第146話 今回のダンジョンは歯ごたえ抜群 有栖ダンジョン第2層

「ガンガンいくにゃー! 『太陽の雉狩りソーレ・ファジャーノ』!!」


 第2層に降りて来た途端にモンスター数匹が歓迎してくれたので、クララがすぐに銀弓『ディアーナ』を取り出して迎撃態勢へ。

 この辺りの素早さはパーティーの中でも頭一つ抜けている。


 なお、六駆くんはカウントしていない。


 そんな訳で、クララが敵を自動追尾する小さな太陽を撃ち出して、モンスターを一掃したところである。

 実に惜しかった。

 もう少し早ければ、彼女が使った他2つのスキルもお見せできたのに。


 タイミングが悪かったのか、クララに気付いた時にはもう戦局は佳境だった。


 まったくもって残念、無念。

 なんだか色々と派手なスキルを使っていたのに。


「みみっ! クララ先輩の新しい弓、すごく綺麗です!! 思わず見惚れるです!!」


 芽衣ちゃんは出番が知らないうちにカットされたパーティーのお姉さんをしっかりと立ててあげるいい子。

 木原監察官の血が流れてはいるが、かの御仁が伯父で良かった。

 これが二親等以内だったら、芽衣は分身なんてしないで「師匠、『豪拳ごうけん』教えてくださいです!!」とか言っていたに違いない。


「にゃははー。いやいやー。なんだかごめんね、あたしの武器だけ新しいヤツもらっちゃってー! パイセン、ちょっとだけはしゃいじゃったよー。てへへっ」


 安心して良い。

 そのはしゃいだ姿は何故か我々が知らないところで起きた出来事らしい。


「わぁー! まだいっぱいいますよぉ! モンスターの発生頻度が高いって南雲さんも言ってましたもんね! わたしも頑張るぞー! おー!!」


 現在、チーム莉子はちょうど三叉路に差し掛かっており、Yの字の両方からモンスターがやって来ている。

 実に手荒な歓迎だが、莉子もクララも体調は万全。


 昨夜、六駆を捨てて郷土料理に舌鼓を打ったかいがあると言うもの。


「こっちのモンスターは水属性の子が2匹! だったらぁ! 『豪熱風ギズシロッコ』!!」

「うんうん。ナイス判断! 莉子、素晴らしい!!」


 六駆はモンスターの特性を知らないが、明らかに水分多めの浮くクラゲみたいなヤツが隊列に交じっており、そいつ目掛けて莉子が熱と風の複合攻撃を加えた。

 見た目通りの水分を含有していたらしく、そのクラゲが爆ぜる。

 絶命する瞬間に水分が熱湯となり、周りにいたモンスターがそれを浴びる。


「よしきたにゃー! 『サンダルアロー』!!」


 熱いモンスターの体液と言う、絶対に浴びたくないものを喰らって怯むモンスターの行列にクララがお馴染みの弓スキルを放つ。

 銀弓『ディアーナ』の良いところは、これまでに習得済みのスキルならば源石なしで放つ事ができる点である。


 さすがは信頼と実績の南雲印。

 そこらの武器とはものが違う。


「それじゃあ、こっちの列は僕が担当しようかな。『黒縄ブロープ』!! さあ、動きは封じたから、芽衣! トドメ刺してみようか!?」

「みみっ! 無理です!!」


 嫌な事をハッキリと嫌だと断れる関係。

 職場でそのような立場をゲットしている者は是非とも大事にしてほしい。

 それは実に得難いものである。


「うん、分かった! 『黒縄乱れ爪ブロープ・ランページ』!!」


 名前もまだ明らかになっていないモンスターたちが、六駆の出した黒い縄でサイコロステーキ状に切り分けられた。

 アンモナイトみたいな見た目だったので、美味しく焼こうと言う気にはなれないらしい。


「よぉし! 順調だねっ! さあ、どんどん行こー!!」


 莉子の言う通り、現在のところ概ね問題はない。

 出現してくるモンスターはそれなりに強いが、まだ第2層と言う事もあり、経験を積んだチーム莉子にとってはさしたる脅威になり得ない。


