第184話 冥竜ナポルジュロの優しい脅迫 悪魔のせいでどっちが正義か分からなくなる

 冥竜ナポルジュロは王都へと飛来する。

 そこには、巨大な暗闇がドーム状の檻となって王都の民が10000人ほど捕まっていた。


「おお! 古龍が来たぞ!」

「出せ! ここから出せ!!」

「そうだ! 出せ、出せ!!」


 スカレグラーナ人は身体だけではなくメンタルも強靭なようで、冥竜を見るなり「出しやがれ」のシュプレヒコールが響き渡る。


「ええい、騒がしい! 貴公らには充分な食事と空間を与えておるであろう! まだ何か不足だと申すのか!!」


「いや、特に不自由はしてない!」

「むしろ、料理が美味しい!」

「そうだ! 料理が美味しい!!」



 何と言う平和そうな侵略だろうか。



 本当に3匹の古龍はかつてスカレグラーナを蹂躙し、殺戮の限りを尽くしたのか。

 見たところ、自由を奪っているのは間違いないが、人質になっている王都の民は割と快適そうである。


「これより貴公らの映像と悲痛な叫びを、逆神に見せる。ゆえに、泣いて叫べ! 絶望を奏でよ!!」


「それはできない! 別に絶望してない!」

「スカレグラーナ人は嘘をつかない!」

「そうだ! 嘘をつくくらいなら誇り高き死を選ぶ!!」


 冥竜ナポルジュロは、王都の様子を映し出すため煌気オーラを集中し、巨大な魔鏡を創り出す。

 構築スキルは六駆も手を焼く高等スキルであり、冥竜ナポルジュロの実力の高さがうかがい知れる。


「さあ、泣け!! 喚け!! ……言う通りにすれば、今宵より食事にデザートを付けさせよう」


「ぎゃあああ! 誰かぁ! 助けてくれぇぇぇ!!」

「苦しい! 苦しい!! ナグモ! 助けて!!」

「ナグモ! 肝心な時には頼りにならないけど、一応ナグモ!!」



 誇り高き死はどうした。



「……しばし待て。ナグモとやらの名は呼ばずとも良い。逆神を呼べ。では、テイク2へ参るぞ。さあ、泣け! 喚け!!」


「ぐわぁぁぁぁぁ! 体が焼ける!!」

「サカガミ! 助けて!! サカガミ!! 殺される!!」

「サカガミ! 会った事ないけど、サカガミ! サカガミ付くヤツだいたい友達!!」


「……よし。良い画が撮れた。では、貴公らには再び暗闇に包まれていてもらう。精々内職でもしておくが良いわ! 暗闇でも目が利く貴公らならば問題なかろう! ガハハハハハ!!」


 冥竜ナポルジュロ、渾身の脅迫動画を撮影する。

 素材が揃えば、あとは料理するだけ。


 冥竜の名に恥じぬ煌気オーラで、ヌーオスタ村周辺を煌気オーラ力場に構築し直すと、冥竜は低い声で滞在しているチーム莉子に語り掛け始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 10分ほど時間を巻き戻して、こちらはヌーオスタ村。


