第290話 気付けばそこにチームワーク

「ふぅぅぅんっ! 『光剣ブレイバー』!! 一刀流! 『陸上飛魚斬バウンドパニッシュ』!!」


 開始の合図と同時に、六駆は敵の分断を図るべく一太刀を見舞う。

 飛び魚のように跳ねまわる斬撃は、確かに監察官選抜の間に地割れを起こした。


「おお、真っ先にワシを狙うてくるたぁ、いやらしい小僧じゃのぉ! 年寄りを労わらんか! 鳳凰拳! 『一滴万雷いってきばんらい』!! そりゃあっ!!」


 武舞台に手刀を突き立てる久坂。

 『一滴万雷いってきばんらい』は雷属性と麻痺属性を合わせた、煌気オーラに反応する地雷を散布するスキル。


「うわぁ! もう完全に足元狙いに徹底する構えじゃないですか! だからお年寄りって怖いんだよなぁ! この辺りはうかつに踏めませんね」

「ひょっひょっ! じいさんを舐めんでほしいのぉ! おい、木原の。出番じゃぞ」


 いくら武舞台を割ったところで、飛行能力のある者に対しては意味をなさない。

 木原久光が『ダイナマイトジェット』で飛んできた。


「うぉぉぉぉん! 逆神ぃ! お前に恨みはねぇけど、ダイナマイトォォォォ!!」

「しまったなぁ。空中じゃ、選択肢が限られる! 『空盾・連凧エアバックル・カイト』!!」


 六駆は木原の『ダイナマイト』を飛び上がった状態で喰らい、はるか後方へと吹き飛ばされた。

 これには他のメンバーも面食らうが、目覚ましにはちょうど良かったとも言える。


「逆神くんの作ってくれた隙を生かそう! 青山さん!」

「了! 先攻します!! 『ソニック・フライングニードル』!!」


 加賀美の指示で青山が音波の棘を構築し、久坂と木原に向けて発射。

 当然のことながら、この程度のスキルでは2人にとって障害にすらならない。


「これはボクが引き受けましょう。『ソニック・ツインニードル』!!」

「そう来ると思いました! 楠木監察官、ご無礼を!! 『紫電しでん雷鳥らいちょう』!! うおぉぉぉぉっ!! さらにぃ! 『太陽たいよう白鳥はくちょう』!!」


 加賀美政宗は雷を帯びた鳥と、業火を纏った鳥をほぼ同時に撃ちだした。

 青山のけん制によって前に出ていた楠木秀秋はこの攻撃にさらされる。


「こりゃあ! いけんのぉ! 青龍拳! 『竜爪横流りゅうそうよこながし』!!」

「うぉぉぉぉんっ! 久坂のじーさん、何してくれてんだぁよぉぉぉぉ!? いてぇじゃねぇか!!」


「そがいなところに居るお主が悪いじゃろうが! いかん、もう一発来るわい! 『竜爪横流りゅうそうよこながし』!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!」


