第279話 第1回南雲監察官室チキチキ破壊力対決 『苺光閃』VS『ダイナマイト』

 諸君は協会本部建物の改修を六駆と四郎の逆神コンビが請け負っていた事を覚えておいでだろうか。

 その際、南雲は五楼に「仮想戦闘空間の耐久値を上げたい」と上申していた。


 「今のままでも問題なかろう」と応じる五楼に南雲は言った。


「逆神流に耐え得る構造建築ができるのは、逆神流だけです! この機を逃せば次はいつになるか分かりません!!」


 その必死の訴えには「確かに」と頷くべき点があり、五楼は追加予算を出すことにした。

 逆神四郎に80万ほど支払って作ってもらったのが、【対逆神流用逆神流建築】である。


 日本語がおかしな事になっているけれど、これで合っている。


 具体的には、ボタン1つで7層の防壁が創り出される。

 それぞれが属性防御の付与をされており、さらに破壊されても自動修復される。

 これがたったの80万で作られたのだ。


 逆神家に財務関係の人間を付けるだけで、彼らは大儲けできるだろうに。


「南雲さん。防御壁が無事に展開できたっすよ」

「よし。念のため、外装壁も出しておいてくれ」


 外装壁とは四郎が「オマケで作っときましたわい」と言って構築した、「内側の衝撃を外に漏らさないための」壁である。

 こうして仮想戦闘空間は鉄壁の防御を手に入れた。


 しばらく南雲監察官室が運用してみて、塩梅が良さそうならば本部建物にも運用される予定となっている。


「よし……。あとは四郎さんを信じるだけだ! 小坂くん! 一応聞いておくけど、何のスキル使うつもりかね?」

「あ、はぁーい! 六駆くんと相談して、『苺光閃いちごこうせん』にしようかなって!」



「どんな相談したの? 私たちを亡き者にする相談かな?」

「南雲さん、自分最近彼女できたばっかなんすよ。早退して良いっすか?」



 六駆には考えがあった。

 莉子の『苺光閃いちごこうせん』はまだ未完成なのである。


 そこで、現時点の威力を数値化されるならば、参考にしたいと閃いた。

 特に木原監察官の『ダイナマイト』辺りと比較できれば言う事はない。


 日本の探索員で間違いなく最高の破壊力を持つ『ダイナマイト』と『苺光閃いちごこうせん』は、どちらが優れているのか。

 いちスキル使いとして六駆も興味があった。


「大丈夫ですよ、南雲さん! 僕たちの身は自分で守りますから! 『金剛周盾キラキラサークル』!! ふぅぅぅんっ! 広域発現!!」

「おおい! 君たちは無事かもしれんけども! と言うか、何なの!? なんでそんな初めて見る盾スキル出すの!? えっ、ヤバいの!?」


 六駆は言葉を口にする代わりに、にっこりと微笑んだ。


「山根くん! 全部の防壁に煌気オーラを集中させて! 特に壁! 私たちがいるオペレータールームの壁!! 最悪、隣の私の部屋が吹き飛んでもいいや!!」


 準備は整った。

 小坂莉子。本気の『苺光閃いちごこうせん』の威力はいかに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「やぁぁぁぁぁぁっ!! 『苺光閃いちごこうせん』っ!! 出力全開! たぁぁぁぁぁっ!!!」



 苺色の破壊光線が防壁を6つぶち抜いた。



「……すごいなぁ。逆神流って。ねえ、楠木さん」

「ボクにはとても制御できませんよ。南雲さんもすごいですなぁ」


 まず、四郎の作った防御壁が本当に凄かった。

 あの『苺光閃いちごこうせん』を放って、建物の壁に穴が空いていない。


 奇跡である。


 もう1つすごいのは、その苺色の悪夢が計測した諸々の数値である。


「……南雲さん。これ見て下さい。煌気オーラ総量のグラフがエラーでおかしくなってるっす。測定値Zってなんすか? 初めて見るんすけど」

「うん。私がね、ここを作った時にさ。絶対に出ないだろうと思う数値をZにしたの。座興でね。出ちゃうんだよなぁ。怖いよなぁ」


「それで、破壊力はどうですか? 『ダイナマイト』と比較して! 教えてください!!」

「急に出て来るなよ、逆神くん! コーヒー噴くところだったろ!!」



「すみません! もうワンテイクやり直しますか!?」

「私がコーヒー噴けなくて残念っていつ言ったのかな!?」



 ツッコミに忙しい南雲に代わって、楠木監察官がタブレットを操作した。

 それを六駆に見せる。


「逆神くん。分かるかな? この10って言うのが、探索員の基礎スキル『ライトカッター』の破壊力だよ。それで、こっちが南雲くんの『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』の破壊力」