 煌気オーラ感知ならナグモにお任せ。

 サーベイランスが異常値を検出して、すぐに悟った我らが監察官。


『逆神くん! なにやら煌気力場が発生している! この村が丸ごと吞み込まれているぞ!!』

「えっ!? それってもう手遅れじゃないですか!!」


「ナグモ……」

「ああ、ナグモ……」

「そういうとこがナグモ……」



『山根くん、私が悪いのか?』

『今回はちょっと気の毒なので、コーヒーババロア作ってあげますよ』



 六駆も気を集中させると、確かに強力な煌気オーラ力場の中に閉じ込められていた。

 だが、彼の言うように1度煌気オーラ力場に取り込まれると、脱出は困難である。

 六駆単独ならば余裕だが、村人たちを遺してはいけない。


 「ホグバリオンやっぱり返せ」と言われるのが、今の六駆にとって一番の恐怖。


「ジェロードさん。これはやっぱり元お仲間のスキルですか?」

「間違いなかろう。このような芸当を可能にするのは、冥竜。名はナポルジュロ殿と言う。正直なところ、我よりも遥かに優れた古龍だ」


 六駆は「なるほど」と答えて、それにしてはと訝しげな表情になる。

 これほどの規模の煌気オーラ力場をこの場の全員に気取られずに構築できるのならば、不意打ちでスキル攻撃してしまえば良いのに、と。


 「僕なら絶対そうするのに!!」と。

 さすがは悪魔。古龍よりも発想が残虐である。


「あっ! 見て、あそこ!! 空に映像が浮かんでるよぉ!」

「ほへぇー。サーベイランスよりも綺麗だね。南雲さんの映像は古い液晶テレビで、こっちは8Kテレビって感じ!」

「さり気なく南雲さんをディスるクララ先輩、さすがです。みみっ!」


 映像が動き始め、まず王都が映る。

 そののち、すぐに苦しむ王都の民の悲痛な声が響き渡る。



 演技派のスカレグラーナ人の多いこと。



 それが3分ほど続いたのち、紫と黒の入り混じった鱗を持つ、巨大な竜が映し出された。

 その竜は六駆を見つけると名指しで宣告する。


『逆神の血族よ。我は冥竜ナポルジュロ』

「あ、はい。ジェロードさんから聞いて知ってます」



「ちょっとぉ! 六駆くんってば、ダメだよ! こーゆう時は、嘘でも初めて聞いた風にしてあげないと!!」

「えっ!? そういうものなの!? それは申し訳ない事をしたなぁ!」



 夫婦漫才で場の空気を壊すのはヤメて差しあげろ。


『……我は冥竜ナポルジュロ』

「ええっ!? 冥竜のナポルジュロさん!? うわぁ! 初めて聞いた!!」


 冥竜が気の毒になってくる。

 だが、めげずに頑張るナポルジュロ。


『貴公らも見ての通り、王都の民は既に我の手の平の上にある。これより40ポタレ後に、100人ずつ処刑していく。ちなみに、1ポタレは貴公らの世界で言うところの2分に相当する。グハハハハハッ!!』


 隠し切れない親切さを残して、冥竜は最後にこう告げた。


『それまでに王都へと来るが良い、逆神の血族よ。そして、貴公の命をもって民を助けよ。貴公が首を差し出せば、スカレグラーナの民を解放しよう! 良い返事を待っておるぞ』


 そう言って、冥竜は消えていく。

 村をしばしの沈黙が包み込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『これは困った事になったぞ。王都の人口は手元の資料によれば、10000と数百人。その全てが人質になっている。しかも、ヌーオスタ村からは距離がある。移動スキルを使っても、80分では逆神くんとジェロードさんくらいしかたどり着けないだろう』


 南雲の考察は正しく、六駆も行った事のない場所ではお得意の『ゲート』が使用不可。

 こうなると、ジェロードと共に全速力で王都を目指すしかない。


「えっ!? 僕、首を差し出さなくちゃいけないんですか!?」

『いやね、逆神くん。とりあえず君は現場に行ってくれないと。行ってから考えようじゃないか。とりあえず、行けば処刑は待ってもらえるんだから』



「会った事もないたった10000人のために、命を捨てろと!?」

『おい、君ぃ! それ私が何言ってもまた、ナグモ……とか言われるパターンだろ!!』



 六駆は少しだけ考える。

 とりあえず王都とやらに行って、適当な事言いながら冥竜と会って、不意を突いて殺そうかしら。爪とか牙とか毟り取ろうかしら。

 簡単に結論は出ていたが、そこに待ったをかけるのはチーム莉子の良心。


「六駆くん、わたし良い事思い付いたよ! 聞いて、聞いて!!」

「えー。どうしようかなぁ」


「もぉぉ! いじわるしないでよぉ! 六駆くんのバカぁ!」

「ははは! ごめん、ごめん!」


 もう、莉子の事をチーム莉子の良心と形容するのは限界に近付いていた。

 楽しそうだな、君たちは。


「王都に行った事ある人を連れて来ればいいんだよ! ほらぁ、その人も『ゲート』が使えるでしょ? わたし、今日はクールな女の子なんだよぉ! えっへん!!」

「ええ……。そんな最悪な作戦をよく思い付くなぁ。でもまあ、僕が楽できるなら、それもやむなしかー」


 一体、誰が連れてこられるのだろうか。

 まったくよそうがつかない。ほんとうにだれがくるのか!?


 諸君におかれましては、分かっていても首を傾げて頂きたい。

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