第322話 古龍の戦士・南雲修一、爆誕させられる

 六駆は目の前で増えた3番の姿を確認しながら、キュロドスに突如として増えた強力な煌気オーラを感じ取っていた。

 古龍たちを竜人に変えたのは、他ならぬ逆神六駆のスキル。


 ならば、勝手知ったる自分の煌気オーラが混じっている彼らの参戦を勘違いするはずもない。


「バルナルドさん! 良かったですね! あなた嫌われてませんでしたよ!!」

「……余は過信せぬぞ。ナグモの交渉術の妙によるものかもしれぬ。竜人に転生してからと言うもの、ジェロードもナポルジュロもなんだかちょっと冷たいのだ。余は、それほど彼らにとって面倒な上司だったのだろうか」



 かつての帝竜バルナルド。なんだか心がメンヘラちゃんになっていた。



「よそ見をするとは、余裕ですね。1号機と2号機、若者を排除しなさい。彼はデータを取る上で邪魔です。それなりに戦えるようですが、竜人に比べると所詮は人間」


 3番の考え方は、実に科学者らしいものだった。

 まずは定石どおりに打つ。

 もちろん、イレギュラー因子があれば追加調査するが、目の前に未知の生物がいる現状で人間の方に注意をするのは逆神六駆を知らない者にとっては難しい。


 彼の姿は、黒い装備に黒いマントを羽織り、背中にでっかく「莉子!」と書いてある、どう贔屓目に見てもイロモノ枠でしかないのだから。


 そんな六駆に『人造人形クレイドール』の腕から螺旋状の光線が放たれた。


「うわぁ! 魔貫光殺砲まかんこうさっぽうだぁ!! 魔貫光殺砲ですよ、バルナルドさん!!」

「喜んでおるところに水を差してすまぬが。卿の背中にその何とかいう殺砲が直撃しておるぞ。卿は実力を隠しているのではなかったか?」


 六駆は「いっけね!!」と舌を出してから、「うわぁぁぁぁ!!」とか叫んで倒れ込んだ。


 螺旋の光線は3番のスキルで、名前を『リングロングファング』と言う。

 見た目通り、貫通力に特化したスキルであり、その威力は凄まじい。

 3番よりも劣っているとは言え、『人造人形クレイドール』の出力でも標的が人ならば簡単に風穴を空ける事は造作もない。


 が、何故か背中を痛がっている逆神六駆。


「……妙ですね」


 3番の疑問は当然だった。

 六駆がやっているのは、野球で喩えるなら内角の厳しい球に「当たりましたよ!!」とデッドボール喰らったふりであり、サッカーに喩えるなら全然体が当たっていないのに足首を押さえて倒れ込むシミュレーションである。


 が、今日の六駆にはツキもある。

 3番が違和感を忘れるほどの衝撃的な出会いを果たすからだった。


「バルナルド殿。生きておられたか。これは何より」

「ナグモがどうしてもと申すので、我らも助太刀に参りましたぞ」


 竜人ジェロードと、同じく竜人ナポルジュロが戦場に到着。

 未知の生物が3体に増えて、根っからの研究者である3番の興味は滝に呑み込まれるようにそちらへと連れ去られた。


「これは……! 素晴らしい! このような生物、多くの異世界を支配して来たアトミルカにおいても間違いなく初めての発見!! データを充分に採ったのち、必ず連れ帰りましょう! 777番くんはあっちの人間どもを任せます。用はないので殺しなさい」

「はっ! 了解いたしました!」


 3番はキュロドスにおいて負うべき責任がない。

 それゆえに、見慣れぬ侵入者がいても躊躇なく排除する。


 それをやって困るのは4番であり、自分ではないからだ。

 彼は研究のためならば捨てられるものは捨て、ギリギリ捨ててはいけないものも捨てる男。


 つまり、正体を隠したい南雲と六駆にとっても都合が良かった。

 南雲はほとんどノータイムで竜人たちを連れて来る決断をした逆神六駆の判断力に改めて恐れを抱く。


 「この子、万が一にもお金で釣られないようにこの戦闘が終わったら50万くらい渡しとこう」と思わざるを得なかったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「1号機、2号機、3号機。それぞれが竜人を相手しなさい。まずは殺さぬように気を付けて。そうですね。強度を測りましょうか」


