第321話 竜人トリオ、キュロドスにて揃う

 スカレグラーナで南雲修一は必死の説得を続けていた。

 竜人たちと直接会うのはこれが初めてだったが、巨躯を誇り威圧感を無料で垂れ流す彼らに対して億さなかったのは、さすがは我らの筆頭監察官殿。


「そもそも、ナグモよ。バルナルド殿が苦戦していると言うのは、冗談ではないのか?」

「然り。バルナルド様ほどの力を持っている者が、貴公の世界にはいると?」


「ええと、正確には異世界なのですが! ですが、その異世界の民ではなく、相手は我々の住む現世の人間でして!」



「要するに、我らを越える人間がいると申すのだな?」

「ジェロード、貴公は理解力が高いな。さすが、若いだけの事はある。我はナグモの言っている事を理解するのが面倒で、適当に頷いておったものを……!」



 竜人の2人は話し合った。

 「今日シフトじゃないんだけど」が最大の懸念事項であり、休日にいきなり戦えと言われるのは彼らとしても承服しかねる。


 古龍たちは人の姿になって、人間らしい怠惰な性質を身に付けつつあった。


「わ、分かりました! では、こうしましょう! この戦いが終わったら、私どもの探索員協会でジェロードさんとナポルジュロさんのシフトの代わりに、スカレグラーナを守ります!! ああ! もちろん、色を付けます! 1日分などとケチな事は申しません! 3日、いえ、1週間ほどでいかがでしょうか!?」



「ふはははっ! ナグモよ。貴公は我らを知恵で御すと言うのか! なんと言う魅惑の言葉よ……!! ジェロードよ。これは乗るしかあるまい!」

「ナポルジュロ殿の申す事はいちいちごもっともである。ナグモ。我ら、1週間の休みのためならばこの力、貴公らに貸し与えよう!!」



 ちょっと見ない間に怠け者になっていた竜人たち。

 その城門を諦めずに叩き続けた南雲修一。


 15分ほどかかってしまったが、どうにか竜人2人の助力を得る事に成功した。

 ならば、急いでキュロドスに戻らなければならない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さかのぼる事、10分。

 キュロドスでは、逆神六駆とバルナルドが共闘していた。


「グルゥアァァァァッ!! 『ゴルドウィンド』!!!」

「……くっ! すみません、3番様! 私のために仕上げてくださった装備が!」

「本当に、すごい威力ですね! 金色のカマイタチ!! うひょー!!」



「逆神六駆。どうして卿は余の衝撃波を喰らって、あまつさえ敵側に吹き飛ぶのだ? 正直、元からあるアウェー感がさらに増して、余はもう帰りたい」

「すみません! バルナルドさんのスキルが金色なもので、つい!!」



 六駆が勝手にダメージを蓄積させているが、それは微々たるもの。

 対して、777番の装備は着実に損傷していく。


「いやいや、素晴らしい! 私の最新式の『鎧玉アームド』をボロボロにするとは! 極めて面白い! 竜人と言いましたか、その大きな御仁は! どうです? 私の下で働きませんか? なに、時々体をいじらせてくれれば、待遇は保証しますよ!!」


 傷ついた部下よりも自分の興味を優先する男、3番。

 クリムト・ウェルスラー。


 これまでも技術職に従事する者たちは多く現れたが、ここまで「マッドサイエンティスト」と言う表現の似合う者はいなかった。

 古龍を統べる帝竜であったバルナルドも、これには冷や汗を流す。


「逆神六駆。思えば、卿の父親も余にとっては相当な恐怖をもたらしていたが。アレが可愛く見えるような狂人ではないか、この男」

「本当ですね! だから僕、本気出してないんですよ! 絶対面倒なことになるでしょ!!」


 バルナルドは思った。

 「余の味方がいない……」と。


 六駆は既に3番が「強さに対する異常な執着」を持っている事を看破していた。

 これは、長年の異世界転生周回者リピーター時代の経験と勘が彼にそう告げていたのだ。


 1円の得にもならない面倒事はまっぴらごめんなのが、逆神六駆。

 彼は、どうにか自分に狂人のフォーカスが当たらないように立ち回っていた。


 それは成功しており、3番クリムト・ウェルスラーは戦闘能力においても8南雲以上の実力を有しているものの、煌気オーラ感知などは全て自分の開発した機械の出す数値しか信用しない。


