第324話 いよいよ軍事拠点・デスターへ
「この竜の方々をお創りになられたのが六駆さんですの?」
「そうですにゃー。六駆くんが命がけで転生させたんですぞなー」
「六駆さん、意外と優しいのですわね」
「うにゃー。六駆くんはお金に目がくらんで命をかけたんですにゃー」
「あら、やっぱりそうでしたの? では、お排泄物ですわ」
「世間一般の常識に照らし合わせてみても、割とお排泄物ですにゃー」
戻って来たアタック・オン・リコ。
竜人たちと面識があるのはチーム莉子のみだが、スカレグラーナへ行っていない小鳩には、クララが事の次第と事情を説明した。
彼女も大概には逆神流に対しての理解が深まっている。
古龍を人に転生させたと聞いて、感想は短く「お排泄物ですわ」で済ませる。
六駆の奇行に動じなくなったら、それはもう立派なチーム莉子の一員なのである。
「それにしても、思い切った手に出ましたね、南雲さん。まさか、指揮官が自ら矢面に立つとは。かなり危険ですが、なるほど効果的だ!」
「違うんだ、違うんだよ加賀美くん。私、今回は全然、まったくのノータッチなのに、いつの間にか最前線に立ってたの。全部逆神くんの仕業なんだよ……」
現在、中断していた駐屯基地のアトミルカ構成員たちの治療が再開されている。
3番は彼ら負傷兵をチラリと横目で見ただけで、特に感想めいたものは残さなかった。
叱責するでもなければ、心配するでもない。
彼は兵隊に興味がない。
ならば、興味のないものに思考力を割くのはもったいない。
壊滅した基地を見たのが4番だったら、制裁が行われたかもしれない。
その点においても、彼らは幸運だった。
「申し訳ない、逆神くん。小生のエゴに付き合わせてしまいましたごふっ」
「いえいえ! 和泉さんがここに残るって言いだしてくれなかったら、変なタイミングでさっきの3番さん遭遇してましたからね! 逆にピンポンでしたよ!!」
和泉と六駆は2人で負傷者の治療中。
六駆の言うように、和泉が負傷者を治したいと申し出なければ、アタック・オン・リコで北上しているところを3番の『
そうなれば、先ほどの戦闘とは比べ物にならないくらい面倒な事態になっていただろう。
六駆がそう思うほどに3番は難敵であったと言う。
再戦の事を考えると、通常の六駆脳であれば「面倒だなぁ」で終わるに違いない。
だが、今回の急襲作戦において、逆神六駆には要所で現金が支給されている。
つまり現在の六駆脳では「どんどん来なさいよ!!」と、ウェルカム状態。
ウェルカム逆神六駆の脳は非常によく働く。
まるで全盛期の
六駆は『
そして、すぐに言った。
「じゃあ、竜人さんたちにはこの後、残った3つの駐屯基地を攻撃してもらいます」
「まだ帰らせてもらえぬのか……」
バルナルドの嘆きはスルーされる。
ジェロードとナポルジュロは知っているからだ。
「逆神六駆に異を唱えるだけ無意味である」と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほとんど意味のない嫌がらせなんですけどね。デスターの注意を少しでも散漫させておきたいんですよ。だから、竜人さんたちと和泉さんで良きタイミングを狙って、駐屯基地を順番に潰して行ってください。協会本部の人間が関与してないと後で五楼さんに怒られそうですし、ここは階級が南雲さんに次いで高い和泉さんにお任せして! ほら、和泉さんなら怪我人が出てもその場で対処できますし?」
「逆神がどんどん切れ者になっていくんでよろしくぅ……。怖ぇよあいつ……」
「もうほとんど作戦参謀のポジションですね。私たちは黙って指示に従いますからね?」
「屋払文哉が身の程を弁えて謙虚になっただけでもこの作戦に参加した価値がある」とは、のちの青山仁香の言葉である。
こうして逆神流が少しずつ探索員協会に影響を及ぼしていくのだ。
