第155話 ようやく合流、チーム莉子 有栖ダンジョン第11層

 六駆が即興でダンジョンの第11層をオシャレに演出してから2時間。

 莉子と芽衣は、ついに第10層へ足を踏み入れた。


 悲しい事に、芽衣はもちろん、莉子も煌気オーラ感知能力はないに等しい。

 通常ならばスキルの習得と共に成長していく感知能力だが、この2人は逆神流と言う邪道をチョイスしているので、その過程をすっ飛ばしていた。


 これは割と深刻な問題なのだが、師匠である六駆ですら煌気オーラ感知能力はAランク探索員から少し頭が出る程度に留まっており、彼から学ぶことは難しいだろう。

 なお、クララはそれなりに感知能力もあるのだが、現在のランクにピッタリ符合するBランクの実力なので、正直なところ、六駆がいれば彼女は必要なく、六駆がいない今こそ輝くチャンスなのに、何故か六駆サイドに帯同しているという間の悪さ。


 いつも通りの椎名クララだった。


「芽衣ちゃん、疲れてない? 結構ハイペースで進んでるから、キツい時は言ってね!!」

「みっ! 芽衣はまだ頑張れます! 余裕です!! みみっ!!」


 莉子の言葉からは慈愛があふれ出しているが、ここまで各階層で『苺光閃いちごこうせん』をぶっ放している現状をしっかりとそのつぶらな瞳で目撃して来た芽衣。


 「疲れたって言ったら、次に熱線の餌食になるのは芽衣です!!」と、自己防衛本能を全開にしていた。


「それにしてもさぁ! 六駆くん、ひどいよねっ! 壁とか天井が削れてるから、下に向かった事は分かるけどさっ! わたしに向けたメッセージなら、もうちょっとロマンチックって言うか、雰囲気のあるヤツにするべきだよね!」


 ついに破壊されたダンジョンの外壁にロマンチックを求め始める小坂莉子。


「……みっ。芽衣は子供だから、よく分からないです!!」

「そっかぁ! 芽衣ちゃんも早くステキな人が見つかるといいねっ!!」


 もはや六駆への好意を隠そうとすらしない莉子。

 どこで道を間違ってしまったのか。

 もう戻れないところまで来ているのは確かである。


「それにしても、第10層に入ってから全然モンスターが出なくなったね」

「確かに莉子さんの言う通りです。みみっ」


 それは、六駆が第10層のモンスターを根絶やしにしているからだ。


 ダンジョンによってかなりの個体差があるが、基本的にモンスターは壁や床から出現してくるパターンが主であり、もちろん例外はあるものの、第10層に限れば悪魔が草刈りを済ませてからまだ時間が浅く、モンスターの誕生が間に合っていない。


「あれかなぁ!? わたしたちを六駆くんのところに導いてくれてるのかな!? ダンジョンの神様とかが! わぁ、そう考えるとロマンチックだねっ!」


 莉子さん、モンスターの虐殺をロマンチックと結び付け始める。


 人はやる事がない時にこそしょうもない思考力を発揮して、どうでも良い事を考えがちであるが、パーティーの良心である莉子だけはそうであってほしくなかった。

 それから、ダンジョンに神様はいない。


 いるのは悪魔だけである。


 それから莉子と芽衣は「お腹空いたねぇ」「はいです」と、ピクニック感覚で第10層を通り抜けて、第11層に繋がる道へと進んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「止めないで下さい、クララ先輩!! そこの壁を撃ち抜けば、レストランに繋がってるかもしれないじゃないですか!!」

「繋がってないにゃー!! ヤメて! もうダンジョンをこれ以上破壊しちゃダメー!!」


 こちら、腹ペココンビ。



 六駆が空腹のあまり、錯乱状態になっていた。



 普段から錯乱しているような彼が、「お腹空いた!」と言うバッドステータスを身に付けるとどうなるかについては、これ以上の言及を必要としないだろう。

 一言で済ませる事が可能だからだ。


 ご覧の有り様である。


「でも、ワンチャンあるかもしれませんよ! ほら、異世界に料理屋さん開くお話あるじゃないですか! 僕の部屋の本棚にあるんですよ!!」


「ワンチャンもネコチャンもないにゃー!! そのジャンル、あたしも好きだよ! ただね、あれはフィクションなのだよ! ダンジョンの壁の中にレストランがあったとして、ほら、お客さん来られないし! 仕入れとかできないしー!!」


 何と言う論理的なツッコミ。

 意外とまだ余裕がありそうで結構じゃないか。


 ただ、六駆の擁護をする訳ではないが、もう時刻は夜の9時を過ぎており、空腹を覚えるのもまあ分からないでもなかった。

 逆神六駆の精神年齢は46歳でも、体は17歳。


 諸君、信じられないかもしれないが、彼は育ち盛りの高校生なのだ。


 ダンジョン攻略と言う名の部活動みたいなものを済ませて、そこにご飯もなければカロリーメイトのひとかけらもないのは、なるほど少しばかり酷である。


「分かりました! じゃあ、一発だけ! 一発だけやらせてください!!」

「ダメだってー! その一発が大変なミスになるのが人生なんだぞなー!!」


 なんだか聞きようによってはいかがわしいやり取りみたいな感じになってきた。

 まったく、莉子が聞いたらどんな誤解をするのやら。

 考えるだけで面倒くさい。



「……六駆くん。一発やるって、何をするのかなぁー?」



 莉子さん、最高のタイミングで合流を果たす。

 彼女もお年頃の乙女。いかがわしい言葉にも理解が進む、思春期ガール。


 なお、芽衣は最後の煌気オーラを振り絞って300人に増えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 やっとのことで4人が揃ったチーム莉子。

 紆余曲折あったが、元気な姿で再会できて何より。


「ああああっ!? 莉子!? なんで僕は叩かれてるの!? あああああ!?」

「六駆くんのバカぁ! これはわたしを置いて行った分! これはわたしを心細くさせた分! そしてこれは、なんかクララ先輩とイチャイチャしてた分っ!!!」



 莉子パンチの連打だが、最後の一撃が最も腰の入った良いパンチだったと言う。



「芽衣ちゃん、大変だったにゃー。大丈夫? 怪我とかしてない?」

「みみっ! クララ先輩!!」


 こちらはクララの胸に飛び込む、木原芽衣。15歳の女子中学生。

 彼女にとってクララの柔らかい胸は安らぎの場所。

 莉子さんにはその施設がないので、久方ぶりの安住の地を満喫したらしい。


「ふぃー。スッキリしたぁ! さあ、ご飯食べましょう! お腹空いちゃった!!」

「賛成だぞなー! あたしもペコだよ、ペコー!!」

「みみみっ。芽衣はしばらくこのままがいいです。みみっ」


 芽衣の持っていた採取箱から、パックご飯とレトルトカレーが出て来る。

 続いて、リーダーが的確な指示を出す。


「六駆くんはお鍋みたいな器作って! そのあとはわたしが『復水おちみず』でお水出すから、『鬼火おにび』で温めて! 火の調整ミスしちゃダメだからね!!」


 探索員のスキルは万能。

 災害時などに派遣要請が国から出される事があるらしいが、それも納得である。


 こうして、六駆と莉子の共同作業で晩ごはんが完成。

 彼らはダンジョン攻略1日目の疲れを癒すべく、しっかりと食事をとる。


 空腹の時に食べるカレーほど美味しいものはないというのは、29年を異世界で過ごした逆神六駆の言葉だった。

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