第344話 サイボーグにやさしく

 サイボーグ01番に組み込まれていた自爆装置は、六駆が空間転移させた。

 そこはデスターから30キロほど離れているにも関わらず、爆発と同時に凄まじい震動でその威力をキュロドス全土にお届けしていた。


「いやー! 危ないところでしたね!!」

「本当に君ってヤツは、お金あげると救世主みたいになるなぁ。って、ちょっと待て! 何持ってきてるの! 逆神くん、君ぃ!!」



「なにって、ロボですけど?」

「拾って来たらダメだよ!! このサイボーグには確実に通信機能が搭載されてるでしょうが!!」



 六駆は「でも南雲さん、分解してみたいでしょ?」と悪魔のささやきを口にする。

 「う、うぐぅ! 確かにそうかもしれん!」と、南雲はまたしても人のキメ台詞を勝手に借りた。


「と言うか、通信機とかもう使えない状態だと思いますよ? 動力部に爆弾がくっ付いてたんで、その辺を無理やり引きちぎりましたから」

「もう君の発言がサイコパスなんだよ。雲谷くん帰っちゃったから、再びサイコパス属性は君の独壇場だよ、逆神くん」


 六駆は速やかに次の行動に移る。

 そう、映っている事が問題なのだ。


「木原さん! その辺の壁と天井、全部破壊してくれませんか?」

「おおん!? 逆神ぃ! お前ぇ、オレ様に命令してんのかぁ!?」



「いえ。芽衣がおじ様にお願いしたいと言っています!」

「うぉぉぉぉぉん!! ダァァァァァァァイナ!! マァァァァイトォォォォォォ!!!」



 この時放たれた『ダイナマイト』は、壁や天井に仕込んであったカメラなどの監視用イドクロア加工物をすべて破壊し、ついでにデスターの煌気オーラ検知器をバグらせたと言う。

 六駆は「現在地の敵の監視を防ぎたい」と思い木原にオーダーを出したのだが、結果的にそれは過剰な形で実現された。

 その事実は六駆を含む全員が知らない。


「さて。南雲さん、南雲さん。このロボ、南雲さんなら直せますか?」

「ええ……!? ちょっとよく見せてくれ……。これは、構造自体が我々の技術と違い過ぎる。どこか、異世界の技術だろう。それぞれのパーツの役割や機能などの図面でもあれば、私の技術で応用も利くのだが」


「つまり、構造が分かれば南雲カスタマイズが可能だと?」

「え、ああ、うん。そうなるな」


 サイボーグ01番はバチバチと火花を全身から散らしながら、呟いた。


「ワタシ、もう、起動不可。作戦実行、不可。このまま廃棄される確率、99パーセント。最期、あなた。話、声、聞かせ……て……」



「ほら! 割と元気そうですよ!!」

「君の感受性ってどうなってんの!? もう完全に悲しい別れのシーンじゃないか!!」



 六駆は01番に優しく語りかけた。


「ロボさん。このまま壊れて溶かされて、南雲さんに訳の分からない装備の材料にされるのと、アトミルカさん裏切って元気に働くの、どっちが良いですか?」

「提案、理解不能。煌気オーラ、識別不可。だが、煌気オーラ出力により、指揮官と思われる」


「やだなぁ! 僕はただのDランク探索員ですよ! じゃあ、ロボさんの生殺与奪の権利は僕のものってことで! 南雲さん、行きますよ! ふぅぅぅん! 『ゲート』!!」

「えっ!? どこに行くの!? ちょ、やだ! 逆神くん!? 逆神くぅん!!」


 六駆は今にも爆発しそうなサイボーグ01番を抱えて、南雲の手を引き門の中へと消えて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、諸君にお聞きしたい。

 ここはどこでしょう。


 既にお察しの通りである。なんと言う慧眼をお持ちだろうか。


「六駆殿ぉ! 我々は英雄の来訪を拒みませぬが! 危険物の持ち込みは困りまする!! ここ、一応魔王様の謁見の間ですぞ!?」

「シミリートさんいます?」


「おおおい! なんでミンスティラリアに来るの!? 我々は作戦行動中だぞ!! 時間が惜しいのに、寄り道している暇はない! あと、ダズモンガーさん、すみませんでした!」


