第289話 Bチーム出陣! 師匠はできるけどリーダーはできない最強の男

「いやー。どうもすみません! なんか戦って来いって南雲さんに言われました!!」


 逆神六駆、Bチームに合流する。

 Bチームの陣容はAチームにいなかった者なのだが、念のために並べておこう。


 和泉正春Sランク探索員。

 加賀美政宗Sランク探索員。

 青山仁香Aランク探索員。

 塚地小鳩Aランク探索員。



 逆神六駆Dランク探索員。



「逆神くんと一緒に戦えると思うと、気分が高揚して来るね!」

「加賀美さんだけでも余裕じゃないですか? 僕、出る必要あるかなぁ?」


「よろしくお願いいたしますわ、青山さん! もうわたくしたち、親密な先輩後輩の関係ですわよね!?」

「え、ええ。そうね。とにかく頑張りましょう」


「では、和泉さん! 我らの指揮をお願いします!!」

「小生がですか? ごふっ……。あっ、失敬。驚いて血を吐いてしまいました」


 おわかりいただけただろうか。

 Bチームには単独でも充分戦えるメンバーしかいない。

 だが、足りないものもある。



 深刻なリーダー不足という問題がにょっきりと芽を出した。



「ランク的にも、キャリアを考えても和泉さんが適役だと自分は思いますが!」

「がふっ。いや、小生の活動時間は7日目のセミより短いですゆえ。げふっ」


「青山さんがやられてはいかがかしら? 確か、潜伏機動部隊の副隊長や小隊長を歴任されていましたわよね!」

「じょ、冗談じゃないわ! こんな人たちを指揮するなんて、私には無理!!」


「小生はぐふっ。加賀美くんに任せたいと思げふっ。うゔぉあ」

「自分の杓子定規な指揮では監察官選抜を相手に通用しませんよ! やはりここは……!!」



「仕方ないなぁ! じゃあ、僕がやりますよ! もう、みんながそう言うなら!!」



 4人の口が一瞬で重くなった。

 蓋でも閉められたのだろうか。

 数分間、誰も発言をしなかった。


 4人とも、六駆の実力は充分に理解しているし、味方として戦うのはこの上なく心強いとも感じている。

 だが、指揮を任せて良いものかと考えると、各々の意思は結託する。


 「なんか嫌だ!」と4人は思った。


 無情にも、そこで実況を務める日引の声が響いた。


『さあ! それでは、模擬戦闘訓練、2戦目に行ってみましょう! Bチームの皆さんは所定の場所に移動をお願いします!!』


 まず柔軟な対応をしたのは、加賀美だった。

 さすがは才能と努力の両方でSランクを勝ち取った男。


「……よし! では逆神くん! フォーメーションはどうすれば良い!?」

「なんか良い感じに散らばってください! それで、塩梅の良いところで合図しますから、攻撃してください!!」


 逆神六駆は指揮官に向かない。

 ご存じだっただろうか。それは失礼。


 Bチームは不安を装備して、何となく良い感じに散らばって行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 Bチームに対する監察官選抜。

