第189話 監察官・南雲修一の「竜人ジェロード砲って何なのよ……」

 こちら、現世。南雲監察官室。


「南雲さん、サーベイランスが逆神くんの作ってくれた『ゲート』を通過しました。王都ヘモリコンの映像出せます」

「そうか。分かった。コーヒーを淹れよう」



「そうやってリアクションに備える姿勢、自分は尊敬してるっすよ!!」

「私のコーヒーをリアクションの小道具扱いしないでくれるか?」



 南雲は大吾の支援を行うため、サーベイランスで王都ヘモリコンに乗り込むことにした。

 六駆の了解も得ている。


 「絶対に親父に剣を使わせないで下さい!!」と言う無茶な要望も受けている。

 「それってお父上に死ねって言ってるようなものじゃないか!」と反論もした。


 「そういう意味で言ったんですけど?」とキョトンとする六駆を見て、「ああ、私は結婚するなら絶対に息子には探索員の道を進ませないぞ」と決意を固めた南雲。

 コーヒーを飲み、カフェインを補充。


 今なら実にクールな判断が下せそうだと彼は感じていた。


「モニターに映像出します。角度が悪いっすね。調整します。はい、どうぞ」

「まだ角度が悪いんじゃない? 大吾さん、おたまで戦ってるように見えるけど?」


 大吾はしっかりと息子の言いつけを守っていた。

 自分の息子がガチると父親くらい簡単に殺せることを知っていたからであり、その行為に抵抗がまったくないことも知っているからである。


「いやー。すごいっすね、逆神家って。おたまで古龍と渡り合ってるんですもん!」

「うん。すごいな。自分の父親を異世界に召喚して、おたまひとつで古龍と戦わせようって発想がすごい。ノーベル狂気賞とかあったら、逆神くん余裕で取るんじゃない?」


 山根が「一応大吾さんのスキルのデータ取っときますね。貴重な逆神流ですし」と言って、キーボードを操る。


「いや、実際すごい剣技だ。煌気オーラを刀身に宿すこと自体は私でも出来るが、それを飛ばしたり伸ばしたり、器用に使い分けておられる。一撃の威力は私より上だな」



「えっ!? 南雲さん、おたまに負けるんですか!?」

「違うよ! やーまーねぇー!! 私の『双刀ムサシ』を基準に考えたらだよ! おたまに負けてたまるかい!!」



 冥竜ナポルジュロと逆神大吾の戦いは拮抗していた。

 小坂莉子の援護があって、ようやく互角の戦いに持ち込んでいる。


 大吾は未だにおたまで戦っており、オジロンベで作られた剣は後ろに大切に置いてある。

 何なら防御スキルを3つくらい重ね掛けしている。


 そこまで息子が怖いのだろうか。

 南雲は六駆が自分の息子だったらと少しだけ想像してみた。



 途端にコーヒーの味がしなくなって、彼は「子育てって本当に大切だね」と納得し、頷いた。



 口直しに幸せな子育てシミュレーションを脳内で展開し、長女が結婚して、長男が就職する辺りまで進んだところで、山根に声をかけられ現実へと戻って来る南雲。


「南雲さん。逆神くんから通信入ってます」

「ああ、すまん。繋いでくれ」


『南雲さんですか? ちょっと相談があるんですけど』

「うん。お父上を助けてあげるんだな? 私に出来る事ならなんでも言ってくれ」



『今から、『ゲート』にジェロードさんの頭突っ込ませて、口から黒炎吐いてもらおうと思うんですよ。で、照準合わせたいのでサーベイランスの補助が欲しいです』

「うん。何言ってんの?」



 逆神六駆は止まらない。

 ロックとか名付けるから名が体を表すのではないかと考えた南雲は、「私の息子の名前はバラードにしようかな」と、訳の分からない事を考えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆の作戦はこうである。