 慌てながらも状況を分析して、部下を叱責したあとは部下の粗相を謝罪する。

 異世界よ、これが日本の中間管理職の鑑である。


「くくくっ。これはまた、知的好奇心を刺激する土産をお持ちのようだね。英雄殿」

「あのですね、このロボ、修理してもらえませんか?」


「おおおい! 何をむちゃくちゃな事を言い出すんだ、逆神くん! すみません、シミリートさん! ええと、お久しぶりです! お元気でしたか!?」


 南雲の中間管理職プログラムも怪しくなって来た。

 「ああ。南雲殿も壮健そうで何より」と答えたミンスティラリアの魔技師は、01番の放つ火花や電流を気にも留めず、鼻先数センチまで接近する。


「これはこれは……。よく分からない部品も多いが、ミンスティラリアの魔道具で代用できそうだ。これをお借りしていいのかね?」

「どうぞ、どうぞ! バッチリ正義のロボに仕上げておいてください!」


「くくっ。拝承仕る。南雲殿、今は忙しそうだが、手が空いたら知恵を貸しに来てくれると助かる」

「ようやく逆神くんの狙いが分かったよ。君、使い捨てられた01番の事を思って……!! 意外と優しいじゃないか!! う、うぐっ……」



「南雲さん! このロボが探索員協会の兵器になったら、それって僕の手柄って事で良いですよね? つまり、報酬が発生しますよね? ……ね?」

「私、不覚にも君の行動で涙ぐんだ自分をぶん殴りたいよ。そうだった。逆神くんはそういう人だった。うん。五楼さんには私から話してみよう」



 六駆は「うひょー!」と鳴いて、「では、皆さん! 急ぐので帰ります!!」と言い残し、南雲と共に門の向こうへと消えて行った。

 滞在時間、わずか4分。


 パーソナルベスト更新である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぉぉぉぉぉぉん!! ダァァァァァイナマイトォォォォォォォ!!!」


 門を抜けると地獄であった。

 南雲は「転移先を間違えるなんて、逆神くんってばおっちょこちょい!」と現実逃避する。


「六駆くーん! もぉ! わたしも連れて行ってよぉー!」

「いや、ごめんごめん! 急いでいたからつい! 今度は一緒に行こうね!」


「もぉー! 約束だよぉ?」

「もちろん! 指切りする?」


 ほんわか高校生カップルのやり取りの背景は、爆発炎上する軍事拠点・デスター。


「加賀美くん! 君に聞くのが多分一番早い! 何がどうしてこんな事に!?」



「木原さんに木原さんが、おじ様となんか戦いたくなかったです! みみっ! と言ったら、こうなりました」

「難解なセリフに見えてすごくシンプル! なるほど、分かりみが深いな!!」


 そんな暴走する木原監察官を無視して、チーム莉子の乙女たちは最終決戦に向けて余念がない。


「芽衣ちゃん、もう煌気オーラが厳しいんじゃないかにゃー? パイセンのお尻に隠れててもいいぞなー」

「あら、わたくしのお尻だって隠れがいはありましてよ? 先ほどの戦いの大金星は芽衣さんですもの! がっちりお守りいたしますわ!!」


「みみっ! やっぱり芽衣のホームはチーム莉子です! おじ様の監察官室に行くと言う選択肢はナシです! みみみっ!!」


 南雲は加賀美と協議の結果、木原久光はこのままにしておくと決める。

 「最強の隠れ蓑になる」とは、六駆のお墨付きである。


 いよいよ、戦いのステージはデスターの最奥へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい。ヒャルッツよ。お前だけでも逃げとけ。ほれ、この端末にデータ入れといたからよ。それがありゃあ、1番様も半ギレくらいで済ましてくれんだろ」

「ふっ。悪いが、グレオ。私は意外と情に厚いのだ。01番を死なせて、私だけが生き残る訳にもいかないだろう?」


 4番と6番はグラスにワインを注ぎ、乾杯して一気に飲み干した。


「そんじゃ、まぁ! 最後の大暴れといくか! 目標は分かってんな?」

「ああ。もちろんだ」


「「古龍の戦士・ナグモをここで葬り去る!!」」


 今、風評被害が牙となり、南雲修一に襲い掛かろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る