 そして、その感知器を出す機会を奪っていた。



 竜人・バルナルドを囮にして。



 もちろん、援護はする。

 777番の放つ『滅殺砲ヘルファイア』は、9割を六駆が防いでいた。


 戦いに加わろうとしない3番のおかげで、それだけでもバルナルドと777番は対等にやり合えるだけのステージが整っている。

 よって、3番も六駆の事を「防御スキルに長けた若い達人」と見積もっている。


 潜って来た修羅場の数が違えば、相手の知将を騙すのもお手の物な六駆おじさん。


「ガァアァァァァッ!! 『コールドゴルドブレス』!!」

「なっ!? 『滅殺砲ヘルファイア』の威力が押し負ける!? ぐ、ぐあっ!?」



「なるほど! 氷属性まで使いこなすとは、さすが元古龍! 万能ですね!!」

「右半分が氷漬けになっておる卿が心配でならぬのだが。もういい加減に余のスキル喰らいに行くのはヤメにせぬか?」



 バルナルドの願いは天に通じる。

 巨大な煌気オーラが2体。キュロドスの地に出現した。


 3番と777番は検知器の数値を測る。

 その反応がバルナルドとほぼ同等だった事は、3番のテンションを更に上げた。


「困りましたね、777番くん! こんなにステキな実験動物が生息していたのですか! キュロドスには!!」

「そのような報告は受けておりませんが……。3番様。情けない事を具申致します。私だけではこの竜人を相手にするのが手一杯でして……」


 3番は「それは当然ですね」と答えて、『圧縮玉クライム』を3つほど出した。

 それは、7番が人工島・ストウェアで使用した『人造人形クレイドール』だった。


 7番に持たせたのは試作機。

 そのデータを回収した3番はこの短時間で改善を施し、完全版を作り上げていた。


「私の分身でお相手しましょう。スキルの数は2に設定。強度は4割。これくらいが慣らし運転としては適切ですか。さあ、起動ですよ!!」


 何やら丸めたアルミホイルみたいなものを3番が投げると、それは全てが3番と同じ姿に変容する。

 煌気オーラの総量は3番を模すと『人造人形クレイドール』が耐えられないため、彼の3分の1ほどになっている。


 オリジナルも含めて4人になったクリムト・ウェルスラーを見て、六駆は叫んだ。


「め、メタルクウラだ!! メタルクウラですよ!!」


 その件は雨宮上級監察官がもうやったので、割愛する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 戦場から3キロほど離れた地点に、竜人・ジェロードと、同じく竜人・ナポルジュロが降り立った。


「これが異世界転移と言うものか。なかなか興味深い」

「ジェロード。貴公はどうして武器を携えておる? 我のヤツはないのか?」


「これはこのジェロードが自分で制作したものですゆえ。ホマッハ族が鍛冶について教えてくれるのです。ゆえに、貴公の武器はありませんぞ」

「ズルいではないか。……よし、逆神六駆に頼んで出してもらうとするか」


 南雲はまだ交戦中である事にホッと胸をなでおろした。

 が、それも束の間。


 3番の『人造人形クレイドール』が発動した瞬間、とんでもない量の煌気オーラを感じ取った。


「参ったな。これでは私が足手まといになってしまうぞ」


「ナグモ。そう悲観する事もない。戦いとは、相性やタイミングも重要である。貴公には経験によって、その素養がある」

「ナポルジュロ殿の言う通りだ。万が一の際には、我らが盾となろう」


 南雲修一は思った。


「竜人になったこの人たち、下手すると逆神くんよりも優しいんじゃないの?」


 即刻否定できないのが辛いところであるが、「六駆も結構優しいよ」と監察官には思い出してもらいたい。

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