第366話 逆神大吾の友達100人できるかな! 監獄ダンジョン・カルケル 第11層

 監獄ダンジョン・カルケル。

 第11層から構成されるこの監獄の最深部。

 異界の門の先にある異世界・ウォーロストへと送致されない囚人の中では、最も凶暴な者たちがこの階層には集まっていた。


 カルケルでは重大犯罪者は上層に収監されるのが一般的だが、「この囚人は手に負えない」と判断された者たちは、最下層の第11層へと送られる。

 そこには看守の干渉もあまりなく、囚人たちが無秩序な秩序を作り上げていた。


「さあ。こっちだ。早く来い」


 そんな第11層に新入りがやって来た。

 ここまで落ちて来る者の数は少なく、荒くれ者たちの興味と視線を集める。

 その男の名は。


「ちょ、ちょまぁぁ!! ええっ!? なんか怖ぇよここの人たち! もう目が獣のそれだもん! ダメだ、ダメ! オレ、デリケートなんだよ! こんなとこじゃ夜も寝れねぇ!! 看守さん、オレ、違うんだ! 頼まれて来たんだよ、ここにはさぁ!!」


 逆神大吾、実に犯罪者っぽい往生際の悪さを見せながらご入来である。



「少し黙れ! お前はいきなり第11層に収監が決まった極悪人だ! 今さら悪あがきをするんじゃない!!」

「おーい! 待ってくれよ、看守さん! オレの目を見て! ほら、分かんだろ!?」



「ドブのように濁っているな。なるほど、犯罪者の目だ」

「ガールズバーのみやびちゃんには可愛い目してるねって言われんのに!? ちょっと、よく見て! ほらぁ!! あっ」


 大吾が良くないハッスルをキメた結果、看守の顔面に彼の頭が直撃した。

 カルケルでは、反抗的な態度の犯罪者はその階層にある懲罰房へ収容される。


「き、貴様! 拘束されながら看守に対して暴力を!?」

「おぎゃあああ! 違うんですよ!? 今のはたまたま! 偶然!! マジで!!」


 牢獄の中から指笛が鳴り、囚人たちが盛り上がる。


「よーよー! いい頭突きだったぜー! 新入りー!!」

「ワールドカップで見せたジダンの頭突きを思い出したぜー! ヒュー!!」


「も、盛り上がるんじゃねぇ! このオーディエンスども!! ヤメろよ、マジで!!」


 逆神大吾の掴みは上々。

 彼は犯罪者として一級の動きを我々に魅せてくれる。


「よー。看守さん。このおやっさんは何しでかしたんだ?」

「おうおう、そりゃあ聞きてぇなぁ!」


「黙れぇ! お前らなぁ! そーゆうのは守秘義務ってのがあんだよ!!」



「18件のスキルによる殺人だ。お前たちもあまり煽ると殺されるぞ」

「看守さぁぁぁん!! ってか、オレそんな罪状なの!? いくらなんでも盛り過ぎじゃね!? 凶悪ってレベルじゃねぇぞ、おおい!!」



 第11層まで落ちて来た囚人たちが、ゴクリとつばを飲み込む。

 通常であればそのような罪状、即刻異世界・ウォーロスト送りである。

 と言うか、収監される前に死刑になるのが普通である。


「と、とんでもねぇヤツが来ちまったぜ……」

「そりゃあそうだ。一般の牢獄スルーして、まず懲罰房に入るなんて普通じゃねーよ」


「勝手に盛り上がるんじゃねぇよ! なんだよここ! きたねぇ野郎しかいねぇし! ちくしょう、騙された!! 10万なんかじゃ割が合わねぇ!!」


 意味の分からない事を叫ぶ大吾。

 実は事実を包み隠さず叫んでいるだけなのだが、それが意味の分からなさに拍車をかけていた。


「来い! こっちが懲罰房だ!! お前たち、この逆神大吾は3日後に独房からそちらの牢獄に移すからな! 問題を起こすなよ!!」

「いやぁぁぁぁ! 待ってぇ! オレ、いきなり独りは嫌だぁぁぁ!!」


 こうして、大吾は華々しくカルケルデビューを飾った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 懲罰房に叩き込まれてから1時間。

