第341話 監察官・木原久光の「来ちゃった!」

 少しずつ接近してくる者の姿が鮮明になっていき、急襲部隊は戦慄した。

 サイボーグ01番の見た目は、それだけで常識的な感性の持ち主を圧倒する。


「うわぁ! ロボじゃないですか!! すごいなぁ! ロボだ、ロボ!!」

「もぉー。六駆くんってば、はしゃいじゃってー。男の子ってロボ好きだよねー」


 この2人に誰も続かなかったので、常識人格付けチェックは完了する。


「椎名さん! なにか遠距離スキルを! 自分に合わせてもらえるかな!?」


「あいあいにゃー! ロボには雷属性ってゲームで習ったぞなー! 装備換装・強弓サジタリウス!! 『ヘビーライトニングアロー』!!」

「憂いは早く断つに限る! 攻勢壱拾壱式! 『紫電しでん雷鳥らいちょうななつの』!!」


 2人の放つ電撃属性のスキルは、動きが緩慢な01番を直撃した。


「やったか!!」

「逆神くん。君、わざとだな? 愉快犯ってこれだから嫌なんだよ」


 もちろん、やってはいない。

 それどころか、01番は体に受けたスキルを帯電させたまま、ゆっくりと接近してくる。


「仕方がないので、僕がやりましょうか?」

「待ってくれないか、逆神くん! ここで君の実力を披露してしまえば、最奥に控える最高指揮官にこちらの手の内を明かす事になってしまうよ! どうにか、自分たちで切り抜けるのが上策だと思う!」


 加賀美の言う事は理にかなっていた。


 現状、急襲部隊でまともに戦闘を行っていないのは六駆のみ。

 実は莉子の『苺光閃いちごこうせん』についても4番および6番共に気付いていないのだが、その事実を急襲部隊のメンバーも知る方法はない。


 よって、「逆神六駆の投入は最終決戦の際に」と言う加賀美の提案は、重ねて言うがなかなかに優れている。


「ならば、逆神くん以外で対応するか!」

「南雲さんもここは温存しておきたいです! あなたの場合は逆に、敵にとんでもない使い手だと思われているはずですので! 南雲さんが無事だと言うだけで、相手に与える脅威は計り知れません!! 小坂さんもここは下がっていて欲しい!」


