第251話 緊急出動、チーム莉子 倭隈ダンジョン入り口前

 各監察官室から精鋭部隊がダンジョンに向かって【稀有転移黒石ブラックストーン】で飛び立っていく。


「五楼さん、五楼さん! どうせなら1番強い人がいるところがいいです、僕!!」

「本当に戦闘民族だな、貴様の一族は。良かろう。雨宮あまみや上級監察官室の雲谷くもたにトロピカルに行かせようかと思っていたが、貴様たちチーム莉子に任せよう。行き先は倭隈わくまダンジョンだ」


 そう言って、【稀有転移黒石ブラックストーン】を五楼は六駆に手渡した。


 先に決勝戦で戦う予定だった相手、雨宮上級監察官室について少し触れておこう。

 五楼と探索員協会の双璧を成す雨宮あまみや順平じゅんぺい上級監察官。

 現在はイギリス探索員協会の立て直しのために、Sランク探索員を数人引き連れ長期出張中である。


 留守を預かるのが雲谷くもたにトロピカル。

 隊長の雲谷くもたに陽介ようすけをはじめ、部隊メンバー全員が遠距離攻撃を得意とする精鋭である。

 遠距離攻撃がダンジョン攻略向きではないためAランクに甘んじている、隠れSランクの呼び声高い1人。


 なお、部隊の名前は雨宮上級監察官に勝手に付けられたため、雲谷に非はない。


「南雲さんも行きます? 久しぶりに一緒に暴れましょうよ!」

「バカ! 五楼さんの前でなんてこと言うんだ! 違いますよ!? 私は逆神くんみたいにヤンチャしませんから! 本当です! 信じて下さい!!」


「やかましい。そんな些末な事はどうでも良い。だが、監察官は現状のところ全員が本部に待機。各ダンジョンの様子を見て、必要ならば逐次投入する」

「了解しました! じゃあ、アトミルカさんたちをボコればボコるほどお金が増えるボーナスステージに行って来ます!!」


 そう言って、六駆はいやらしい笑みで走り去っていった。


「……南雲。お前のところの来期予算、多分減るぞ」

「やっぱりうちの予算が逆神くんを黙らせる補填にされるんですね。何となく悟っていました」


 南雲は「ふぅ」と息を吐き、コーヒーをカップに注いだ。

 五楼にも「どうぞ」と差し出す。


「美味いな。心が落ち着く。実に良い匂いだ。苦みが程よく効いている」

「本当に、仕事の前のコーヒーは格別ですね。仕事の後のコーヒーも美味しいと良いのですが」


 2人は絶品のコーヒーを味わった。

 凶兆である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「とりあえず現地に行ってから回復しましょう! 大丈夫、僕が全部やりますから! 山根さん、オペレーター頼めますか? 莉子、準備はどう?」


 キビキビと手回しの良い逆神六駆。

 彼はお金の匂いがする場所に行けると言うだけで元気になれる。


「塚地さん。装備の予備持って来たっすよ。向こうで着替えてくださいっす。倭隈ダンジョンには元から常駐しているサーベイランスがいるので、ナビはお任せっすよ!」

「お心遣いに感謝ですわ!」

「さすが山根さん! 頼りになるにゃー!」


「芽衣ちゃん、平気かな? 煌気オーラが空っぽでしょ?」

「みみっ。六駆師匠に新鮮な煌気オーラを注入されるまで我慢できるです!」


「そっかぁ! じゃあ六駆くん! わたしたちも行こー!!」

「よし来た! ……この黒い石、どうやって使うんですか?」


 六駆おじさん、使い方の分からない道具を持ってはしゃいでいた模様。

 これはおっさんの108ある必殺技の1つである。

 「俺、パソコン使えます!!」と言って、会議の資料に意味不明なフォントいじりなどを駆使する事でむしろ情報を伝えにくくさせる。


 亜種として、「やたらとパワーポイントを使いたがる」と言うヤツもある。


「じゃ、自分が煌気送るっすよ。力場の中に入ってください。では、行ってらっしゃいっす!!」


 煌気オーラ力場に光が灯り、チーム莉子が転送されて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 倭隈わくまダンジョンは割と新しく出来たダンジョンで、攻略済みダンジョンでもある。

