第398話 南雲修一、ソロ活動 ~ダンジョン攻略って10年ぶりなんだけど~

 監獄ダンジョン・カルケルの地上戦がひとしきり落ち着いた頃。

 南雲修一はドノティダンジョン攻略に励んでいた。


「やれやれ。本当にモンスターだらけじゃないか。まったく人の手が加えられていない期間が長かったせいか、第3層なのにかなり強いぞ」


 襲い掛かって来るモンスターを薙ぎ払いながら、南雲の孤軍奮闘が続いている。

 ようやく第4層への入口が見えて来た。


『南雲さん!!』

「うわっ! ビックリした! なんだね、山根くん」


 自分以外に人間がいないと思っている状態でいきなり名前を呼ばれると、9割の人間はビクッとする。

 残りの1割は訓練された人間なので動じない。



『うふふ! 呼んでみただけっす!』

「ふーざーけるなーよー! やーまーねぇー!! 今の私の驚いた声とか、全部スピーカーにして聞いてるだろ!? なんで重要な任務の最中にそんなドッキリ仕掛けてくるの!?」



 南雲修一、彼は9割の方であった。


 サーベイランスだけが話し相手と言う悲しく寂しい状況なのに、その話し相手がいたずらばかり仕掛けて来る。

 南雲本人も言ったが、彼はカルケル防衛作戦のキーパーソンである逆神六駆を救出するという極めて重大な任務の真っ只中である。


『いやー。南雲さんがいつになく緊張してるみたいだったんで! 自分、気を利かせてみたっす!! 我ながら、なんて上官思いの部下かと惚れ惚れするっすよ!』

「君はさ、明日地球が滅ぶって言っても私に何か悪意を向けてきそうだな。そんな事よりも、ちゃんとナビしてくれ」


『了解っす! おっと、前方! 次の角を曲がったら巨大な猿っぽいモンスターが2匹、いや、4匹確認できるっすよ! あっ、南雲さん!!』

「なんだね? 言っとくけど、強いとは言えこの程度のモンスターに遅れを取るほど衰えてはいないよ、私」


 モニターに山根の顔が映り、彼はニッコリと微笑んだ。


『これを見て、そして聞いて欲しいっす!』

「なんだよ、山根くん。モンスターが近くにいるんだぞ。重要な情報だろうね?」



『修一! 元気にしとると? お母さんたい! なんでも、あんたぁ! 大きな仕事ば任されたんてねぇ! お母さん、鼻が高いとよぉ! 近所で自慢ばするけんねぇ!』

「おおおおおい! 私の母じゃないか!! なんで私の母のビデオレターが急に流れ出すの!? あああっ! 今、動悸がすごいよ!! どうしたの、これぇ!!」



 モニターが南雲の母から再び山根健斗Aランク探索員に映りかわった。


『いや、南雲さんの士気を高揚させようかと思いまして! ご実家にサーベイランス飛ばして、大至急用意したっす!』

「血圧が一気に上がって、今急降下してるよ!! 倒れそう!! 何してくれてんの!? あと、私の母ってサーベイランス使えるんだ!? すごいな母ちゃん!!」


『あ! ちなみに、五楼さんがご挨拶してたっすよ!』

「うわぁぁぁぁぁぁ!! もう最悪じゃないかぁ!! ヤメろよ! 止めろよ!! なんか気まずくて、もう本部に戻れないよ!!」


 南雲の声が大きすぎて、猿型のモンスターたちが彼を出迎えに来る。

 名前はグルニッチモンキーと言う。

 最新の『ダンジョンモンスター百選』にも入っている、強力な怪物。


 それが4体ほど、南雲修一に牙を剥く。


「うぉぉぉ! 『双刀ムサシ』!! 『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』!!」

「ぎ、ぎぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 それを瞬殺する我らが監察官殿。


「君たちに恨みはないが、襲い掛かって来るなら容赦はしないぞ。今の私は少々イライラしている!」

『修一! お母さんばい! あんまイライラせんと、コーヒーでも飲んで落ち着きんしゃい! あんたぁ、昔っからコーヒーが好きやったもんねぇ!』



「おおおおおおおい! なんで複数パターン用意してるんだよ!! やーまーねぇー!! 君ぃ! 過去に類を見ないレベルで悪質な嫌がらせだぞ!!」

『修一! お母さんたい! 山根さんはよか人ばってん、あんまり叱りつけたらいかんよ? こげに慕ってくれる部下が持てて、あんたは幸せやねぇ』



