第4章

第200話 ダメ親父、ついに働く 探索員協会本部・南雲監察官室

 秋も深まる11月。

 今日は日曜日であり、六駆と莉子は学校が休み。


「いやー! わりぃな、2人とも! 俺の予定に付き合わせちまって!! でもまあ、俺も休みの日に出掛ける訳だから、ここはイーブンってことで!!」


「親父はさ。毎日が休日じゃん? もう20何年って休日が続いてるよね?」

「まあまあ、六駆くん! いいじゃん! お父さん1人じゃ心細いだろうし!」


 逆神大吾。1度として定職に就いたことのない中年。今年で47歳。

 そんな彼が、今日は仕事をしようとしている。

 天変地異の前触れか。


「待てよ、六駆! 俺だって、平日と休日じゃ過ごし方が違うんだぜ?」

「メダカよりも頭の悪い親父が? 体が頑丈なだけしか取り柄のない親父が?」


 六駆くん、自分の父親に対して容赦がない。

 少しくらい手心を加えてあげて欲しい。


「ひでぇな! 平日と休日じゃあな、行く店が違うんだぜ! パターンが変わるんだ!!」

「そうなんだぁ! お父さん、パチンコが忙しいんですもんね! パチプロって言うんでしょ? わたし、この前調べたんだぁー!」


 違う莉子さん。この中年はパチンコで散財しているだけだ。

 パチプロとは、パチンコで生計を立てる者だとインターネットで調べたら載っていた。



 逆神大吾はただのギャンブル依存症である。



「それだけじゃないぜ! なんとな! ガールズバーのお姉ちゃんたちも出勤のシフトが変わるんだ! だから俺は日によって店をせぇぇぇぇぇぇぇんっ」


「ろ、六駆くん! ダメだよぉ! お父さん蹴飛ばしたら!!」

「莉子。僕は莉子と同じ価値観を持っていたいな。このクズ親父を蹴り飛ばす労力がもったいないと思ってくれたら、僕は嬉しい」


 「同じ価値観」と言うフレーズがその控えめな胸に刺さったらしい莉子さん。

 「そっかぁ! じゃあ、わたしはもう何も言わないね!!」と幸せそうに頷いた。


「とりあえず、もう時間だから。『ゲート』! そして『親父シュート』!!」

「わぁ! いい蹴りっぷりだねっ! さすが六駆くんだよぉ!!」


 クズ親父とバカップルの行き先は。

 諸君のお察しの通りである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「しょんべれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇあぁおぉうぅぅぅぅぅぅっ」


「うわっ!? なんだこの靴あとの付いたブルドッグ!! いや、違った! 大吾さんじゃないですか!! えっ、どういうことなの!? 既にボロボロなんだけど!?」


 こちら、南雲監察官室。

 本日はチーム莉子に対する依頼ではない。


 逆神大吾に対する南雲監察官の依頼のため、彼らはやって来たのだ。


「すみません、南雲さん。親父がどうしても正装したいって言うものですから。1番良いブルドッグのついたジャージを着せてきました」

「こんにちはー! 南雲さん、山根さん!!」


「君たちはアレだね。大吾さんがボロボロになっている理由について、もうそれが自然の摂理みたいな体で来たね。うわぁ、私、怖い!」



「どうもっす! 逆神くん、小坂さん! コーヒーババロア食べるっすか?」

「やーまーねぇー!! 君まで混じるんじゃないよ! 君の朱に交われば赤くなるスピード感って今さらながらにすごいな!! 一瞬で真っ赤じゃないか!!」



 とりあえず、六駆と莉子は山根お手製、コーヒーゼリー製造機改め、コーヒースイーツ製造機壱拾参号から出て来た甘味を口にしてほっこり。

 高校生カップルの楽しそうな休日デートである。


「はぁぁっ!? 六駆に顔面蹴られた気がするけど!! そうか、夢か!!」

「夢ならばどれほど良かったでしょうね。大吾さん、全部現実です。本日はご足労頂き、ありがとうございます」


「ああ、こいつぁどうも! 南雲さん!! この前貰った乾燥させたホタテの貝柱、最高にビールに合います! 次もあれください!!」


 最強の男にガチ蹴りされて、割と平気な大吾。

 彼もかつては異世界転生周回者リピーターだった事実を、3つも異世界を平定している事実を、我々は認めなければならない。


「今日はですね。大吾さんの使われておられる逆神流剣術のデータを取らせて頂ければと。先にお話しした通り、報酬は歩合で出します。1つの剣技のデータにつき3万円ほどお支払いさせてもらおうかと」



