第362話 爪を研ぐ逆神家

 監獄ダンジョン・カルケル防衛作戦。

 その中でも大きな役割を持つ、逆神家潜入任務。

 彼らの出発まで、残り1週間に迫っていた。


「いやー。莉子がいてくれて助かったよ! 学校を休む手続きがあんなに難しいとは!!」

「もぉ! いきなり先生に、僕ちょっと収監されてきます! とか言うからだよぉ! 3年生になっても担任が石井先生で良かったね! ちゃんと申請書類受け取ってくれたし!!」


 逆神六駆は準備完了。

 新学年になって2週間登校しただけで期間が分からない長期欠席をする事になったが、そんなものを気にする人は彼の周りにもういない。


 莉子は六駆の出発までの期間をずっと一緒に過ごしており、しっかりとサポートもこなすデキた女房の地位をより強固なものにしようとしていた。


「のお、六駆よ。じいちゃん、こんなもの作ってみたんじゃが」

「なにこれ? ああ、前に言ってた収縮装備ってヤツ?」


「それよ、それ。ワシ、戦闘なんていつぶりかって話じゃしな。やっぱり武器はいくつあっても困らんと思って、結構色々と作ったんよ」

「南雲さんの話だと、持ち物検査みたいなのは上手い事通してくれる手筈になってるらしいけど、こんなに小さいなら普通にバレないっぽいね」


 逆神四郎の趣味はものづくり。

 逆神流スキルの習得に大活躍する【トロレイリング】も彼の発明品。


 そんな四郎が作ったのは、アトミルカ3番の使っていた『圧縮玉クライム』と性質がかなり似ているもので、武器や道具を小指の爪サイズに収縮させて持ち運べる優れもの。

 四郎は基本的に戦闘に参加せずバックアップに徹する予定だが、それでも備えはあって困るものではない。


 加えて、バックアップをするにも道具があった方が捗るのは間違いないかと思われた。


「名前はあるの?」

「面倒だからの。見た目が黄色いから【黄箱きばこ】でええんじゃないかと思ったんじゃが」


「いいんじゃない? 呼びやすいし。ねえ、莉子さんや」

「うんっ! おじいちゃん、とってもステキだと思います! 相変わらず、すごいですねっ! 材料とかどうなってるのかなぁ?」


 【黄箱きばこ】の製作には50万ほどの資金が投入されたが、それは当然探索員協会から支給されている。

 だから六駆は「もう好きなだけお金使っちゃいなよ!!」と四郎を煽っていた。


 人の金で色々と準備をするのは楽しいと知ってしまった逆神六駆である。


「そう言えば、お義父さんは? もう準備って済んでるのかなぁ?」

「クソ親父の生態について僕は詳しくないからなぁ。今日もどこに行ったのか知らないし。学校に行く前には家の中にいたような気がするけど」


「うんっ! なんか、お出掛けする支度してたよ? お気に入りのジャージ着て!」

「ああ。じゃあもう確実にあそこだ。ねえ、じいちゃん。親父に支給されたお金って渡した?」


「10万ならの。もうやったぞい?」

「うん。じゃあ、あそこだ」


 六駆は大吾の行方に興味を示さず、庭で『ゲート』を発現させた。

 彼の行き先も、言うまでもなくあそこである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の逆神大吾。


「くそっ! なんで200分の1が800も回して1度も来ねぇんだよ!! インチキだ! インチキ!! でも、台が温まって来た感じがする!! こりゃあ……あと2万以内に当たるな!! へへっ、今日のオレはまだ財布に4万もあるんだぜぇ!?」


 どうしようもない人間と言うのは、何をどうやってもどうしようもないのだ。


 どこで何をしているのかは敢えて明言しないが、万が一にも大吾の発言に「あるある」と同調してしまいそうになった人には、大丈夫、まだ間に合いますとだけ伝えておきたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちら、ミンスティラリア魔王城。


