第240話 準決勝 南雲監察官室VS楠木監察官室

『さあ、お集まりの探索員の皆様! そしてモニターを通して会場をご覧の皆様! ごきげんよう!! いよいよ監察官室対抗戦、準決勝! 第2試合もわたし、五楼上級監察官室所属の日引春香がお相手をさせていただきます!! 解説席にはこのお二人!!』


『五楼京華だ。またしても南雲のところの解説を引き受けてしまった事に関して、既に少なからず後悔している。だが、仕事はきっちりとさせてもらう。よろしく』

『雷門善吉です。南雲くんとは同期ですので、彼の育てた優秀な探索員たちを近くで見られるとは、役得ですね。どうぞよろしくお願いします』


 五楼京華上級監察官と雷門監察官が解説席に座る。

 本当は下柳監察官が2回戦に引き続き解説をする予定だったのだが、彼は「急にお腹が痛くなりましてねぇ」とか言って、雷門監察官に責任を投げつけた。


 そんなに五楼の隣はプレッシャーだったのだろうか。


『それでは、準決勝のルールを説明いたします! 2回戦に続き模擬戦ですが、今回は多人数対多人数の集団戦! バトルロイヤル!! 直径50メートルの武舞台の上で合計12人の戦士たちが戦います! ルールは単純! 場外に落ちる、ギブアップをする、戦闘不能になる。いずれかで失格! 最後まで残っていた者が勝利者となり、勝利チームとなります!! 審判を務めるのはまたしてもこの方! 和泉正春Sランク探索員!!』


 武舞台の真ん中でうつ伏せに倒れている和泉の元へマイクが届く。

 彼はそれを震える手で受け取った。


『ああ、このような姿勢で失礼します。ちょっと手足が痺れて、胸が苦しいので横になっていました。仕事ですので審判はきっちり果たします。小生しょうせいの態度がお気に召されない方は、すぐに代わって下さい。お願いします』


 それだけ言うと、和泉は再び倒れた。

 どうやら、体力の温存を図るつもりらしい。


『和泉Sランク探索員! 今日も体調が悪い中お疲れ様です! なお、彼にはファンクラブがあり、私が介抱してあげたいと言う女子探索員が集まっているとか! イケメンと病弱を掛け合わせると無限の化学反応が起こるー!!』


 和泉正春は端正な顔立ちをしており、顔色の悪さを除けばハリウッドスターのように見える。

 その上、顔色の悪ささえも魅力に変えてしまうのだから、Sランクとは恐ろしい。


『ちなみに、武舞台は雷門監察官室の土属性使いの皆様のご協力で造られております! 頑丈で監察官のスキルにも耐え得る仕上がり! お疲れ様です!』

『お役に立てたなら良かったです。頑丈さは保証します』


『それでは、準決勝第2試合、楠木監察官室VS南雲監察官室! まずは両陣営に登場して頂きましょう!!』


 日引の合図で両チームが入場を始める。

 勝てば決勝戦。

 つまりは賞金2千万円以上の獲得が確定。


 気合の入りまくった逆神六駆を先頭に、南雲監察官室が武舞台へとやって来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「『瞬動しゅんどう二重ダブル』!! そりゃそりゃそりゃー!! うぉぉぉぉ!!!」

