第145話 久々のダンジョン攻略開始 有栖ダンジョン第1層

 有栖ダンジョンは出現してから十数年が経過しており、既に攻略も果たされているダンジョンである。

 だが、出現するモンスターが強力であること。

 さらに繋がっている先の異世界スカレグラーナに近づくほど、つまり階層が深くなればなるほど、モンスターに頼らずとも天然のイドクロアが床やら壁から生えている。


 そのような事情のため、今でもハイリスクハイリターンを求めて探索員が攻略と言うよりは探索のためにそれなりの数が潜っている。

 ただし、新人ランクの探索員では割とすぐに命の危機が訪れるため、予防の意味を込めてダンジョンランクはAに設定されている。


 そんなAランクダンジョンに入ったチーム莉子。

 やっておかなければならない儀式があった。


「一応『基点マーキング』作っておこうか? 『直帰リターナル』でも戻れるから、必要ない気もするけど」


 六駆の提案に、莉子とクララが「ふっふっふー」と可愛く悪い顔をした。

 続けて取り出すのは、黒い石。


「じゃじゃーん! 【転移黒石ブラックストーン】だよぉ! わたしとクララ先輩はBランクに上がったから、これの携帯と使用を許可されたのです!!」

「にゃっはっはー! 【転移黒石ブラックストーン】を持ってるかどうかって、探索員にとっては結構ステータスなところがあるからねー! あたしたちはついに憧れる側から憧れの的へ!! やだー! 困るにゃー!!」


 もう1度おさらいをしておくと、チーム莉子の編成が変化している。


 小坂莉子。17歳。Bランク探索員。

 なお、既に能力はAランク。

 さらに秘めたるポテンシャルはSランク。割とヤベーサイドになってしまった。


 椎名クララ。20歳。Bランク探索員。

 地道にランクを上げ続けて、ついにBまでやって来た努力の乙女。

 なお、今月ひっそりと誕生日を迎えて成人したのだが、パーティーメンバーですらその事実を知らないでいる。


 木原芽衣。15歳。Cランク探索員。

 16歳以上と言う規定を主に面倒くさい伯父のせいで無理やり突破させられた、最年少探索員。

 ランクもFからCまで大ジャンプ。

 回避スキルだけならAランクも余裕で狙える、期待のルーキー。


 逆神六駆。17歳。もしくは46歳。Dランク探索員。

 探索員協会を単身で滅ぼす事のできるヤベーヤツ。

 気付けばパーティーの中で1番の下っ端になっていた。

 地位も名誉も眼中にないので、今日もお金目掛けて突き進む。


 このように、既に彼らの実力はもちろん、実績も非公式ながらダンジョン攻略を2回完遂と申し分なく、新人の枠からはとうに出ている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 第1層をしばらく歩くと、地元の探索員だろうか。

 何やら慌ただしく走って来る男女4人組と遭遇した。


「どうも。こんにちは。いやぁ、今日はいい天気ですね。ダンジョンの中だと関係ないですけど!!」


 ダンジョンで探索員とすれ違う時は一礼して挨拶。

 これが、ルーキーから中堅に突入したパーティーのあるべき姿。


「あ、あんたたち! 逃げた方がいい!! まずいヤツが出たんだ!」

「第1層に出てくるとか、今日は日が悪いわよ! 一緒に逃げましょう!!」


 なにやら強そうなモンスターが出そうな気配。


 以前だと、六駆くんだけが「オラ、ワクワクすっぞ!!」とイドクロアのために突撃して行ったものだが、今では莉子とクララも「腕試しができる!!」とモンスターの襲来を歓迎するようになっている。


