第107話 圧倒的な兵力の差を埋める逆神六駆の悪魔じみた作戦 ミンスティラリア・魔王城

「僕の使えるスキルが千を超えてるのはご存じですよね?」


 この場にいる全員がご存じではなかった。

 そう言えば、六駆がそんな話をした記憶がない。


「待ってくれ。ちょっと深呼吸させてくれ。過呼吸になりそう!」


 南雲が最初にやられた。

 スキルの独自開発、そしてそれを習得するまでの過程がどれほど困難な道のりなのかを彼は知っている。

 南雲のピンチを聞きつけたヘンドリチャーナが慌ててコーヒーを運んできた。


「千か! やっぱり逆神くんはすごいなぁ! 自分も努力しているつもりだけど、精々20が良いところだよ! やっぱり、気合と根性かい?」

「だいたいそうですね!!」


 違う。加賀美に嘘を教えるな。

 頭のおかしい一族に生まれて、なおかつ頭のおかしいセンスに恵まれて、他にも色々あって、最後に当人の頭のネジが7割くらい外れて、はじめて悪魔は誕生する。


 そんな悪魔が、悪魔じみた事を言い出すのでご注意されたし。


「それでですね、僕のスキルの中で『ゲート』ってスキルがありまして。それは『基点マーキング』を作ったところと往来を可能にするってものなんですけど。ここまでは大丈夫ですか?」


「ああ! なんとか理解できているよ!」

「ごめんね。私はもう脱落寸前。瞬間転移って事だよね? それ、協会本部が30年かけて作った【稀有転移黒石レアブラックストーン】と同じ効果じゃないか」


「あ、そうなんですか? 協会の人もやりますねぇ。で、ですよ。僕、とある異世界に『基点マーキング』作ってるんですよね」



「ぶふぅぅぅぅぅっ!!! い、異世界ぃ!? ちょっと待って、お願い待って、待って待って!! 君ぃ、逆神くん!! 異世界間を自由に往来できるの!? そんなスキル、いや、イドクロア加工物も含めて! 協会本部にだってないよ!!」



 ヘンドリチャーナが「この人多分コーヒー噴くな」と予想していたらしく、新しいカップを南雲に渡した。

 どうせまた噴くから意味はないのに。


「良かったー。そこまで協会に追いつかれてたら僕も焦りましたよー。話を進めますね。それで、その異世界を僕、結果的に2回救ってるんですよ。だから、協力要請したら、そこの軍隊、全軍貸してくれるんじゃないかなって!」


「はぁはぁ……。本当に逆神くんはすごいな。しかし、もしそれが叶うのなら、起死回生の策になるぞ! どれだけの人がいるんだ?」


「ええと、何人だったかなぁ。確か50000人とか言ってたような気がします」

「50000ですか!? それほどの軍勢がお味方してくださると!?」


「役に立つと思いますよ。昔、僕が教えた逆神流のスキルみんな覚えてますから!」

「え、ええっ!? 逆神流のスキルを教えているのか!? 超戦力じゃないか!!」


「ミンスティラリアって国の魔王軍なんですけど!」



「ぶふぅぅぅぅぅっ!!! ま、魔王軍!? 逆神くん、君ぃ! 異世界でなにやってんの!? すごいな、魔王軍を1人で束ねていたとか!! もう私の心臓破裂しそう!!」



 六駆は勝手に話を纏めた。

 そして、アタック・オン・リコの外に出て、「じゃあ、ちょっと話つけて来ますよ。待っててもらえます?」と軽い感じで『ゲート』を出現させた。


 それを見たチーム莉子、特に莉子とクララが駆け寄って来る。


「あれ? 六駆くん、『ゲート』出したって事は、現世に戻るの?」

「いや、ちょっとミンスティラリアに行って来ようと思って」


「にゃるほどー! この戦いの助っ人頼むんだ!!」

「そう言う事です。みんなで行きますか?」


「わぁ! 行きたい、行きたい!! 久しぶりにファニちゃんに会いたいよぉ!!」

「あたしが再びミンスティラリアに君臨する日が来たか……!!」

「芽衣は遠慮しておくでみみみみみみっ!? こ、小坂さん!?」


「だいじょーぶ! みんなとっても良い人たちだから! さあ、六駆くん、行こー!!」


 こうして、久しぶりのミンスティラリアへおつかいクエストこなしにチーム莉子、出発である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちら、ミンスティラリア魔王城。