「おおい! 何やってんの、逆神くん! 目立つなよ! どうせ試合になったら目立つんだから、今だけは大人しくしときなさいよ!!」



「いえ、速く動いといたら敵さんが降参してくれるかなって!!」

「君はアレだね! 思考回路がすごくシンプルな形になってるんだろうな!! 多分、アイスの棒とかと似てると思う!!」



 六駆の良くないハッスルは、しっかりと会場を沸かせた。

 「なんか南雲監察官室のとこのDランクがまたヤベーことしてる!!」と客席は賑わいを増す。


 なお、サーベイランスにはギリギリ映らない速度なので、被害は最小限に抑えられたはずである。


 対して、楠木監察官室の面々も入場してくる。

 その先頭に立つ青年が、素早く動き回っていた。


「屋払くんは何をしてるのかな? 試合前だよ?」

「ああ、楠木さん! なんかあっちで若くて活きのいいヤツが見えたので! ここはオレも『ソニックダンス』を使っとかなきゃ負けかなって思ったんで! よろしくぅ!!」


 楠木くすのき秀秋ひであき監察官。今年で50歳。

 「監察官の中で最も穏やかな気性の持主」として知られている。


 彼の育てる探索員は隠密行動に秀でた者が多く、またオペレーターも多い。

 5年ほど前に『潜伏機動部隊』と言う部署が設立され、楠木はそこの責任者も兼務している。


 ちなみに、妻にカレーをぐちゃぐちゃに混ぜるのをヤメろと言われ口論となり、実家に帰られたと言う昨日出来たばかりの心の傷を抱えていた。

 さすがは穏やかな気性の持主。夫婦喧嘩の理由も穏やかである。


「屋払隊長。ヤメてください。恥ずかしいです」

「何を言っている、青山! こういうのは先に舐められたら負けなんで!! よろしくぅ!」


「その田舎のヤンキーみたいな理屈、私には理解できません」

「そんな事だから君は小隊長なんだぞ! 青山!!」


 楠木監察官室のエース。屋払やばらい文哉ふみや

 潜伏機動部隊の隊長を務めているAランク探索員。27歳。


 ただし、彼は「面倒だから」と言う理由で昇進査定を受けておらず、その能力はSランクに到達しているともっぱらの噂である。


 性格は負けず嫌いで好戦的。

 おおよそ潜伏機動部隊に似つかわしくない人格をしている。


「隊長がいなくなれば、私がすぐに2代目の隊長なんですからね! だから早く、不慮の事故とかで死んでください!」


 この本音がオブラートを突き破っている彼女は青山あおやま仁香にか

 25歳。Aランク探索員。


 潜伏機動部隊の小隊長を務める、武闘派女子である。

 最近あった嫌な事は、郷里の母親から見合いを勧められて渋々顔を出したところ相手が50過ぎの太ったおっさんだった件。


 その話を楠木監察官にしたところ、彼は「ボクは太ってなくて良かったなぁ」と胸をなでおろしたらしい。


 残る4人も全員が潜伏機動部隊の隊員であり、実力は折り紙つき。

 簡単に紹介しておこう。


 外崎とのさきAランク探索員。

 趣味はカラオケ。


 西山Aランク探索員。

 実家は旅館。


 柳浦やなうらBランク探索員。

 好きな料理はエビチリ。


 リャン・リーピンBランク探索員。

 悩みは日本人に男か女か名前で判断してもらえない事。

 ちなみに女子である。


 彼ら6人は潜伏機動部隊の精鋭たちであり、繰り返すが誰を見ても強敵である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、確認するぞ。楠木さんとこの情報が頭に入っている人!」


「はい! 完璧です!」

「みみっ! 覚えてるです!」

「当然ですが、わたくしも暗記済みですわよ!」

「まあ、自分も一応。普段はオペレーターなんで」



「えっ!?」

「六駆くん。今回は味方が少ないと思うにゃー。困ったぞなー」



 落ちこぼれが2人見つかった。

 事前に資料を与えられていたのだが、30分で頭の中に叩き込めとは、この2人には酷な指令である。


「じゃあ、塚地くん。椎名くんと組んで、彼女をフォローしてあげて。多分向こうは遠距離攻撃が得意な椎名くんをすぐ落としに来ると思うから。塚地くんが守ってあげてくれ。信頼しているぞ」


「お、おヤメくださいまし! 男に、中年の男に信頼されるだなんて……! お排泄物ですわ!! ……でも嬉しい! く、悔しいですわ!!」

「小鳩さん、よろしくですにゃー」


 さて、問題は南雲さんとこの頭おかしい子である。


「小坂くん……はダメだ。木原くんにはこくすぎる。……仕方ない! 山根くん! 逆神くんとタッグ組んで、なるべく多く敵をなるべく早いところ叩き落として! 負けても良いけど、不甲斐ない姿見せたら怒られるからな! 私が!!」


「聞いたっすかー、逆神くん。南雲さんってば、自分に無茶振りするんすよー」

「山根さん、実は結構強いくせにー。僕、しばらくは何もしないで見学してます!」


 南雲監察官、気付けば準決勝まで勝ち残ってしまった。

 こうなったらもう、行けるところまで行くしかない。


 運命の準決勝がいよいよ始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る