 ガチの陣容である。


「うぉぉぉぉん! 逆神は俺様がやるからよぉぉぉぉ! みんな邪魔しねぇでくれよなぁぁぁ!! 聞いてんのかぁ、福田ぁ!!」


 木原久光監察官が既に比喩ではなく触ると火傷するほどの熱を発していた。

 隣には涼しい顔の福田弘道Aランク探索員。


「木原さん。煌気オーラの出力を下げてください」

「なんでだよぉぉぉぉ! 滾って仕方がねぇんだよぉぉぉぉ!!」



「姪御さんが熱波で火傷されてもよろしいのですか?」

「福田ぁ! お前は目の付け所が違うなぁ! 煌気オーラを全カットしたぜぇぇぇぇ!!!」



 だいたいの敵ならこの2人で片付くだろう。

 だが、さらにメンツは増える。


「ワシ、連戦するんか? 面倒くさいのぉ。じゃけど、六駆の小僧と拳合わせるのは楽しそうじゃけぇ、まあええか! 55の。湿布貼ってくれぇ!」

「無理をするなよ、久坂剣友! あなたに何かあれば、わたしは路頭に迷う!!」


 セコンドの55番に「大丈夫じゃて。適当なところで切り上げるけぇ」と答える、探索員協会の大ベテラン。


「このメンバーだと、ボクが足を引っ張りそうですね。場違いなところに来てしまった」

「何を仰るか、楠木殿。私はこの部隊であなたが一番まともだと胸を張って言えますよ」


 楠木秀秋監察官は後方支援として出陣。

 そこに五楼京華も連戦で加わる。



 日本探索員協会の限りなく最強メンバーが揃っていた。



「全員、聞け。本来ならば今回も忖度なしのガチンコ勝負を! と、言いたいところだが。我々は何を置いても逆神を無力化する事に集中する。逆神を封じられた際の戦い方を急襲部隊には学ばせる必要があるからだ」


 久坂が頷く。


「ほうじゃのぉ。六駆の小僧は確かに強いで? じゃけど、常に小僧が戦える訳じゃないけぇ。言うたら、あやつがおる事で崩れるバランスもある」

「チーム莉子は逆神くんを上手く使っていますが、今回の急造チームで同じ事ができるのか。できないのならば、どうするか。そこがポイントですな」


 楠木が久坂の言葉を引き取った。


「うぉぉぉぉん! 芽衣ちゃまぁぁぁぁ!! おじ様、頑張るからねぇぇぇぇ!! アイラブユー!! ユーラブミー!!!」

「木原さん。煌気オーラが漏れています。武舞台が溶けるのでヤメてもらえますか?」


「木原は好きにしろ。福田、すまんが任せるぞ」

「かしこまりました。お給料分は働かせて頂きます」


 監察官選抜の準備も整った。

 本気を出せばアトミルカ本隊とも争える武力の全てが、逆神六駆無力化のために動く。


 極めて特殊な戦闘形態を用意して、彼らは開始の合図を静かに待つ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『皆さま、まだまだ戦いはこれからです! Aチームは言わば正統派の戦い方をしましたが! しかぁし!! Bチームは実力者が揃っております! そこに加わるのは南雲監察官の懐刀! 逆神Dランク探索員っ!!』


 南雲はコーヒーを一口飲んで、否定した。


『ヤメてください。あんなもの懐に入れといたら数秒で血だらけです。5分もしないうちに心臓に突き刺さります』

『嫌よ嫌よも好きのうちぃ! 南雲監察官、口ではこんな事を言っておりますが、コーヒーがダバダバと溢れております! 体は正直だぁー!!』


 南雲は思った。



 「あっ。日引くん、山根くんと波長が合うんだな。感性似てるよ」と。



『それでは、実況はわたし、五楼上級監察官室所属、日引春香Aランク探索員が引き続き行います! 解説には、南雲監察官!!』

『神に祈るのはヤメました。神様っていじわるですから。全然私の願い聞いてくれないんです』


『これは南雲監察官! 先制攻撃ぃ! 逆神Dランク探索員と神を掛けた、高度な言葉遊びだぁー!!』

『……本当に、日引くんから山根くんみを感じるんだよなぁ』


 武舞台では、既に両陣営が各々の考えるベストポジションへと移動していた。


 Bチームは、六駆が最前線に陣取っており、その少し後ろに加賀美と青山。

 さらにやや後方に小鳩が並ぶ。

 和泉は最後尾で横になっている。


 このBチーム、攻撃レンジが近距離に寄っているため、本来ならば六駆が後方から強力な砲台として支援に回るのがベターである。

 だが、逆神六駆にそう進言する者がいない。


 小坂莉子不在の永続ダメージが、既に加賀美と青山、小鳩を蝕んでいた。

 和泉は何もしないでもダメージを受けているので、ノーカウント。


『これは思い切った布陣になりました、Bチーム!! ほとんど全員が前衛と言う、攻めたスタイル! 南雲監察官、これはどういう意図でしょうか?』

『はい。まずは彼らの得意な距離からスタートと言う事でしょう。楠木さん辺りの遠距離攻撃にどう対応するかが勝敗を分けると思います。あ、これ鳴らすんですか? と言うか逆神くん、具現化スキルが普通に発現しっぱなしじゃないか……』


 戸惑いながらも六駆の『銅鑼衛門バトルゴング』を鳴らした南雲修一。

 模擬戦闘訓練、第2戦が始まる。

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