 が、有栖ダンジョンのモンスターは第2層でも結構強力なのである。

 少し進むと、またしてもよそのパーティーと遭遇する。


「おい! しっかりしろよ! 前衛がやられたらもう死ぬしかないじゃねぇか!」

「まさかこんな浅い階層でアンモギラースが大量に出るなんて!!」

「お、俺、死ぬのかな……」


 なんだかクライマックスを迎えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子とクララがすぐに飛び出した。


「大丈夫ですか!? クララ先輩、モンスターをお願いします!」

「お任せにゃー! 『ヘビースパイラルアロー』!!」


 アンモギラースは、先ほど六駆くんがノーリアクションで細かく刻んだ、素早く動くアンモナイトみたいなモンスターである。

 単体でもそれなりに強いが、こうして地元のパーティーを襲っているアンモギラースは団体さん。

 7匹での集団行動中だった。


 こうなると、ようやくチーム莉子にとってもそれなりに脅威である。

 クララの貫通に優れた『ヘビースパイラルアロー』でも2匹までしか突き抜けず、3匹目の殻で煌気オーラの矢は霧散した。


「『復水おちみず』!! じっとしててくださいね! これで傷は塞がりますから!!」

「ああ! どなたか存じませんが、助かります!!」

「すみません! すみません!!」


 莉子は回復スキルを器用に展開。

 癒しの水で負傷者を包み込み、少しずつだが着実に傷を癒していく。


 なお、莉子の『復水おちみず』が正しい形で使われるのはこれが初めて。

 それまでは、『豪熱風ギズシロッコ』と併用して水蒸気の目くらましなどでしか活躍の場がなかった。

 何故か。



 パーティーメンバーが怪我をしないからである。



 ルベルバック戦争では負傷者が重軽傷合わせてかなりの数出たが、あの現場では回復対象が1人の『復水おちみず』は不向き。

 そもそも、やる事がなかった六駆おじさんが片っ端から『気功風メディゼフィロス』を超広域展開するものだから、気付いた時には怪我人がいなかった。


 という訳で、覚えてからそれなりに時間が経って、ようやく日の目を見た『復水おちみず』は、これまでの遅れを取り戻すべくせっせと名も知らぬ探索員の怪我を治癒する。


「クララ先輩、手伝いましょうか?」

「うんにゃー! 平気、平気ー!! もう何発か『ヘビースパイラルアロー』撃てば、どうにかあたし1人で倒せそうだよー!!」


 六駆は「分かりました」と返事をする。

 クララの見立ては正しく、彼女ひとりで事足りる様子だった。


 だが、そうなると手持ち無沙汰で何かしたくなるのがおじさんの習性。

 傘を持っていたら、野球のバッティングかゴルフのスイングをついついやってしまうのがおっさんであり、彼らはやる事がないと体が動く。


 今回は、芽衣の運が悪かった。


「芽衣。芽衣ちゃん。木原監察官の姪さんや」

「みみみっ!? なんだか、ものすごく嫌な予感がするです!!」


「いやね、僕たちだけ何もしてないのも、非生産的と言うかさ。時間の無駄じゃない? せっかくダンジョンにいる訳だし? 何もしないのはもったいないし?」

「芽衣は何もない時間を楽しめるタイプなので! お気遣いなくです!!」



「攻撃スキル、覚えようか。『幻想身ファントミオル』とっくに習得してるから、指にはめてるリング空いてるよね。スキル入れられるじゃないの」

「みみみみみっ! 危ないのは危ないです!! 危険なのは危険です!!!」



 チーム莉子を理想の形に仕上げるのが六駆おじさんの使命。

 ならば、この空いた時間だって有効活用しなければ損である。

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