 ジェロードが竜人になったので、大吾が作った小窓サイズの『ゲート』にギリギリ頭だけなら入りそう。

 だから、頭をぶち込んで、冥竜の野郎に黒炎の不意打ちをかましてやろう。


 文字に起こすとより一層、狂気の度合いが増していた。


「いや、待ってくれ。逆神くん。ジェロードさんは? ジェロードさん、正々堂々を旨とするタイプじゃないか。個人の意思を尊重しなくちゃダメだよ!」

『ああ、大丈夫です! その身体でどこまで黒炎の力が使えるか試してみたくないですか? とかポジティブに言ったら、意外と納得してくれました』


 詐欺師のやり口である。


「逆神くん、君ぃ! あとでジェロードさんに真意がバレたら面倒だぞ!?」

『えっ!? ジェロードさんが僕をどうにかできるんですか!?』


 サイコパスの発想である。


「逆神くん。竜人ジェロード砲の照準についてなんすけど、どこ狙います? 冥竜ナポルジュロは体が大きいから、的も選び放題っすよ」

「やーまーねぇー!! 人道的な見地から行動したまえよ!! なんだ、竜人ジェロード砲って! 人って付いてるものに砲は付けちゃダメなんだよ!!」


 山根健斗Aランク探索員。

 彼のモットーは面白そうなことに全力投球である。


 そして彼は、自分の行動の責任が全て南雲修一にぶっかかる事をよく知っていた。

 南雲は監察官きっての切れ者で名を馳せている。

 周囲に同じく切れ者が集まるのも、なるほど道理であった。


 彼は切れ者の前に、常識人を欲している。

 「道徳の授業が好きな人募集!」と言う謳い文句で求人広告にて新しい助手を募ろうかと考えた。


『あ、南雲さん! もっと良い事思い付きました!』

「逆神くんの良い事が本当に良かった事の試しがないんだけど」



『竜人ジェロード砲と、莉子の『苺光閃いちごこうせん』を同時に撃たせましょう!!』

「君はあれかい? 前世は切り裂きジャックか何かなの?」



 六駆は速やかにミンスティラリアで勝手に習得した『念話もしもし』を使って、莉子に呼びかける。

 莉子が六駆の提案を断る理由を我々は知りたい。


 南雲だけがこの場にいる常識人であった。

 彼は必死に道義的な観点から「いくら相手が敵でもそれはいけない!」と説いた。



 誰も聞いてくれないのは彼も承知の上である。



「サーベイランス、演算開始。逆神くん。竜人ジェロード砲の出現位置の座標を知りたいので、1回ジェロードさんの頭だけ出してもらえるっすか?」

『了解しました。ジェロードさん、頭突っ込んでください』

『うぬぅ。割と窮屈なのだが。ぐううぅぅっ。逆神六駆。どうにか入ったぞ』



『ですって! 南雲さん、確認してください!』

「確認するまでもなく、ジェロードさんの生首がヘモリコンの空中に出現したよ! 怖いよ! 夢に出そう!!」



 山根は粛々と仕事をこなす。

 この時ばかりは助手が無駄に優秀な事を南雲は恨んだ。


「照準合わせ、完了! どこ狙うっすか? 逆神くんの好きな部位をどうぞ!」

「部位って言うな。4000年も生きてる古龍を焼肉屋のメニューみたいに言うな」


『翼と爪は絶対に確保したいので、胴体のど真ん中にしましょう。莉子からは水平に。竜人ジェロード砲は角度を付けて、同時に斉射する方向で!』

「了解っす! カタカタターンっと! 照準、固定! レーザーポインターで表示しているので、軌道を確認してくださいっす! 早くしないとバレちゃうので!」


 南雲からは見えないはずなのだが、とっても良い笑顔の逆神六駆の幻影を彼は確かに見たと言う。


『よし! 行けます! 莉子も準備は良い!? では、竜人ジェロード砲、発射!!』


 王都ヘモリコンで、苺色の光線と漆黒の炎が同時に放たれた。

 冥竜ナポルジュロの命運や如何に。

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