 五楼京華は言った。

 この戦いは逆神六駆を無力化する事に主題を置くと。


 事実、無事に六駆は一時退場中である。

 だが、六駆がいなくなった事でBチームにチームワークが生まれる。


 何かが生まれたら、何かが壊れるのが世界の真理。


「じーさん! 2回目はさすがに俺様もキレるぜぇ!? いてぇじゃねぇのよぉ!!」

「そがいなこと言われてものぉ。楠木のを庇っちょるわけじゃから、必然的に攻撃を受け流す方向も決まるっちゅうもんじゃろ?」


「小難しいこと言ってんじゃねぇよぉぉぉぉ!!」

「木原の。お主、55のよりも頭悪いのぉ」



 監察官選抜の双璧が、今まさにガラガラと崩れている。



「……痴れ者め。何をやっているのだ」


 これには五楼も渋い顔。

 六駆と言う目標を失った巨大戦力が勝手に共食いを始めようとしていた。


 そこに飛んでくるのが逆神六駆。

 彼にはスカレグラーナで身に付けた『竜翼ドラグライダー』がある。


 どこまで飛んでも普通に飛んで帰って来る、最強の男。


「小鳩さん、小鳩さん! 合体スキルといきましょうよ!」

「なっ!? 逆神さんとですの!? あなたのようなお排泄物と合体しろと申されるの!? い、嫌ですわ! ひゃあ! お放しになって!!」


 小鳩が空飛ぶ六駆にさらわれた。

 そのまま久坂と木原、そして楠木のいる地点の上空へ。


「はい! 小鳩さん! やったげて!!」

「お、お排泄物ですわ! 分かりましたわよ!! 『銀華ぎんか・十六枚咲き』!!」


「はい、この衛星に僕が推進力を加えると!! 『銀華流星群シルバーメテオ』!! 和泉さん! なんか良い感じのヤツ、お願いします!!」


 最後方にいたはずの和泉正春が、ほふく前進で武舞台の中ほどに到達していた。

 実にゆっくりな進行だったため、誰も気づかなかったのだ。


「げふっ。それでは、小生とっておきを……。『過剰な回復は毒ラットゥン・スリップ』」


 久坂たちの足場が一瞬で腐る。

 ヘドロ状になった武舞台は、斜めになり流れ落ちていく。


 和泉の使うスキルの8割は治癒関係。

 残りの2割も補助スキルのため、彼に純粋な攻撃を望むのは得策ではない。


 だが、このように状況が噛み合えば、彼の力も攻撃に転換する事が出来るのだ。


「こりゃあいけん! ワシ、清潔感を売りにしちょる年寄りじゃけぇ! こがいな臭そうなもんにゃ触れとうないわ! すまんの、木原の小僧! ひょっひょっ!」

「だぁあぁぁっ!? じ、じーさん!! 何しやがぐうぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 腐った武舞台の崩壊に巻き込まれた木原久光。

 最強の監察官が最初に脱落すると言う大波乱が起きていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『これは見事な手際です、Bチーム! 木原監察官を最初に落としたぁ! このスマートな狙いは誰の発案でしょうか!? 南雲監察官!』

『……偶然ですね。逆神くんの良くないハッスルを見て見ぬふりしたのが功を奏したと言いましょうか。逆神くんを放っておけば、チームワークが生まれると言う事がわかりました。私も勉強になるなぁ。なるほどなぁ』


 「六駆をリーダーにする」という事は、「六駆以外の者が結束する」という事になるらしかった。

 結果として、Bチームは存在しなかったチームワークを形成。


 対して、なまじっか自分が強いせいで協調性が取れない久坂と木原は、まんまとBチームの連携の餌食となった。


『久坂監察官も木原監察官となんやかんやしているうちに、疲労の色が見えるー!! 70のおじいさんに連戦はきつかったかぁー!? 五楼上級監察官のパワハラ案件の疑惑が生まれる運用方法です!!』



『えっ!? なんでこっちを見るんですか!? 私は同調しませんよ!? 日引くん、君ぃ!! やり方が山根くんのそれと本当にそっくりなんだけど!?』

『南雲監察官! なかなか罠にはかかりません!! 実に惜しかったー!!』



 南雲が上官批判をギリギリで回避した頃。

 その上官が福田と楠木に何やら指示を出していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いいか。福田は陽動役。楠木殿はその援護を。久坂殿は……大丈夫ですか?」

「年寄りにゃあキツいわい。よっしゃ、陽動じゃったら任せぇ! 先陣をワシが務める! ……じゃけぇ、それで退場してええかいのぉ?」


「分かりました。では、久坂殿の陽動ののち、福田と楠木殿がさらに場を混乱させる手筈で。……残りは私が相手をしましょう」


 監察官選抜としても、相手が六駆だとは言え完封負けをするつもりはなかった。

 五楼が提案していた「逆神六駆を欠いたシチュエーション」は一応の実現を見た訳であり、ならばここからは強大な敵役を演じるにやぶさかではない。


「ほいじゃあ、行くで? 55のと一緒に正月休みに考えたんじゃ、これ。多分効果あると思うんじゃがのぉ。とぉりゃ! 『偽造紙幣乱舞マネーフラッシュ』!!」


 久坂剣友、法律のギリギリを攻めるスキルを発現。

 日本銀行券の良く出来た模造品を構築し、上空に煌気オーラ弾と共に撃ち上げると手の平を開いて四散させた。


 当然、ただの偽札が舞い散るだけであり、55番の『ローゼンクロイツ』と同じ、「ただ見た目が派手なスキル」でしかない。



「う、うひょー!! 9割偽札だと思っても! う、うひょー!! 1割の可能性を僕は捨てられない! う、うひょー!!! うふふふふふふ!!!」



 だが、逆神六駆に対して、これほど効果的なスキルもないかと思われた。

 新鮮な間抜けが一匹釣れました。

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