「こんにちはー! ファニちゃん! 元気そうで良かったぁ!」

「おおっ、莉子なのじゃ! 莉子はなかなか来てくれないから、今日は良い日なのじゃ!! ダズモンガー! お茶を用意するのじゃ!!」


 莉子はファニコラと久しぶりの再会なので、世間話に花を咲かせる予定。

 一方、六駆の用向きを理解している魔技師がやって来るまでに2分とかからなかった。


「くくくっ。英雄殿。そろそろ来られる頃かと思っていたのだよ。調整は完了している。塩梅を見るかね?」

「もちろん! お願いします!!」


「では、私のラボにおいで頂こう。さすがに、魔王様の御前で起動実験をする訳にもいかないのだよ」

「そうですね! 莉子! ちょっと行って来るよ!」


「あ、はぁーい! いってらっしゃい!!」

「ぬぅ。六駆殿は忙しそうなのじゃ。莉子! 莉子!! 妾の『石牙ドルファング』を見て欲しいのじゃ! ダズモンガー! そこを動くでないぞ!!」


 六駆とシミリートは、トラの武人が発する「ぐわああぁぁぁっ!!」と言う悲鳴を聞きながら、階段を上がって行った。

 魔王城の12階は全てシミリートの研究施設となっている。


「こちらが生まれ変わったサイボーグ01なのだよ。動力部が破損していたため、ミンスティラリアの魔力炉で代用した。武装も魔力炉に対応したものに全て取り替えておいたのだが、問題はなかったかね?」

「前より弱くなってないなら、何の問題もないですよ!!」


 シミリートは「ふっ」と笑って、「前よりも性能はアップしているから、安心すると良いのだよ」と不敵に笑った。

 続けて、魔力炉を起動させる。


 魔力炉は一度起動させると、エネルギーが循環し続ける永久機関になっているらしい。

 詳しい説明を六駆が聞いても分からないため、彼は説明を求めなかった。


「……起動。現状認識、開始。データベース参照。該当者、アリ。マスター・逆神六駆と判定。お会いできて嬉しいです、マスター」


 01番の内部に元からあったアトミルカの情報はそのままに、協会本部が提供した情報を加えて物知りになったサイボーグ。

 ちなみに、命令受理の序列第1位は逆神六駆と登録されている。


「おおっ! 元気になりましたね! 01さん!」

「マスターの表情から、思いやりを検知。お心遣いに感謝」



 六駆から思いやりは出ていないので、まだ調整が必要だと思われる。



「次の作戦とやらで、01を実戦投入するのかね? 英雄殿」

「そうですね! 今回、ちょっと特殊な任務なので! 僕が『ゲート』を出したら、この子を門の中にぶち込んでくれると嬉しいんですけど!」


「くくっ。承知したのだよ。ダズに言っておこう」

「01さん! アトミルカに復讐できますよ!! これは大チャンス!!」


「アトミルカ。ワタシの故郷。今は倒すべき敵。マスターにとって利益を生む泉のようなもの。01、了解。マスターの私的財産を増やすため、奮戦モードに移行」

「あらー! この子、素直で良い性格に仕上がってますね!! 大事にしてあげなくっちゃ!!」


 逆神六駆が新しい兵器をゲットした瞬間であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリアから引きあげて来た六駆と莉子。

 今日の晩御飯は、莉子が家から持って来てくれたビーフシチューである。


「いやぁ、参ったぜ! まさかストレートで10万逝っちまうとはなぁ! 六駆! お金のおかわりくれ!! 親父は白飯のおかわりくれ!!」

「は? 何言ってんの? 親父の分はあれで全部だよ。じいちゃん、親父のおかわりは粘土でもあげといて」


「マジで!? かぁー! そんじゃ、作戦本番で頑張って報酬貰わねぇとだな!!」

「親父が貰う報酬は、先に渡した10万円で全部だよ?」



「えっ!?」

「うん」



 逆神大吾の命の価値が10万円からプライスレスに上書きされました。

 彼は命をタダで賭けると言う、なんだか正義の使徒みたいなシチュエーションで作戦に臨みます。


「それにしても、莉子の料理はおいしいなぁ! ねえ、じいちゃん!」

「ホントにのぉ! いつでも嫁に来れるの、莉子ちゃん!」

「もぉぉ! おじいちゃんってば、気が早いよぉ! えへへへへへ!」


 穏やかに流れる時間だが、作戦の決行日は着実に近づいていた。

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