 南雲は叫ぶ。

 「どんだけ撮ってるんだよぉぉぉ!!」と咆哮した。


 その声に反応して、強力なモンスターたちが続々と集まって来る。

 だが、彼はまったく臆することなくそれらを叩き斬り、あるいは撃ち抜く。


 南雲修一のダンジョン攻略速度がかつてないほどスピードを上げていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、ドノティダンジョンの前に到着した乙女が2人。

 小坂莉子と木原芽衣である。


「よぉーし! 芽衣ちゃん、2人だけで不安かもだけど、頑張っていこー!!」

「みみっ! はいです! 南雲さんが先に進んでいるなら、きっとモンスターも退治してくれてるです! みみみっ!!」


 かつて莉子は六駆と2人で御滝ダンジョン攻略に挑んでいたが、道中でクララがパーティー入りしたため、3人よりも少ないパーティーでダンジョンの最奥に挑むのはこれが初めてとなる。


 だが、諸君もご存じの通り。

 莉子さんはかつての莉子さんではない。


 芽衣ちゃまも、かつての芽衣ちゃまではない。


 2人とも、今や日本探索員協会が誇る屈指の女子探索員。


「がんばろー! おー!!」

「みみぃっ! おーです!!」


 ドノティダンジョンの第1層は綺麗に掃除されていた。

 南雲が先行して潜っているためであるが、特に第1層は用心して進んだ形跡が見て取れる。


 だが、南雲はまだ莉子と芽衣が援軍として後ろからやって来ている事を知らない。

 加えて、速度重視の攻略に徹しているためモンスターの討ち漏らしもかなり出ていた。


 第2層からそれが顕著になる。


「みみみっ! 莉子さん! なにかいるです! ドロドロしたのがいるです!! みみみみっ!!」

「あれはね、パープルアメーバって言うモンスターだよ! 核は良質なイドクロアなんだけど、今は採取している暇はないからサクッとやつけちゃおう!」


「みみっ! なにか飛ばして来たです!!」

「あっ、気を付けてね! パープルアメーバの体は溶解液の部分が多くて、それを受けると服が溶けちゃうから!!」


 サービスシーン担当モンスター、現る。


 だが、待ってほしい。

 チーム莉子のナイスバディを担っているどら猫クララと小鳩がこの場にいない。


 果たして、莉子と芽衣でサービスシーンが構成できるだろうか。

 莉子も芽衣も、進級と進学に際して身体測定を受けている。


 まずは芽衣さん。

 身長は2センチ伸びて、胸部もすくすくと成長中。


 続けて、莉子さん。

 身長は1センチ伸びて、胸部は昨年よりも数字が低くなっていた。


 しぼんだのか。

 いや、恐らく誤差の範囲だろう。


 つまり、まったく成長をしていないと言う事実がここに証明された。


「やぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「み゛み゛み゛っ!? 莉子さん!? ど、どうしたです!?」



「なんだかね、ちょっとイラっとしちゃったんだぁ。もう平気だよぉ!」

 諸君。この話はこれでおしまいである。



 それから、順調にダンジョンを攻略していく2人であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再び南雲修一の様子を見てみよう。


「や、山根くん!? 今の震動は何事かね!? 尋常じゃないほど揺れたぞ!?」

『あー。言ってなかったっすね。今、小坂さんと木原さんがドノティダンジョンに入ってるんすよ』


「そうなの? ああ、援軍を要請してくれたのか! それは心強いな!」

『南雲さんのお母さんのビデオレター編集してたら報告が遅れちゃいました!』


「君は本当にアレだなぁ。心根が腐っているなぁ」

『何言ってんすか! 自分が嫌がらせするのは、南雲さんが好きだからっすよ!!』


 南雲は第4層で休憩を取る事にした。

 単身よりも3人の方が攻略の効率が格段に上がるからである。


 ドノティダンジョンで飲むコーヒーは、渋みと甘みが美しい調和を生み出しており、南雲のささくれた心を穏やかに整えるのであった。

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