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カフェテリアには宝石のようなスイーツが並びに並び、壮観であった。


「芽衣ちゃん! こっちのカップケーキ美味しいよぉ!」

「みみぃ! 莉子さん、このフルーツタルトも美味しいです!!」


 片っ端からスイーツを食べまくる莉子さん。

 彼女はまだ「食べた分だけ体は育つ!!」と信じて疑わない。


 どんなに食べても胸部は1ミリだって微動だにしないのくぁwせdrftgyふじこlp


「クララさん。どうしてベリーのパフェばかり食べていますの?」

「だってー! 01番ちゃんがブルーベリー食べると記憶力が良くなって試験なんて一夜漬けで余裕って言うからにゃー!!」


「こんにちは、ミス小鳩。否定。ワタシはそこまで言っていません」

「ごきげんようですわ。ええ……。分かっておりますのによ……」


 01番も性別は女子。

 スイーツの味が分かるようにと、先日山根がミンスティラリアに行って彼女に味覚機能を備え付けており準備万端。


「あの。塚地さん? あなたのところのリーダーがものすごい勢いで食べているけど」

「まあ、青山さん! お久しぶりですわ!」


 彼女は青山仁香。

 楠木監察官室・隠密機動部隊所属のAランク探索員である。


「にゃははー。莉子ちゃんは今日に賭けてるのですにゃー。あー! 土門さん! こっちですぞなー!!」

「クララさん! 良かった! うちの部隊って女子は私だけなので、ちょっと心細かったんです! ……あの、小坂さんが」


 クララはロールプレイングゲームのNPCのように、同じセリフを繰り返した。

 加賀美隊所属、土門佳純も合流。


 Aランク探索員ばかりが集まる、豪華な集団が形成されつつあった。

 芽衣も実質Aランクなので仲間外れではない。


「なるほど。バストアップだったら、豆乳が良いって聞くわね」

「そう言えば、あっちに豆乳とバナナのスムージーがありましたよ」


 青山&土門の外様乙女、いらない情報を口にする。

 すると、「瞬動しゅんどう!!」と声がして、莉子がグループに合流した。


「青山さん! 土門さん!! ありがとうございます!! わたし、行って来ますね!! 『瞬動しゅんどう二重ダブル』!!!」


 お礼を言うと再び消えるような超スピードで会場を駆ける莉子さん。

 多分、豆乳とバナナのスムージーはあと数分で飲みつくされるだろう。


 だが、スムージー飲むくらいで胸部が膨らめば苦労しなくぁwせdrftgyふじこlp


「みみみっ! 皆さんこんにちはです! このアップルパイ美味しかったから、皆さんの分も持って来たです! みみっ!!」


 先ほどの莉子さんの奇行を目にした直後に、芽衣ちゃまの心優しい行動見た青山と土門。

 芽衣の可愛らしさが7割増しに感じられたと言う。


「木原さん、良ければうちのパーティーに来ない? あなたの分身スキル、潜伏機動部隊で活躍できるわよ! あと、可愛いし!!」

「加賀美隊に来たらいいのに! 隊長は人格者で、定期的にレクリエーションしたりするの! 楽しいですよ! あと、芽衣ちゃん可愛いから!!」


「みみみっ! なんだか芽衣はモテ期を感じるのです!!」


「小鳩さん! うちの芽衣ちゃんが取られちゃうにゃー!」

「これはいけませんわね! わたくしたちもスイーツで芽衣さんの気を惹きますわよ!!」


 実に楽しく賑やかな会場。

 その様子をカフェテリアの端から眺めて満足そうにしているのは五楼京華上級監察官。


「五楼さん! お食べにならないんですか? 私、プリン貰って来ましたけど」

「日引か。いや、実は最近少し過食気味でな。外食が増えたせいだと思うのだが……。体重が増えるなど、10年ぶりなのだ……」


 こちらにも、乙女がいた。

 六駆も南雲も別に体型で好きな人間を選んでいる訳ではないのだが、五楼いわく「そういう問題ではない」との事である。


 こうしてスイーツバイキングは大好評のうちに幕を閉じ、女子探索員たちは明日への英気を養ったのであった。

 なお、当然だが小坂莉子の胸部に変化はなく体重だけが結構な勢いで増えたとくぁwせdrftgyふじこlp

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