 南雲も「確かにそうかもしれん」と人のキメ台詞をパクって応じる。

 つまり、サイボーグ01番の迎撃任務は、六駆、莉子、南雲を除いた者で対処しなければならないのだ。


「みみみみっ! 芽衣がかく乱させるです!! 先手必勝です! 『幻想身ファントミオル二重ダブル』!!」


 芽衣が200人に増えた。

 だが、芽衣も既に煌気オーラの残量が心許ない。


 この戦いに求められるのは、早期決着。

 急襲部隊の意志は一致していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは現世。

 協会本部の門から帰還した久坂と55番を仲間たちが迎えていた。


「久坂殿! ご無事で良かった!! サーベイランスで見ておりましたが、さすがに肝を冷やしましたよ!」

「おーおー。すまんのぉ、五楼の嬢ちゃん。意気揚々と出ていたっちゅうのに、恥ずかしゅうて仕方がないわい」


「とんでもない! あなたは充分に役割を果たしてくださいました! おい、山根!」

「はいはーい! 久坂さん、これを腕にはめてもらえますか?」


 山根がしばらくオペレーターから外れていたのは、久坂の治療用の道具を監察官室から持って来ていたためであった。


「こりゃあなんぞ? いきなりビリビリ電気が流れたりせんじゃろうのぉ?」

「大丈夫ですよ! そっちのパターンは南雲さんの椅子に仕掛けてありますから!!」


 山根が持って来たのは、『急速煌気供給機プロバイドリー』と言う名のイドクロア加工物。

 南雲が作った逸品であり、輸血のようにあらかじめ蓄えておいた煌気オーラを補給する事ができる機能を備えている。


 だが輸血と違い、この装置では内部で煌気オーラを汎用的なものに変換しているため、血液型のようなものがない。よって、万人に使用が出来る優れもの。

 まだ試作段階のため、この1機しかないのが難点である。


「おおー。こりゃあ気持ちがええのぉ。煌気オーラが流れ込んでくるわい」

「上質の煌気オーラっすからね! 逆神くんが提供してくれたんすよ!!」



「なんか、急に新鮮さが失せたんじゃが。それ、聞きとうなかったわい」

「心中、お察しいたします。久坂殿」



 治療を受けながら、久坂は思い出したように言う。

 「そう言えばのぉ」とのんびりとした口調で。


「こっちに引き上げて来る時に、新手の敵がおったんじゃ。ありゃあ、ちぃと厄介かもしれんで。ワシが役に立てそうにないけぇ、誰か代わりに助っ人してくれんか?」


 五楼京華は戦局をすべて把握していた。


 デスターの外では、未だゾンビ化したアトミルカ構成員とストウェア組が交戦中。

 川端一真による鬼がかり的な活躍でほとんど完全に鎮圧しているものの、雨宮の再生スキルによる治療が追いついていない。


 それは主に雨宮が「おっぱいの話しましょう!」と、中学生の修学旅行の夜のテンションで仕事に当たっているからである。


 手が空いているとなれば、竜人トリオと和泉正春が挙げられる。

 しかし、「現世の揉め事に異世界の力をこれ以上介入させる訳にはいかない」と五楼は考えているため、彼らも選択肢から外れる。


「仕方がない。この協会本部から増援を送るとしよう」


 五楼は言ったが、楠木は防衛指揮官。

 木原久光は防御の要として。両名を動かす事は出来ない。


「ふむ。ならば、私が出よう」

「五楼の嬢ちゃんが行くんか? そりゃあ事が片付くのは早かろうが、ちぃと問題があるのぉ」


 久坂剣友は55番に肩を揉まれながら、持論を展開する。


「デスターにおるんは、最上位が3じゃった。まあ、3はもう逃げたけどのぉ。で、現状のトップは4じゃ。つまり、まだ上がおるんよのぉ。軍事拠点っちゅうからには、戦いの様子は見学されちょるじゃろ? 五楼の嬢ちゃんのデータを取られるのは、避けた方が良うないか?」


 久坂の言いたい事は端的に纏めると、こうなる。


 アトミルカと戦うのは、国際探索員協会の総意である。

 だが、実際にそれを請け負うのは、最も優れた探索員で構成されている日本協会。


 つまり、その総大将である五楼京華の実力はできるだけ隠しておきたい。

 南雲が良い意味でも悪い意味でも目立っている現状ならば、なおさらの事。


 要するにデスターの六駆や莉子と同じ立ち位置。


「おっしゃる通りですが……。しかし、サーベイランスから聞こえる会話ですと、敵は未知の兵器。さらに戦闘を南雲と逆神、小坂抜きで行うようです。いかに加賀美が優れたSランク探索員であろうと、不安は残ります」


「では、私が行きましょうか」

「楠木殿がですか?」


 楠木秀秋は戦闘に特化したタイプではないが、支援スキルを使わせれば監察官の中でも上位に数えられる実力者。

 なるほど、サポート役を派遣するのは悪くない手だと五楼も思ったと言う。


「そうですね。では、楠木殿に……。おい。木原はどこに行った!?」


 気付けば、木原久光がいなくなっていた。


「あー。言った方が良かったっすか?」

「山根……。貴様、その口ぶりだと……」



「木原さん、芽衣ちゃまぁぁぁぁ!! とか叫んで、門に突っ込んでいきましたけど」

「何故それを言わん……。いや、監督責任は私にあるか。痴れ者め……」



 五楼と久坂がせっかく立てた計画を水の泡にして、最強の監察官が勝手に門の向こうへと出撃した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「みみみみっ! 『分体身アバタミオル』! からのー! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』!! みみぃ!!」

「ギギギ。破損、軽微。戦闘続行、可能」


 デスターでは、芽衣が先陣を切って戦っていた。

 彼女は幼いのに賢く、頭も切れる。


 「この戦いまでが自分の役に立てる限界点」だと既に悟っていた。

 だから、全力で煌気オーラを使い一番槍を務める。



「うぉぉぉぉぉん!! 芽衣ちゃまぁぁぁぁ! おじ様がぁぁぁ!! 来たぁぁぁぁぁ!!」

「み゛み゛っ!? ……もうダメです。おしまいです。みみみ……」



 戦意高揚の真っ只中にある最強の監察官。木原久光、きたる。

 その姪である芽衣は、秒で戦意を喪失した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る