 ちなみに芽衣はまったく歓迎していないので、誰か逃げないように捕まえておいて。


「どうする? 莉子さんや。なんなら僕がやるけど」

「やだよぉ! 六駆くんが出たらすぐ終わっちゃうじゃん!」

「あたし! あたしがやりたい!! 新スキル、新スキル使いたいにゃー!!」


「……いつの間にか、戦闘民族が増えてしまったです。なんてことだ、です」


 相談をしていたら、「はよう来んかい!!」と、モンスターがしびれを切らして無茶苦茶狭い通路をゴリゴリと破壊しながら向かってくるではないか。

 さすがAランクダンジョン。

 モンスターの活きが良い。


「莉子ペディアさん。あのドラゴンは何て言うの?」

「ジャンガルルって言う、土を体内に取り込んで吐き出すドラゴンだね。外皮がすっごく硬いし、ブレス以外にも強い顎の力で何でもバリバリ噛んで食べちゃうんだよ! ちなみに、イドクロアは持ってないよ!」


 そんな猟奇的なドラゴンの説明を笑顔で済ませないで頂きたい。


「じゃあ、僕が足を止めるから、2人でどっちが攻撃するか決めてね」


「クララ先輩! じゃんけんです! 1回勝負!!」

「のぞむところだにゃー!!」


「みみっ……。分身する準備をしておくです……」


 六駆にとって、イドクロア持ちでないモンスターは、喩えそれがドラゴンでもデカいトカゲである。

 ただ、これ以上こちらに走って来られると、土埃で喉がイガイガしそうだと考え、積極的に先陣を務めることにした。


「『石牙ドルファング大行列パレード』!! しばらく好物の土でもかじってなさい」


 四方八方、上下左右から飛び出す石の牙がジャンガルルの動きを封じる。

 さて、じゃんけんはどうなっただろうか。


「やったぁ! わたしの勝ちですよぉ! 久しぶりに感覚を確かめておきたかったんだぁ! いきまぁす! せぇぇぇの! 『苺光閃いちごこうせん』っ!!!」


 ジャンガルルの胴体が真っ二つに裂かれた。


 どうして第1層でいきなり必殺技を使うのかと我々だって思わないでもないが、彼女の煌気オーラ総量はSランクレベルだと先日の査定で判明している。

 しかも、まだまだ莉子は成長中。


 体の成長は止まっているが、煌気オーラの成長に果てはない。

 死んで土に還るまで、培った努力に応じて成長を見せるのが煌気オーラなのだ。


「す、すげっ! なんだ今のスキル!」

「あ、あの、ありがとうございます! 助かりました!!」


 先ほどのパーティーはどうやら律義な性格のメンバーで構成されていたらしく、自分たちを追いかけて来たジャンガルルの行く末を見守っていた。


「ああ、いえいえ。お怪我はありませんか?」


「あ、大丈夫です! それにしても、あんたたち、この辺りでは見かけない顔だね? どこかから遠征して来たのかい?」

「はい! わたしたち、南雲監察官から派遣されてきました!」


 莉子の正直な言動が、ついに一般探索員の脅威になる日がやって来た。

 悪魔が繁殖中のチーム莉子。


「か、監察官室ですって!? あなたたち、若く見えるけど……。す、すごいのね!」

「そんなことないですにゃー! あの、ちょうど良いので、このダンジョンについて知っている事があれば教えてもらえますかー?」


 クララはダンジョンに入ると急にコミュ力が増し、異世界に到達するとコミュ力強者へと変貌する。

 そんな彼女が、色々と有益な話を聞き出している。


「……って感じで。確かにあんたたちが言うように、この1カ月と少し、ダンジョンの感じが変わった気がするよ。元々モンスターは強かったけど、前はこっちがちょっかい出さなければ襲って来なかったのに。ジャンガルルだって、気性が荒い方じゃないんだ」


「なるほどー。ありがとうございますー。任せてくださいにゃー! あたしたちが、あるべき姿に有栖ダンジョンを戻します!!」


 話し終えた彼らは、もう地上に戻ると言う。

 そんなパーティーの1人が六駆たちに質問した。


「最後に良いですか? あなたたちのお名前は?」


 六駆おじさん、ここぞとばかりに素早い動きで胸のエンブレムを見せて、さらにマントを翻す。


「チーム莉子です!!」


 地上に戻った彼らが仲間の探索員に「チーム莉子とか言うヤベーパーティーが遠征して来てる!」と触れて回るのは、もはや決まりきった未来のお話。

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