 ステルスサーベイランスが起動する。


『逆神大吾さん。聞こえますか。こちらは日本探索員協会本部、オペレーターの福田弘道です。まず通信のために自分から独房へ入るとは、お見事です』


 今回のサーベイランスは、逆神家の3人に持たせた受信機を通して体内に発信される。

 よって、いわゆる「頭の中に声が……!!」状態を意図的に作り出せるので、聞く分にはどこでも問題はない。


 だが、こちらから何かを伝える時にはどうしても声を出す必要があるため、時と場合を選ばなければならない。


「ひでぇよ、福田さんよぉ! こんな劣悪な環境だなんて聞いてねぇぞ!!」

『落ち着いて下さい、逆神さん。息子さんからの情報ですと、あなたは普段から便座の裏のような環境で生活していると伺っておりますが』



「便座の裏って何だよ! そんなとこで人は生活できねぇよ!!」

『なるほど。確かに一理ありますね。情報を修正しておきます』



 大吾の担当オペレーターが福田弘道Aランク探索員になったのは、当然六駆と南雲の話し合いによるものである。

 「木原さんの相手を日々こなしている福田さんにならダメ親父を任せられる」と六駆の太鼓判付き。


 福田も「お給料の分は働かせて頂きます」と、いつものように抑揚のない声で応じたと言う。


『何かご不便な事態は発生していませんか?』

「いや、ご不便しかねぇよ!? なに、ここ! もう人の皮を被った化け物みてぇなのがうようよしてんじゃん! あいつら、なに!?」


『彼らはスキルによる殺人を犯した者たちです。アトミルカの人間も含まれております。また、他国の元探索員協会の者や、元探索員の者で、異世界において殺人を犯した者たちもその階層には多くおります』


 大吾は「なるほどなー」と答えて、2秒ほど黙り、叫んだ。



「超怖いとこじゃねぇか!! 異世界で人殺すとか、並大抵の事態じゃねぇぞ!?」

『そうですね。ですが、逆神さんも異世界で殺人を行った事があると息子さんから聞いておりますが? こちらも修正した方がよろしいですか?』



「あ。それはマジっす。平定するためにしょうがねぇ場合は、普通に殺しました。へへっ」

『なるほど。この情報は上に回しておきますね』



 その後、福田から第11層についての説明が続けられた。


 この階層は異世界に繋がる異界の門がある階層であり、アトミルカ側がシングルナンバーの奪還を企てるのであれば、必ず通過するであろう事。

 また、万が一、既に異世界・ウォーロストに侵入されていた場合、帰還して来る際は前述と同じく必ず通過する階層となっており、重要な場所である事。


 この2点を福田は噛み砕いて大吾にも分かるように説明した。

 離乳食くらいまでドロドロになった情報は、大吾の乾燥した脳でも理解ができた模様。


「そんなやべぇとこにオレが!? それ、六駆の仕事じゃねぇの!?」

『逆神さん。冷静になってください。息子さんは17歳ですよ? いくらなんでも、殺人を犯した者として潜入するのは無理があります』


「なるほどな! ……じゃあ、オレの退路ってもうねぇじゃん!!」

『ご理解が進んでいるようで助かります』


 その後も駄々をこねる大吾。

 福田は淡々とそれに応じていき、魔法の言葉を囁いた。


『逆神さん。あなたは先ほど、待遇に不満があるとおっしゃられましたが』

「おお! おっしゃったよ!? 不満しかねぇよ!!」



『この作戦には成果に対して追加報酬が与えられる事になっております。仮にアトミルカの侵入者を発見できれば、通報だけでもミニマム100万円ほどの報奨金が支払われますが』

「えっ!? ……オレ、精一杯頑張りますわ!! よっしゃ! 友達100人作りますんで! いや、もう! ホントにいい仕事を頂けて感謝しかねぇっすわ!!」



 こうして、逆神大吾の監獄生活は順調に幕を開けた。

 彼にとって犯罪者を演じる事など造作もない。


 普通に過ごしているだけで、主演男優賞は確実なのである。

 ニコニコえびす顔の大吾が懲罰房から出るまで、あと3日。

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