第105話 ルベルバック影の支配者・阿久津浄汰登場
猿渡秀麿は、無限に続く南雲との闘いから解放されたが、一転して命の危機との闘いに身を投じていた。
それを必死で回復するのが六駆くん。
彼は「逝くな! 帰って来い!!」とか叫びながら、『
医療ドラマみたいな緊迫感を出しながら、使っているのは彼の治癒スキルの中でも一番お手軽なものな辺りに、悪魔の性根が見え隠れする。
一方、南雲はと言えば、上空に漂うランドゥルを発見していた。
「逆神くん! 我々は見られているぞ!!」
「えっ!? やだ! 僕、マント置いて来ちゃいましたよ!!」
配給装備で敵陣視察されるのを恥ずかしがる六駆。
「大丈夫だ、バッチリ決まっているよ!」とフォローする南雲。
おっさん掛けるおっさんの相乗効果で、なんかえらいことになっていた。
そんな事情に配慮しないランドゥル。
ここに来て、新たな機能を発揮する。
空中にホログラムが映し出された。
それは人だった。身長は180を超えるだろうか。
男は瘦身で映画俳優のような顔立ちをしているが、その瞳はとても冷たく見えた。
「よぉ。南雲監察官。……と、隣の。なんかよく分からねぇけど、小間使いか? ようこそ、俺の国であるルベルバックへ。まさかそっちから侵攻してくるとは思わなかったぜ」
「南雲さん、お知り合いですか?」
「いや。だが、状況から考えるに、この男がそうだろう」
『こちら山根です。煌気感知はできませんが、目視で外見を確認したところ、ビンゴですね。
監察官室の山根くんからもお墨付きが出て、阿久津浄汰と初対面を果たした六駆と南雲。
「俺の計画だと
「なんか偉そうですね、この人。年はいくつですか? 山根さん」
『登録情報には29歳とあるから、今は31歳だと思うよ』
「あー。仕事に慣れてきて、真摯に向き合うタイプと斜に構えて自意識拗らせるタイプに分かれる頃だ! なるほどねぇ、阿久津さん、やらかしちゃったのかぁ」
敵の総大将と映像越しとは言え対面しているのに、とりあえずディスっていくスタイルの六駆おじさん。
さすが、精神年齢46歳は言う事が違う。
「おい、南雲監察官。お前のとこの助手、うるさいな。殺しとくか。ランドゥル!」
阿久津が手を振ると、映像を出しているランドゥルとは別に3基のランドゥルが現れ、一瞬の間もなく六駆へと熱線を浴びせた。
「逆神くぅぅぅぅん!!」
「うわっ、痛い! 手がすごいビリっと来た! なんですか、これぇ!!」
「……くははっ! 南雲監察官、情報通り甘い男みたいだな。そんな新人探索員の事を身を挺して守るとは。まあ、俺様特注のランドゥルレーザーを切り払った実力は、さすがだと言っておくぜ」
阿久津浄汰、ここで勘違いをする。
六駆の貧相な見た目ととんちきな発言で、「こいつは南雲が急遽連れて来た使えない助手」だと判断した模様。
無理もない。
誰だってそう判断するのが自然なのである。
南雲の声を上げた瞬間と、六駆がレーザーを手でペシンと払いのけたタイミングが見事にマッチしていた偶然も味方した。
なお、現時点で偶然が誰の味方をしているのかは分からない。
「俺たちは帝都にいる。別に逃げやしねぇよ。来たけりゃ来い。お前たちの戦力じゃ無駄死に確定だろうけどな! くっはははっ!!」
「うわぁ。品のない高笑いだなぁ」
「……やっぱお前、死んどけ!」
今度は3基のランドゥルから同時にレーザーが放たれた。
「逆神くぅぅぅぅん!! ホントに、もう、逆神くぅぅぅぅん!!!」
「え、ちょっと、なんですか、南雲さん! 近いですよ! やだ、僕、困ります!! 莉子に言い付けますからね!!」
南雲は阿久津の勘違いに気付いていた。
そして、その勘違いを充分に利用させてもらおうと考えていた。
現状、最高戦力は監察官である自分だと誤認させ、自らを極上の囮として運用すべきだとこの短いやり取りの間に決心していた。
だから、六駆が目に見えない速さでレーザーをかき消す姿を見せる訳にはいかなかったのだ。
南雲修一、決死のダイビング。
その結果、六駆が払いのけた熱線は1つで、残りは地面を貫いた。
南雲は思った。
「これ、今日一のファインプレーだ、私!!」と、興奮気味に。
彼の頭の中では、サッカーワールドカップの決勝でゴールを決めた南雲の顔をしたストライカーがスライディングしながら歓喜の声を上げていた。
「はーっ! 本当に甘い男だな。そんな小僧を守るようでは、俺が相手をするまでもなくどこかで死ぬだろ。まあ、精々頑張れよ。反乱軍の諸君」
ランドゥルから放たれる
去り際に「ああ、そうだった」と彼は言った。
「ゴミ掃除しとかねぇとな。ランドゥル!」
3基から放たれる熱線は、倒れ伏している猿渡に向かう。
そのまま猿渡の体を焼き切ったのを確認して、「くーはははっ」と高笑いと共に、今度こそ阿久津は消えて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「しまった! 逆神くんに夢中で、猿渡をむざむざ殺させるとは! 私としたことが!」
「本当ですよ。あんなへなちょこレーザー、人差し指で余裕なのに」
南雲は六駆に「君の実力がバレていないのは僥倖なのだ!!」と、考えを話して聞かせた。
六駆も「ああー。なるほどー」とおとぼけ顔で理解する。
その様子に腹が立っても手近なものを投げつけてはならない。
「しかし、猿渡を殺されたのは痛恨だ。彼からは情報が聞き出せただろうに」
「ああ、大丈夫ですよ」
「うん。何がだね?」
「僕もまだ暴れたかったので、ほら、拷問とかするのかなぁって! 念のために、『
「君、本当に戦い慣れし過ぎてて怖いなぁ。ええ……。拷問を想定してたの?」
「戦争に優しさは不要です! 花には水を、人には苦痛をって言うじゃないですか!」
「……言わない」
とりあえず、六駆による猿渡の応急処置が済んだところでアタック・オン・リコが迎えにやって来た。
莉子と加賀美が中心になって、補給を終えたのだと芽衣が2人に伝える。
「アーハハ! ミスター南雲にミスター逆神! なにをやっていたんだい? ミーはルベルバックのキュートなガールたちにもみくちゃにされて大変だったよ!!」
そこには、元気にアホな事を言う梶谷京児の姿が。
「ああ、もしもまた君に化けられたら。うん。次は間違うかもしれないな、私」
「南雲さんに激しく同感です。こいつ、ここに置いて行きますか?」
梶谷は今回特に何もしていないのに、反乱軍の首脳陣からの評価がまたワンランク下がった。芋より下に一体何があると言うのか。
まあ、早いところ仕入れたての芋の皮むきに戻ると良い。
「ガブルスさん! このバカなお猿くんの様子看といてもらえます? 死んだら死んだで良いので!」
「よく分かりませんが、了解しました!」
補給を終えて、奇襲を破り、アタック・オン・リコは再び帝都を目指す。
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