 バージョンアップされた『人造人形クレイドール』は自律思考の精度も上がっていた。

 クリムトと同じ顔をした人形たちが頷くと、風のような速度で突進する。


「ほう。我らを相手に一人一殺を選ぶか。面白い。我が『ホグバリオンランス』の栄えある初めての獲物にしてやろう!」


 ジェロードはホマッハ族と一緒に作っている槍を持参していた。

 名を『ホグバリオンランス』と言い、かつて六駆が「これ欲しい!」と言って聞かなかった、スカレグラーナの秘宝剣の流れをくむ武器である。


 その刃は鏡のように研ぎ澄まされており、スキルの大半を弾く。


「発射角度、良好。衝撃対応、可。『リングロングファング』発射!」

「ふっ。光線の速度は確かに目を見張る。……が! それだけの事!! 逆神六駆のスキルに比べれば!! とぉりゃあ!!」


 ジェロードはスキルを使う事もせず、槍の刃で人造人形の光線を弾き飛ばした。

 その先には、バルナルドと相対している2号機が。


 不意打ちの形になり、2号機に『リングロングファング』が直撃する。


「が、が、活動限界。データ処理、可。戦闘続行、不可」

「……ぬっ?」


 初手で人形の1体を倒して見せる竜人チーム。

 だが、バルナルドには言いたい事があった。



「ジェロードよ。卿、なんで余の相手を狙うの? 卿らが来るまで、余はそれほど活躍してなかったのだぞ? このまま出番が終わったりしたらどうするつもり?」

「これはバルナルド殿。失礼した。ですが、貴公は古龍の時代に申されておった。戦いは早駆けであると。このままナポルジュロ殿の相手も頂戴しますかな」



 バルナルドは「そんな昔の話、余は覚えておらぬ。ひどいよ、卿」と呟いた。

 こうして、竜人たちによる出番争奪戦が幕を開けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 対して、少し距離をとった場所では南雲と六駆のコンビが777番と対峙していた。


「逆神くん。彼が私よりも強い事は分かっている。が、君の実力はまだ隠しておきたい」

「あらら、南雲さん気が合いますね! 僕もできるだけ面倒に巻き込まれたくないと思ってました!!」


「とりあえず、私が前に出る。君は援護をしてくれるか」

「援護だけで良いんですか? その流れだと多分、ナグモすぐに死にますよ?」



「そうなの!? じゃあ、もっと手厚いヤツにしてよ!! 逆神くんはさ、死んでも生き返らせられるせいなのか知らないけど、死に対してノリが軽いんだよ!!」

「この前ほとんど死んでた南雲さんが言うと説得力がありますね! 覚えておきまーす!!」



 「うふふ」と笑った六駆は、両手を広げて南雲に向ける。

 竜人たちを見ていて、思い付いたスキルがあったのだ。


「ふぅぅぅんっ!! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ』!! あっ! できた!!」

「ちょ、えっ、なに!? 待って、逆神くん!? ナニしたの!? なんか私、ものすごい煌気オーラが体に纏わりついてくるんだけど!?」


「いえね。僕って古龍を竜人に転生させたじゃないですか? だから古龍の煌気オーラの情報を覚えてまして。それって人に付与したらどうなるのかなって。これって新しいトリビアになりませんか?」

「おおい! 私で実験するなよ!! 怖いよ! なにこの圧倒的な力!!」


 六駆は「実験は成功ですね!」と喜んで、777番に向かって叫ぶ。



「このお方は日本探索員協会に所属している南雲修一監察官だ! 今からお前たちアトミルカを滅ぼす男!! よく見てご覧じろ!!」

「逆神くぅん!! 君に目立つなとは言ったけど、私を目立たせろとは言ってないよね!?」



 777番のリアクションに注目が集まる。

 彼はごくりと息を呑み、呟いた。


「南雲修一……。凄まじい煌気オーラだ。まさか、このような男がアトミルカを狙っていたとは……!!」


 南雲修一、新たな身バレと過剰な戦力計上の被害者になる。

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