 攻略したのは加賀美隊。

 ならば加賀美隊に任せれば良いという諸君の声には聴くべき点がある。


 だが、加賀美隊は今年度の「最多ダンジョン攻略賞」をほぼ手中に収めている。

 具体的には、5つのダンジョンの攻略を完遂させていた。

 彼らは先に別のダンジョンに出張って行ったため、チーム莉子にお鉢が回って来たのだ。


 なにより、五楼上級監察官が「最も危険度の高い」と判断したダンジョンであるからして、信頼と実績の逆神家6代目がいるチーム莉子を派遣するのは理にかなっている。


「じゃあ小鳩さん! 着替えちゃってください!!」

「おっ、お排泄物ですわ!! わたくしに男の視線を浴びながら生着替えしろとおっしゃいますの!? くっ……! やりますわ……!!」


「『石壁グウォールド』!! はい、更衣室作りましたよ!」

「……あ、そうですの? 逆神さんって意外と越えちゃいけないラインの見極めが正確ですわね。失礼しますわ」


 小鳩がお召替えをしている間に、六駆の仕事は続く。

 まずは『気功風メディゼフィロス』を広域展開し、立っているだけで元気になるレベルの高密度な治癒空間を構築した。


 続いて、『注入イジェクロン』による煌気オーラ回復の儀が執り行われる。

 チーム莉子のオリジナルメンバーは慣れたもので、自分から太ももを差し出す。



 おっさんに自分から太ももを差し出す乙女と言うパワーワード。



 なお、小鳩が「なっ、なんという羞恥プレイですの! ……やりますわ!!」といつものくだりをこなしたのだが、既に何度もお送りしているのでカットさせて頂いた。


「おっ! サーベイランス発見! 山根さーん!!」

『はいはい。みんなのオペレーター、山根健斗っすよー。感度良好っすね。皆さんが準備してる間に煌気オーラ感知で調べてみたんすけどね、Bランク程度の煌気オーラが80。Aランク相当が6。計測不能が3ついるっすね』


「計測不能ってことは、Sランクレベルってことですか?」

『んー。断言はできないっすけど、注意はしといてくださいっす。なにせ、五楼上級監察官が逆神くんを指名したくらいっすから』


 莉子がリーダーらしく「なるほどぉ」と頷く。

 小鳩とクララは武器の点検を済ませ、芽衣はバイタリティを高める事に成功。


 突入準備は完璧である。


「ところで山根さん。質問があるんですが」

『おっ。どうしたっすか、逆神くん』



「アトミルカさんの残骸ってその場に放置しても良いんですか? 焼却処分します?」

『後続の捕縛部隊が回収する手筈になっているので、できれば燃やさないで欲しいっす』



 六駆は「面倒くさいですけど、お金のためだと思って我慢します!!」と力強く返事をした。


 そののち、山根がサーベイランスから倭隈ダンジョンの構造図を投影させる。

 倭隈ダンジョンは第15層が最深部。

 その先の異世界にアトミルカが踏み込んでいるのかは不明とのこと。


「壁とか床をぶち抜くのってアリですか?」

『南雲さんがコーヒー噴くんでナシの方向でお願いするっす』


 六駆おじさん、ダンジョン攻略のいろはを既に忘れ始めていた。

 ダンジョンの外壁や床に過度な衝撃を加えると崩落の恐れがあると何度も経験したし、周りも注意してきたはずなのに。


「じゃあみんな! 頑張ろー!! 怪我なく帰還が最優先だよぉ!!」


 リーダーに続いて、各人が意気込みを語る。


「あたしはできるだけリアクション要員希望だぞなー。人が相手だとダンジョンの中は戦い辛いにゃー」

「みみっ! 芽衣は危険を感じたら隠れるお尻が2つに増えたので安心です!!」


「勘違いしないでいただけますこと!? わ、わたくしは別にチーム莉子のメンバーではないのですわよ!? もう、本当にこのままの流れでしれっと加入する方向で全然構いませんわ! そこのところ、よろしくって!?」

「このダンジョンで一体いくら貰えるんだろう! うふふふ!!」


 いざ、ダンジョン突入である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る