 城内に控えていたダズモンガーは、明らかに異質な煌気オーラの揺らぎを感じて、謁見の間へと急いでいた。


 扉を開けると、今日も麻雀を楽しむファニコラと近衛兵たちがいる。


「どうしたのじゃ? ダズモンガー。そのように血相を変えて」

「何者かがこの謁見の間に出現しようとしております!! お下がりくだされ!!」


 彼らは六駆の『ゲート』を見たことがないので、警戒するのも当然であった。

 ちゃんと説明しておきなさいよ、本当に。


 煌気の揺らぎは収まる気配を見せず、ついに目の前に『ゲート』が出現した。

 中から出てくるのは、もちろん——。


「何者だ! 貴様、この場所が魔王城と知っての狼藉……あああっ!!」

「ダズモンガーくん、やってるなぁ! 久しぶりー」



「ろ、ろろろ、六駆殿ではございませぬか!! お久しゅうございます!!」

「なんじゃと!? 六駆殿!? あー! 本当じゃ! 莉子にクララもおるぞ!!」



 悪魔と魔王軍の蜜月の関係、未だ健在。

 大歓迎されるチーム莉子。


「おや。そちは初めての人じゃな? わらわは魔王ファニコラじゃ!」

「みみみみっ!? 魔王様です!? め、芽衣は木原芽衣です……ごめんなさい……」


「芽衣じゃな! 妾の事は気軽にファニちゃんと呼んでくれ!!」

「みみみみみみみみみみみっ!!!」


 芽衣がストレスで溶けてなくならないうちに話を済ませよ、逆神六駆。


「こっちの世界で何十年経った? みんな変わってないから、時間の経過がさっぱりなんだよね」

「いえ、六駆殿たちがお帰りになられてから、まだ数か月しか経っておりませんが?」


「え? そうなの? おかしいなぁ。ミンスティラリアって時間の流れが現世より超早かったのに。どういうことだろう?」


「その質問には私がお答えしよう。英雄殿」


 魔王軍の白衣が似合う男、シミリートがやって来た。

 彼は人里離れた気ままな生活にピリオドを打って、諦めて研究と開発の場を魔王城へと移している。


「おお! シミリートさん! お久しぶりですね!!」

「英雄殿も、息災でなにより。時間の流れは変わったよ。英雄殿の住まわれる、現世と同じになってしまった。まあ、しまったと言っても別に害はないのだがね」


 シミリートは説明した。


 大気を覆っていた元からある魔素を六駆がぶっこ抜いて、新しい魔素エネルギー・リコニウムに入れ替えた結果、ミンスティラリア全土をリコニウムが侵食し、現世の煌気オーラに引っ張られる形で時間の流れそのものが変わってしまったのだと言う。


「なるほどー。まあ、実害がないなら良いか!」

「ふむ。私も同意見だ。して、何用でいらしたのか? 見たところ、観光ではないようだが」


 六駆は「ああ、そうそう!」と膝を打った。

 続けて、悪魔が魔族に命じる。


「ちょっとよその異世界に現世が侵攻されちゃってさ。途中は端折るけど、その親玉のところに攻め込もうって話になってるの。だけど、向こうは60000の兵士がいるらしくて、こっちはたったの200。そこで、魔王軍をちょこっと貸してくれないかなって!」


 言い方はお願いだった。

 しかし、君が言うとそれはもう命令なのだ。


「なるほど、お話は分かりましたぞ! すぐに全軍をもって助太刀いたしましょう!!」


 ダズモンガーの物分かりの良さたるや、筆舌に尽くしがたい。

 ウザい部活のOBを立てる後輩の理想形のような態度。


 こうして、計画通りに超強力な軍勢を戦線に投入できることが決まった。


 さあ、そうと決まれば戦の準備だ。

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