「逆神くんの作戦だが、私としては文句のつけようがない。総指揮官として、本部に確認だけさせてもらうが。まあ、普通に信任されるだろう。陽動役を引き受けてくださる竜人のお三方には感謝しかありません」
頭を下げる南雲に「いやいや」と応じる3人の竜人。
「ナグモの立場を慮ると、余はこの程度の雑事、喜んで引き受けよう。卿は本当に、何と申したら良いか。監察官と言うのは大変なのだな……」
「我らも鈍っていた腕を揮う良い機会だと思うことにしよう」
「ジェロードよ。やり過ぎてはならんぞ。ナグモの心痛の種をこれ以上増やすと気の毒である」
「ヤダ……。竜人さんたちの方が逆神くんよりずっと優しい……!!」
南雲はハンカチで目頭を押さえながら、本部に現状の報告をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「話は分かった。逆神の作戦で問題はない。だが、南雲。貴様の身の振り方に関しては少々不安が残る。本当に問題ないか?」
『どうも! 五楼さん! 逆神です! ごきげんよう!! 南雲さんの生命保険、いくらまでなら出します!?』
五楼は眉間にしわを寄せて答える。
「この痴れ者が……。貴様、私の想定の5倍くらい働いてくれているが、働かれると働かれるで言い知れぬ不安に襲われるのは何故だろう」
『1回南雲さんの命を救う度に、僕は100万円くらい欲しいんですけど!!』
「貴様の中で人命が極めて軽い事はよく分かった。その条件を飲むから、南雲を死なせないでくれ」
『うひょー! 任せといてください! じゃあ、南雲さんに代わりまーす!!』
五楼はこの後、結構ガチで南雲修一の身を案じたと言う。
これがどういった趣の感情なのかは、当人たちしか知り得ない。
「では、移動要塞でそのままデスターへと向かえ。場が整い次第、逆神に『
『了解しました。それでは、行って参ります。五楼さん。無事にそちらへ戻れましたら、美味い焼肉屋があるのですが……』
「縁起でもないフラグを立てるな。肉であれば、私も美味いステーキ屋を知っている」
南雲は「必ず生きて戻ります」と言って、通信を終えた。
監察官たちもウォーミングアップを始める。
「デスターっちゅうところは、あれかのぉ? 寒いんかのぉ? 腹巻して行った方がええんかいのぉ?」
「確かにそうかもしれん! そう思って、持って来ておいた! 使ってくれ、久坂剣友!!」
予備兵力の久坂&55番コンビ。
いつでも出られるコンディションが整っていた。
「うぉぉぉん! じーさん、ズルいぞ! オレ様だって敵の本陣に突っ込みてぇよ!!」
「木原くん。お願いだから万が一の時に備えておいてくれるかな」
守備指令官の楠木秀秋は、木原久光の制御をどうするかと頭を悩ませる。
とりあえず、オペレーター室から福田弘道を呼び戻す事にした。
「久坂殿の投入の前に、イギリスにいるストウェア組を働かせましょう。雨宮の痴れ者はともかく、水戸と川端は頼りになるはずです」
「ほうじゃのぉ。ちぃと心配な事があるんじゃけどのぉ。これ、言うてええか?」
「その前振りはあまり積極的に聞きたくないですが。どうぞ」
「雨宮の小僧じゃが。雷門のはもうあやつを捕まえられたんじゃろか?」
唯一にして最大の不安要素であった。
実は、1時間前から雷門と連絡が取れないのだ。
緊急事態の場合はむしろ連絡がすぐに入るはずなので、そちらの心配はしていない一同であるが、言葉にできない嫌な予感を抱いている協会本部であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
こちらは人工島・ストウェア。
「ンアーアーアーアーッ!! 雨宮さんが、イダ、いなくってぇー!! ナ゛ッ!!」
だいたい予想通りの展開が起きていた。
どうやら、雷門善吉監察官の苦難が始まるらしい。
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