「3000ですか! すごいなぁ、南雲さん!!」


 楠木監察官は、「うんうん」とにこやかに説明を進めた。


「それで、こっちが木原くんの『ダイナマイト』の平均破壊力。彼の気分によって威力が変わるからね。ここ5年の平均値になってるよ」

「50000!! 南雲さん、鼻くそみたいになりましたね!!」


「最後に、これが今の小坂さんが撃った『苺光閃いちごこうせん』の破壊力。大したものだねぇ」

「うわぁ! 惜しい! 48000ですか!!」


 『苺光閃いちごこうせん』は『ダイナマイト』に一歩及ばず。


 だが、考えてみて欲しい。

 『ダイナマイト』は無敵の鉄拳。

 これまで貫けなかったものはない。


 対して、『苺光閃いちごこうせん』も六駆に使ったケースを除けば、ほぼ一撃必殺のスキルになっている。


 双方がスキルを撃ち合わない限り、もはやこの次元の優劣を明確にするのは難しいと言うのが、南雲、楠木、六駆の共通見解だった。

 六駆は「参考になりました!」と言って、莉子の元へ。


 早速『苺光閃いちごこうせん』の改良に着手するらしい。


「私たちはとんでもないデータを与えてしまったのではなかろうか……」

「とりあえず、今回のデータは協会の方にも入れといて良いんすよね?」


「ああ、そうだな。今回は昇進査定だから、隠さずに数値を報告しとかないと。後で五楼さんに怒られるのは私だもの」

「南雲くん、ひとつ提案なんだけど。小坂さんのデータは閲覧権限を設けておいた方が良くないかい? 低ランクの探索員が見たらどう思うか……」



「自分ならソッコーで引退するっすね!」

「よし、山根くん! 監察官以上の最高閲覧制限かけて! 今すぐに!!」



 ひとまず、チーム莉子の昇進査定が終了した。

 被害が出なくて本当に良かったとは、南雲の感想である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「木原くんはBランク。椎名くんと小坂くんはAランクに昇進決定だ! おめでとう! 文句のつけようのない成績だぞ!」


 南雲がチーム莉子の面々に向かって宣言した。


「やりましたわね! これでわたくしも含めてAランクが3人! Bランクが1人! どう考えても精鋭部隊と呼ぶに相応しいですわ! そこに加わる、逆神さんのお排泄物ランク!!」


「そだそだ。六駆くんは本当にDランクで良いのかにゃー?」

「わたしはお揃いが良かったなぁ。六駆くんとさっ」


「ああ、僕は今のままで満足だから! ほら、上のランクになればなるほど、責任が増すじゃない? 自己責任だ! とか言われるよりね、僕はDランクのまま監督責任を問われる方が良いなって!!」



 逆神六駆。ここぞの悪知恵だけは働く男。



 南雲はコーヒーをグイっと一気に飲み干した。

 強い苦みの中に酸味とほのかな甘みの調和を感じられ、実に美味だったと言う。


 しばらく雑談に興じていたところに、来客が訪れる。


「おい、南雲。とんでもない揺れだったが無事か? よし、生きてるな」

「あ、五楼さん、すみません! もう時間ですか!」


「何の時間ですか? オヤツですか!?」

「監察官会議があるんだよ、これから」


 対アトミルカ攻略チームに関わる会議だと五楼は告げた。


「チーム莉子から小坂。貴様、参加しないか?」

「ふぇぇっ!? そんな、恐れ多いですよぉ!」


「だが、チーム莉子を中心に編成する予定の部隊だ。関係者の意見も欲しいのだが」

「五楼さん、五楼さん!!」


「今回は諦めるか」

「五楼さん、五楼さん!!」



「五楼さん! 五楼さん!!」

「ええい、うるさい! 聞こえている! まさか、貴様が来る気か!? 逆神!?」



 六駆は考えていた。

 「小腹が空いたから、会議で出て来るオヤツを食べよう!」と。

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