「うぉぉぉ! 逆神流剣術! 一刀流!! 『次元大切断じげんだいせつだん』!!」

「逆神くん? お父様に言ってあげてくれる? モップでスキル使わないでくださいって。多分ね、私が説明するよりもずっと早いと思うんだ」



 今のは南雲が悪かった。

 大吾にとって、1000円は大金。5000円になるとすごく大金。

 10000円を超えると冷静な判断ができなくなる。



 息子にそっくりである。



 六駆が大吾に蹴りを入れながら、「ちゃんと仕事しないと、殺すよ?」と、実にストレートな説明と言う名の恫喝を行った。

 大吾も「分かったよ。へへっ」といやらしい笑みを浮かべる。


 この一族にとって「殺す」という言葉の意味が、もしかすると世間一般と違うのかもしれない。

 だって、こいつら死んでも生き返って来るじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おお! こりゃあすごい! なんか煌気オーラが増幅される感じが!! おしゃまんべだっけ!? スカレグラーナの剣に似てるな!!」

「オジロンベです、大吾さん。その剣もオジロンベ製なので、取り扱いにはお気を付けを。万が一の場合は逆神くんに請求が行きます」


 六駆の目がギンッと開いた。

 続けて、監察官に向かって叫ぶ。



「南雲さん! 実験は失敗です!! いますぐ中止してください!!」

「小坂くん。逆神くんをしばらくどうにかできない? 全然作業が進まないんだ」



 莉子さんが呼ばれたのはこのためだった。

 六駆と大吾だけ呼んで、果たして南雲に制御することができるだろうか。

 愚問である。


「お父さん! ちゃんとお仕事しないとダメですよ! 六駆くんも、ちゃんと座ってて!! 歩合制なんだから、お父さんがたくさんスキル使った方がお金もらえるんだよぉ?」


「六駆ぅ! お前、良い嫁さん見つけて来たなぁ!!」

「親父ぃ! 莉子の見る目は賢者のそれだよ!! 言う事聞いとけばお金が増える!!」


 心の清らかなまま残念な思考が進行中の莉子さん。

 それでも、愚物たちをコントロールするならば、多分現世で彼女の右に出る者はいないと思われる。


「そんじゃ、大吾さんお願いしまーす。そっちに的出しますんでー。あ、空間切り裂く系はなしで。仮想戦闘空間の防御層が割れちゃうんで! 協会本部が壊滅しまーす! そんで、南雲さんが失職しまーす」


「ヤメなさいよ、山根くん! そんな事になったら、私も君も大吾さんの隣で明日からパチンコ打つ事になるんだぞ!!」


 それから、大吾は山根のリクエストに応えて、スカレグラーナで使った逆神流剣術をメインに10ほど剣技スキルを披露した。

 それでもまだまだ煌気オーラに余力があるのは腐っても周回者リピーター


 「まだ撃たせてくだせぇ! もっとお金が欲しいんでさぁ!」と恥も外聞もない大吾。

 それを止める気配のない六駆。


 彼らは紛れもない親子である。


「いえ、今日はもうこの辺りで。充分なデータも取れましたし、時間も日が暮れる頃ですから。またご協力をお願いすることもあるかと思います」


「そ、そうですか? へへっ、じゃあまたお願いします!! へへっ」

「親父! とっとと『ゲート』をくぐれよ! ブルドッグ蹴り飛ばすよ!!」


 用がなくなったらすぐに退散。

 これが逆神家のやり方。


「小坂くん。対抗戦、来月なんだけど。大丈夫かね?」

「はい! わたし、精一杯頑張りますねっ!!」


 南雲はこの清らかな笑顔に全てを賭けるしかなかった。

 監察官室対抗戦まで、残り約4週間である。

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