第169話 スカレグラーナ原住民の少女・ルッキーナが語る国の危機
スカレグラーナに住むホマッハ族は、ドワーフの親戚のようなものと久坂監察官が語っていた。
だが、それは少しだけ正確ではない。
ホマッハ族の男は、身長が低くがっしりとした体つきをしており、見た目もドワーフそのものなのだが、対して女は現世の人間とほとんど変わらない体型をしており、肌の色が濃い黄色で瞳の色が赤茶色である。
そこで、六駆の眼前に倒れている少女を見てみよう。
濃い黄色の肌に、精巧な羽飾りの美しい服を着ている。
この羽飾りが特徴的な服はホマッハ族の伝統衣装であり、彼女がその一族である事の証明であるが、六駆はもちろんそんな事を知らない。
「人間に擬態するタイプのモンスターとかだったらいいな」と考えている。
そこに最期の一杯のコーヒーを飲み干した南雲のサーベイランスが飛んできた。
モニターの向こうの監察官殿は「んああ!!」と声をあげた。
『逆神くん、君ぃ! この女の子は!!』
「あ、やっぱりモンスターとかの類ですか!? いやー、良かったー!!」
『すごい現実逃避だな! こんな美しい羽飾りを擬態で作り出せるモンスターがそう都合よくいる訳ないだろう!! ホマッハ族だよ! スカレグラーナの民ぃ!!』
「……僕が悪いんですか?」
『少なくとも、私よりは悪いよね。なんで君はもう全部を私のせいにしようとしてるの?』
おっさんたちの醜い責任の押し付け合いが始まった。
この競技は、なにも探索員だけに留まる訳ではなく、全国の働くおじさんたちの一部が日常的に行っている。
やらかした時に「しまった!!」と思うおっさんが8割を超えるが、レアおっさんは脳内の第一声が「俺は悪くねぇっ!」なのだ。
そして、次のセリフは「お前が悪い!」に続くと言う、実に往生際の悪いおっさんが繰り出す必殺技である。
なお、この必殺技を放つ事で、だいたいの場合自分の首がキュッと締まる事になる。
そんな混乱した現場で、実は有事の際にクールなお姉さん、クララが一言。
その一言は、かつてないほどに重要であり、さらに現状を打ち破る力も秘めていたと言う。
「あのー。六駆くん、南雲さん? 多分ですけど、この子普通に息がありますにゃー」
「えっ!? 本当ですか!? 僕、やってないんですか!?」
『逆神くん! 君の使える最強の回復スキル使って! 早く! 急いで!!』
六駆も出し惜しみなどしない。
自分の
全員で少女を見守ること、約5分。
「……うっ。ううっ。……けほっ、けほっ」
ホマッハ族の少女、息を吹き返す。
厳密に言えば、別に息絶えていなかったのだが、六駆と南雲からすればもう完全に蘇生活動が成功したように思われて、彼らは歓声を上げた。
「よ、よーし! 人工呼吸と心臓マッサージを僕が! 大丈夫、親父に習った事があるから! さあ、服を脱がせよう!! ああああっ!? 莉子さん!? あああっ!?」
おっさんの事案に事案を重ねる行為をきっちりファインセーブする莉子。
莉子パンチで六駆をリッコリコにしてから、ホマッハ族の少女に声をかけた。
「大丈夫? 『
「あ、ありがと……。んっ……」
冷静になってみると、莉子にも回復スキルがあったのだと気付く六駆。
さすがに今回は焦り過ぎて、落ち着きをすっかり欠いていた様子。
とりあえず「やっちまってない」と言う事実は、彼の心に安らぎをもたらしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんなさい。私、ルッキーナと言います。あの、異界の穴を通り抜けてしばらく歩いていたら、急に暑くなって、それから寒くなって……」
彼女の名前はルッキーナ。
スカレグラーナにあるヌーオスタ村からやって来たと語った。
「それは、一種のショック症状を起こしてしまったんだね! いやぁ、無事でよかった! 急な温度変化は体に負荷がかかるからね! 気を付けないと!!」
『君は本当にいけしゃあしゃあとよく言うな。お嬢さん、重ねてご無事でなにより』
ルッキーナは、サーベイランスを見つけて「ひゃっ!!」と声をあげる。
「南雲さん。おじさんが急に出て来たらビックリしますよ。心臓止める気ですか?」
『心臓を止めにかかっていた君にだけは言われたくない。だが、これは失礼』
「あ、違うんです! サーベイランスがあるって事は、あなた方は探索員ですか!?」
ルッキーナは、目に涙を浮かべて全員に問いかけた。
代表して、莉子が答える。
「うん、そうだよ! わたしたちは南雲監察官室から派遣されて来た、探索員だよぉ!」
「ナグモ……!! 私たち、その人をずっと待っていたんです!!」
『あーあー。南雲さん、女の子泣かしたー。ひどいっすねー。おっさんが幼い少女を泣かせるとか、もう字面からしてヤバいっすよー』
『うるさいな、山根くん! 私の名前が出て来たんだから、静かにしてなさいよ!!』
スカレグラーナの地において、南雲の名前は住民の皆が知っている。
現世からやって来て、知恵と技術をもたらしたかつての探索員の名が南雲。
それからも、サーベイランスで彼の地を見守ってくれていた、ちょっとした神のような存在である。
「聞かせてくれるかなぁ? スカレグラーナで何かあったの? あなたみたいな女の子がダンジョンに来るなんて、よっぽどだよね?」
弱った人の相手をさせたら、莉子の右に出る者はなし。
彼女の清らかで優しい言葉は、ルッキーナの心にそっと寄り添う。
「あの、私たちの国に、ドラゴンが……。3匹の封印されていたドラゴンが、ある日突然現れて……。彼らは言うのです。この地を完全に征服して、2度と他の世界と関わらせないと。私たち、必死になってサーベイランスに呼びかけました。助けて! 助けて!! って。だけど、ナグモは応えてくれなくて……。そのうちに、サーベイランスは全部焼き払われてしまいました……」
事情を聞いた六駆は、静かに頷いた。
「南雲さんが悪いんですね!!」
『逆神くん、さっすがー! 南雲さん、ひどいっすねー! こんな女の子のSOSをシカトするとか! うっはー! この冷血漢!!』
山根と言う援軍を得て、とりあえずこの場の責任を南雲に押し付ける六駆。
彼は「やっちまった」事実をなかった事にしようと必死だった。
さらにルッキーナは続けた。
「どうにかドラゴンの隙を見て、大人たちが私を逃がしてくれたんです……! 必死に走って、異界の穴に入って! ずっと私、歩いて、歩いて! そしたら、急に寒くなって、気付いたら皆さんが……!!」
六駆おじさん、そっぽを向く。
「はーい。六駆くん、アウトだにゃー」
「師匠、やった事の責任は取らないとダメだと芽衣は思うです。みっ」
責任の所在をなすりつけ合っていた六駆と南雲。
2人のおっさんに、責任は平等な牙を剥く。
どうやら今回、しっかりと頑張ってもらわなければならない人間は、このおっさんコンビであると言う事だけはハッキリした。
であれば、事情聴取を続けよう。
莉子の『
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